診療科目問わず、節税は経営戦略。開業医に特化した税理士が節税スキームと将来設計支援で経営を整えます。
開業医・クリニック経営者のための節税対策ガイド
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まずは、クリニックにとって節税対策を行うメリットを確認しましょう。税理士の視点から、節税がクリニック経営の安定化につながる理由を解説します。
適法な範囲で税負担を減らすことは、クリニックの資金繰り改善に直結します。税金はクリニックの利益に対して課されるため、節税策を講じることで納税額を抑え、手元に残る現金を増やすことができます。特に開業直後は設備投資や人件費など支出も多く、思うように現金が残らないケースもあります。節税によって生み出された余剰資金は、運転資金の確保や突発的な支出への備えとなり、日々の診療に専念できる安心感につながります。税理士が関与して資金繰り計画を立てれば、「気づいたら税金で現金が消えていた」という事態を防ぎ、安定した経営をサポートできます。
開業医の先生方にとって、医療機器の更新やクリニックの増改築など将来的な投資は避けて通れません。節税対策で余裕資金を確保できていれば、必要なときにタイムリーな設備導入や新規事業への投資が可能になります。例えば、最新の診断装置やITシステムを導入したいとき、大きな資金負担なく決断できるのは健全な財務状態があってこそです。税負担をコントロールし内部留保を厚くしておけば、金融機関からの融資も受けやすくなり、資金面で次の一手を打ちやすくなります。また、設備投資に関連する各種の優遇税制(後述)を活用することで、投資と節税の両立も図れます。将来を見据えた設備投資計画と節税を両輪で進めることが、クリニックの持続的な成長に寄与します。
クリニックが発展していくためには、収益を再投資してサービスの質向上や規模拡大を図ることが重要です。しかし、高額な税負担が発生すると、本来再投資に回せたはずの利益が手元から流出してしまいます。節税対策によって税負担を軽減すれば、その分再投資に充てられる資金を確保できます。例えば、節税で年間数百万円の納税額を圧縮できれば、新たな診療科の開設やスタッフ増員、広告宣伝などの費用に回すことが可能です。このように、節税は単にお金を節約するだけでなく、クリニック経営の未来への投資余力を生み出す戦略といえます。税理士がクリニックの事業計画に沿って節税策を提案することで、無理のない範囲で利益の再投資サイクルを回しやすくなります。結果として、経営の安定と発展を両立できるのが節税対策の大きなメリットです。
節税の基本は必要経費をもれなく正しく計上することです。開業医の先生には、一般企業とは異なる経費科目やプライベートとの区別など、独自の注意点があります。ここでは経費計上の重要性とポイントを解説します。適切な経費管理は開業医ならではの節税基盤となります。
まず、クリニック経営で経費として認められる費用の範囲を把握しておきましょう。一般的な必要経費として計上できるものには、以下のような項目があります。
- 人件費:スタッフの給与、賞与、社会保険料負担分など人にかかわる費用。院長ご自身が個人事業主の場合は給与という形はとりませんが、青色専従者給与(後述)としてご家族への支払いを人件費にすることが可能です。
- 設備費:医療機器の購入費用やリース料、クリニックの家賃・水道光熱費、消耗品費、減価償却費(高額な医療設備や内装工事費を耐用年数で費用配分)など、クリニックの運営に必要な物的費用。
- 交際費・会議費:事業に関連する接待費用や打ち合わせの費用。例えば、近隣の開業医との情報交換の食事代や医局の同窓会費用など、事業上の付き合いにかかった費用は一定範囲で経費計上できます(ただし使いすぎは注意)。
- 出張費:学会や研修会への参加費、旅費交通費。学会参加のための交通費・宿泊費や参加費用は、クリニックの知見を広げるための支出として経費認定されます。
- 福利厚生費:スタッフの福利厚生のための費用。親睦会や健康診断費用、制服・白衣の支給費用、慰労のための食事会費用など、従業員満足につながる支出は経費にできます。
上記の他にも、クリニック運営上必要であれば広告宣伝費(医院のホームページ制作費やチラシ印刷代など)や専門家報酬(税理士・弁護士への顧問料)も忘れずに計上しましょう。大切なのは、「それが事業収入を得るための必要な支出かどうか」という観点です。私たちも日頃から顧問先には、「クリニックの経費になりそうなものはまずご相談を。適切に計上できるようアドバイスします」とお伝えしています。経費計上の漏れは節税チャンスの損失です。使える経費はすべて計上する──これが節税の第一歩となります。
