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歯科医院・矯正歯科における法人化

こんにちは、加美税理士事務所です。私たちは、歯科医院や矯正歯科クリニックの先生方を専門的にサポートする税理士事務所として、日々多くのご相談をお受けしています。その中で、「歯科医院・矯正歯科を法人化(医療法人化)するべきか」というご質問は特に頻繁に寄せられます。

歯科医院を運営するにあたり、個人事業主のままで続ける方法と、法人(医療法人)として運営する方法があります。それぞれにメリット・デメリットがあり、タイミングや状況によって最適な選択肢は異なります。当事務所がサポートしているお客様にも、

  • 新規開業を予定している歯科医師の方(開業準備中)
  • 都市部で矯正歯科専門クリニックを経営されている方(自由診療中心で開業後10年目)
  • 複数の歯科医院を展開する医療法人の理事長の方

といった様々なケースの先生がいらっしゃいます。なお、これから開業準備を進める先生は、まず歯科医院の開業準備に必要なことをまとめた下記のページも参考にしてみてください。

本記事では、それぞれの状況に役立つよう「歯科医院・矯正歯科の法人化」について詳しく解説いたします。まずは法人化のメリットから確認し、次に法人化すべきタイミング、さらに法人化することで可能になる節税対策について取り上げます。また、医療法人ならではの社宅スキーム退職金の活用といった具体的な節税方法、そして最後に法人化の具体的な手続きまで網羅します。

専門的な内容も含みますが、できるだけわかりやすく、身近な例を交えて説明しますのでご安心ください。それでは本題に入りましょう。

歯科医院を法人化すると、個人事業では得られない様々なメリットがあります。ここでは主なメリットを順に見ていきます。

法人化最大のメリットの一つは、税負担を軽減できる可能性が高いことです。個人事業主の場合、歯科医師の所得(事業利益)に対して累進課税の所得税が課され、税率は所得に応じて最大55%にも達します。一方で、法人(医療法人)の所得に課される法人税等の実効税率はおよそ30%前後(所得800万円までは約20%)で頭打ちになります。

例えば、年間の診療利益が2,000万円程度発生しているケースでは、個人のままだと最高税率に近い課税を受けますが、法人化して院長先生に役員報酬を支給すれば、その報酬部分は法人の経費となり法人税の課税所得が減少します。さらに、役員報酬を受け取った院長先生個人は給与所得者となり、高額所得者であっても給与所得控除という手厚い控除が適用されます。個人事業の事業所得にはないこの仕組みを使うことで、同じ2,000万円の利益に対してもトータルの税負担を大幅に減らすことができるのです。

また、法人では親族に給与を支給して所得を分散することも容易です。例えば、配偶者やお子さんが医院の事務や受付を手伝っている場合、法人の役員や従業員として適正な給与を支払えば、その金額も法人の経費になります。個人事業主でも家族に「青色事業専従者給与」を支払う方法がありますが、支給額や対象に制限があります。それに対し、法人であればより柔軟に家族への給与支給が可能です(もちろん実態として業務に従事していることが前提です)。

このように、法人化によって所得の一部を法人側に移し、かつ給与という形で分散することで、トータルの税率を引き下げる効果が期待できます。特に自由診療が多く高収入になりがちな矯正歯科の先生や、既に複数院で年間利益が大きいケースでは、法人化による節税メリットは非常に大きなものとなります。

歯科医院を法人(医療法人)にすると、対外的な信用力が向上します。法人名義の銀行口座開設や融資申し込みの場面でも、個人事業より審査が有利になる傾向があります。金融機関から見ると、法人化しているということは経営基盤がしっかりしている証と映り、組織的な運営がなされている分、事業の安定性が感じられるためです。

例えば、新たにチェアを増設したり分院開設のために融資を受ける場合、法人であれば決算書に基づく組織の実績として評価され、融資審査が通りやすくなることがあります。個人事業主では院長個人の信用(個人の資産や保証能力)が重視されますが、法人ならば事業そのものの信用で判断してもらえるため、規模拡大の資金調達が円滑に進みやすいのです。

また、法人という形態自体が患者さんや取引先から見ても一つの安心材料になるケースもあります。「医療法人〇〇歯科クリニック」といった名称になることで、地域医療に根ざした継続性のある組織としてアピールでき、患者さんに「しっかり運営されている医院だ」という信頼感を与える効果も期待できます。

