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クリニックの節税対策を得意とする税理士が税務調査の不安を解消。都市部の新規開業医、長年個人経営の医院、代替わりクリニックに特化したアドバイス。完全オンラインによる全国対応・初回相談無料。会計ソフト未導入でも安心の経理支援あり。実践的な経営アドバイスも提供中。

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クリニックの税務調査ガイド:基本知識から備えまで

都市部で新規開業したクリニックの医師長年個人でクリニックを経営する院長、そして地域密着型クリニックの後継ドクターといった皆さまに向けて、クリニックの税務調査について解説します。税務調査と聞くと身構えてしまうかもしれませんが、基本を理解し日頃から対策しておけば必要以上に恐れるものではありません。 本記事では、税務調査の概要や流れ、クリニック特有の指摘ポイント、日常からできる備えまでを網羅し、医療業界に強い税理士の視点で詳しく解説します。

税務調査とは、事業者(法人・個人事業主)が正しく納税申告しているか税務署が確認するための調査です。規模や業種を問わずすべての事業者が対象となり得るもので、開業医が運営するクリニックにも税務調査が入るケースがあります。まずは税務調査の目的種類、そして頻度やタイミングについて基本知識を押さえましょう。

税務調査の目的は、納税者の申告内容に誤りや漏れ、不正がないかを是正することです。不正な申告による税の不公平をただすため、税務署が帳簿や書類を確認し適正な申告かチェックします。適法な範囲での節税は問題ありませんが、もし意図的な脱税や経費計上ミスがあれば、税務調査で明らかにされ是正されることになります。

税務調査には大きく分けて「任意調査」「強制調査」(強制捜査)の2種類があります。通常クリニックに行われるのは任意調査で、事前通知のうえで税務署職員(調査官)が訪問して行う実地調査です。一方、強制調査は悪質な脱税が疑われる場合に令状に基づき行われるもので、一般のクリニックにはまず該当しません。つまり通常の税務調査は任意調査であり、不正の有無に関わらず定期的に行われるものだと認識しておきましょう。なお任意調査といっても正当な理由なく調査を拒否すれば罰則の対象となり得ます。基本的には協力する姿勢で臨む必要があります。

「クリニックには税務調査なんて来ないのでは?」と思われるかもしれません。しかし、保険診療が主なクリニックや医療法人も税務調査の対象となりやすい職種の一つです。実際、国税庁の公表資料でも所得隠し額の大きい業種の上位に「産婦人科医」や「内科医」がランクインしており、高額所得ゆえに税務署から注目されやすいことが示されています。

ではクリニックにはどのくらいの頻度で税務調査が入るのでしょうか? 公表されている統計では全業種平均で年間3%程度(約30社に1社)の実地調査率となっていますが、開業医・医療法人では7~10年に一度程度調査が入るケースが多いようです。この確率は平均より高く、医療業界が税務署にとって重点的な調査対象であることがわかります。過去に申告漏れなどを指摘されたクリニックはさらに短いスパンで再調査が入る可能性もあります。

税務調査のタイミング(時期)としては、毎年3月の確定申告後の4~5月や、税務署の人事異動が一巡する7月以降~11月頃に実地調査が集中する傾向があります。新規開業から間もないクリニックの場合、開業後3年目くらいに初めて調査が来るケースもあります。開業当初は利益が出にくく消費税も免税のことが多いですが、3年ほど経ち事業が軌道に乗ると利益計上が増え経理も油断が出がちです。ちょうど消費税の課税事業者になるタイミング(2期免税の終了後)でもあり、税務署がチェックに来やすいと言われています。いずれにせよ、「うちはまだ調査なんて先の話」と思わず、常に税務調査は来得るものとして日頃から準備しておくことが大切です。

ここからは、実際に税務調査の連絡を受けてから終了するまでの一連の流れと、各局面でクリニック側が取るべき対応ポイントを説明します。税務調査は突然当日になって始まるわけではありません。事前の通知から始まり、調査当日の対応、そして調査後のフォローまで段階があります。それぞれのフェーズで適切な対応を心がけることで、調査をスムーズに乗り切ることができます。

通常、税務調査はある日いきなり調査官が来訪するのではなく、事前に税務署から通知があります。多くの場合、調査予定日の約1か月前に、納税者本人か顧問税理士宛てに電話で連絡が入り、調査の日程(日時)や場所、対象となる税目の連絡があります。電話連絡後、調査の確認書類が郵送されてくるケースもあります。万一、指定された日程で都合がつかない場合は日程変更も可能です。「税理士の予定を確認したい」「その週は休診日がある」等、正当な理由を伝えれば柔軟に調整してもらえます。