開業医の先生の場合、プライベートな支出と事業経費の線引きが他業種以上に重要です。税務上、事業と無関係な個人的支出(家事関連費)は経費にできません。しかし医師という職業柄、仕事と私生活の境目が曖昧になりがちな場面もあります。例えばスーツや白衣は仕事着ですが、日常着との区別が難しい場合もあります。また自家用車のガソリン代も往診や出張に使う分は経費になりますが、私用部分は含められません。税務署は基本的に「あらゆる支出はまず個人用途ではないか?」という目線でチェックします。したがって、プライベートと業務の混在する支出は明確に按分することが大切です。
具体的には、マイカーを業務で使う場合は走行記録から仕事利用分の割合を算出し、その割合分のみ経費計上します。自宅とクリニックが同じ建物・敷地内にある場合は、面積や時間で事業利用部分を合理的に算出して水道光熱費等を按分します。また携帯電話やインターネット代も、業務利用分を洗い出して経費計上すると安心です。このような按分計算の根拠はメモや記録に残しておき、いざという時説明できるようにしておきましょう。私たち税理士も経費計上の際には「事業割合はどの程度ですか?」とヒアリングし、税務上妥当な区分を助言しています。クリニック専用の銀行口座やクレジットカードを使い、私的支出と事業支出を可能な限り分離する工夫も有効です。公私の区別を明確にすることが、経費を安心して計上するコツと言えます。
日々の忙しい診療業務の中で、経費の計上漏れを防ぐにはいくつかの工夫があります。まず、こまめな記帳と領収書管理が基本です。診療後にその日の経費をノートや会計ソフトに入力したり、領収書はジャンル別にファイリングしたりしましょう。特に現金で支払った細かな支出(文具購入費や急なタクシー代など)は記憶が薄れがちなので、すぐメモを残す習慣が大切です。
また、経費になりそうか判断に迷う支出があれば都度税理士に相談してください。「こんな支払いをしたが経費になる?」「領収書がもらえなかったが証拠はどうする?」といったご質問は私たちも日常的に受けます。専門家に確認することで計上モレを防げますし、不安なまま申告するリスクも減ります。さらに、経費専用のクレジットカードを作るのも有効です。プライベート用カードと分けておけば明細をチェックするだけで経費の洗い出しができます。最近ではクラウド会計ソフトとレシート撮影アプリを連携させ、レシートを写真に撮るだけで自動仕訳する仕組みも普及しています。こうしたITツールの活用で先生の手間を省きつつ漏れなく経費計上することも可能です。せっかくの節税機会を逃さないためにも、経費管理の仕組みづくりにひと手間かけてみましょう。
クリニックを個人事業(自営業)として運営している開業医の先生向けに、段階別の節税対策を紹介します。開業準備中から若手の段階、そして開業後数年間の段階で、それぞれ取れる節税の工夫があります。所得税・住民税を減らす具体策も含め、個人開業医が知っておきたいポイントを見ていきましょう。
開業前後の若いドクターこそ、経費計上と所得控除のフル活用で税負担を減らしましょう。まず開業準備段階では、開業に要した費用を漏らさず経費にすることが重要です。物件探しの交通費や開業セミナー参加費、内覧会の開催費用、医療機器の導入研修費など、開業準備には様々な支出があります。これらは「開業費」という勘定科目で一括計上することもできますし、初年度から全額を必要経費に落として節税に充てることも可能です(※開業費は繰延資産として任意償却が認められています)。若手のうちは利益水準もこれからという段階でしょうから、まずは出ていったコストをしっかり経費計上して課税所得を圧縮することが先決です。
次に、所得控除の項目もしっかり確認しましょう。個人事業主であれば、社会保険料控除(国民健康保険・国民年金の支払い)、生命保険料控除、扶養控除など、個人の所得税控除が適用できます。特に若手の先生方には老後の備えとしてもメリットがあるiDeCo(個人型確定拠出年金)の活用をおすすめしています。iDeCoは毎月拠出した掛金が全額所得控除となり、運用益も非課税という制度です。例えば月々5万円拠出すれば年間60万円が課税所得から差し引かれ、その分所得税・住民税が軽減されます。同様に、小規模企業共済(後述しますが個人事業主の退職金積立制度)も掛金が全額所得控除です。創業当初から少額でもこれらに加入しておけば、将来の資金準備と節税の両得です。まだ利益がさほど出ていない若手期こそ、「使った分は経費、使わなくてもできる範囲で控除」という姿勢で、基本的な節税策を漏れなく実践しましょう。