法人化により、スタッフの雇用環境を整えやすくなる点も大きなメリットです。医療法人になると、規模に関係なく社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が必須となります。これは院長先生にとって法人負担分の保険料コスト増となりますが、その反面、従業員にとっては「厚生年金や健康保険に加入できる職場」という安心感につながります。

近年は歯科衛生士や歯科助手の求人競争が非常に激しく、優秀なスタッフの採用・定着が医院経営の重要課題です。法人化して社会保険完備となれば、福利厚生面で個人経営の歯科医院より有利になるため、求人応募が増えやすくなる傾向があります。実際、20院で新卒衛生士1人を奪い合うとも言われる時代です。魅力的な勤務先であることを示すためにも、法人化による環境整備は効果的でしょう。

さらに、法人にすれば社宅制度や退職金制度など、従業員向けの福利厚生も導入しやすくなります(これらについては後ほど詳しく説明します)。スタッフが安心して長く働ける職場づくりができる点も、法人化のメリットと言えます。

個人の歯科医師が開設できる診療所は、原則として一か所だけとされています。しかし、医療法人化すれば複数の診療所を開設(分院展開)することが可能です。都市部で患者ニーズに応えるために分院を出したり、一般歯科とは別に矯正歯科専門のクリニックを新たに開設したりといった事業拡大を検討する際には、法人化が必須となります。

法人化によって事業の枠組みが大きくなると、設備投資や人材登用もしやすくなります。同じ法人内であれば複数医院間で人員の融通や統一的な採用・教育が行えるなど、経営資源を有効活用できます。特に歯科業界はマーケティング次第で患者数や売上を伸ばしやすい分野でもありますから、タイミング次第では早期に法人化して攻めの投資を行うことが大きな成長につながるケースもあります。

将来的に事業承継を見据える場合も、法人化にはメリットがあります。院長先生が引退する際、個人事業だと医院の設備や患者リスト、ノウハウなどを後継者に個別に引き継ぐ必要がありますが、法人であれば組織ごと後継の院長に引き渡すことが容易です。

現在の医療法人は持分のない医療法人(出資持分がなく、株式のような権利が発行されない形態)が原則です。このため、法人に蓄積された財産は誰か個人のものではなく法人のものとなり、院長が交代してもその財産を相続する必要がありません。極端に言えば、理事長(院長)を交代するだけでスムーズに事業承継が可能になります。

また、個人から法人にすることで院長個人の財産と医院の財産が明確に分離されます。これにより、院長ご自身の相続対策としても有効です。例えば現金や不動産を個人で大量に持ったまま亡くなると高額な相続税が発生しますが、事業に必要な資産を法人名義に移しておけば、院長個人の相続財産を減らす効果も期待できます。法人の財産はあくまで法人に属しますので、後継者への引継ぎも相続ではなく役員交代の手続きで済むわけです。

「メリットは分かったが、具体的にいつ法人化すべきか?」と悩まれる先生も多いでしょう。法人化には適したタイミングが存在します。一般的に、次のような状況になったら医療法人化を検討すべきだと言われます。

  • 年間所得が1,800万円を超えたとき:純粋な利益ベースでおよそ1,800万円(目安)を超えるようになると、個人事業の税率負担が非常に大きくなります。前述の通り累進課税で50%前後の税率がかかってくるため、このあたりが法人なり(法人成り)の損益分岐点としてよく挙げられます。法人化後は社会保険料の事業主負担が増えますが、それを差し引いても節税メリットが大きくなる目安と言えます。
  • 保険診療報酬が5,000万円超 or 自由診療を含めた総収入が7,000万円超:売上規模の面での目安です。保険診療による収入が年間5,000万円を超える、もしくは自費診療を含めた総売上が7,000万円を超えるようなら、法人化を考える時期と言えます。特に自由診療主体の矯正歯科では、高額な治療費により軌道に乗れば比較的早期にこの水準に達することもあります。なお、自由診療収入が多い場合は消費税の負担も念頭に置く必要があります(消費税については「消費税の特集ページ」もご参照ください)。
  • 事業拡大(分院展開)を検討するとき:医院の2院目・3院目を出したい、あるいは医科との連携で新規事業を起こしたい、といった拡大志向のタイミングです。個人のままでは分院は出せませんので、拡大計画が具体化した段階で法人化は必須となります。医療法人化は申請から認可まで半年ほどかかる(詳細は後述)ため、計画が固まり次第早めに動き出すことがポイントです。
  • 開業後7年目(高額な医療機器の減価償却が一巡する頃):開業7年目も、法人化を検討する好機です。減価償却費がなくなると利益が跳ね上がり税負担が急増するため、その前に法人化して役員報酬の活用など節税策を打てるようにしておくと安心です。
  • 事業承継(引退や世代交代)を視野に入れ始めたとき:50代以降になり、そろそろ後継者を考え始めたら、法人化の準備時期です。特にお子様が歯科医師で将来継ぐ可能性がある場合などは、早めに医療法人化して理事に加わってもらい、将来円滑に院長交代できる体制を整えておきましょう。