通知された日程で承諾すると、当日までに調査官は事前準備(準備調査)を進めます。準備調査では、提出済みの確定申告書や各種資料を分析し、重点的に調べる項目を洗い出しています。クリニック側でも、事前準備として以下のような帳簿書類を揃えておきましょう:

  • 総勘定元帳(GL)
  • 預金通帳(事業用口座の通帳すべて)
  • 現金出納帳(受付等の現金収支記録)
  • 請求書・領収書(収入および経費に係るもの一式)
  • 契約書(賃貸契約、リース契約、業務委託契約など)
  • 賃金台帳・タイムカード(従業員の勤務記録)
  • 扶養控除申告書など給与関係書類(源泉徴収関連資料)

こうした書類は調査官から提示を求められます。特に過去3年分が調査対象となるのが一般的なので、直近3期分の帳簿・証憑類はすぐ提出できるよう整理しておきます。法律上も帳簿書類は7年間の保存義務がありますから、念のため7年分保存しておき、重大な問題が発見された場合に遡って調査される可能性にも備えておきましょう。

調査当日は、税務署の調査官(通常1~2名)がクリニックに来訪し、院長先生や税理士立会いのもとで実地調査が行われます。一般に個人クリニックの場合は調査日数1~2日間で終了することがほとんどです(医療法人など法人形態の場合は2~3日間になるケースが多いです)。調査官が来る時間は概ね午前10時頃から夕方4時頃まで(昼休憩1時間)で、調査場所はクリニックの事務所や会議室などになります。以下は典型的な実地調査の日程イメージです:

  • 初日午前: 院長へのヒアリング(事業概要の説明)
    調査官がクリニックの成り立ちや診療科目、患者層、売上・経費の概要などについて質問します。特に「お金の流れ」(収入の入金経路や仕入・経費の支払状況)に注目して聞かれるので、ポイントを押さえて説明しましょう。
  • 初日午後: 帳簿書類の確認
    売上台帳、預金通帳、領収書類、在庫記録、給与台帳などを実際にチェックしていきます。帳簿と証憑の突合や、計算の根拠についての質問が行われます。この間の対応は、医療事務スタッフや顧問税理士に任せて構いません。院長自身は通常診療に専念しつつ、調査官からの追加質問があれば答える形で大丈夫です。
  • 初日夕方: 追加資料の依頼
    初日の確認で不足している書類や、さらに詳しく見たい資料があれば提出を求められます。「明日までに用意してください」と指示されるので、その日は診療後にでも顧問税理士と協力して資料を準備しましょう。
  • 2日目午前: 追加資料の提出・継続調査
    前日依頼された資料を提出し、引き続き帳簿類の確認が行われます。個人クリニックであれば2日目が最終日となることが多いですが、内容次第では調査が長引く場合もあります。
  • 2日目夕方: 調査結果の説明(講評)
    調査官から、この2日間で確認した内容について指摘事項や今後検討すべき事項の説明があります。ここで調査はいったん終了です。ただし、調査官が持ち帰って精査する事項があれば後日連絡が来ることもあります。
  • 後日対応: 追加書類提出・連絡待ち
    調査官が持ち帰った資料の検討が終わると、最終的な結果通知が来ます(簡単なケースでも最短1週間、内容により数か月かかることもあります)。必要に応じて税務署から追加質問や説明要請があり、最終的な指摘事項が確定します。

調査官から求められた追加資料については、法律上「見せなければならない」義務があるものと任意提出のものがあります。特に患者さんのカルテ(診療録)については、患者個人情報であり医師には守秘義務もあるため、税務調査で開示や持ち出しを求められても応じる必要はありません。あくまで任意調査ですから、提示要求に対し不明な点は税理士と相談した上で後日回答するなど柔軟に対応しましょう。

