「利益は出ている。でも、このままでいいのか不安なあなたへ。設備投資、節税、自由診療の法人化…歯科医院に精通した税理士が、未来のクリニック経営に必要な”次の一手”を一緒に描きます。」
歯科医院・矯正歯科における法人化
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歯科医院を法人化すると、個人事業では得られない様々なメリットがあります。ここでは主なメリットを順に見ていきます。
法人化最大のメリットの一つは、税負担を軽減できる可能性が高いことです。個人事業主の場合、歯科医師の所得(事業利益)に対して累進課税の所得税が課され、税率は所得に応じて最大55%にも達します。一方で、法人(医療法人)の所得に課される法人税等の実効税率はおよそ30%前後(所得800万円までは約20%)で頭打ちになります。
例えば、年間の診療利益が2,000万円程度発生しているケースでは、個人のままだと最高税率に近い課税を受けますが、法人化して院長先生に役員報酬を支給すれば、その報酬部分は法人の経費となり法人税の課税所得が減少します。さらに、役員報酬を受け取った院長先生個人は給与所得者となり、高額所得者であっても給与所得控除という手厚い控除が適用されます。個人事業の事業所得にはないこの仕組みを使うことで、同じ2,000万円の利益に対してもトータルの税負担を大幅に減らすことができるのです。
また、法人では親族に給与を支給して所得を分散することも容易です。例えば、配偶者やお子さんが医院の事務や受付を手伝っている場合、法人の役員や従業員として適正な給与を支払えば、その金額も法人の経費になります。個人事業主でも家族に「青色事業専従者給与」を支払う方法がありますが、支給額や対象に制限があります。それに対し、法人であればより柔軟に家族への給与支給が可能です(もちろん実態として業務に従事していることが前提です)。
このように、法人化によって所得の一部を法人側に移し、かつ給与という形で分散することで、トータルの税率を引き下げる効果が期待できます。特に自由診療が多く高収入になりがちな矯正歯科の先生や、既に複数院で年間利益が大きいケースでは、法人化による節税メリットは非常に大きなものとなります。
歯科医院を法人(医療法人)にすると、対外的な信用力が向上します。法人名義の銀行口座開設や融資申し込みの場面でも、個人事業より審査が有利になる傾向があります。金融機関から見ると、法人化しているということは経営基盤がしっかりしている証と映り、組織的な運営がなされている分、事業の安定性が感じられるためです。
例えば、新たにチェアを増設したり分院開設のために融資を受ける場合、法人であれば決算書に基づく組織の実績として評価され、融資審査が通りやすくなることがあります。個人事業主では院長個人の信用(個人の資産や保証能力)が重視されますが、法人ならば事業そのものの信用で判断してもらえるため、規模拡大の資金調達が円滑に進みやすいのです。
また、法人という形態自体が患者さんや取引先から見ても一つの安心材料になるケースもあります。「医療法人〇〇歯科クリニック」といった名称になることで、地域医療に根ざした継続性のある組織としてアピールでき、患者さんに「しっかり運営されている医院だ」という信頼感を与える効果も期待できます。
法人化により、スタッフの雇用環境を整えやすくなる点も大きなメリットです。医療法人になると、規模に関係なく社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が必須となります。これは院長先生にとって法人負担分の保険料コスト増となりますが、その反面、従業員にとっては「厚生年金や健康保険に加入できる職場」という安心感につながります。
近年は歯科衛生士や歯科助手の求人競争が非常に激しく、優秀なスタッフの採用・定着が医院経営の重要課題です。法人化して社会保険完備となれば、福利厚生面で個人経営の歯科医院より有利になるため、求人応募が増えやすくなる傾向があります。実際、20院で新卒衛生士1人を奪い合うとも言われる時代です。魅力的な勤務先であることを示すためにも、法人化による環境整備は効果的でしょう。
さらに、法人にすれば社宅制度や退職金制度など、従業員向けの福利厚生も導入しやすくなります(これらについては後ほど詳しく説明します)。スタッフが安心して長く働ける職場づくりができる点も、法人化のメリットと言えます。