上記はあくまで一般的な目安で、医院ごとに状況は異なります。開業直後で利益が少ないうちは無理に法人化せず、まずは青色申告など個人事業主として使える制度で税負担を抑えるのも一案です(青色申告については「青色申告の特集ページ」をご覧ください)。事業が軌道に乗って利益が出始めてから、適切な時期に法人化するほうがトータルで有利になるケースも多いです。当事務所では、開業準備段階から決算後の数字まで踏まえて法人成りのベストタイミングをシミュレーションし、先生ごとに具体的なアドバイスを差し上げています。

税制改正等で条件が変わることもありますので、最新の情報については専門家に相談すると安心です。忙しい先生でもフルリモート対応でご相談いただけますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。

法人化すると、さまざまな節税策が可能になります。ここでは医療法人にしたからこそ実行できる主な節税対策をご紹介します。なお、歯科医院全般の節税方法については別途まとめたページ(「節税対策の特集ページ」)でも解説していますので、あわせてご覧ください。

  1. 役員報酬の活用(所得分散と給与所得控除)
    法人では院長先生に対して「役員報酬」を支払うことができます。先ほどメリットの項でも触れた通り、役員報酬は法人の経費になるため法人税の課税所得を減らせます。さらに、役員報酬を受け取った院長個人は給与所得者となり、給与所得控除という大きな控除枠が適用されるため、同じ所得金額でも個人事業主として計上する場合に比べて税負担を軽減できます。 また、法人にすれば前述のように配偶者や親族への給与支給による所得分散が可能です。家族に給与を支払うことで院長個人の所得を減らし、一家全体としての税率を引き下げることができます(個人事業の青色専従者給与より自由度が高いです)。
  2. 福利厚生費・経費の幅広い計上
    法人になると、事業に関連する様々な支出を経費として計上しやすくなります。例えば役員や従業員の研修費用、医局旅行や地域啓発イベントの費用、交際費等も法人経費として処理できます。個人事業主でも必要経費にできますが、法人の方が対外的な支出も増えるため経費科目が充実し、事業上の支出を幅広く損金算入しやすいと言えます。 また、生命保険の活用も法人ならではです。個人事業主の場合、生命保険料は所得控除としてせいぜい年間数十万円が限度ですが、法人であれば一定の保険料を経費化できる商品もあり、将来の備えをしつつ利益繰延べ(節税)につなげられます。ただし、このような保険の活用は長期の資金拘束を伴うため慎重な検討が必要です。
  3. 役員退職金の支給
    法人だからこそ可能な強力な節税策が、院長先生への役員退職金です。個人事業主には「退職金」の概念がありませんが、法人ならば役員として長年勤務した功労に報いて多額の退職金を支給することができます。退職金は法人にとって損金(経費)となり、その支給に伴う税負担も優遇されています(後述)。
  4. 社宅(役員住宅)制度の活用
    法人が住宅を借り上げまたは購入し、役員や従業員に安価で貸与する社宅制度も法人ならではの節税策です。院長先生は法人から社宅を提供してもらう形にすれば、住宅費の相当部分を法人負担に置き換えることができます。法人が家賃を支払い経費計上し、院長先生個人は税法上定められたごく一部の賃料負担で済ませれば(目安として家賃の50%程度)、残りは経済的利益として課税されません。結果として住居費の半分程度は法人の経費となり、院長先生の手取り収入を減らさずに税金と社会保険料の負担だけ軽減することが可能です。
  5. 消費税の免税メリット
    保険診療中心の医院では消費税負担は問題になりにくいですが、自由診療中心の矯正歯科クリニックでは消費税も経営上の負担となります。実は、新たに法人を設立することで消費税の免税事業者期間を再スタートできるケースがあります。拠出金1,000万円未満で医療法人を設立すれば、設立1期目と2期目は原則として消費税の納税が免除され、一時的に消費税の支払いを回避できます。ただし、このスキームを活用する際は適用要件やタイミングに注意が必要です。

