節税しながらも、患者満足度も売上も落としたくない――。その悩み、私たち税理士法人加美税理士事務所が受け止めます。オンライン診療・多拠点対応もお任せください。
自由診療に精通した税理士が教える、AGA・脱毛クリニック向け節税対策の決定版。消費税や青色申告、医療法人化の判断基準まで、開業医が知っておくべき節税の方法をわかりやすく解説。資金繰りや確定申告に不安な院長様にも、全国対応の柔軟なサポートを提供します。

自由診療クリニックにおける節税対策の重要性
税理士法人加美税理士事務所はAGAクリニックや美容脱毛クリニックといった自由診療クリニック専門の税理士として、多くの先生方をサポートする体制を整えています。自由診療クリニックでは、保険診療に頼らず自費治療で収益を上げる分、税金負担が経営に与える影響はとても大きいです。開業医の先生方は医療スキルやマーケティング(特にSNS発信)に注力されていますが、その一方で「税金対策は大丈夫だろうか?」という不安を抱えている方も少なくありません。
節税対策をしっかり行うことは、単に税金を減らすだけでなく、クリニックの資金繰りを安定させ、浮いた資金を成長投資に回すことにもつながります。都市部で個人開業されたAGA・脱毛クリニックの院長先生、20代でSNS集客に成功した若手院長先生、オンライン診療主体で法人化済みのAGAクリニック経営者の先生――それぞれ立場は異なりますが、税金面の悩みやニーズには共通点が多いです。本記事では、そうした自由診療クリニックの先生方向けに、実践すべき節税対策を専門家の視点からわかりやすく解説します。
まず、自由診療クリニックが直面しがちな税務上の課題を整理し、その上で節税対策の具体策をご紹介します。税理士の一人称で語りつつ、専門的な内容もできるだけ噛み砕いてお伝えしますので、ぜひ最後までお付き合いください。
ページコンテンツ
- 節税しながらも、患者満足度も売上も落としたくない――。その悩み、私たち税理士法人加美税理士事務所が受け止めます。オンライン診療・多拠点対応もお任せください。
- 自由診療クリニックにおける節税対策の重要性
- 自由診療クリニックが直面する税務上の課題とは?
- 節税対策を行うことのメリット
- 個人事業主クリニックのための節税対策
- 青色申告の活用による節税効果
- 経費計上のポイントと注意点
- 所得税・住民税の節税対策
- 法人化による節税対策とその効果
- 医療法人化のメリットとタイミング
- 法人が活用できる節税手法
- 法人化に伴う注意点と対応策
- オンライン診療・多拠点展開クリニックの節税対策
- 多拠点での売上・経費管理のポイント
- 電子帳簿保存法・インボイス制度への対応
- 成長投資と節税のバランス
- 税務調査を見据えた節税対策の重要性
- 加美税理士事務所のサポート体制
- 初回無料相談のご案内
- よくあるご質問
- お問い合わせ
- 関連ページ
自由診療クリニックが直面する税務上の課題とは?
自由診療クリニック(AGA治療や美容皮膚科・脱毛など保険適用外の医療)ならではの税務上の課題がいくつかあります。主なものを挙げてみましょう。
- 消費税対応の悩み: 保険診療収入は非課税ですが、自由診療の収入は消費税の課税対象となります。開業直後は売上規模によっては消費税の納税義務が免除されるケースもありますが、年間の課税売上(自費収入)が1,000万円を超えると2期後から消費税の申告・納税が必要になります。自由診療クリニックでは患者様から預かった消費税分を将来の納税に備えて管理する必要があり、特に消費税の納税資金の確保が課題となりがちです(詳細は「消費税の特集ページ」をご覧ください)。
- 記帳や税務知識の不足: 多くの先生は勤務医時代に経理や税務を経験することがなく、開業後に初めて確定申告や帳簿付けに直面します。日々の診療で忙しい中、経費の仕訳やレシート管理、減価償却の計算などを独学で行うのは大変です。知識不足から経費計上漏れが起きて本来受けられる節税メリットを逃したり、逆に誤った処理で後々税務調査で指摘を受けるリスクもあります。
- 法人化するべきか悩む: 開業当初は個人事業(医師個人として開業)で始める方が多いですが、利益が出てくると法人化すべきか頭を悩ませるようになります。「個人開業と医療法人、どちらが得なのか?」という問いはよく伺います。個人のままだと所得税・住民税の負担が増え、節税余地が限られる一方、医療法人(もしくはMS法人など)にすると社会保険加入や運営コスト増といったデメリットもあります。法人化の判断基準が分からず迷うケースが多いです(法人化については後述しますが、関連情報は「法人化の特集ページ」をご覧ください)。
- 資金繰りへの不安: 開業直後は設備投資や広告宣伝で出費が嵩み、キャッシュに余裕がないこともあります。その中で税金の支払い(所得税の予定納税や消費税の納付など)が発生すると、クリニックの資金繰りを圧迫しかねません。特に確定申告後に「想定より税金が多くて驚いた」「納税資金を十分に用意できておらず慌てた」というお声も耳にします。資金繰り上、無理のない節税策を講じて納税額を平準化することが重要です。
- 税務調査への心配: 「もし税務調査が来たらちゃんと対応できるだろうか」という不安も、クリニック経営者ならではの心配事です。売上規模が大きくなれば、数年に一度は税務署から調査が入る可能性があります。特に開業後3年ほど経過すると利益が出始め経理処理に油断が生じやすいためか、開業後数年で税務調査の対象になるケースも見受けられます。経費や申告内容に問題がないか、日頃から気を配る必要があります(税務調査については後半で詳しく触れますが、より詳しくは「税務調査の特集ページ」をご覧ください。)。
- 開業時の手続き・経営計画: 若い先生ほど「とにかくクリニックを軌道に乗せること」に集中しがちで、開業時の税務署への届出(例えば青色申告承認申請など)を失念することもあります。また融資を受けた場合の返済計画や、設備投資の減価償却計画なども税負担と密接に関わります。開業支援の段階から税理士のサポートを受けていれば防げた事柄も多く、「もっと早く相談すればよかった」という声もあります(※開業準備に関するサポートは「開業支援の特集ページ」をご覧ください。)。
以上のような課題に、自由診療クリニックの先生方は直面しがちです。これらの課題を放置すると、本来払わなくて済む税金を余計に支払ってしまったり、後で修正や追徴対応に追われたりしかねません。逆に言えば、適切な節税対策と税務知識のフォローによって、これらの不安の多くは解消できます。次章から、節税対策のメリットと具体的方法について順番に見ていきましょう。
節税対策を行うことのメリット
税務の課題を踏まえ、まずは節税対策を行うことのメリットを整理しておきます。税理士の立場から言えば、節税対策に取り組むことはクリニック経営に以下のような良い影響をもたらします。
- 納税額の軽減による資金の有効活用: 節税対策の最大の目的は、適法の範囲で納税額を減らすことです。支払う税金が減れば、その分クリニックに現金が残ります。浮いたお金を新しい医療機器の導入や内装拡充、人材採用・教育、広告宣伝などクリニックの成長投資に回すことができます。税金は国に納めたら戻ってきませんが、設備投資や人件費に充てれば将来の収益拡大につながる可能性があります。