税務調査当日は緊張するかもしれませんが、以下のポイントに留意して落ち着いて対応しましょう。

  • 事前準備した資料を整然と提示する: 必要書類がすぐ出せるようにファイリングするなど整理整頓しておきます。調査官に良い印象を与えるとともに、調査をスムーズに進行させることにつながります。
  • 誠実かつ冷静な応対: 質問には事実に基づき端的に答え、わからないことを推測で答えないようにします。「その点は確認して後ほど回答します」「顧問税理士から改めて説明します」といった対応で問題ありません。調査官の指摘が微妙な場合も、その場ですぐに非を認めたり言い訳したりせず、「後日税理士と相談のうえ回答します」と伝えましょう。曖昧な返答や挙動不審な態度は調査官に不信感を与え逆効果です。
  • 税理士に立ち会ってもらう: 可能であれば税務顧問の先生に調査当日同席してもらいましょう。専門家がいるだけで調査官とのやり取りも円滑になりますし、難しい質問は税理士に任せることができます。顧問税理士がいない場合も、調査対応に慣れた税理士にスポットで相談するのがおすすめです。
  • 調査官への対応マナー: 調査官に対して丁寧に接しますが、過剰なおもてなしは無用です。お茶や菓子の差し入れはかえって失礼になる場合もあります(税務署職員は職務中の飲食提供を受けない規則があります)。普段どおりの対応で問題ありません。また、調査官も人間ですから、嘘をついたり隠し事をすると敏感に察知します。正直に対応することが何より大切です。
  • 現場での即断は避ける: 最終日の講評で指摘事項を伝えられた際、その場で安易に同意しないようにします。指摘内容に疑問がある場合は、「後ほど顧問税理士と検討させてください」と伝え、後日正式な対応をするようにしましょう。不用意に約束してしまうと、後で訂正しづらくなるため注意が必要です。

税務調査が終了し、後日「結果の通知」が届きます。そこに指摘事項が記載されており、申告漏れや誤りが指摘された場合には、原則として修正申告を行うことになります。指摘内容に納得して誤りを認める場合は、速やかに修正申告書を提出し、不足税額を納付しましょう。

修正申告により追徴税額(追加で納める税額)が発生した場合、本税に加えて過少申告加算税延滞税といったペナルティ的な附帯税も課されます。過少申告加算税は、本来より少なく申告していたことに対するもので、納付不足額に応じて10~15%が課されます(悪質な仮装・隠蔽と認定された場合は重加算税40%と非常に重い税率になります)。延滞税は納付の遅れた期間に応じ日割りで加算される利息のようなものです。つまり、指摘事項があれば追加の税金+利息・ペナルティを支払うことになるため、不必要なミスで余計な負担を被らないよう日頃から適正申告を心がけることが大切です。

もし指摘にどうしても納得がいかない場合は、修正申告せずに正式な更正処分を受けて不服申立てを検討する方法もあります。しかし専門的・法的な手続きになりますので、その場合は税務調査に強い税理士や弁護士に相談してください。一般的には、悪質なケースでなければ調査官との話し合いで妥当な落とし所に収まり、修正申告して終わることがほとんどです。調査後は二度と同じミスをしないよう改善策を講じることも重要です。経理処理の見直しや業務フローの改善など、顧問税理士とも相談して再発防止に努めましょう。

クリニックの税務調査では、一般の事業者とは異なる医療業界特有の論点が存在します。調査官もこれらのポイントを重視してチェックしており、クリニックならではの共通的なミスや盲点がないか細かく見ています。ここでは「売上計上」「経費計上」「その他のチェックポイント」に分けて、クリニックで指摘されやすい論点を解説します。日頃からこれらを意識しておけば、税務調査での指摘リスクを大きく減らすことができます。

クリニックの収入(売上)は、大きく保険診療収入(社保・国保からの診療報酬)と自由診療収入(自費診療や保険外の収入)に分かれます。税務調査では、この売上計上漏れ計上時期のズレが重点チェックされます。具体的な注意点は以下のとおりです。