開業して数年が経ち、収入が軌道に乗ってきた院長先生には、所得分散と福利厚生の活用による節税を検討します。所得が増えてくると税率も上がるため、早めに対策することで大きな節税効果を得られます。
まず所得分散の方法として代表的なのが、事業専従者給与の支給です。ご家族(配偶者や親族)がクリニックの業務を手伝っている場合、その方に給与を支払うことで経営者個人の所得を分散できます。例えば、受付や経理を配偶者が担当しているなら、「青色事業専従者給与」として毎月適正な給与を支給しましょう。支払った専従者給与は全額が必要経費となり、院長先生の所得(=課税対象)がその分減少します。ポイントは「適正な金額設定」です。仕事内容と勤務時間に見合った水準であることが条件となりますが、専従者給与の届出を税務署に提出しておけば、支給額の範囲内で経費計上が認められます。これにより家計全体で見た手取り収入を増やすことが可能です(配偶者に給与を支払っても、その分世帯としての可処分所得は給与所得控除の適用などで有利になるケースが多いです)。専従者給与を含めた所得分散策は、ご家族の協力あっての医院経営ならではの節税手法です。
次に福利厚生の充実も税負担の軽減につながります。個人事業主でも従業員に対する福利厚生費は経費にできます。たとえばスタッフの健康診断費用を事業者が負担したり、インフルエンザ予防接種代をクリニック持ちにしたりすれば、それらは経費計上できます。小さな額でも積み重ねれば節税効果がありますし、従業員満足の向上にも寄与します。また、従業員との親睦を深めるための食事会費用や研修旅行(一定の要件内で)も必要経費になります。院長個人に関しても、例えば業務災害に備える保険に加入して保険料を経費にする方法などが考えられます(個人事業主でも労災保険の特別加入や民間保険料の一部事業経費算入が可能な場合があります)。このように、経費化できる福利厚生を増やすことで課税所得を抑えることができます。開業後しばらくは設備投資や借入返済もあり、利益が出ても出金が多い時期です。所得分散と福利厚生でしっかり経費を積み増しし、無理なく手元資金を確保しましょう。
個人開業医の先生が直接的に所得税・住民税を軽減できる制度も活用しましょう。先に触れたiDeCo(個人型確定拠出年金)と小規模企業共済は強力な節税ツールです。改めて特徴を整理すると、iDeCoは個人型の年金積立で月額最大6.8万円(自営業者の場合)の掛金が全額所得控除になります。例えば年間81.6万円拠出すれば、その分課税所得が減り、税率20%の方なら約16万円、33%なら約27万円もの税負担が軽減されます。将来受け取る年金や一時金にも控除が用意されており、トータルで見てメリットの大きい制度です。
小規模企業共済は個人事業主や小規模会社の役員向けの退職金共済制度で、月額掛金は1,000円~7万円まで自由に設定でき、こちらも全額が所得控除(小規模企業共済等掛金控除)となります。長期間積み立てて廃業時などに受け取る共済金は退職所得扱いとなり、税制優遇を受けられます。クリニックを閉院する際の退職金準備にもなりますので、一石二鳥です。iDeCoと小規模企業共済は併用可能ですので、資金に余裕があれば両方加入することで掛金のダブル控除が受けられます。
他にも、医療費控除(自分や家族の医療費が多い年は確定申告で所得控除)、寄附金控除(ふるさと納税等を活用して住民税控除)など、個人としての税負担を減らす手段があります。特にふるさと納税は手軽な節税策で、上限内の寄付で地域貢献しつつ実質2,000円の自己負担で済み、返礼品も受け取れますので、多忙な先生方にも人気です。住宅ローン減税も該当者には有効ですが、クリニック開業に合わせて自宅も新築したようなケースではぜひ検討してください(自宅部分の借入に対し年末残高の一定割合を所得税から控除)。このように、公的制度をフルに活かすことで個人の所得税・住民税を効率よく軽減できます。私たち税理士法人も、先生方に節税策をご提案する際は「経費で落とす」「控除を活かす」「制度を使う」のバランスを見ながら最適な組み合わせを考えています。所得規模やライフプランに応じて適切な策を講じ、無駄のない納税を目指しましょう。