- 資金繰りの安定: 計画的に節税策を講じることで、キャッシュフローの乱高下を防ぐ効果があります。例えば事前に経費計上や減税制度の活用で利益を圧縮しておけば、確定申告後に「こんなに税金を払うのか」と慌てる事態を避けられます。納税資金を事前に織り込んだ資金計画を立てやすくなり、クリニック運営の安心感が高まります。特に開業初期は資金繰り不安が強いので、節税対策で手元資金を厚く保つメリットは大きいです。
- 精神的な安心感: 「やれる節税策はきちんとやっている」という自信は、経営者の精神的な安定につながります。逆に何も対策せずにいると、「本当はもっと良いやり方があるのでは…」と不安が残りますよね。税理士と二人三脚で節税プランを実践していれば、日々の診療に専念しやすくなります。また、適正な税務処理をしていれば税務調査が入っても堂々と対応できるという安心感も得られます。
- 将来の選択肢を広げる: 節税対策を進めてクリニックの財務基盤が安定すると、将来的な展開の自由度が増します。例えば十分な内部留保があれば2号店・分院の開設に踏み切りやすくなりますし、利益が安定していれば医療法人化(法人化)のタイミングも計りやすくなります。適切な節税はクリニックの将来戦略を描くうえで土台となるものです。
このように、節税対策には金銭面だけでなく経営面・精神面で多くのメリットがあります。ただし大前提として、「節税」は適法な範囲内で税負担を減らすことであり、違法な脱税とは一線を画します。ここで述べる対策はいずれも税法上認められた手段ですので、その点はご安心ください。それでは具体的な節税対策に移っていきます。
個人事業主クリニックのための節税対策
まず、個人事業主(法人化前)のクリニック向けの節税対策について解説します。開業当初から医療法人を設立するケースもありますが、一般には開業医はまず個人でスタートし、一定の規模になったら法人化を検討するという流れが多いです。この章では、個人事業としてクリニックを経営している段階で活用できる節税方法を見ていきましょう。
個人事業主の場合、所得税・住民税・個人事業税といった税金が課されます。特に所得税は累進課税で、所得が増えるほど最高45%(住民税を合わせると最大55%)もの税率が適用されます。そのため、利益をいかに圧縮するかが節税のポイントです。具体的な方法としては、以下のようなものがあります。
- 青色申告の活用: 個人事業主として税務署に「青色申告承認申請書」を提出し、青色申告を行うことで様々な税制上の特典を受けられます。青色申告により最大65万円の青色申告特別控除(電子申告等一定要件満たす場合。通常は55万円)が所得から差し引かれ、大きな節税となります。また、後述するように家族に支払う給与を全額経費にできたり、赤字を翌年以降3年間繰り越せたりと、個人事業主必須とも言える制度です(詳細は「青色申告の特集ページ」もご覧ください。)。
- 必要経費を漏れなく計上する: 経費計上は節税の基本中の基本です。事業に関係する支出はすべて経費として計上し、課税対象となる所得を減らしましょう。経費の具体例や注意点については後ほど詳述しますが、ポイントは「プライベートな支出を混同しないこと」と「領収書やレシートをきちんと保管すること」です。なお、節税のためと称して不要なものまで買ってしまうのは本末転倒ですので注意してください(この点も後述します)。
- 所得分散(家族への給与支払い): 個人事業主の場合、家族を従業員として給与を支払うことで所得を分散し、税率を下げる方法があります。例えば院長一人で1,000万円の所得を得るより、奥様に給与を出して500万円ずつ所得を分けた方が、世帯合計の所得税額は下がる可能性があります。ただし、家族に支払う給与はその方の実際の働きに見合った金額でなければ経費として認められません。同居のご家族に給与を払う場合、税務署に「青色事業専従者給与に関する届出書」を事前に提出する必要があり、金額や支給方法にも一定の制約があります。この制度を使う際は税理士に相談し、適正な範囲で行うことが重要です。また、家族に給与を支払うと、その分ご家族も所得税や住民税の申告が必要になり、場合によっては社会保険の加入義務も発生します。税負担全体のバランスを見ながら検討しましょう。
- 各種共済や年金制度の活用: 個人事業主が加入できる公的な共済制度や私的年金は、掛金を経費に計上できるものが多く、節税に直結します。例えば、「小規模企業共済」は個人事業主の退職金積立制度で、月額最大7万円の掛金が全額所得控除(経費と同等の扱い)となります。掛金は将来退職する際に受け取れるため、将来の備えと節税を両立できます。同様に、個人型年金のiDeCo(イデコ)も掛金が全額所得控除となり、運用益も非課税です。さらに、取引先の倒産に備える「経営セーフティ共済(倒産防止共済)」も年最大240万円の掛金を経費化でき、いざという時には掛金の10倍まで無担保で借り入れができます。これらの制度は無理のない範囲で賢く活用すると良いでしょう。
- 不要資産の処分: 既に使っていない医療機器や備品がある場合、廃棄や売却による損失計上も節税策になります。処分時には帳簿上の残存簿価を経費(除却損・売却損)にできます。古い機器をそのまま放置していると地方税の償却資産税が毎年かかる場合もありますから、定期的に資産台帳を見直して不良資産の整理を行いましょう。
- 医業所得の概算経費特例: 開業医には、一定の要件を満たせば実際の経費ではなく法律で定められた「概算経費率」を使って経費計上できる特例(措置法26条)があります。具体的には、社会保険診療収入が一定額以下であるなどの条件下で、収入金額に所定の率を乗じた額を経費として認める制度です。実際の経費が少ない場合でも所定率の経費を引けるため、場合によっては大幅な節税になります。ただしこの特例は使えるケースが限られ、また医療法人になると使えなくなる点にも注意が必要です。適用の可否や有利不利の判定は専門的なシミュレーションが必要なので、興味のある方は税理士にご相談ください。
以上が個人事業主クリニックで検討すべき主な節税策です。どれも基本的なものですが、確実に実行することが大切です。次の章から、いくつか重要なポイントをさらに掘り下げて解説します。
青色申告の活用による節税効果
青色申告は、個人事業主が税務署に事前申請をすることで受けられる特典満載の申告制度です。自由診療クリニックを経営するなら必ず青色申告を選択すべきと言っても過言ではありません。ここでは青色申告の主なメリットと節税効果についてご説明します。
1. 最大65万円の青色申告特別控除: 青色申告者には、「青色申告特別控除」として所得金額から最大65万円(または55万円もしくは10万円)の控除を受けることができます。要件として、複式簿記による記帳と損益計算書・貸借対照表の添付、期限内申告などがありますが、適切に会計ソフト等で帳簿を付けていれば問題なくクリアできます。65万円控除を受けるには電子申告(e-Tax)等の要件も満たす必要がありますが、逆に言えば電子申告すれば追加で10万円控除額が増える(55万→65万)わけですから、ぜひ活用したいところです。この控除のおかげで、例えば年間の事業所得500万円の場合でも、青色申告なら控除後435万円に対して税金が計算されます。青色申告か否かで十数万円以上の税額差がつくケースも多く、非常に大きな節税効果です。