  • 診療報酬の未収金計上漏れ: 保険診療の報酬は社会保険診療報酬支払基金などから2ヶ月遅れで支払われます。このため決算日時点で未入金の診療報酬(未収金)が必ず発生します。売上の計上基準は入金日ではなく診療日(役務提供日)であるため、期末時点で翌期入金予定の診療報酬は未収入金として確実に計上しなければなりません。未収金を計上し忘れると売上漏れの指摘を受ける典型例となります。
  • 自由診療収入の計上漏れ: 美容皮膚科や自由診療の多いクリニックでは、現金で患者さんから直接受け取る収入が発生します。これらは記録を怠ると抜き取り・過少計上が起こりやすいため、税務調査でも厳しくチェックされます。税務署側には診療科目ごとの標準的な自費収入割合のデータがあり、それと大きく乖離していないかも見られます。「同規模の他院に比べ自由診療収入が不自然に少ない」と判断されると、収入除外を疑われる可能性があります。
  • 現金収入の一部不記載(窓口収入の抜き取り): 外来の自己負担金など現金収入が多い場合、一部を帳簿につけずポケットに入れてしまうような不正も起こりえます。しかし、患者の自己負担額と保険請求額の割合は制度上決まっているため、保険請求データから理論上あるべき自己負担額を逆算されてしまいます。そのため窓口収入だけ極端に少ないと明らかに不自然となり、調査官に見抜かれるでしょう。身内スタッフが会計を担当している場合などは特に注意し、複数スタッフで金銭チェックする体制を敷くなど、不正の起こらない仕組みづくりも必要です。実際、自由診療の現金収入を経理担当者が着服していた例もあり、税務調査で横領が発覚するケースは少なくありません。
  • 自賠責・労災などの収入漏れ: 交通事故の自賠責保険や労災保険からの診療費も、入金が遅れがちな収入です。これらは入金先を任意の口座に指定できるため、事業用口座以外に振り込ませて収入を隠すケースがあります。もちろん故意に除外すれば重加算税の対象となる重大な不正です。少額でも見落とさず計上し、入金口座も事業用に統一しておきましょう。
  • クレジットカード収入の期ズレ: 最近は窓口収入をカード決済するクリニックも増えています。カード払いの場合、実際の入金日は翌月以降になりますが、決済が行われた時点で売上が発生しています。期末をまたぐカード売上についても忘れず計上し、入金待ちの売掛金(未収入金)として処理しましょう。入金ベースで計上していると「入金サイクルが不定な収入の計上漏れ」として指摘対象になります。
  • 消費税課税売上1,000万円ギリギリ問題: 個人事業の場合、2期前の課税売上が1,000万円超だと当期は消費税課税業者になります。毎年売上が1,000万円直前で留まっているような場合、「課税業者にならないよう意図的に売上除外していないか」疑われることがあります。期をまたいで売上計上時期を操作したりしていないか、調査官も注意深くチェックします。悪意でなく単なるタイミングの問題であっても、結果的に1,000万円を超えていれば消費税の申告義務が発生しますので、予め税理士と相談し適切に対応しましょう。

経費についてもクリニック特有のチェックポイントがあります。必要経費の水増し私的費用の混入がないか、税務調査では詳しく調べられます。特に以下の点に注意しましょう。

  • 家事関連費(プライベート費用)の混入: 個人クリニックでは、事業とプライベートの支出が混在しやすいため按分計算が必要になるケースがあります。典型例は車両費・通信費・水道光熱費などで、事業利用分と私用分を適切な基準で案分しなければなりません。例えば自宅兼クリニックの場合は床面積按分、車も私用利用分は経費計上しない、電話も事業用と私用を区別するなどです。明確な基準はありませんが、税務署が納得できる合理的な按分根拠を用意しましょう。プライベートな費用を経費に落としていれば当然調査で指摘を受けます。
  • 交際費や研修費の目的確認: 医師会の懇親会や学会出席後の会食など、交際費や研修関連費用は本当に事業に関係あるかチェックされます。領収書と帳簿の付き合わせはもちろん、「誰とどんな目的で行ったのか」説明を求められます。最近では必要に応じて領収書の発行先に税務署が問い合わせることで、プライベートな使用が発覚するケースもあります。学会出張にかこつけて観光していないか、家族旅行を研修名目にしていないか、といった点も見られるでしょう。領収書には参加者名や目的をメモしておくなど、後から説明できるよう管理することが大切です。
  • 医薬品・消耗品の架空計上: クリニックでは医薬品や衛生材料の購入費が経費の大きな割合を占めます。当然、在庫として残っている分はその期の経費にできず棚卸資産となりますが、意図的に在庫を多く計上して利益を圧縮する不正もあり得ます。税務調査では棚卸資産の数量や計上額が厳しくチェックされ、架空・水増し・仮装計上がないか調べられます。期末棚卸の数量をごまかしたり、実際には受け取っていない請求書を計上したりしていないか注意してください。
  • 外注費と給与の区分: ホームページ制作や広告宣伝など外注費として計上している支出が、本当は院内スタッフの人件費ではないか、あるいは業務実態のない架空外注ではないか、といった点も調査ポイントです。外注費は形が残らないサービスに対する支払いが多く、金額設定も恣意的になりがちなため、昔から脱税の手口に使われやすい経費です。税務署は「実在する業者か?」「作業内容は?」「適正な対価か?」を細かく見ます。もし院長の親族や知人に業務委託料を払っている場合は、契約書や業務実績報告などで適正な対価であることを説明できる資料を用意しましょう。
  • 人件費の水増しや不適正計上: 給与関連も重点チェック分野です。税務署は源泉徴収簿やタイムカードから、従業員数や給与額を把握し、不自然な点がないか確認します。よく問題となるのは、架空の従業員に給与を払ったことにして経費計上するケースや、家族従業員への給与が過大なケースです。個人事業の青色事業専従者給与については、支給金額が妥当かどうか厳しく見られます。専従者の仕事内容や勤務実態をリストアップし、支給額とのバランスが取れているか説明できるようにしておきましょう。医療法人の場合でも、理事長の親族役員に対する役員報酬が高すぎないかチェックされます。また非常勤医師の給与の源泉徴収や交通費の扱いなど、給与計算・源泉税処理に誤りがないかも確認されます。
  • 数年連続赤字の届出: 数年間にわたって事業所得が赤字の場合も調査対象になり得ます。本当に事業不振で赤字なら問題ありませんが、中には実態がないのに自宅の家賃や私用のガソリン代、旅行代などを経費計上して見せかけの赤字を作る人もいます。通常、何年も赤字が続く事業者は少ないため、税務署も「本当に営業実態があるのか?」と確認する目的で調査に来ることがあります。赤字が続いているクリニックは、経費の科目や内容を今一度見直し、プライベート費用が混じっていないか点検しておきましょう。