開業医として順調に経営が軌道に乗ってきたら、さらなる節税策として青色申告の活用や医療法人化(法人化)の検討も視野に入れましょう。個人事業のままでも青色申告の特典を得られますし、一定以上の利益規模であれば法人化による節税メリットも大きくなります。それぞれの制度のメリットと留意点、そして法人化のタイミングや所得分散のポイントを解説します。
まず、開業医でまだ個人事業の方は必ず青色申告を選択しましょう。青色申告(正式には青色申告承認申請を税務署に提出)は、一定水準の帳簿をつけることで様々な特典が受けられる制度です。代表的なメリットは「青色申告特別控除」で、電子申告等の要件を満たせば最大65万円(それ以外でも55万円)の所得控除が受けられます。65万円控除は大きく、税率20%の方なら13万円、33%なら約21万円もの税額軽減効果があります。青色申告にすれば前述の専従者給与の制度も利用可能となり、ご家族への給与を経費にできるようになります(白色申告では家族への給与は原則経費にできません)。さらに、赤字(損失)の繰越控除も青色申告の特典です。開業初年度など大きな赤字が出た場合、3年間にわたって将来の黒字と相殺でき、節税に役立てられます。
そのほか、青色申告者は少額減価償却資産の特例(30万円未満の資産購入費を即時費用計上できる)を使えるなど、細かな優遇措置もあります。帳簿付けや証憑書類の整理など手間はかかりますが、税理士のサポートを受ければ大きな負担にはなりません。事実、ほとんどの開業医は青色申告を選択しています。当事務所でも開業前から青色申告の届出をお手伝いし、帳簿作成や決算・申告まで一貫してサポートいたします。青色申告の節税メリットは受けない手はありませんので、まだの先生は早めに顧問税理士に相談してください。青色申告について詳しくは下記のページをご覧ください。
クリニックの利益が大きくなってきた場合、医療法人化(=クリニックの法人化)を検討することでさらなる節税余地が生まれます。医療法人とは、都道府県知事の認可を受けて設立するクリニック運営の法人形態で、いわば「病院経営会社」を作るようなものです。法人化の最大のメリットは税率の引き下げです。個人の所得税・住民税の最高税率は合わせて約55%にも達しますが、法人税等の実効税率は約30%程度(所得800万円以下部分は約20%前後)に抑えられます。課税所得が大きいほど法人にした方が税金が安くなるという逆転現象が起きます。仮に年間の事業利益が3,000万円を超えるようなケースでは、法人化によって数百万円単位で税額が減る可能性もあります。
さらに、法人化すると院長先生は法人から役員報酬(給与)を受け取る形になります。給与所得には給与所得控除が適用されるため、個人事業の事業所得で利益を受け取るよりも有利になる点も見逃せません(給与所得控除は年収に応じて一定額を経費とみなして差し引く制度で、高所得者ほど控除額も大きくなります)。例えば法人から年収1,000万円の役員報酬を受け取った場合、約220万円が給与所得控除として非課税枠になる計算です。この控除枠は個人事業のままでは享受できません。また、退職金制度を活用できるのも法人化のメリットです。法人の役員であれば退職金を支給することが可能で、退職金は給与と比べて非常に優遇された税制(退職所得控除と1/2課税)で課税されます。将来院長を引退するときに多額の退職金を支給すれば大幅な節税となり、法人としてもその金額を全額損金(経費)にできます。このように役員給与+退職金という形で所得を分散・繰延べできる点は法人化ならではです。
もっとも、医療法人化には注意点やデメリットもあります。まず、法人設立や運営に一定のコストと手間がかかります。設立時には定款作成や認可申請、登記費用などが必要で、設立後も毎期の法人住民税(均等割として最低7万円程度)や決算申告の手間が発生します。また医療法人は剰余金の配当(いわゆるオーナーへの配当金)が禁止されているため、利益は役員報酬か事業投資に回す必要があります。一定額以上の利益を社内留保すると特別医療法人でない限り留保金課税のリスクもあります(医療法人は出資持分の有無など形態によって制度が複雑ですので専門家の助言が必要です)。さらに、法人化すると社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が必須となり、従業員だけでなく役員である院長ご自身も保険料負担が発生します(ただし社会保険料も経費になります)。このように法人化にはトレードオフもあるため、安易に飛びつかず収支規模や将来計画を見据えて判断することが大切です。当事務所では医療法人設立のメリット・デメリットを丁寧にご説明し、先生の状況に応じて最適な選択をご提案しております。