2. 青色事業専従者給与の経費算入: 青色申告者は、生計を一にするご家族に対して支払った給与を「青色事業専従者給与」として全額必要経費にできます(事前に届出が必要)。白色申告(青色申告でない場合)でも事業専従者控除という制度はありますが、配偶者で86万円・その他の親族で50万円が上限の固定控除です。一方、青色専従者給与は金額の上限は無く、実態に見合った給与であれば高額でも全額経費にできるため、所得分散による節税が柔軟に行えます。例えば奥様に年間200万円の給与を支払えば、その分院長先生の所得が減り税金が軽減されます。ただし前述のとおり、給与額があまりに不相応だと否認されるリスクがありますので、適正水準の設定が肝心です。また給与を支払えばご家族にも所得税・住民税がかかりますので、世帯全体で損得を吟味しましょう。
3. 純損失の繰越控除: 開業初年度など設備投資が嵩んだ年に赤字(損失)が出た場合、青色申告であればその損失を翌年以降3年間にわたって繰り越し、後年の黒字と相殺することができます。例えば初年度に▲300万円の赤字、2年目に+500万円の黒字の場合、本来2年目は500万に課税されますが、繰越控除を適用すれば課税所得は200万円(500-300)となり大幅な節税になります。新規開業クリニックでは初年度赤字~2年目黒字というパターンも多いので、このメリットは非常に大きいです。なお、損失の繰越には初年度に青色申告で確定申告を適切に行っていることが条件ですので、「1年目赤字だし申告は適当でいいや」などと思わず、しっかり申告しておきましょう。
4. 少額減価償却資産の特例: 先ほど少し触れましたが、青色申告者には30万円未満の減価償却資産を購入した場合に全額をその年の経費にできる特例があります(一年度の合計300万円までという上限あり)。クリニックですと、医療用パソコンやタブレット端末、診療補助の小型機器、待合室のテレビや空気清浄機など、意外と30万円未満の設備投資が発生します。これらを即時に経費化できるのは資金繰り上も助かりますし、節税効果も高いです。白色申告者でも10万円未満の資産なら消耗品扱いで経費にできますが、10万~30万円の範囲は青色申告者の特権です。
5. その他のメリット: 青色申告には他にも、貸倒引当金の計上(売掛金に対する引当経費)や、先述の医業収入の概算経費特例の適用、さらには税務署から帳簿等拝見と言われた際に日々の経理記録がしっかりしているという信用にもつながります。金融機関から融資を受ける際も、青色申告で決算書をきちんと作っていると評価が高まる場合があります。総じて、開業医に青色申告は必須と言えるでしょう。
以上のように、青色申告は個人クリニックの節税において強力な武器です。導入にあたっては開業から2ヶ月以内(もしくはその年の3月15日まで)の申請期限を守る必要がありますので、まだ青色申告を採用していない先生は早めに税務署に届け出ましょう。手続きや帳簿付けに不安があれば、税理士がサポートいたします。
経費計上のポイントと注意点
経費を正確に計上することは、節税対策の基本中の基本です。どんなに高度な節税策を講じても、日常の経費漏れやミスが多ければ効果は半減します。ここではクリニック経営における経費計上のポイントと注意点を整理します。
1. 業務関連費用は漏れなく経費化: 自由診療クリニックの運営には様々なコストが伴いますが、それらの業務関連費はすべて必要経費に計上できます。代表的なものを挙げると:
- 人件費: 看護師や受付スタッフの給与、非常勤医師への報酬など。院長ご自身の給与は個人事業の場合ありません(事業主控除)し、医療法人の場合は役員報酬として経費になります。
- 賃借料: テナント料や駐車場代、物件を借りている場合の敷金償却など。
- 水道光熱費: 電気・ガス・水道料金。自宅と兼用の場合は按分計上が必要です。
- 医薬品・備品購入費: AGA治療薬の在庫や、美容施術で使う薬剤・消耗品、衛生材料などの購入費用。
- 医療機器の減価償却費: レーザー脱毛機やカメラ機器など、高額機器は資産計上し耐用年数で減価償却します。毎年の減価償却費は経費です。
- 広告宣伝費: ホームページ制作費、リスティング広告費、SNS広告、看板作成費、チラシ印刷費など。
- 通信費: 電話代、インターネット回線費用、クラウドサービス利用料等。
- 租税公課: 事業に関係する税金(事業税、固定資産税、消費税の納付など。ただし所得税・住民税は経費になりません)。
- 研修費・学会参加費: 勉強会や学会の参加費用、関連する旅費交通費。
- 専門家費用: 税理士顧問料、社会保険労務士や弁護士への相談料。
- その他: 開業費(開業準備にかかった諸費用は繰延資産として償却可)、接待交際費(取引先との会食など。ただし医療業はあまり該当少ないかもしれません)、車両費(往診用車両のガソリン・保険等)。
業務に関係するものであれば基本的に経費になります。大切なのは「これは経費になるのか?」と迷ったら必ず領収書を取っておくことです。あとで専門家が見れば経費計上できるものも、領収書や記録がなければ証明ができません。レシート1枚でも捨てずに保管しましょう。最近ではスマホで撮影してクラウド保存すれば紙の現物を保存しなくても良い制度(電子帳簿保存法)もありますので、上手に活用すると管理が楽です。
2. プライベート支出との区別: 個人事業の場合、仕事用とプライベート用の区別が曖昧になりがちです。しかし私的な支出は経費にできませんので注意が必要です。例えば家族との食事代や旅行費用をクリニックの経費と偽って計上するのはNGです。これは税務調査でもよくチェックされるポイントです。同じお店の領収書でも「接待で製薬会社担当者と会食した」のか「家族で外食した」のかで全く扱いが異なります。後者を経費計上すると重加算税案件(意図的な経費水増し)になりかねません。
また、自家用車をクリニック業務にも使っている場合は、業務利用分のみ按分して経費にする形になります。携帯電話やご自宅家賃・光熱費なども、事務所兼自宅で使っているなら業務割合に応じて按分が可能です。この按分は合理的な基準(面積比や使用時間比など)を用いましょう。
3. 経費計上のタイミング: 原則として発生主義で、その費用が発生した事業年度の経費に計上します。例えば12月にクレジットカードで医療器具を購入し翌年1月に引き落とされた場合でも、購入した年の経費です(商品や請求書の受領が12月であるため)。一方、医療過誤賠償保険などで1年分を前払いした場合、原則期間按分ですが少額なら一括経費でも問題ない場合があります。減価償却費は税法で決められた計算で各年の経費としますが、少額減価償却資産の特例などは遠慮なく使いましょう。