個人の歯科医師が開設できる診療所は、原則として一か所だけとされています。しかし、医療法人化すれば複数の診療所を開設(分院展開)することが可能です。都市部で患者ニーズに応えるために分院を出したり、一般歯科とは別に矯正歯科専門のクリニックを新たに開設したりといった事業拡大を検討する際には、法人化が必須となります。
法人化によって事業の枠組みが大きくなると、設備投資や人材登用もしやすくなります。同じ法人内であれば複数医院間で人員の融通や統一的な採用・教育が行えるなど、経営資源を有効活用できます。特に歯科業界はマーケティング次第で患者数や売上を伸ばしやすい分野でもありますから、タイミング次第では早期に法人化して攻めの投資を行うことが大きな成長につながるケースもあります。
将来的に事業承継を見据える場合も、法人化にはメリットがあります。院長先生が引退する際、個人事業だと医院の設備や患者リスト、ノウハウなどを後継者に個別に引き継ぐ必要がありますが、法人であれば組織ごと後継の院長に引き渡すことが容易です。
現在の医療法人は持分のない医療法人(出資持分がなく、株式のような権利が発行されない形態)が原則です。このため、法人に蓄積された財産は誰か個人のものではなく法人のものとなり、院長が交代してもその財産を相続する必要がありません。極端に言えば、理事長(院長)を交代するだけでスムーズに事業承継が可能になります。
また、個人から法人にすることで院長個人の財産と医院の財産が明確に分離されます。これにより、院長ご自身の相続対策としても有効です。例えば現金や不動産を個人で大量に持ったまま亡くなると高額な相続税が発生しますが、事業に必要な資産を法人名義に移しておけば、院長個人の相続財産を減らす効果も期待できます。法人の財産はあくまで法人に属しますので、後継者への引継ぎも相続ではなく役員交代の手続きで済むわけです。
「メリットは分かったが、具体的にいつ法人化すべきか?」と悩まれる先生も多いでしょう。法人化には適したタイミングが存在します。一般的に、次のような状況になったら医療法人化を検討すべきだと言われます。
- 年間所得が1,800万円を超えたとき:純粋な利益ベースでおよそ1,800万円(目安)を超えるようになると、個人事業の税率負担が非常に大きくなります。前述の通り累進課税で50%前後の税率がかかってくるため、このあたりが法人なり(法人成り)の損益分岐点としてよく挙げられます。法人化後は社会保険料の事業主負担が増えますが、それを差し引いても節税メリットが大きくなる目安と言えます。
- 保険診療報酬が5,000万円超 or 自由診療を含めた総収入が7,000万円超:売上規模の面での目安です。保険診療による収入が年間5,000万円を超える、もしくは自費診療を含めた総売上が7,000万円を超えるようなら、法人化を考える時期と言えます。特に自由診療主体の矯正歯科では、高額な治療費により軌道に乗れば比較的早期にこの水準に達することもあります。なお、自由診療収入が多い場合は消費税の負担も念頭に置く必要があります(消費税については「消費税の特集ページ」もご参照ください)。
- 事業拡大(分院展開)を検討するとき:医院の2院目・3院目を出したい、あるいは医科との連携で新規事業を起こしたい、といった拡大志向のタイミングです。個人のままでは分院は出せませんので、拡大計画が具体化した段階で法人化は必須となります。医療法人化は申請から認可まで半年ほどかかる(詳細は後述)ため、計画が固まり次第早めに動き出すことがポイントです。
- 開業後7年目(高額な医療機器の減価償却が一巡する頃):開業7年目も、法人化を検討する好機です。減価償却費がなくなると利益が跳ね上がり税負担が急増するため、その前に法人化して役員報酬の活用など節税策を打てるようにしておくと安心です。
- 事業承継(引退や世代交代)を視野に入れ始めたとき:50代以降になり、そろそろ後継者を考え始めたら、法人化の準備時期です。特にお子様が歯科医師で将来継ぐ可能性がある場合などは、早めに医療法人化して理事に加わってもらい、将来円滑に院長交代できる体制を整えておきましょう。
上記はあくまで一般的な目安で、医院ごとに状況は異なります。開業直後で利益が少ないうちは無理に法人化せず、まずは青色申告など個人事業主として使える制度で税負担を抑えるのも一案です(青色申告については「青色申告の特集ページ」をご覧ください)。事業が軌道に乗って利益が出始めてから、適切な時期に法人化するほうがトータルで有利になるケースも多いです。当事務所では、開業準備段階から決算後の数字まで踏まえて法人成りのベストタイミングをシミュレーションし、先生ごとに具体的なアドバイスを差し上げています。