上記以外にも、クリニックの税務調査で確認されやすいポイントがあります。代表的なものを挙げます。

  • 物販収入・薬剤の販売: 美容目的のサプリメントや自費診療用の医療器具(家庭用医療機器)など、クリニックで物販を行っている場合は売上計上漏れに注意が必要です。在庫管理も含め適切に会計処理し、売上を計上しているか確認されます。不透明な値引きや無償提供扱いにしていないかチェックしましょう。
  • 源泉徴収・支払調書の整備: 医師や看護師への給与・賞与から適切に源泉所得税を控除して納付しているか、年末調整は正しく行われているかも確認対象です。非常勤医師や外部委託の技師等に支払った報酬については、所定の支払調書(源泉徴収票や報酬の支払調書)を提出しているかチェックされます。漏れがあると税務署から問い合わせが来ることもあります。法定調書の提出漏れはペナルティもあるため注意しましょう。
  • 帳簿と実態の整合性: レセプト件数や患者数の推移と売上高、スタッフ数と人件費、医薬品仕入額と診療実績など、経営指標の整合性も分析されます。他院の平均値などと照らして極端な数値になっていないか、調査官は事前に把握しています。例えば「人件費の割に売上が低い」「仕入額が多すぎる」など明らかな異常値は突っ込まれるでしょう。日頃から自院の数字に関心を持ち、異常があれば原因を説明できるようにしておくと安心です。

以上のように、クリニックに特有の論点は多岐にわたります。逆に言えばこれらポイントを事前にケアしておけば税務調査も怖くありません。次章では、日常業務でできる税務調査への備えについて具体策を紹介します。

税務調査への備えは、決して特別なことではなく日々の経営・経理の積み重ねが肝心です。「調査通知が来てから慌てて準備すればいいや」と思っていると、いざという時に対応しきれません。ここでは、クリニックが日常業務の中で取り組める税務調査対策を紹介します。正確な帳簿づけや専門家との連携など、平時から習慣化することで、結果的に節税や経営管理の向上にもつながります。

最も基本かつ重要なのは、日頃から正しい会計処理と書類整理を徹底することです。具体的には以下の点に留意しましょう。

  • 日々の記帳を正確かつタイムリーに: 売上や支出は発生した都度、会計ソフトや台帳に記録します。現金売上は一日の終わりに必ず集計し、領収書もその日のうちに整理しましょう。時間が経つと記憶も曖昧になりミスの元です。日常的に帳簿をつける習慣が大切です。
  • 証憑書類の保管徹底: 領収書・レシート、請求書、契約書などは科目別・日付順にファイルし、すぐ提示できる状態で保管します。法律で7年間の保存義務があるため、少なくとも7年分は紛失しないよう厳重に管理しましょう。調査時に「書類が見当たりません」では余計な疑念を招きます。紙での保管が大変なら、スキャナ保存制度(電子帳簿保存法)を活用してデータ管理するのも有効です。
  • **通帳・経理資料との突合: ** 会計記録と預金通帳の入出金、レセプト請求額などは定期的に照合し、齟齬がないか確認します。例えば、ある月だけ現金収入が極端に少ない等の異変に気付けます。ミスや漏れを早期に発見・修正することで、調査時にも自信を持って帳簿を提出できます。

正しく申告していれば、税務調査が実施されても何も問題ありません。言い換えれば、「日頃の経理の積み重ねこそ最大の調査対策」です。経理担当者や院長先生自身が数字に強くなることで、節税のチャンスも見えてきますし、万一調査が来ても落ち着いて対応できるでしょう。