4. 領収書・証憑の保存と電子帳簿保存: 経費として認められるためには証拠書類の保存が求められます。紙の領収書で受け取った場合は原則として7年間の保存義務があります。ただし、2024年現在は電子帳簿保存法の改正により、データで受領した請求書・領収書はデータのまま保存することが義務化されています(※ただし2025年末までは猶予措置あり)。また紙で受け取った領収書をスキャンして電子保存することも要件を満たせば可能です。今後はインボイス制度(適格請求書保存方式)の導入もあり、請求書類の保存管理はますます厳格になります。クリニックにおいても会計ソフトやスキャナー、クラウドストレージを活用し、紙ベースの管理からデジタル管理へ移行していくことをおすすめします。
5. 経費過大計上のリスク: 経費は多ければ多いほど節税になるからといって、無理に増やすのは禁物です。にもあるように、節税目的だけの余計な支出は一時的に税金を減らせても、手元資金を減らし資金繰りを悪化させる恐れがあります。例えば不要な高級車を購入して経費にしたとしても、現金支出が増えるだけで経営にはマイナスです。経費計上はあくまで「使ったお金の記録」であって、「使わなくてもいいお金」をわざわざ使うことは本末転倒です。この点についても後で「成長投資と節税のバランス」の章で詳しく述べます。
以上が経費計上に関する基本的な考え方と注意点です。経費は節税の王道ですが、正しく・適切に計上することが大事です。不安な場合は領収書を全部お持ちいただければ、私たち税理士が仕分けのお手伝いをします。「こんなものまで経費になるの?」という発見があるかもしれませんし、逆に「これは経費にしない方が良い」というアドバイスができる場合もあります。
所得税・住民税の節税対策
個人クリニックの院長先生の場合、所得税・住民税(および個人事業税)の負担が利益増加とともに大きくなります。そこで、これら個人の税金に関する節税対策も押さえておきましょう。基本的には前章までに述べた経費計上や青色申告の話が土台になりますが、ここでは主に個人の控除制度や工夫について触れます。
1. 各種所得控除の活用: 確定申告書上で適用できる所得控除を漏れなく適用しましょう。医師で開業している方にも関係する代表的な控除として:
- 社会保険料控除: 国民健康保険料や国民年金保険料などは全額所得控除です。お勤めの頃は給与天引きで意識されていなかったかもしれませんが、開業後はご自身で納付するため、払い忘れなくしっかり納付して控除を受けましょう。
- 生命保険料控除・地震保険料控除: ご自身やご家族の生命保険料や地震保険料も一定額まで所得控除できます。特に生命保険は節税を意識した商品設計(所得控除枠を満額使えるような支払い方)も可能ですので、保険代理店等と相談してみても良いでしょう。ただし保険はあくまで保障が目的ですから、本末転倒にならないように。
- 医療費控除: ご自身やご家族の医療費が年間10万円(または所得の5%)を超えた場合、その超過分が所得控除になります。ただし AGA治療や美容目的の医療費は医療費控除の対象外ですので注意してください。患者さん側から「AGA治療費は控除できますか?」と聞かれることもあるでしょうが、「美容目的とみなされるので医療費控除は使えません」と答えるケースが多いです。クリニック経営者ご自身の控除としては、例えば入院や手術など大きな医療費が出た年に活用する形になります。
- 小規模企業共済等掛金控除: 前述の小規模企業共済の掛金やiDeCoの掛金は全額がこの所得控除となります。特にiDeCo(個人型確定拠出年金)は現役世代の医師に人気です。個人事業主の場合、iDeCoは月々最大6.8万円まで積み立て可能で、その分課税所得を減らせます。老後資金準備とセットで節税できるので一石二鳥です。
- 配偶者控除・扶養控除: 奥様(ご主人)に所得がない場合や一定額以下の場合は配偶者控除(または配偶者特別控除)が適用されます。お子さんや両親を扶養している場合も扶養控除があります。ただし、先述のとおり配偶者に給与を払っている場合はその配偶者は控除対象から外れるため、給与と控除のどちらが有利か考える必要があります。一般に給与を支払って節税できる額の方が控除より大きければ給与を選びますが、配偶者の年収が201万円を超える場合など控除が無くなってもなお所得分散のメリットが勝つケースが多いです。
- ふるさと納税(寄附金控除): ふるさと納税は厳密には節税ではなく税金の使い道を変える制度ですが、活用すると住民税の一部が控除されてお礼の品も受け取れます。所得税・住民税の負担が大きい開業医の先生ほどふるさと納税の枠も大きくなりますので、有効活用しましょう。例えば年間上限額までふるさと納税を行えば、自己負担2,000円で各地の名産品がもらえます。節税対策のモチベーションアップの一環として取り組むのも良いでしょう。
2. 税額控除の活用: 所得控除ではなく税額控除という仕組みもあります。例えば「住宅ローン控除」(住宅借入金等特別控除)はご自宅を新築購入した場合に年末ローン残高の1%を所得税額から直接控除するものです。開業医の先生がクリニック併用住宅を建てた場合などには適用を検討できます。また従業員を雇用して一定の条件を満たすと受けられる「所得拡大促進税制による税額控除」など、中小企業向けの税額控除規定が個人事業主に適用できるケースもあります。これらは専門的な判断が必要なので、顧問税理士と相談しながら申告時に検討しましょう。
3. 住民税・事業税にも目配り: 所得税の節税策は、そのまま翌年度の住民税(所得割)節約にもつながります。住民税は所得控除後の所得に一律10%程度(自治体により若干異なる)の税率で課税されます。つまり所得税を圧縮できれば、翌年の住民税も自動的に下がります。また個人事業税(都道府県税)も診療所得の場合5%ですので、所得圧縮がそのまま節税です。加えて、所得を下げれば翌年度の国民健康保険料や国民年金基金の付加保険料など所得に連動する公的負担も軽減できます。節税効果は単年度の所得税だけではなく複合的に現れる点を意識しましょう。
4. 納税方法の工夫: 厳密には節税ではありませんが、所得税・住民税の納付方法も資金繰りに影響します。所得税は原則として確定申告後に一括納付ですが、額が大きい場合は延納(一部を後日納付)制度もあります。また予定納税(前払い)もありますので、資金繰りが厳しい場合は税務署に減額申請を出すことも検討しましょう。住民税は通常4期分割払いですので、こちらも計画的に資金確保しておきます。納税そのものは義務なので避けられませんが、無理なく支払うためのスケジュール管理も重要な経営スキルと言えます。
以上、個人としての所得税・住民税対策を中心に述べました。結局のところ課税所得をいかに減らすかが鍵ですので、経費計上や各種控除を駆使して課税所得を圧縮することが基本戦略となります。それでも事業が軌道に乗れば年々税負担は増していきますから、次に考えるべきは法人化による節税です。ここからはクリニックの法人化(医療法人化)について解説していきます。
法人化による節税対策とその効果
個人事業でクリニック経営を続け、所得が大きくなってくると、次第に法人化(法人成り)のメリットが顕著になってきます。法人化とは、クリニックを個人ではなく法人(会社)として運営する形態に切り替えることです。医療業の場合は一般的な株式会社ではなく医療法人の設立という形になりますが、ここでは便宜上「法人化」と呼びます。法人化による節税対策にはどのようなものがあり、どんな効果が期待できるのかを見ていきましょう。