以上のように、法人化すると個人ではできない多角的な節税策が取れるようになります。特に上記3.の役員退職金と4.の社宅スキームは、歯科医師の先生にとって大きなメリットとなる可能性があります。以下ではまず社宅制度について、続いて退職金制度について詳しく見ていきましょう。

社宅スキームとは、法人が住宅を借り上げまたは購入して役員や従業員に低廉な賃料で貸与する仕組みです。歯科医院を医療法人化した場合、院長先生は法人の役員(理事長)となりますので、役員社宅という形で住宅を提供してもらうことが可能です。

社宅制度の税務メリット

社宅を活用すると、住居費の相当部分を法人負担にすることができます。例えば院長先生がご自身で住居を借りていた場合、毎月の家賃は個人の手取りから支払う必要がありますが、これを法人の社宅扱いに切り替えると、法人が家賃を負担し経費計上し、院長先生個人は一定額の賃料を法人に納めるだけで済みます。

社宅として貸与する際の家賃は税務上の計算式によってごく低い水準に抑えられるため、残りの大部分は法人負担(経費)となり、その法人負担分について院長先生には課税されません。一般に役員社宅の場合、家賃の50%程度を本人から徴収すれば差額は課税されずに済むと言われます。つまり家賃の半分前後は法人の損金となり、院長先生の所得税・住民税の負担を減らすことができるわけです。

社会保険料への効果

社宅スキームは社会保険料の面でもメリットをもたらします。社会保険(健康保険・厚生年金)の保険料は、役員報酬や給与など現物給与も含めた標準報酬月額に基づき算出されます。しかし、適正な社宅制度によって提供される住宅の利益は税法上非課税であれば、社会保険上も報酬とみなされません。その結果、院長先生の標準報酬月額を意図的に引き下げることができます。

先ほどの例で言えば、院長先生が本来手取りから支払っていた月5万円の家賃を法人が負担している状態です。その5万円分は給与として支給されていないため、社会保険料の算定基礎からも外れています。給与として受け取らない分だけ保険料負担も発生しないことになり、院長先生と法人の双方にとって保険料の節約につながります。

社会保険料は給与額に比例して会社・従業員双方にかかるため、現金給与を社宅という現物給付で一部代替できれば、保険料コストを抑制することが可能です。ただし、その分将来受け取る年金額等も下がる点には留意が必要ですが、税金と社会保険料の総額を考慮しながらバランスよく活用すれば効果的な節税策となります。

導入時の留意点

医療法人で社宅スキームを利用する際には、いくつか注意点があります。まず、社宅とする物件は法人名義で契約する必要があります。個人契約のままでは法人経費にできませんので、賃貸の場合は貸主と法人の間で契約を結び直すか、法人が物件を購入して社宅とします。

次に、社宅家賃の設定は税務上の算定式に従って適正な水準にしなければなりません。相場より極端に安い賃料だと、その差額が役員賞与とみなされ課税されたり、経費として否認されたりする恐れがあります。税理士に相談しながら安全圏の金額を算出することが大切です。

また、医療法第54条には「剰余金の分配禁止」(利益の配当禁止)が規定されています。社宅の提供自体は福利厚生ですが、院長のみが過度な利益を享受していると判断される状況は避けるべきです。可能であればスタッフにも社宅制度を適用し、院長だけが特別待遇にならないようにするのが望ましいでしょう。難しい場合でも、税務上適正な範囲内で行い「あくまで全員に開かれた福利厚生であり配当ではない」という形を整えておくことが重要です。

以上を守れば、社宅スキームは非常に有力な節税&コスト削減策となります。実際、多くの医療法人で役員社宅制度が活用され、住居費負担の軽減に役立っています。当事務所でも、物件の選定や適正家賃の試算など含めて総合的にサポート可能です。

役員退職金は、医療法人の院長先生が将来得られる大きなメリットの一つです。法人化による節税策の切り札とも言える制度で、その税優遇効果は非常に大きくなっています。

法人だけの特権「役員退職金」

個人開業の歯科医師が引退するとき、事業を閉じて設備等を売却し残ったお金を受け取る形になりますが、それはあくまで自分の事業財産を処分しただけで税務上の「退職金」にはなりません。一方、法人の役員である院長先生が退任(退職)する際には、法人から役員退職金を受け取ることが可能です。法人に十分な内部留保があれば、数千万円規模の退職金を支給するケースも珍しくありません。