医療法人化のタイミングを計ることも重要です。一般には「税引前利益が年間2,000万~3,000万円を超え始めたら法人化を検討」と言われますが、これは税負担面からの目安に過ぎません。実際には、将来の事業展開(分院の計画があるか、設備投資の予定は?)、ご家族の働き方(親族を役員にする予定は?)、借入状況(法人に借換えするか?)など総合的に考える必要があります。適切なタイミングで法人化できれば、スムーズに節税メリットを享受できますが、遅すぎると高い税金を払い続けることになりますし、早すぎると法人運営のコスト倒れになる可能性もあります。他業種も含め法人設立の支援実績が豊富な税理士に相談しながら、ベストな時期を見極めましょう。
法人化後は、所得分散のポイントも押さえておきましょう。先ほど述べたように、法人と個人に所得を振り分ける形になりますので、法人に残す利益と役員報酬のバランスが重要です。役員報酬は毎年期首に金額を決定すると途中で変更できません(税務上、期中増減するとその年は損金不算入になります)。そのため、適正な役員報酬額の設定が鍵です。目安として、院長先生個人の所得税率が法人税率より高くなるラインまで報酬を取り、それ以上は法人に利益を残す、という方法がよく採られます。例えば利益が年間3000万円程度なら、報酬1500万円・法人利益1500万円と配分し、報酬部分は給与所得控除で節税、法人利益部分は法人税率で納税、といった具合です。さらに配偶者や後継予定のドクターがいれば役員にして報酬を配分することで一家全体の所得分散も可能です。将来的に退職金の支給計画も立てておけば、長期的な節税シミュレーションが描けます。法人化後は、個人の時以上に税理士との綿密なプランニングが必要になりますが、その分節税の幅も大きく広がります。私たちもクライアントとは毎期の決算前に役員報酬や利益処分の打ち合わせを行い、最適な所得配分となるよう助言しています。せっかく法人化したメリットを最大化するために、プロと二人三脚で戦略を練りましょう。
法人化について詳しくは下記のページをご覧ください。
すでに医療法人としてクリニックを運営されている先生、あるいは今後法人化を検討している先生向けに、法人ならではの節税対策を整理します。法人税の仕組みや医療法人特有の優遇、役員報酬・退職金の活用、福利厚生や各種控除制度まで、法人経営に移行した後の具体策を押さえておきましょう。
医療法人を設立すると、所得に対する課税は法人税率が適用されます。前述の通り、小規模な法人であれば年800万円までの所得は15%(令和5年度時点の軽減税率、地方税含め約20%前後)、800万円超部分は23.2%(地方税含め約30%前後)の税率となります【※税率は法令改正等で変動する可能性があります】。個人事業の最高税率と比べれば格段に低く、利益が大きいほど節税効果が高いのが特徴です。例えば所得3000万円の場合、個人事業なら所得税住民税で約50%近く納税となるケースがある一方、法人なら概算で30%前後に圧縮できます。また、一部の特定医療法人(一定の公益要件を満たし厚労大臣の認定を受けた法人)は、更に法人税率が一律19%に軽減される優遇措置もあります。一般的な開業医が設立する医療法人は特定医療法人には該当しませんが、規模拡大に伴い公益性の高い事業を行う場合は将来的に認定を検討する余地もあります。
医療法人は原則営利を目的としない性質から、税制上もいくつかの優遇が存在します。例えば、医療法上の「社会医療法人」に認定されると、救急医療等に関わる部分の法人税が非課税になったり、固定資産税が減免されたりする制度もあります。ただしこれらは地域医療貢献度の高い病院クラスのケースですので、クリニック規模では直接関係ないかもしれません。とはいえ、医療法人であるだけで受けられる税制もあります。身近なところでは消費税の扱いです。医院の保険診療収入は非課税売上ですが、法人化することで規模が大きくなっても引き続き消費税の免税点控除の恩恵を受けやすいなど(個人と法人で原則は同じですが、2期前基準で新設法人は1期目免税などの特例があります)、運営次第で有利不利が生じることもあります。法人税率の低減メリットを最大限活かしつつ、医療法人として使える制度はしっかりキャッチアップしておくことが重要です。
消費税について詳しくは下記のページをご覧ください。