税務調査への備えとして、税務の専門家である税理士との連携も欠かせません。顧問税理士を頼んでいる場合は、定期的に打ち合わせの場を設けましょう。具体的には以下のような点を相談・確認します。

  • 決算前のチェックミーティング: 毎期の決算前(できれば期中も数回)、税理士と帳簿をチェックし、売上計上漏れや過大経費がないか点検してもらいます。同業他院の数値と比較したアドバイスなど、専門家の目線で予防的に指摘を受けておくことで、調査官に指摘されるリスクを減らせます。
  • 節税対策の相談と記録: 節税のために設備投資をする、役員報酬を調整する、医療法人化を検討するといった経営判断は税務に直結します。税理士と相談して決め、その経緯や根拠を記録しておきましょう。税務調査で「なぜこのような処理をしたのか」と問われた際、税理士の助言に基づく正当な対応であると説明しやすくなります。
  • 資金繰りや新規事業の相談: 開業支援時の資金調達から、分院開設や医療法人設立の検討まで、クリニック経営には様々な局面があります。そうしたタイミングで税理士と相談し、将来の税務リスクも考慮したアドバイスをもらっておくと安心です。特に医療法人化は節税効果が大きい反面、税務も複雑になるため専門家の関与が不可欠です。

もし顧問税理士がいない場合でも、決算申告時だけでも医療業界に詳しい税理士にチェックしてもらうことをおすすめします。「税務調査において専門知識のない納税者が完璧な対応をするのは難しい」というのが実情です。事前に専門家に相談しておけば、いざ調査となった際もスポットでサポートを受けることができます。「うちは小規模だから税理士は不要」と考える方もいますが、税務調査をスムーズに終えるためには税理士への相談が必須と言えるでしょう。

税理士と連携するメリットの一つに、書面添付制度の活用があります。聞き慣れない方も多いかもしれませんが、これは税理士法第33条の2に規定された制度で、税理士が作成した「書面」を確定申告書に添付提出するものです。書面には、税理士がその申告内容についてどのように計算・整理し、どの点を確認したかといった所見が記載されます。簡単に言えば「この申告書は税理士が責任を持ってチェックしました」という太鼓判を押すイメージです。

書面添付制度を利用すると、以下のようなメリットが期待できます。

  • 税務調査が省略・簡略化される可能性: 書面添付がある申告について税務署が疑問点を持った場合、いきなり実地調査に入るのではなく、まず担当税理士に対して意見聴取を行います。税理士が事前に説明を行い疑問が解消した場合、調査の必要なしと判断され、結果的に実地の税務調査に至らないケースもあります。つまり、調査そのものを回避できる可能性が高まるのです。
  • ペナルティ(過少申告加算税)の免除: 仮に税理士の意見聴取を経ても申告誤りが見つかり修正申告となった場合、通常課される過少申告加算税が免除されます。書面添付があったことで「申告ミスだが悪質ではない」と扱われるためです。追徴税額そのものは納める必要がありますが、10%前後の加算税がゼロになるのは大きなメリットです。
  • 金融機関等からの信頼性向上: 書面添付がなされている決算書は、税務リスクが低く信頼性が高いと見なされます。銀行融資の審査や補助金申請でもプラスに働く場合があります(融資手続きで税理士の所見が役立つケースも報告されています)。

書面添付制度は、適正な申告を行った上で税理士が自発的に活用するものです。もちろん内容に誤りがあってはいけませんし、税理士にも相応の手間がかかるため、実際の利用率はそれほど高くありません。しかし医療業界に精通した税理士であれば積極的に書面添付を行っている事務所もあります。当事務所でも、ご希望があれば書面添付制度の活用をサポートしています。税務調査のリスクを下げる有効な手段として、ぜひ検討してみてください。

当事務所(税理士法人加美税理士事務所)は、医療業界専門の税務顧問として全国のクリニック様をサポートしております。万一税務調査の連絡が来ても、経験豊富な税理士が二人三脚で対応いたしますのでご安心ください。ここでは、当事務所の税務調査サポート体制の特徴をご紹介します。

当事務所は最新のITツールを活用し、フルリモートでの税務サポートを実現しています。東京・大阪など都市部はもちろん、地方や遠隔地のクリニックでも、オンライン会議やクラウド会計ソフトを通じて密接なフォローが可能です。メールやチャット、ビデオ会議で日頃の相談から緊急時の対応まで迅速に行います。税務調査においても、事前打ち合わせや資料レビューをオンラインで完結できるため、調査当日までに万全の準備を整えることができます。全国どこからでも気軽に相談できる体制で、開業医の先生方を支援いたします。