税制改正等で条件が変わることもありますので、最新の情報については専門家に相談すると安心です。忙しい先生でもフルリモート対応でご相談いただけますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
法人化すると、さまざまな節税策が可能になります。ここでは医療法人にしたからこそ実行できる主な節税対策をご紹介します。なお、歯科医院全般の節税方法については別途まとめたページ(「節税対策の特集ページ」)でも解説していますので、あわせてご覧ください。
- 役員報酬の活用(所得分散と給与所得控除)
法人では院長先生に対して「役員報酬」を支払うことができます。先ほどメリットの項でも触れた通り、役員報酬は法人の経費になるため法人税の課税所得を減らせます。さらに、役員報酬を受け取った院長個人は給与所得者となり、給与所得控除という大きな控除枠が適用されるため、同じ所得金額でも個人事業主として計上する場合に比べて税負担を軽減できます。 また、法人にすれば前述のように配偶者や親族への給与支給による所得分散が可能です。家族に給与を支払うことで院長個人の所得を減らし、一家全体としての税率を引き下げることができます(個人事業の青色専従者給与より自由度が高いです)。 - 福利厚生費・経費の幅広い計上
法人になると、事業に関連する様々な支出を経費として計上しやすくなります。例えば役員や従業員の研修費用、医局旅行や地域啓発イベントの費用、交際費等も法人経費として処理できます。個人事業主でも必要経費にできますが、法人の方が対外的な支出も増えるため経費科目が充実し、事業上の支出を幅広く損金算入しやすいと言えます。 また、生命保険の活用も法人ならではです。個人事業主の場合、生命保険料は所得控除としてせいぜい年間数十万円が限度ですが、法人であれば一定の保険料を経費化できる商品もあり、将来の備えをしつつ利益繰延べ(節税)につなげられます。ただし、このような保険の活用は長期の資金拘束を伴うため慎重な検討が必要です。 - 役員退職金の支給
法人だからこそ可能な強力な節税策が、院長先生への役員退職金です。個人事業主には「退職金」の概念がありませんが、法人ならば役員として長年勤務した功労に報いて多額の退職金を支給することができます。退職金は法人にとって損金(経費)となり、その支給に伴う税負担も優遇されています(後述)。 - 社宅(役員住宅)制度の活用
法人が住宅を借り上げまたは購入し、役員や従業員に安価で貸与する社宅制度も法人ならではの節税策です。院長先生は法人から社宅を提供してもらう形にすれば、住宅費の相当部分を法人負担に置き換えることができます。法人が家賃を支払い経費計上し、院長先生個人は税法上定められたごく一部の賃料負担で済ませれば(目安として家賃の50%程度)、残りは経済的利益として課税されません。結果として住居費の半分程度は法人の経費となり、院長先生の手取り収入を減らさずに税金と社会保険料の負担だけ軽減することが可能です。 - 消費税の免税メリット
保険診療中心の医院では消費税負担は問題になりにくいですが、自由診療中心の矯正歯科クリニックでは消費税も経営上の負担となります。実は、新たに法人を設立することで消費税の免税事業者期間を再スタートできるケースがあります。拠出金1,000万円未満で医療法人を設立すれば、設立1期目と2期目は原則として消費税の納税が免除され、一時的に消費税の支払いを回避できます。ただし、このスキームを活用する際は適用要件やタイミングに注意が必要です。
以上のように、法人化すると個人ではできない多角的な節税策が取れるようになります。特に上記3.の役員退職金と4.の社宅スキームは、歯科医師の先生にとって大きなメリットとなる可能性があります。以下ではまず社宅制度について、続いて退職金制度について詳しく見ていきましょう。
社宅スキームとは、法人が住宅を借り上げまたは購入して役員や従業員に低廉な賃料で貸与する仕組みです。歯科医院を医療法人化した場合、院長先生は法人の役員(理事長)となりますので、役員社宅という形で住宅を提供してもらうことが可能です。
社宅制度の税務メリット