医療法人の節税で大きな鍵を握るのが、役員報酬と退職金の計画的な活用です。法人化後、院長先生やご家族は法人の役員(理事)となり、役員報酬を受け取る立場になります。先ほど説明したように、役員報酬には給与所得控除が使えるため個人課税上有利ですが、法人側にとっても損金(経費)となり所得圧縮の効果があります。ただし注意したいのは、役員報酬は毎期定額で支給する必要があり、臨機応変な増減ができない点です。一年ごとに利益見通しを立て、適切な報酬額を設定することで最大の節税効果を発揮します。また、役員に賞与(役員賞与)を出す場合も事前届出が必要になるなどルールがありますので、これも税理士と相談しながら計画しましょう。
一方、退職金は医療法人の節税における“切り札”とも言える存在です。役員である院長先生が勇退する際には、多額の役員退職金を支給することが可能です。この退職金は支給額の大きさにかかわらず法人にとっては全額必要経費となり、その期の法人所得を大きく減額します。さらに受け取る院長先生側でも、退職所得控除(勤続年数に応じて最低800万円~何千万円もの控除額が設定されます)が適用され、かつ控除後の課税対象額は1/2だけ課税という極めて優遇された扱いになります。長年クリニックを経営して高額の収入を得てきた方でも、退職金で受け取れば驚くほど税金がかからないケースが多いのです。そのため、現役時代はある程度法人内部に利益を蓄積しておき、引退時に退職金として支給することで生涯トータルの税負担を抑えるという戦略がとれます。もちろん退職金にも相場や妥当性があり、あまりに高額すぎると認められないリスクはあります。しかし医療法人は基本的に出資持分がないため、退職金は院長にとって事実上の功労配分となる性質もあり、適正範囲で最大限支給することはよく行われます。役員報酬で毎年コツコツ節税+退職金で一気に大型節税という二段構えが、法人化後の理想形とも言えるでしょう。当事務所でも、将来の退職金シミュレーションを行いながら毎年の報酬設定をサポートしています。節税と個人の資産形成を両立させるために、退職金制度まで見据えた計画を立てておきましょう。
法人経営になると、福利厚生の充実によって節税と従業員サービス向上の両方を実現しやすくなります。法人で支払う福利厚生費は、従業員全員に公平なものであれば基本的に全額が経費計上できます。たとえば法人名義で従業員向けの医療保険やがん保険に加入し、保険料を会社負担にすれば従業員の安心にもつながり、保険料は損金算入できます。社内で親睦会費用やレクリエーション費を補助する制度を設けてもよいでしょう。社員旅行を実施すれば、その費用(一定額まで)は福利厚生費となります。クリニックは少人数の組織が多いですが、だからこそ一人ひとりへの手厚い福利厚生が可能ですし、それがそのまま経費となって利益を圧縮します。
また、法人ならではの手法として法人契約の保険商品を活用するケースもあります。経営者の退職金準備や万一の保障を目的に、法人で終身保険や養老保険に加入し保険料を支払う方法です。以前は全額損金になる保険商品も存在しましたが近年は規制が強まり、現在では一部損金タイプ(支払保険料の〇%を経費計上)のプランが中心です。それでも、適切な商品を選べば将来解約で資金を手当てしつつ現時点では一部を経費化できるため、中長期的な節税と資産形成に役立ちます。例えば逓増定期保険などは解約返戻金が高くなる代わりに支払時の一定割合を損金にできます。クリニックのケースでは、院長の退職慰労金積立の位置付けで法人保険を利用することが多いです。もちろん保険加入だけが福利厚生ではありませんが、法人の信用力で組める制度として覚えておくとよいでしょう。
さらに、社宅の提供も法人の節税と福利厚生の一種です。医療法人が院長や職員に社宅(住宅)を貸与すると、法人は家賃や維持費を負担して経費にできます。入居者側(院長や従業員)は一定の低廉な賃料を支払えばよく、住宅手当のようなものです。社宅家賃は給与扱いではなく福利厚生的な扱いになるため、従業員の税負担も小さく、お互いにメリットがあります(ただし社宅として税務上認められるには一定の計算式で適正な賃料設定が必要です)。このように、法人だからこそ可能な経費の使い道が広がります。クリニック運営で人材を確保し定着させるには待遇面も重要ですので、節税効果と合わせて福利厚生施策に投資することは有意義です。当事務所でも「経費を使って税金を減らし、その分スタッフに還元しましょう」とご提案することがよくあります。モチベーションアップと節税の二重の効果が期待できる福利厚生の充実は、法人経営における賢い戦略です。
法人には各種の税額控除・優遇税制が用意されています。医療法人も中小企業の一員として活用できる制度が多々ありますので、見逃さずに使いましょう。