退職金は法人にとって損金算入できますので、支払年度の法人税を大きく圧縮できます。さらに、受け取る院長先生側も退職所得控除という大型の控除を受けられます。退職所得控除額は勤続年数に応じて計算され、例えば勤続20年なら800万円、30年なら1,500万円が非課税枠となります。控除後の残額についても、他の所得とは分離して1/2だけ課税されるという優遇措置が適用されます。結果として、退職金にかかる所得税・住民税は同額の給与に比べ格段に低く抑えられます。

例として、勤続30年の院長先生が医療法人から退職金3,000万円を受け取るケースを考えます。この場合、退職所得控除額は1,500万円(20年まで800万円+超過10年分として70万円×10年)となり、残り1,500万円の半分=750万円だけが課税対象所得になります。仮に他に所得がなく住民税を含めた税率が20%程度だとすると、税額は約150万円にとどまります。3,000万円の退職金に対して税金150万円(わずか5%程度)という破格の優遇と言えるでしょう。もしこの3,000万円を現役時代に毎年100万円ずつ給与で受け取っていたら、累進課税でその都度数十%の税率がかかっていたはずです。それを退職時にまとめて受け取るだけで、これほどの節税が叶うわけです。

社会保険料ゼロで資金を受け取れる

役員退職金には社会保険料がかからないという利点もあります。現役中の給与や賞与であれば、厚生年金・健康保険の保険料が毎回控除され、法人側も同額を負担しています。しかし、退職金として一時金で受け取るお金にはこれらの保険料が一切かかりません。つまり、同じ金額を現役中の報酬として受け取る場合に比べ、労使双方で数百万円単位の社会保険料負担を節約できる可能性があります。

厚生年金や健康保険の保険料率は決して低くありません。給与・賞与として受け取れば、およそ15%前後を本人が負担し、法人も同額を納める必要があります。退職金でまとめてもらえば、これらの負担が一切発生しないため、その分も考慮すると節税効果はさらに大きくなります。

円滑な事業承継と退職金

役員退職金の活用は、単にお金の話にとどまらず事業承継の円滑化にも寄与します。院長先生が引退するタイミングで多額の退職金を受け取り、新しい院長(後継者)に医院をバトンタッチする——この流れがスムーズにできるのは法人化しているからこそです。個人事業ではこうはいきません。法人であれば、院長先生は十分な報酬と退職金を得て身を引き、新しい院長(後継者)は法人の財産をそのまま承継して事業を続けることができます。後継者からすれば、医院を買い取るために巨額の資金を用意する必要もなく、負担少なく経営を引き継げます。

また、院長先生にとっても、長年築いた医院から得た利益を最終的に退職金という形で個人資産に移すことができます。医療法人は出資持分がないため、医院に蓄積した利益剰余金は配当という形で引き出すことができません。しかし退職金として支給すれば合法的に多くの資金を個人に移せます。これにより、法人内に残してきた資金を老後の生活資金やご家族のための資産として手にすることができるのです。

適正額と事前準備

役員退職金を有効に活用するには、適正な金額設定事前準備が重要です。税務上、著しく高額な退職金は「不相当に高い部分」が経費として認められない可能性があります。そこで、同業他社の支給実績や「勤続年数×最終報酬月額×功績倍率」といった算定式を参考に、社会通念上相当とみなされる範囲内で金額を決める必要があります。

また、退職金を支給するためには法人に十分な現預金がなければ実行できません。計画的に利益を蓄積しておくか、退職金支給のための保険商品(例:法人向け年金保険)に加入して積み立てておくなどの準備も検討しましょう。

当事務所では、先生の将来設計も踏まえて役員退職金のシミュレーションを行い、「何年後にいくらくらい退職金を受け取れるか」「受け取ると税金がどの程度になるか」といった長期プランのご提案も可能です。先生ご自身やご家族の安心のためにも、早めに計画を立てておくことをおすすめします。

最後に、法人化する際の具体的な手続きについて確認しましょう。医療法人設立の手続きは通常の会社設立とは異なり、準備に時間がかかります。ここでは医療法人特有の要件や流れを含め、ポイントを網羅します。