1. 税率の低減効果: 法人化最大のメリットは、税率構造の違いによる節税です。個人の所得税・住民税は累進課税で最大55%にも達しますが、法人税等の実効税率は中小法人でおおむね30%前後(所得800万円以下部分は実質20%台)です。つまり同じ1,000万円の利益でも、個人で稼ぐより法人で稼ぐ方が税率が低く、手元に残る割合が大きいのです。実際、「医療法人化の最大の利点は、個人開業医と比較して節税効果が高いことです。」とよく言われます。ある程度の所得がある開業医なら、法人化により支払う税金が低くなるケースが多くなるわけです。
例えば利益が年間2,000万円出ている場合を考えます。個人事業のままだと所得税・住民税・事業税の合計でざっくり50%以上の税負担もあり得ますが、法人化して役員給与の配分を工夫すればトータルの税負担率を30~40%程度に抑えられる可能性があります。もちろん具体的な効果はシミュレーションが必要ですが、所得が高い先生ほど法人化による節税メリットは大きくなる傾向です。
2. 役員報酬による所得分散: 法人化すると院長先生は法人から給与(役員報酬)を受け取る立場になります。この役員報酬は法人にとって経費であり、その額は法人の利益を調整する最大のツールです。例えば法人が3,000万円の利益を出したとしても、そのまま法人に利益を残すと法人税がかかります。しかし、院長に2,000万円の役員報酬を支給すれば法人利益は1,000万円に圧縮され、法人税が減ります。院長個人には給与2,000万円として所得税がかかりますが、これも累進課税とはいえ給与所得控除(経費みなし)があり、事業所得だった時より負担感は下がります。また給与として支給することで所得を家族に分散することも容易になります。例えば奥様やご親族を役員や職員にして給与を支払えば、個人事業の青色専従者給与と同じ発想で世帯全体の税率を下げることができます。法人の方が形式上独立した別人格なので、税務上も給与支払いが明確に認められやすいです。ただし家族役員への給与も不相応に高額だと指摘されますので、職務内容に見合った範囲で設定します。
3. 経費算入できる範囲の拡大: 法人になると経費にできる範囲も若干広がる面があります。個人ではプライベートとみなされて経費計上不可だったものが、法人であれば法人の支出として認められるケースがあります。例えば社用車として高級車を法人名義で購入すれば法人の減価償却費ですし、社宅として院長宅の家賃を法人負担にすることで法人経費にできるケースもあります(医療法人の場合は利益処分に制限がありますが、MS法人等ではよく行われる手法です)。また法人であれば役員退職金制度が利用できます。院長が引退する際に役員退職金を支給すれば法人の経費になりますし、受け取る側の院長も退職所得控除が大きく税優遇されています。生命保険についても、法人契約のものは損金算入できる商品があり、税負担の繰延べなど計画的な節税策が可能です。医療法人が活用できる節税手法としては他にも、事業用資産の圧縮記帳や社員旅行費の経費計上(一定要件下)など様々あります。要は、法人になると税法上使えるメニューが増えるイメージです。
4. 社会保険加入によるメリット・デメリット: 法人化すると院長自身も含め厚生年金・健康保険に加入することになります。これにより将来受け取れる年金額が増えたり、高額療養費の企業負担分が増えたりといったメリットがありますが、一方で社会保険料の法人負担が発生するため、トータルコストでは増加となる場合があります。これは節税という観点からはデメリット側ですが、社会保険料も広義には将来の給付への前払いと考えれば一概に損とも言えません。法人化を機に福利厚生制度を整備し、従業員にも厚生年金を提供できるのは経営者としての責任を果たすことにもなります。このあたりは節税効果と福利厚生の充実を天秤にかけて判断するポイントです。
以上、法人化すると主に所得税から法人税への切り替えによる税率メリットと、所得分散や経費枠拡大など様々な節税手法が使えるようになることをご説明しました。もちろん法人化には節税以外にも経営上の利点がありますので、次章でそのあたりを含めて法人化のメリット・デメリットやタイミングについて触れます。
医療法人化のメリットとタイミング
前章で節税面の観点から法人化の話をしましたが、ここでは医療法人化そのもののメリットと適切なタイミングについてもう少し踏み込みます。医療法人化とは、クリニックを「医療法人」という法人格にすることで、都道府県知事の許可を得て設立します。個人開業と比べて何がメリットで、いつ法人化すべきかを整理してみましょう。
医療法人化の主なメリット:
- 節税効果が高い: これは先述の通りですが、税率が下がり役員報酬等で利益調整ができるため、税負担が軽減されます。高所得の開業医ほどメリットが大きいです。一人医師医療法人であっても、毎年数百万円単位で節税になるケースもあります。
- 社会的信用度の向上: 法人になることで、金融機関からの融資を受けやすくなる傾向があります。クリニックの設備資金や運転資金の借入も、個人より医療法人の方が信用力が増すため有利な条件で借りられる可能性があります。また賃貸借契約や取引においても、法人格があった方が相手方の安心感は高いでしょう。対外的なイメージアップという無形のメリットもあります。
- 事業承継の円滑化: 医療法人は出資持分のないタイプ(※現在新設される医療法人は持分なし医療法人)であれば、院長が交代するだけでクリニックを引き継ぐことができます。個人開業だと院長逝去時に事業は一旦止まってしまい相続税の問題も出ますが、医療法人なら財産は法人に属しているため、相続税が直接かかるわけではありません。将来お子さんに医師を継がせたい場合や、第三者にM&Aで譲渡する場合にも、法人化しておく方がスムーズに事業承継が可能です。
- 多店舗展開の可能性: 法律上、個人の開業医は原則1ヶ所しかクリニックを開設できません。しかし医療法人になれば複数の診療所を開設できます(分院展開)。もし「将来は2院目、3院目を出したい」という展望があるなら、早めに医療法人化しておく方が計画を実行しやすくなります。最近はAGAクリニックや美容皮膚科のチェーン展開も盛んですので、そうした事業拡大を検討する際も法人化が視野に入ります。
- 福利厚生・人材確保: 法人にすると社会保険加入が義務化され従業員の福利厚生が手厚くなることは前述しました。これにより優秀なスタッフを採用・定着させやすくなる面があります。法人名義で福利厚生プランに加入したり、社内規程を整えて有給休暇や育休制度を運用したりといったことも可能になります。組織としてスタッフを大事にする姿勢を示すことで、結果的に良い人材が集まりクリニックのサービス向上につながるでしょう。
医療法人化の主なデメリット:
- 設立・運営コストの増加: 医療法人の設立には都道府県への認可申請手続きが必要で、書類作成や専門家費用、登記費用など手間とコストがかかります。また設立後も法人としての会計処理や決算申告が必要で、税理士顧問料などランニングコストも個人時代より上がります。事務作業も煩雑になりがちです。ただしこれらは税効果で十分ペイできることが多いですし、医療専門税理士事務所である当事務所がしっかりサポートしますのでご安心ください。