まず代表的なのが中小企業経営強化税制や中小企業投資促進税制です。これは一定の設備投資を行った際に、即時償却(全額経費化)または税額控除(法人税額から直接控除)が受けられる制度です。クリニックで新たに備品や機械を導入したりするときに該当要件を満たせば、大幅な節税が可能となります。例えば1,000万円の最新機器を購入して即時償却できれば、その期の所得を1,000万円減らせますし、税額控除の場合でも取得価額の7%(中小企業強化税制A類型の場合)を法人税から引けます。ただし、医療機器については医療法人が導入する場合は適用対象外とされていることに注意してください。制度を利用するには事前計画の認定や届出が必要ですが、設備投資を考える際はぜひ検討したい施策です。
次に所得拡大促進税制(賃上げ促進税制)も挙げられます。これは従業員の給与を前期比で一定割合以上増加させた場合、その増加額の一部を税額控除できる制度です。人件費が増えるのは一見経営負担に思えますが、税額控除で支援があることで給与アップによるモチベーション向上と節税を両立できます。近年、特に賃上げによる税優遇は手厚くなっており、条件を満たせば増加額の15%~20%を法人税から控除可能です。クリニックでも優秀なスタッフの給与を上げたい場面は多いでしょう。その際はこの制度も活用し、企業努力に対する税のバックアップを受けましょう。
ほかにも試験研究費税制(医療機関で研究開発は少ないかもしれませんが、新技術に挑戦する場合などは適用可)、交際費の定額控除枠(年800万円までの交際費は90%損金算入できる中小法人優遇)など、中小法人に与えられた特例措置があります。地方税の軽減も一部地域で医療法人誘致策として存在する場合がありますので、自治体の制度もチェックしましょう。さらに、前述の小規模企業共済は法人の役員でも加入できますし、経営セーフティ共済(倒産防止共済)という制度も中小企業向けにあります。経営セーフティ共済は取引先の倒産に備える共済ですが、毎月の掛金(最大20万円)を経費計上でき、40ヶ月で800万円積み立てた後は解約して資金を取り戻すこともできます(解約時は益金になりますが資金繰り対策には有効)。このように、節税に使える制度は非常に幅広いのが法人経営の特徴です。すべてを経営者自身で把握するのは困難ですので、私たち税理士が最新情報を提供し「この制度を使うとこれだけ税金が安くなりますよ」とご提案いたします。制度は期限や条件がありますから、タイミングを逃さず活用していきましょう。結果として、これらの優遇措置を駆使することでクリニックの税負担を最小限に抑えることが可能になります。
節税対策を進める上で忘れてはならないのが、税務調査に耐えうる適法な範囲で行うということです。節税と脱税は紙一重と言われることもあります。最後に、税務調査を見据えた注意点と、万一調査が入った際の備えについて解説します。
節税はあくまで法律の範囲内で納税額を減らす工夫です。一方で脱税は法律に違反して納税を免れる行為であり、重い罰則が科されます。当たり前のようですが、この境界線をしっかり認識しておく必要があります。具体的には、嘘の申告をしないことが絶対条件です。売上の一部を除外したり架空の経費を計上したりするのは明確な脱税行為で、税務調査で発覚すれば追徴課税や重加算税、悪質な場合は告発され刑事罰のリスクもあります。例えば患者さんからの自費診療収入を一部記録せずポケットマネー化する、というようなことは絶対に避けましょう。また、グレーな方法を勧めてくる悪質な業者や自称コンサルタントにも注意が必要です。「これくらい大丈夫だろう」は通用しないのが税務の世界です。
私たち税理士法人加美税理士事務所では、常に適法で健全な節税をご提案することをモットーにしています。法律の範囲内で最大限に工夫を凝らすのがプロの腕の見せ所ですが、一線を超えるようなアドバイスは決して行いません。先生方の中には「他のクリニックでこんなことをやって税金を減らしているらしい」と耳にするケースもあるかもしれませんが、それが本当に合法なのか慎重に見極める必要があります。節税と脱税の境界線は、基本に立ち返ればシンプルです。それは「事実にもとづき、正確かつ完全な申告をすること」。その上で利用できるルールを使うのが節税です。どうか正攻法の節税でクリニックの発展を目指してください。