まず、医療法人を設立するための要件を押さえておきます。

  • 人的要件:社員(設立時の構成員)となる人が3名以上必要です。また役員として理事が3名以上(理事長1名含む)、監事が1名以上必要と定められています。院長先生が理事長に就任し、配偶者や信頼できる親族・知人を理事に、顧問税理士や社労士など外部の専門家を監事に立てるケースが一般的です。
  • 施設要件:開設しようとする病院・診療所が1か所以上あり、そこに必要な設備・器具が備わっていること(つまり診療の実態があること)。既存クリニックを法人化する場合はこの要件は問題ありません。
  • 資産要件:医療法人として運営するための資金が必要です。具体的には、年間支出予算の2か月分の運転資金を有すること。個人時代の設備を買い取る場合はその資金も別途必要です。また、医院の土地建物は医療法人所有か、または長期の賃貸借契約が確保されていることが求められます。要は、診療に必要な資産や資金がちゃんと用意できているかという点です。
  • その他要件:法人名が既存の法人と紛らわしくないこと、過度に誇大な名称でないこと(医療法人〇〇会など一般的なものが望ましい)も要件となります。また、複数の医療施設を持つ場合、それぞれの施設に別々の常勤管理者(院長)が必要です。一人の医師が複数施設を掛け持ち管理者になることはできません。

以上の要件を満たしていれば、医療法人化のスタートラインに立てます。多くの院長先生はご家族やスタッフから3名以上を選んで社員・理事に充て、監事には顧問専門家などに就任してもらってこの条件をクリアしています。

医療法人化の手続きは、各都道府県知事の認可を受ける必要があります。そのための一般的な流れを見てみましょう。

  1. 事前相談・設立意向届:まず都道府県の担当部署(医務課など)に対し、医療法人設立の意向を相談または届出します。自治体によっては医療法人設立説明会への参加が義務付けられており、手続きスケジュールや提出書類の説明を受けます。
  2. 定款(案)の作成・社員の確定:医療法人の基本ルールとなる定款の案を作ります。目的や名称、役員構成などを定めます。同時に設立時社員(発起人)の3名以上を誰にするか確定させます。
  3. 設立総会の開催:発起人となる社員による設立総会を開催し、定款案の承認、役員の選任、設立時出資財産の承諾などを決議します。議事録を作成し、社員全員が署名押印します。
  4. 設立認可申請書類の作成・提出:定款案や総会議事録、役員の履歴書、診療所の概要、資産目録、予算書、就業規則など、多岐にわたる書類を準備します。これらをとりまとめ、都道府県知事宛に設立認可申請を行います。
  5. 審査・認可:提出書類は都道府県で審査されます。内容に問題がなければ所定のスケジュールに沿って認可が下ります。自治体によって異なりますが、申請受付は概ね年2回など限られた期間のみとなっているため(例:○月申請→10月1日付認可など)、スケジュールを把握して計画する必要があります。
  6. 法人設立登記:知事の認可後、2週間以内に法務局で法人の設立登記を行います。ここで医療法人が正式に成立します。登記が完了すると法人の印鑑証明書や登記事項証明書が取得できます。
  7. 各種届出:法人設立後、税務署への法人設立届出・青色申告承認申請、年金事務所への健康保険・厚生年金の新規適用届、ハローワークや労基署への労働保険関係の届出、都道府県への開設許可証の書換え申請など、様々な行政手続きを速やかに行います。特に社会保険は法人になった段階で必ず加入手続きが必要なので注意してください(個人事業で任意適用だった場合も、法人化後は強制適用になります)。

このように医療法人化には多くのステップがありますが、当事務所では提携行政書士と連携してワンストップでサポート可能です。先生には診療に専念いただき、煩雑な書類作成や役所対応はすべてお任せいただけます。

法人化後は公私の資金を分けて管理することが大切です。法人の口座と個人の財布を混同せず、適切な経理処理を行いましょう。煩雑な経理や給与計算、各種届出については、専門家に任せてしまうのも一つの方法です。当事務所にご依頼いただければ、フルリモート対応で記帳代行から決算・申告まで対応可能ですので、先生は診療に集中することができます。

なお、医療法人設立後も毎事業年度終了後には自治体への事業報告書提出義務があるほか、役員の変更や医院住所の変更が生じた際には都度登記や届出が必要になります。法人化して終わりではなく、継続的に遵守すべきルールがありますので忘れずに対応しましょう。

以上、歯科医院・矯正歯科の法人化について、メリットから手続きまで包括的に解説いたしました。当事務所「加美税理士事務所」では、歯科業界に精通した税理士が開業前のご相談から法人成り後の経理・税務支援まで一貫してサポートしております。税務調査に強いノウハウや、オンラインで全国対応できる体制も整えておりますので、法人化をご検討中の先生はぜひお気軽にご相談ください。高い専門性と親しみやすさを兼ね備え、先生方の心強いパートナーとしてお手伝いさせていただきます。

よくあるご質問

FAQ

歯科医院を法人化することでどのような節税効果がありますか?