社宅を活用すると、住居費の相当部分を法人負担にすることができます。例えば院長先生がご自身で住居を借りていた場合、毎月の家賃は個人の手取りから支払う必要がありますが、これを法人の社宅扱いに切り替えると、法人が家賃を負担し経費計上し、院長先生個人は一定額の賃料を法人に納めるだけで済みます。
社宅として貸与する際の家賃は税務上の計算式によってごく低い水準に抑えられるため、残りの大部分は法人負担(経費)となり、その法人負担分について院長先生には課税されません。一般に役員社宅の場合、家賃の50%程度を本人から徴収すれば差額は課税されずに済むと言われます。つまり家賃の半分前後は法人の損金となり、院長先生の所得税・住民税の負担を減らすことができるわけです。
社会保険料への効果
社宅スキームは社会保険料の面でもメリットをもたらします。社会保険(健康保険・厚生年金)の保険料は、役員報酬や給与など現物給与も含めた標準報酬月額に基づき算出されます。しかし、適正な社宅制度によって提供される住宅の利益は税法上非課税であれば、社会保険上も報酬とみなされません。その結果、院長先生の標準報酬月額を意図的に引き下げることができます。
先ほどの例で言えば、院長先生が本来手取りから支払っていた月5万円の家賃を法人が負担している状態です。その5万円分は給与として支給されていないため、社会保険料の算定基礎からも外れています。給与として受け取らない分だけ保険料負担も発生しないことになり、院長先生と法人の双方にとって保険料の節約につながります。
社会保険料は給与額に比例して会社・従業員双方にかかるため、現金給与を社宅という現物給付で一部代替できれば、保険料コストを抑制することが可能です。ただし、その分将来受け取る年金額等も下がる点には留意が必要ですが、税金と社会保険料の総額を考慮しながらバランスよく活用すれば効果的な節税策となります。
導入時の留意点
医療法人で社宅スキームを利用する際には、いくつか注意点があります。まず、社宅とする物件は法人名義で契約する必要があります。個人契約のままでは法人経費にできませんので、賃貸の場合は貸主と法人の間で契約を結び直すか、法人が物件を購入して社宅とします。
次に、社宅家賃の設定は税務上の算定式に従って適正な水準にしなければなりません。相場より極端に安い賃料だと、その差額が役員賞与とみなされ課税されたり、経費として否認されたりする恐れがあります。税理士に相談しながら安全圏の金額を算出することが大切です。
また、医療法第54条には「剰余金の分配禁止」(利益の配当禁止)が規定されています。社宅の提供自体は福利厚生ですが、院長のみが過度な利益を享受していると判断される状況は避けるべきです。可能であればスタッフにも社宅制度を適用し、院長だけが特別待遇にならないようにするのが望ましいでしょう。難しい場合でも、税務上適正な範囲内で行い「あくまで全員に開かれた福利厚生であり配当ではない」という形を整えておくことが重要です。
以上を守れば、社宅スキームは非常に有力な節税&コスト削減策となります。実際、多くの医療法人で役員社宅制度が活用され、住居費負担の軽減に役立っています。当事務所でも、物件の選定や適正家賃の試算など含めて総合的にサポート可能です。
役員退職金は、医療法人の院長先生が将来得られる大きなメリットの一つです。法人化による節税策の切り札とも言える制度で、その税優遇効果は非常に大きくなっています。
法人だけの特権「役員退職金」
個人開業の歯科医師が引退するとき、事業を閉じて設備等を売却し残ったお金を受け取る形になりますが、それはあくまで自分の事業財産を処分しただけで税務上の「退職金」にはなりません。一方、法人の役員である院長先生が退任(退職)する際には、法人から役員退職金を受け取ることが可能です。法人に十分な内部留保があれば、数千万円規模の退職金を支給するケースも珍しくありません。
退職金は法人にとって損金算入できますので、支払年度の法人税を大きく圧縮できます。さらに、受け取る院長先生側も退職所得控除という大型の控除を受けられます。退職所得控除額は勤続年数に応じて計算され、例えば勤続20年なら800万円、30年なら1,500万円が非課税枠となります。控除後の残額についても、他の所得とは分離して1/2だけ課税されるという優遇措置が適用されます。結果として、退職金にかかる所得税・住民税は同額の給与に比べ格段に低く抑えられます。