- 利益の使途に制限: 医療法人は営利を目的としない法人であり、法人の利益は医療法人の目的以外に使用できません。要するに、個人開業時のように「頑張って稼いだ利益は全部自分のもの」というわけにはいかず、自由に引き出せない仕組みです。法人の利益は基本的に法人内に留保し、医療事業に再投資するか、必要に応じて役員報酬や職員給与として支払うのみです(医療法人は剰余金の配当が禁止されています)。このため、「利益を自由に使えない」という心理的な制約を感じる先生もいます。しかし裏を返せば無駄遣いが減り法人内に資金が蓄積されるので、組織としての財務体力は増します。
- 経営や意思決定の自由度: 医療法人は定款で目的事業が医療等に限られ、他分野の事業はできません。また理事会の決議事項などガバナンスも求められるため、院長一人の独断で何でも決めることが難しくなります。もっとも理事は院長と家族だけという場合も多く、実質的にはさほど変わらないケースもあります。とはいえ形式的には議事録作成など一手間かかるため、「事業の機動性」はやや低下するかもしれません。しかしこれは大規模法人ほどの話で、一人医療法人であれば実務上は院長の裁量で運営できますので過度な心配は不要です。
- その他: 社会保険料負担増はデメリット面で既に述べました。さらに医療法人になると決算公告義務(事業報告の届出)があったり、毎期所轄庁に事業報告書を提出する必要があったりと、行政への報告義務が増えます。また一度法人化すると原則的に「やっぱり個人に戻る」という選択は簡単にはできません。法人を清算する手続きも煩雑ですので、法人化は基本的に片道切符と思って決断する必要があります。
法人化すべきタイミング:
では、メリット・デメリットを踏まえていつ法人化すべきかですが、「こうなったら法人化」という明確なラインがあるわけではありません。ただ一般によく言われる目安があります。
- 年間所得が一定額を超えたとき: 所得税の累進を考えると、課税所得がだいたい900万円〜1,000万円を超えるあたりから法人化メリットが出始めると言われます。具体的には所得税率33%超のゾーンに入る頃です。ある情報では「所得が1,800万円超なら法人化を検討すべき」とも。実際には家族給与などで圧縮できる部分もあるので一概にいえませんが、税引後手取り額が法人化で増えるかどうかをシミュレーションし、増えるようなら法人化を前向きに検討すべきでしょう。
- 売上規模の増大: 自由診療報酬と保険診療報酬の合計が年間7,000万円超(保険のみなら5,000万超)になると、前述の概算経費特例が使えなくなるため法人化を検討すべき一つのタイミングとされています。また売上や従業員数が増えて事業が拡大してきた段階も転換期です。多忙で経理に手が回らなくなる前に、体制を法人組織に整えて専門家に任せる方が効率的です。
- 開業から数年経過したとき: 開業直後はまず個人でやってみて、軌道に乗ってきたら法人化するというパターンが多いです。目安として開業後3~5年で利益が安定してきたら法人化を考え始めると良いでしょう。医院経営がこなれてきたタイミングでステージアップするイメージです。
- 事業拡大や承継を考え始めたとき: 先ほどメリットで触れたように、2院目の開設計画や後継者への承継予定が出てきたら、法人化のタイミングです。分院展開するには法人化が前提ですし、承継をスムーズにするにも法人形態が望ましいです。特に親子承継を考えるなら、院長が若く健康なうちに法人化しておき、ゆくゆく理事長交代だけで承継完了という形にしておくと相続税対策にもなります。
結局のところ、「利益額」「将来計画」「事務負担の許容度」など総合的に判断することになります。判断に迷う場合は、医療業界に詳しい税理士に相談するのが一番です。当事務所でも、先生の現在の業績や今後の展望を伺った上で、数値シミュレーションを行い最適なタイミングをご提案しています。法人化のメリットが薄いうちは無理におすすめしませんし、メリットが大きければ準備段階からしっかり伴走いたします。
法人が活用できる節税手法
ここでは医療法人(法人化後)のクリニックが活用できる具体的な節税手法をいくつかご紹介します。法人化すると税務戦略の幅が広がりますので、個人のときにはなかった工夫も可能になります。
1. 役員報酬の最適化: 前章でも触れた通り、役員報酬の金額設定は節税の要です。毎期の期首にその事業年度の役員報酬額を決定し、原則1年間固定します。この金額を高く設定すれば法人の利益が減って法人税が下がり、逆に低く抑えれば法人に利益が残り内部留保が増えます。大事なのは、院長個人と法人全体のトータルでの手取り最大化です。一般に利益が大きいときは役員報酬も多めに取り、利益が少ない年は無理に取らない、といった調整が可能です。役員報酬は給与所得控除があるため、同額を法人に残して法人税・配当するより税負担が軽くなります。ただし報酬を上げすぎると個人側の所得税率が上がって逆効果にもなり得るので、バランスを見ます。ご家族を役員にして報酬を分散するのも有効です。例えば院長と配偶者の両方に役員報酬を出し、世帯収入を二分することで一人に集中するより税率を下げられる場合があります。
2. 役員賞与・決算賞与: 医療法人では原則として役員賞与(事前確定届出給与)を活用できます。事前に税務署へ届け出た金額を、その事業年度中に支給することで損金算入できます。これは臨時的に利益が出そうな年に有効な手段です。例えば決算前に思った以上に利益が出た場合、あらかじめ届出しておいた役員賞与を支給すれば、その額だけ利益調整ができます。ただし事前に細かい届出が必要で、一度決めたら変更不可、遅配遅延は損金不算入など厳格な制度ですので、計画的な活用が必要です。
また役員でない従業員への決算賞与も、所定の手続きを踏めば未払計上によりその期の損金にできます。従業員のモチベーションアップにもつながる方法ですので、利益が多い年はスタッフに還元しつつ節税という一石二鳥も考えられます。
3. 役員退職金の活用: 院長先生が引退される際には役員退職金を支給することができます。役員退職金は高額になりがちですが、法人にとっては損金計上でき、支払年度の大幅な節税になります。受け取る側の院長にとっても退職所得扱いとなり、給与よりもかなり有利な税制(1/2課税+大きな控除)です。この制度を見越して、在職中はある程度法人に利益を貯めておき、退任時に退職金で引き出すという長期スパンの節税策もあります。ただし医療法人は剰余金の配当ができないため、退職金以外でオーナーに利益を移転する手段が無いとも言えます。ですので、退職金は法人に残った財産を回収する一度きりのチャンスとも捉えられます。税制上も優遇されていますから、将来の大きな節税策として頭の片隅に入れておくと良いでしょう。