適法な節税をしていても、税務調査が入れば細部までチェックを受けます。税務署に対して正当性を説明できるよう、日頃から書類や根拠を整備しておくことが重要です。経費の項目一つとっても、領収書や請求書が揃っているか、内容や日付がはっきりしているか確認しましょう。特に接待交際費や出張費などは、「誰に対する支出か」「目的は何か」をメモしておくとベターです(領収書の裏にでも一言書いておくと調査官も納得しやすくなります)。
また、専従者給与を支給している場合は、専従者としての働きぶりが客観的に示せる資料を用意しておくと安心です。出勤簿や業務日誌、給与計算の根拠資料などです。給与額が適正である説明に役立ちます。減価償却資産の除却(廃棄)で損金計上したなら、廃棄した事実がわかる写真や記録を保存しておくと良いでしょう。税務調査では基本的に過去3期分ほど遡ってチェックされますので、その期間の証憑類はきちんと保管し、必要に応じてすぐ提示できるようにしておきます。
調査官から質問を受けた際には、論理立てて説明できることも求められます。例えば「この車両費は事業用とありますが具体的にどう使われましたか?」と問われたら、「往診に週2回使用し、その割合で経費計上しています」と即答できる準備が必要です。ここであやふやだと「本当はプライベートじゃないのか?」と疑われかねません。普段から税理士と情報共有し、説明のストーリーを共有しておくと本番でも落ち着いて対応できます。結局のところ、節税とは言っても正当な処理であれば何らやましいことはないわけですから、自信を持って説明することが大事です。日頃の帳簿や書類を整えることは面倒に感じるかもしれませんが、「先生ご自身が経営判断した証跡」を残す作業と捉えてください。そうすれば税務署にも胸を張って節税の妥当性を主張できます。
クリニックは税務調査が入りやすい業種と言われます。実際、毎年多額の利益が出ている、または経費が大きく変動している、といったケースでは調査の対象になりやすい傾向があります【参照:国税庁調査統計】。決して「自分は関係ない」と思わず、いざという時のための対策も考えておきましょう。
税務調査への最大の備えは、日頃から適切な税務処理を行っておくことですが、それに加えて税理士に立ち会ってもらうことも非常に重要です。顧問税理士がいる場合、事前に日程調整の連絡がありますので、一緒に対応の準備をします。税理士は過去の申告内容を把握していますから、調査官が関心を持ちそうなポイントを予測してアドバイスできます。当日は税理士が調査官との質疑応答に同席し、専門的なやり取りをサポートします。クリニックの先生にとって税務の専門用語で質問されると戸惑うことも多いでしょう。その点、税理士がいれば言葉を噛み砕いて説明したり、先生に代わって回答したりできます。また、調査官も税理士がいることで無理筋な指摘はしにくくなるという側面もあります。万一、申告ミスなどが見つかった場合も、税理士が適切な範囲で主張すべきことは主張し、追徴税額を最低限に抑える交渉をします。
私たち税理士法人加美税理士事務所でも、税務調査の立会いは顧問サービスの一環としてしっかり行っています。調査中は先生方が不安にならないよう逐一フォローし、調査終了後の是正事項についても適切にアフターフォローいたします。税務調査は経験する機会は限られますが、プロの支援があるかどうかで結果が大きく異なるものです。安心して診療に打ち込むためにも、「いざという時は税理士が盾になってくれる」と思っていただければ心強いでしょう。節税対策も含め、透明性の高い経営を行っていれば何も恐れることはありません。私たちも先生方の経営の良きパートナーとして、万全の態勢でサポートいたします。
税務調査について詳しくは下記のページをご覧ください。
最後に、開業医・クリニック経営者の先生方に当事務所の強みをご紹介します。税務の専門家としての知識はもちろん、医療業界に精通した総合力で先生方のクリニック経営を支えます。ぜひ私たちとのパートナーシップで、安心・安定の経営基盤を築いてください。
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当事務所は最新のITツールを活用し、オンラインでの税務顧問に対応しております。東京の本部から全国のクリニックをサポート可能です。遠方の先生でも移動時間ゼロでご相談可能です。Zoomやメール、チャットなどお好みの方法で気軽にやり取りしていただけます。地方開業医の先生からも「専門の税理士にオンラインで相談できて助かる」とご好評いただけるかと思います。 - 税務調査対応で安心
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