医療法人化により、所得分散・役員報酬制度・退職金支給・社宅活用など、多角的な節税が可能です。特に所得が一定水準を超える場合は、累進課税の回避や法人税の定率適用により、税負担を大幅に軽減できます。当事務所では過去100件以上の法人化支援の実績をもとに、最適な節税スキームをご提案いたします。

医療法人にすると分院の展開は可能になりますか?

はい、個人事業と異なり、医療法人になると複数医院の運営が可能になります。都市部における矯正歯科の分院展開や、一般歯科との組み合わせなど、法人化によって経営の柔軟性と拡張性が高まります。事業拡大を視野に入れている先生には、法人化のタイミングを含めた戦略的なご提案が可能です。

歯科医院を開業したばかりですが、すぐに法人化したほうが良いでしょうか?

法人化のタイミングは「利益水準」や「今後の経営方針」によって異なります。例えば、年間所得が1,800万円を超える、または分院展開を視野に入れているなどの場合には法人化のメリットが大きくなります。当事務所では法人化の損益分岐点や節税効果をシミュレーションし、最適な判断をお手伝いします。

医療法人化した場合、社会保険料はどのように変わりますか?

医療法人は社会保険への強制加入が求められます。そのため、法人化すると院長先生やスタッフの社会保険料の負担が発生しますが、福利厚生の充実や人材採用面では大きなメリットとなります。また、社宅制度や役員退職金制度を活用することで、社会保険料負担のバランスを調整することも可能です。

医療法人の設立にはどれくらいの期間がかかりますか?

医療法人の設立には、都道府県への申請から認可、登記まで含めておおよそ6か月ほどかかります。年2回の認可時期に合わせたスケジューリングが必要なため、早めの準備が重要です。当事務所では、スムーズな設立を実現するためのスケジュール管理から書類作成、提携司法書士との連携までトータルで支援いたします。

歯科医院を法人化する際に消費税の扱いはどうなりますか?

歯科医院は保険診療が中心のため消費税は非課税ですが、自由診療を行っている矯正歯科などでは消費税の課税対象となります。法人化によって新たに2年間の免税期間を設けられる可能性もあります。詳しくは、下記ページの内容をご参照ください。

自宅を社宅にすると節税になると聞きましたが、本当ですか?

はい、法人が自宅を社宅として提供することで、法人が家賃を負担し、院長先生個人の課税所得や社会保険料を抑えることが可能です。税務上の適正賃料設定や契約方法が重要になります。当事務所では、節税と法令遵守のバランスをとった社宅スキームの導入を支援しています。

青色申告をしている個人事業主ですが、法人化後もメリットはありますか?

青色申告には控除などのメリットがありますが、一定以上の利益がある場合は法人化することでさらに大きな節税効果が得られる可能性があります。個人・法人の比較については、下記ページもぜひご覧ください。

医療法人にした場合、院長の退職金はどのように扱われますか?

医療法人では、院長先生に対して退職金を支給することが可能です。退職所得控除や1/2課税の特例が適用されるため、税負担を抑えて老後資金を確保できます。事前に適正額のシミュレーションと制度設計を行うことが重要です。当事務所では退職金制度の構築も支援しております。

法人化と節税対策はどう関係していますか?

法人化によって役員報酬・社宅・退職金・福利厚生費の活用が可能になり、個人事業では難しい高度な節税対策が実現します。法人化を前提とした節税の全体像については、下記ページもぜひご参照ください。

医療法人化した場合、事業承継はスムーズになりますか?

はい、医療法人は「出資持分のない法人」であるため、院長交代時に株式譲渡などの煩雑な手続きを必要とせず、理事交代という形で円滑に承継が可能です。ご子息や勤務医の承継を想定されている先生には、特に法人化の検討をおすすめします。

税務調査が心配ですが、法人化することで対応しやすくなりますか?

法人化によって帳簿や会計処理が整備されやすくなり、税務調査対応もスムーズになります。当事務所は税務調査対応に強く、全国対応でオンライン立会も可能です。不安を抱える先生も、事前準備からアフターサポートまで万全にお手伝いします。

矯正歯科で自由診療が多い場合も法人化のメリットはありますか?

はい、自由診療主体の矯正歯科は高収益になりやすく、法人化による節税メリットが特に大きくなります。また、消費税の課税対象となるため、法人化による免税期間の活用なども戦略的に検討できます。キャッシュフローの改善と設備投資計画も含めてご支援いたします。

法人化後にどのような帳簿や決算書を作成する必要がありますか?