4. 資産管理法人(MS法人)の活用: 少し高度なスキームですが、医療法人とは別にMS法人(メディカルサービス法人)を設立して節税を図る手法もあります。医療法人は前述の通り利益の使途が制限されるため、お金を貯めすぎても有効活用しづらい面があります。そこで、クリニックの非医療部門(受付業務や物品販売など)を別法人(MS法人)に請け負わせ、そちらに利益を移転する方法です。MS法人であれば通常の株式会社なので、利益を内部留保して将来的に配当で受け取ることもできますし、事業目的も自由です。具体例として、医療法人がMS法人に高めの管理業務委託料を支払い、医療法人の利益を圧縮、MS法人側に利益を移すといったケースがあります。MS法人側には院長のご家族を役員にして給与を払うなど、所得分散の第二ステージも可能です。ただし税務上グループ法人間の取引価格が不適正とみなされると指摘される可能性もあり、慎重な設計が必要です。このようなグループ経営による節税は、すでに法人化済みでさらに節税余地を探りたい場合に検討します。
5. 法人保険の活用: 法人契約の生命保険や損害保険を利用した節税も考えられます。かつては全額損金になる高額終身保険が節税商品として流行りましたが、税制改正で旨味が減りました。ただ、例えば逓増定期保険や長期平準定期保険などは一部損金計上でき、解約返戻金を退職金に充てるといった計画が立てられます。また、法人契約の医療保険で役員の入院に備えるなど、経費で保障を買う手段にもなります。保険料の損金算入はあくまで課税の繰延べ効果であって最終的な経費ではないこともありますが、キャッシュフロー調整策として使う価値があります。
6. その他経費の積極活用: 法人だからこそ計上できる経費を積極的に活用することも重要です。例えば交際費ですが、中小法人の場合は年間800万円までは全額損金になります(個人事業だと一部しか経費にできなかった接待費用も、法人なら認められる範囲が広い)。取引先との懇親や医師同士の情報交換会など、有益な交際には法人名義で費用を計上できます。また福利厚生費として従業員慰安の食事会費用や、社内イベント費用なども積極的に経費計上しましょう。研修出張も、公私混同にならない範囲であれば法人経費です。海外の医療学会参加なども出張費として損金算入できます。
このように法人が使える節税手段は実に多彩です。大切なのは、「節税手段を講じること自体が目的化しないようにする」ことです。経営を発展させる中で結果的に節税になるのが理想形です。そうしたバランスについては次章で詳しくお話しします。
法人化に伴う注意点と対応策
医療法人化によって節税の幅は広がりますが、その一方でいくつか注意すべきポイントも生じます。ここでは法人化に伴う留意点と、その対応策について解説します。
1. 社会保険料負担の増加: 法人化すると院長やご家族も含め従業員は厚生年金・健康保険に加入する義務が生じます。社会保険料は労使折半で、法人も半分を負担します。個人事業時代は国民年金(定額)と国民健康保険(所得連動)でしたが、法人になると報酬額に応じて健康保険・厚生年金の料率(約30%弱)をかけた金額を納めることになります。役員報酬が高額だと相応に負担が増えます。この負担増は法人化のデメリットと言われますが、対応策としては役員報酬の設定を調整することがあります。例えば役員報酬を月額ベースで抑え、決算賞与で調整することで社会保険料の計算基礎を低めに抑える手法も検討されます。ただしあまり露骨にやると本末転倒なので、無理のない範囲での対応です。社会保険料は将来の年金給付にも繋がるため、単純にデメリットとも言い切れません。
2. 事務負担・専門知識の必要性: 法人化すると会計・税務・法務の事務処理が複雑になります。毎月の給与計算や源泉所得税納付、年末調整、社会保険の手続き、決算書作成、税務申告書作成、さらには医療法人特有の事業報告提出など、多岐にわたります。院長が全てご自身でやろうとすると大変ですので、信頼できる税理士や社労士にアウトソーシングするのが一般的です。加美税理士事務所でも、医療法人の経理代行から決算申告、各種届出までトータルでサポートしております。フルリモート対応が可能ですので、全国どこからでも資料を送っていただければ当方で処理し、ご報告する体制が整っています。
3. 利益の資金拘束: 前章でも述べましたが、医療法人は利益の私的流用ができません。原則として法人内に留保するか、必要な経費や役員報酬で使うしかありません。そのため、例えば個人時代に貯めたクリニック預金をマイホーム購入に充てる、というようなことは法人資金ではできなくなります。対応策としては、院長個人の資産形成を並行して行うことです。法人の利益は低い法人税率で残せますから、そのお金を毎年少しずつ役員報酬として引き出し、個人で運用・貯蓄するという方法があります。つまり、何年もかけて利益を分散して取り崩すイメージです(前述の役員退職金もその一環ですが、一度きりではなく計画的に取り崩す)。あるいは、法人にお金を残しておいて将来のクリニック増改築や新規機器導入にまとめて使うという割り切りも大事です。法人のお金は法人のものと考え、経営に再投資するマインドセットが必要となります。
4. 法人運営のルール順守: 医療法人には定款と諸規程があり、そのルールに則って運営しなくてはなりません。例えば毎事業年度に必ず理事会・社員総会を開いて決算承認をするとか、剰余金は積み立てるとか、法令で定められた手順を踏む必要があります。これを怠ると指導の対象になることもあります。当事務所では、決算時に理事会や社員総会の議事録案を作成し、抜け漏れのないよう支援することもできます。また医療法務に詳しい行政書士とも連携しており、煩雑な手続きをサポートします。院長先生には極力本業に集中していただけるよう、バックオフィス業務はプロに任せるのが一番です。
5. 税務調査への備え: 法人になると、税務署から見るとより本格的な事業者とみなされます。決算書の内容も詳細になり、場合によっては税務調査の対象となる頻度も上がる可能性があります。ただし、適切に経理処理を行い顧問税理士のチェックを受けていれば怖がる必要はありません。むしろ法人化後の方が帳簿がしっかりする分、説明もしやすいでしょう。対応策としては、継続的な税務チェックと事前準備です。数年に一度は税理士とともに自社の帳簿を総点検し、問題があれば修正申告や改善策を講じます。万一調査となっても、税理士が立ち会い対応しますので院長先生は普段通り診療に専念できます。当事務所でも税務調査対応は豊富な経験がありますので、安心してお任せください。
以上、法人化に伴う注意点を挙げました。総じて言えるのは、法人化後はプロのサポートを受けながら運営することが成功のカギということです。税務・会計・法務に加え、人事労務なども絡んできますので、経験豊富な専門家チームと組むことでこれらのリスクや手間を最小化できます。次の章では、特に最近増えているオンライン診療や多拠点展開クリニックに焦点を当てた節税ポイントを見ていきます。
オンライン診療・多拠点展開クリニックの節税対策
近年、AGA治療や美容医療の分野ではオンライン診療を主体とするクリニックや、都市圏を中心に多拠点展開(チェーン展開)するクリニックが増えています。こうした形態のクリニックが留意すべき節税対策について考えてみましょう。
オンライン診療主体のクリニック:
オンライン診療に特化したAGAクリニックでは、遠隔地の患者さんにも処方やカウンセリングを行うため、ITインフラや配送コストなど独特の経費が発生します。例えばオンライン診療用のシステム利用料、サーバー代、電子カルテのクラウド費用、そして薬や治療薬の宅配便送料などです。これらはもちろん全て必要経費ですので漏れなく計上します。特に新しいシステム導入費用などは金額も大きいですが、IT導入補助金など行政の助成を受けられる場合もあります。補助金は課税対象になる点に注意が必要ですが、導入費用と相殺され実質負担が軽くなります。結果的に課税所得も減るので節税メリットに繋がります。