例として、勤続30年の院長先生が医療法人から退職金3,000万円を受け取るケースを考えます。この場合、退職所得控除額は1,500万円(20年まで800万円+超過10年分として70万円×10年)となり、残り1,500万円の半分=750万円だけが課税対象所得になります。仮に他に所得がなく住民税を含めた税率が20%程度だとすると、税額は約150万円にとどまります。3,000万円の退職金に対して税金150万円(わずか5%程度)という破格の優遇と言えるでしょう。もしこの3,000万円を現役時代に毎年100万円ずつ給与で受け取っていたら、累進課税でその都度数十%の税率がかかっていたはずです。それを退職時にまとめて受け取るだけで、これほどの節税が叶うわけです。
社会保険料ゼロで資金を受け取れる
役員退職金には社会保険料がかからないという利点もあります。現役中の給与や賞与であれば、厚生年金・健康保険の保険料が毎回控除され、法人側も同額を負担しています。しかし、退職金として一時金で受け取るお金にはこれらの保険料が一切かかりません。つまり、同じ金額を現役中の報酬として受け取る場合に比べ、労使双方で数百万円単位の社会保険料負担を節約できる可能性があります。
厚生年金や健康保険の保険料率は決して低くありません。給与・賞与として受け取れば、およそ15%前後を本人が負担し、法人も同額を納める必要があります。退職金でまとめてもらえば、これらの負担が一切発生しないため、その分も考慮すると節税効果はさらに大きくなります。
円滑な事業承継と退職金
役員退職金の活用は、単にお金の話にとどまらず事業承継の円滑化にも寄与します。院長先生が引退するタイミングで多額の退職金を受け取り、新しい院長(後継者)に医院をバトンタッチする——この流れがスムーズにできるのは法人化しているからこそです。個人事業ではこうはいきません。法人であれば、院長先生は十分な報酬と退職金を得て身を引き、新しい院長(後継者)は法人の財産をそのまま承継して事業を続けることができます。後継者からすれば、医院を買い取るために巨額の資金を用意する必要もなく、負担少なく経営を引き継げます。
また、院長先生にとっても、長年築いた医院から得た利益を最終的に退職金という形で個人資産に移すことができます。医療法人は出資持分がないため、医院に蓄積した利益剰余金は配当という形で引き出すことができません。しかし退職金として支給すれば合法的に多くの資金を個人に移せます。これにより、法人内に残してきた資金を老後の生活資金やご家族のための資産として手にすることができるのです。
適正額と事前準備
役員退職金を有効に活用するには、適正な金額設定と事前準備が重要です。税務上、著しく高額な退職金は「不相当に高い部分」が経費として認められない可能性があります。そこで、同業他社の支給実績や「勤続年数×最終報酬月額×功績倍率」といった算定式を参考に、社会通念上相当とみなされる範囲内で金額を決める必要があります。
また、退職金を支給するためには法人に十分な現預金がなければ実行できません。計画的に利益を蓄積しておくか、退職金支給のための保険商品(例:法人向け年金保険)に加入して積み立てておくなどの準備も検討しましょう。
当事務所では、先生の将来設計も踏まえて役員退職金のシミュレーションを行い、「何年後にいくらくらい退職金を受け取れるか」「受け取ると税金がどの程度になるか」といった長期プランのご提案も可能です。先生ご自身やご家族の安心のためにも、早めに計画を立てておくことをおすすめします。
最後に、法人化する際の具体的な手続きについて確認しましょう。医療法人設立の手続きは通常の会社設立とは異なり、準備に時間がかかります。ここでは医療法人特有の要件や流れを含め、ポイントを網羅します。
まず、医療法人を設立するための要件を押さえておきます。
- 人的要件:社員(設立時の構成員)となる人が3名以上必要です。また役員として理事が3名以上(理事長1名含む)、監事が1名以上必要と定められています。院長先生が理事長に就任し、配偶者や信頼できる親族・知人を理事に、顧問税理士や社労士など外部の専門家を監事に立てるケースが一般的です。
- 施設要件:開設しようとする病院・診療所が1か所以上あり、そこに必要な設備・器具が備わっていること(つまり診療の実態があること)。既存クリニックを法人化する場合はこの要件は問題ありません。