医療業界に特化した当事務所の税理士は、これまで多数のクリニック・医療法人の税務調査対応について研究してきました。本文中でも触れたクリニック特有の論点(保険未収金の計上、自由診療の収入管理、医療法人化に伴う税務 etc.)を熟知しており、調査官の視点を踏まえた的確なアドバイスが可能です。「税務調査のこの質問にはこう答えるといい」「この書類を用意しておけば安心」といった実践的なノウハウを蓄積しています。また、開業支援や医療法人設立、節税対策のコンサルティングも提供しており、単なる調査対応に留まらず経営全般について頼れるパートナーとなれる自負があります。経験に裏打ちされたプロのサポートで、先生方の不安を解消いたします。

当事務所では、クリニックの実情に合わせた柔軟なサポートプランをご用意しています。日常の記帳代行や月次監査から、決算・申告のみのスポット契約、税務調査時の臨時立会いサービスまで、ニーズに応じて対応可能です。「普段は自分で経理しているが、調査の時だけプロに頼みたい」「医療法人化したので顧問契約を検討したい」等、お客様の状況に合わせて契約形態を調整いたします。また、料金も良心的に設定しております。フルリモート対応による効率化でコストを抑え、都市部の大手事務所よりもリーズナブルな顧問料を実現しています。初回のご相談や見積りは無料ですので、費用面も含めてお気軽にお問い合わせください。

税務調査はクリニック経営者にとって避けて通れないイベントですが、正しく備えていれば決して恐れる必要はありません。 本記事で述べたように、税務調査の流れを把握し、クリニック特有の指摘ポイントを理解し、日頃から適切な会計処理と専門家との連携をしておけば、いざ調査が来ても落ち着いて対応できます。特に重要なのは、やはり日常業務の積み重ねです。日々の正確な記帳と書類管理、そして税理士との相談体制があれば、調査官に指摘されるリスクは格段に減りますし、万一指摘があっても速やかに是正して次につなげることができます。

クリニックの先生方は本業の診療でお忙しい中、経営や税務まで気を配るのは大変かと思います。しかし、「経営者」として税務にも向き合う姿勢が、結果的にクリニックの財務健全性を高め、ひいては良質な医療サービスの提供につながります。当事務所では開業医の先生方の良きパートナーとして、税務調査対応はもちろん、開業から経営改善、節税対策や医療法人化までトータルでサポートしております。税務調査について不安な点や相談したいことがございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。日頃からの備えを万全にし、安心して本業に専念できる環境づくりをお手伝いいたします。税務調査への備えは今日から早速始めていきましょう。

よくあるご質問

FAQ

税務調査は、開業して間もないクリニックにも来ることがありますか?

はい、開業から3年以内でも税務調査が実施されるケースはあります。特に、診療報酬の未収金管理や現金収入の取扱いが不透明な場合は要注意です。当事務所では、開業初期の資金繰りや経理体制整備まで含めてサポートしています。

税務調査ではどのような書類を準備しておけばよいですか?

総勘定元帳、預金通帳、現金出納帳、領収書、契約書、給与関係書類などが必要になります。帳簿類は7年分保存が基本です。加美税理士事務所では、記帳代行や経理アウトソーシングも承っており、調査前の書類整理を一緒に行うことが可能です。

税務調査で特にチェックされやすいクリニック特有の論点は何ですか?

診療報酬の未収計上漏れ、自由診療の現金収入除外、家事関連費の混入、架空外注費の計上などが指摘されやすいです。当事務所では、クリニック特化の財務分析に基づき、事前にこれらの論点を洗い出し対応します。

税務調査の通知を受けた場合、まず何をすればいいですか?

顧問税理士への連絡が最優先です。当事務所では、オンライン面談を通じて調査前のヒアリング・資料準備・税務署対応までを一括サポートしています。初回相談は無料ですので、まずはご相談ください。

税務調査の当日、クリニックの院長としてどう対応すればよいですか?

誠実かつ冷静な対応が大切です。質問には事実に基づき回答し、不明点は税理士に相談してから返答するようにしましょう。当事務所の税理士が立ち会いも含めてサポート可能ですので、ご安心ください。

青色申告をしていると税務調査に有利ですか?

青色申告は帳簿が正確であることが前提の制度です。適切に記帳していれば信頼性が高まり、調査でも有利に働くことがあります。

青色申告について詳しくは下記のページをご覧ください。

医療法人にすると税務調査の頻度が増えると聞きました。本当ですか?