医療法人では、貸借対照表・損益計算書・事業報告書などの作成が必要です。月次での財務諸表や経営指標の把握も重要になります。当事務所では記帳代行や月次レポートの作成支援、クラウド会計導入も含めた運用支援を行っております。

医療法人でも節税目的で生命保険を活用できますか?

はい、法人での生命保険活用は節税や退職金準備の一環として有効です。ただし、保険料の損金算入要件や長期的な資金繰りへの影響など、慎重な判断が必要です。当事務所では、税務とキャッシュフローの両面から適切な活用をご提案します。

開業直後でも法人化の相談は可能ですか?

もちろん可能です。開業準備段階からご相談いただくことで、将来の法人化を見据えた資金計画や節税戦略を立てやすくなります。開業支援については下記のページもご参照ください。

法人化後、スタッフの雇用契約や労務管理はどう変わりますか?

医療法人になると社会保険への加入義務が発生し、雇用契約書や就業規則の整備が求められます。スタッフの福利厚生が充実する一方で、労務管理も重要性が増します。当事務所では提携社労士と連携し、法人化後の体制整備もご支援可能です。

税務調査に備えて法人化前からできる準備はありますか?

はい、帳簿の整備や経費区分の見直し、役員報酬設計など、法人化前からできる対策は多くあります。税務調査に強い当事務所が、事前準備から立会・交渉まで一貫してサポートいたします。詳細は下記のページもご確認ください。

医療法人にしたらどんな報告義務がありますか?

医療法人は毎事業年度終了後に、都道府県へ事業報告書や財産目録などを提出する義務があります。また、役員変更や事務所移転の際にも届出が必要です。当事務所ではこれらの手続きも一括してサポートしておりますのでご安心ください。

医療法人化後の経営分析や月次管理もお願いできますか?

はい、財務分析・月次決算・試算表作成・部門別損益分析など、医療法人経営に必要な月次サポートを提供しております。クラウド会計にも対応し、データ連携や業務効率化も推進いたします。経営判断を数字で支える体制を構築します。

開業準備の段階で税理士に依頼するのは早すぎませんか?

いいえ、むしろ開業前こそ税理士の関与が重要です。資金計画・融資相談・事業計画書作成など、開業準備には税務・会計の専門知識が欠かせません。開業支援については下記のページもご覧ください。

法人化すると顧問料は高くなりますか?

法人化後は会計・税務処理が増えるため、個人事業に比べて顧問料が上がるケースもありますが、節税効果やリスク管理を考慮するとコストパフォーマンスは高いと言えます。当事務所では費用を抑えつつ最適なサポートを提供していますので、ぜひ一度ご相談ください。

法人化後の会計処理は自分で対応する必要がありますか?

必ずしもご自身で対応する必要はありません。当事務所では会計ソフトを使用していないお客様にも対応可能で、記帳代行・クラウド会計・丸投げプランなどご希望に応じた柔軟なサポートをご用意しています。

自由診療中心の歯科クリニックでも医療法人になれますか?

はい、自由診療中心の矯正歯科でも、一定の条件を満たせば医療法人化が可能です。経営体制・資金計画・スタッフ配置などを確認のうえ、申請手続きを進めることになります。当事務所では、自由診療クリニックの法人化支援のためのノウハウも豊富です。

医療法人の税務にはどのような専門性が必要ですか?

医療法人特有の税務論点には、出資持分のない法人制度、社会保険適用、交際費や役員報酬の制限、医療法上の制約などが含まれます。医療業界に特化した税理士による支援が欠かせません。

医療法人化の初期費用はどのくらいかかりますか?

医療法人化の初期費用は、都道府県への認可申請費用・設立登記費用・専門家報酬を含めて、一般的には40万〜70万円程度です。当事務所では提携司法書士との連携により、相場よりも抑えた費用での法人設立が可能です。

医療法人にしても青色申告は必要ですか?

法人になった場合、青色申告の手続きは法人名義で改めて行う必要があります。正確な帳簿作成と申告は節税の基本です。

医療法人の利益は理事長が自由に引き出せますか?

医療法人の利益は法人の資産であり、個人の自由財産ではありません。配当は不可であり、利益を取り出すには役員報酬や退職金など、適切な方法が必要です。当事務所では、合法的かつ効果的に資金を移すための方法をご提案しています。

医療法人にして失敗するケースはありますか?

はい、節税効果が見込めない時期に法人化してしまうと、社会保険料の増加や手続き負担だけが先行する場合もあります。法人化には明確な目的とタイミングが重要です。判断に迷われた際は、初回無料相談をご活用ください。

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