- 資産要件:医療法人として運営するための資金が必要です。具体的には、年間支出予算の2か月分の運転資金を有すること。個人時代の設備を買い取る場合はその資金も別途必要です。また、医院の土地建物は医療法人所有か、または長期の賃貸借契約が確保されていることが求められます。要は、診療に必要な資産や資金がちゃんと用意できているかという点です。
- その他要件:法人名が既存の法人と紛らわしくないこと、過度に誇大な名称でないこと(医療法人〇〇会など一般的なものが望ましい)も要件となります。また、複数の医療施設を持つ場合、それぞれの施設に別々の常勤管理者(院長)が必要です。一人の医師が複数施設を掛け持ち管理者になることはできません。
以上の要件を満たしていれば、医療法人化のスタートラインに立てます。多くの院長先生はご家族やスタッフから3名以上を選んで社員・理事に充て、監事には顧問専門家などに就任してもらってこの条件をクリアしています。
医療法人化の手続きは、各都道府県知事の認可を受ける必要があります。そのための一般的な流れを見てみましょう。
- 事前相談・設立意向届:まず都道府県の担当部署(医務課など)に対し、医療法人設立の意向を相談または届出します。自治体によっては医療法人設立説明会への参加が義務付けられており、手続きスケジュールや提出書類の説明を受けます。
- 定款(案)の作成・社員の確定:医療法人の基本ルールとなる定款の案を作ります。目的や名称、役員構成などを定めます。同時に設立時社員(発起人)の3名以上を誰にするか確定させます。
- 設立総会の開催:発起人となる社員による設立総会を開催し、定款案の承認、役員の選任、設立時出資財産の承諾などを決議します。議事録を作成し、社員全員が署名押印します。
- 設立認可申請書類の作成・提出:定款案や総会議事録、役員の履歴書、診療所の概要、資産目録、予算書、就業規則など、多岐にわたる書類を準備します。これらをとりまとめ、都道府県知事宛に設立認可申請を行います。
- 審査・認可:提出書類は都道府県で審査されます。内容に問題がなければ所定のスケジュールに沿って認可が下ります。自治体によって異なりますが、申請受付は概ね年2回など限られた期間のみとなっているため(例:○月申請→10月1日付認可など)、スケジュールを把握して計画する必要があります。
- 法人設立登記:知事の認可後、2週間以内に法務局で法人の設立登記を行います。ここで医療法人が正式に成立します。登記が完了すると法人の印鑑証明書や登記事項証明書が取得できます。
- 各種届出:法人設立後、税務署への法人設立届出・青色申告承認申請、年金事務所への健康保険・厚生年金の新規適用届、ハローワークや労基署への労働保険関係の届出、都道府県への開設許可証の書換え申請など、様々な行政手続きを速やかに行います。特に社会保険は法人になった段階で必ず加入手続きが必要なので注意してください(個人事業で任意適用だった場合も、法人化後は強制適用になります)。
このように医療法人化には多くのステップがありますが、当事務所では提携行政書士と連携してワンストップでサポート可能です。先生には診療に専念いただき、煩雑な書類作成や役所対応はすべてお任せいただけます。
法人化後は公私の資金を分けて管理することが大切です。法人の口座と個人の財布を混同せず、適切な経理処理を行いましょう。煩雑な経理や給与計算、各種届出については、専門家に任せてしまうのも一つの方法です。当事務所にご依頼いただければ、フルリモート対応で記帳代行から決算・申告まで対応可能ですので、先生は診療に集中することができます。
なお、医療法人設立後も毎事業年度終了後には自治体への事業報告書提出義務があるほか、役員の変更や医院住所の変更が生じた際には都度登記や届出が必要になります。法人化して終わりではなく、継続的に遵守すべきルールがありますので忘れずに対応しましょう。
以上、歯科医院・矯正歯科の法人化について、メリットから手続きまで包括的に解説いたしました。当事務所「加美税理士事務所」では、歯科業界に精通した税理士が開業前のご相談から法人成り後の経理・税務支援まで一貫してサポートしております。税務調査に強いノウハウや、オンラインで全国対応できる体制も整えておりますので、法人化をご検討中の先生はぜひお気軽にご相談ください。高い専門性と親しみやすさを兼ね備え、先生方の心強いパートナーとしてお手伝いさせていただきます。

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