医療法人は法人税が対象となり、規模も大きくなるため調査対象になりやすい傾向があります。ただし、正確な申告と書類整備があれば問題ありません。

法人化について詳しくは下記のページをご覧ください。

税務調査後に修正申告が必要になった場合の流れを教えてください。

指摘内容に基づき税理士が申告書を再作成し、修正申告書と追加納税書類を税務署へ提出します。当事務所では、修正対応や今後の税務リスクの見直しまでサポートしています。

自分で帳簿をつけていますが、税務調査前にチェックしてもらえますか?

はい、帳簿の事前チェックや修正アドバイスも承っております。会計ソフトを導入していない場合でも対応可能です。クラウド会計を使った効率化のご提案もいたします。

節税対策が不適切だと税務調査で問題になりますか?

はい、過度な節税は税務署から否認されることがあります。正しい節税策をとることが重要です。

節税対策について詳しくは下記のページをご覧ください。

税務調査が来る前にどんな備えをしておくべきでしょうか?

帳簿と証憑の整理、未収金や自由診療の記録確認、経費の見直しが重要です。当事務所では、顧問契約なしでも税務リスク評価やスポット相談を承っています。

代替わり後のクリニックでも、過去の経理について責任を問われますか?

はい、事業承継後も過去分に対する調査が行われることがあります。引き継ぎ時の経理チェックや相続税対策も重要です。

詳しくは、下記の親子承継・代替わりドクター向けのページをご覧ください。

消費税の扱いで税務調査に指摘されやすい点はありますか?

クレジットカード売上の期ズレや課税売上の集計漏れなどがよく指摘されます。免税事業者からの切り替え時も注意が必要です。

消費税について詳しくは下記のページをご覧ください。

顧問契約なしでも税務調査対応をお願いできますか?

はい、スポット契約での税務調査対応も承っております。初回無料相談も可能ですので、事前の準備段階からお気軽にご相談ください。

税務署が来るとき、患者情報(カルテ)も見せないといけませんか?

原則としてカルテの提示義務はありません。患者の個人情報保護の観点から、税務調査での開示は慎重に対応すべきです。当事務所が対応の判断をサポートいたします。

開業支援を受けた後も、税務調査の対応は継続してもらえますか?

はい、開業後も税務顧問として継続的にサポート可能です。税務調査を見据えた会計処理の整備も含め、安心して診療に専念いただける体制を整えています。

経費に関して、税務調査で否認されやすい支出にはどんなものがありますか?

私的利用と判断される車両費や交際費、家族への過大な給与などが該当します。合理的な根拠を示すことで防げるケースも多く、当事務所で事前の確認が可能です。

税務調査の結果に納得できない場合、どうすればいいですか?

更正処分に対しては異議申立てや不服申立てが可能です。当事務所では、税務署との折衝や書類作成を含め、納得のいく対応をご一緒に考えます。

書面添付制度を活用することで税務調査を回避できると聞きました。本当ですか?

税理士が書面添付した申告には、まず税理士への意見聴取が行われるため、実地調査が回避または簡素化されることがあります。当事務所でも積極的に活用しています。

事業承継を予定していますが、税務調査に備えてどんな準備をしておけばいいですか?

過去の帳簿の整理や経営改善支援の導入が有効です。承継後の経理体制や税務戦略の見直しも大切です。
詳しくは、下記の親子承継・代替わりドクター向けのページをご覧ください。

医療法人設立後も税務調査の支援は受けられますか?

もちろん可能です。当事務所では医療法人設立から税務顧問、調査対応まで一貫して支援しております。
設立手続きについて詳しくは下記のページをご覧ください。

税務署から調査通知が来るタイミングはいつが多いですか?

確定申告後の4〜5月、税務署の人事異動後の7月〜11月に集中しやすいです。新規開業3年目や売上が急増した年も注意が必要です。

税務調査時に過去何年分まで遡って調査されますか?

通常は過去3年分ですが、仮装・隠ぺいが疑われる場合には最大7年分遡って調査されることもあります。日頃からの記帳と書類管理が重要です。

税務調査で現金売上が問題になるのはどんなときですか?

自由診療や自己負担金などの現金売上が帳簿に正しく反映されていないと、売上除外と見なされる可能性があります。現金管理は複数名での確認体制を整えることが有効です。

税務調査に備えて家族への給与設定で気をつけることは?

家族への給与は、仕事内容に応じた合理的な金額でなければ否認される可能性があります。青色事業専従者の場合は特に注意が必要です。

税務調査が入ったとき、遠方でも対応してもらえますか?

はい、当事務所は完全リモート対応が可能なため、全国どこでもオンラインで税務調査の立ち会いや資料確認が可能です。安心してご依頼ください。

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