またオンライン診療中心だとテナント費用が抑えられる分、人件費や広告費に回すケースが多いでしょう。WEBマーケティング費用(リスティング広告、SNS広告、SEO対策費など)は経費になりますので積極的に投資しつつ、費用対効果を見極めましょう。税務上も広告宣伝費は基本無制限に経費ですので、売上拡大と節税を両立できます。
オンライン診療の場合、売上の地域偏在が少なく全国から集まるため、消費税の取り扱いで気を付けたい点があります。患者さんは基本個人なのでインボイス発行義務はありませんが、売上が急増すると免税事業者の期間が明けた途端に多額の消費税納税が発生し得ます。初年度から爆発的に売上が伸びそうな場合、あえて消費税課税事業者を選択しておき、仕入控除(例えば広告費の消費税など)を受ける戦略も考えられます。このあたりは収支予測と消費税シミュレーション次第です。
多拠点展開(チェーン展開)クリニック:
複数のクリニックを経営する場合、売上・経費の管理体制が節税面にも影響します。まず、各院ごとの収支をきちんと把握するため、経理を本部で一元管理することが重要です。一拠点ごとに別々の会計処理をしていると全体像が掴めず、節税策の打ち手も判断しにくくなります。本部機能で全院の経理データをリアルタイムに集約できる仕組みを作りましょう。具体的には、クラウド会計ソフトを導入して各院の担当者が経費を入力し、本部でチェックする運用などが考えられます。また勘定科目の統一(同じ費用はどの院でも同じ科目にする)は必須です。
チェーン展開の場合、人件費や広告費もスケールメリットで抑えられる一方、本部費用(本社経費)が発生します。例えば本部スタッフの給料、統括院長の役員報酬、本部オフィス賃料などです。これら本部費用は各院に按分することも可能ですが、法人全体としては当然経費ですので適切に計上しましょう。本部経費をどのように各院に配賦するかは内部管理上の問題ですが、税務上は全体として損金になればOKです。
複数院があると、赤字院と黒字院が混在する場合もあります。一部の院が赤字でも他が黒字でトータル黒字なら法人全体では法人税を払うことになります。その際、将来性の薄い赤字院があるなら早期に撤退してコストを切り離す決断も経営上は必要です。税務的には撤退時の費用(例えば店舗原状回復費用や解約違約金など)も経費になりますし、閉院に伴う損失が出れば税金も減ります。ただしこれは最後の手段なので、そうなる前に本部指導で全院黒字化を目指す方が建設的です。
多拠点展開では在庫管理も課題になります。AGA薬や美容施術用薬剤を一括仕入れして各院に配送するケースでは、本部在庫として棚卸資産を計上する必要があります。期末の棚卸在庫は売上原価になりませんので、過剰在庫を抱えると利益が上がってしまう(節税上不利になる)ことがあります。計画的な在庫調整を行い、各院の必要数を見極めて在庫を適正水準に保つことも節税のポイントです。無駄な在庫を買いすぎてお金が寝るのは避けましょう。
最後に、チェーン展開では院間取引にも注意です。例えば本院が分院に薬品を売る場合、グループ内売上になります。この価格設定は税務上も問題視されやすいので、市場価格か原価ベースで適正に行いましょう。グループ内利益は基本的に節税メリットは無いので、できるだけ内部取引を経費精算等で処理してシンプルにする方が良いです。
多拠点での売上・経費管理のポイント
多拠点クリニック経営において、売上・経費の管理は節税以前に経営の土台となる部分です。ここでは、複数のクリニックを運営する場合の管理上のポイントをまとめます。結果的にこれがしっかりできていると、漏れのない経費計上や節税対策の実行につながります。
- 各院ごとの損益把握: まず、院ごとに毎月の売上・費用・利益を算出しましょう。部門別損益管理です。これにより、どの院が稼ぎ頭でどの院が苦戦しているかが一目瞭然になります。利益率の高い院には適切な節税策(例えば設備投資による減税など)を集中させ、利益が少ない院はコストカットを検討する、といった戦略が立てられます。税務上は法人一括申告ですが、管理会計上は院別損益を把握することが重要です。
- 共通費用の配分: 本部費用や広告費など複数院にまたがる費用は、合理的な基準で按分しましょう。例えば広告費なら各院の売上比率で按分、人件費なら各院のスタッフ数で按分、といった具合です。こうすることで各院の実力が正しく見えますし、特定の院だけが利益を圧縮しすぎて税務上不自然になることも防げます。もっとも税務申告上は按分しようがしまいが全体で損金に入れば問題ありませんが、管理上の透明性のために行います。
- クラウド会計とIT活用: 複数拠点の経理には、クラウド会計ソフトやオンラインで使える販売管理システムを導入すると便利です。各院からネット経由で本部の会計システムに売上データや経費伝票を入力できれば、リアルタイム連携が可能です。紙の領収書もクラウドにアップロードして経理担当がチェックできます。電子帳簿保存法にも対応できますし、移動時間の節約にもなります。
- 定期ミーティング: 経営陣や事務長、本部経理担当者が集まって月次の財務数値を確認するミーティングを行うことも有効です。ここで売上のトレンドや経費の異常値を把握し、必要なら節税の追加策(例えば「広告費を前倒しで使って利益圧縮しよう」等)を検討します。複数院だとどうしても情報が散在しがちなので、意識的に集約する場を設けましょう。
- 内部統制の強化: 複数拠点があると、現金の取り扱いや経費精算でルール逸脱が起きやすいです。例えばある院で領収書の不備が多いとか、売上入金管理が甘いといったことがあると、後で税務調査で指摘されかねません。内部統制ルールを全院で統一し、スタッフに周知します。売上は必ず日計表を本部提出、現金売上は即日入金、経費は所定の精算書に領収書添付、交際費は事前承認制…などなど。これらを徹底することで、不正やミスを防ぎ、経理処理も効率化します。結果として漏れなく経費計上でき、税務リスクも軽減されます。
- 税理士との連携: 多拠点展開では税理士との連携もより重要になります。各院の数字を共有しながら、四半期ごとくらいに節税策の進捗や追加アイデアを相談するのがおすすめです。場合によっては現地訪問して問題点のヒアリングをすることもあります。当事務所でも、チェーン展開されているクライアントとは担当チームを組んで密にコミュニケーションを取ることができます。複数院の税務はデータ量も多いですが、プロの視点から全体を俯瞰してアドバイスいたします。
以上が多拠点経営における管理と節税のポイントです。複数クリニック運営は難易度が上がりますが、その分スケールメリットも享受できます。しっかり管理することで節税のチャンスも最大化できますので、ぜひ参考にしてください。
電子帳簿保存法・インボイス制度への対応
近年の税制改正で、電子帳簿保存法の大幅な緩和・義務化と、インボイス制度(適格請求書保存方式)の導入が進んでいます。クリニック経営においても他人事ではなく、これらに適切に対応することが節税面でも重要です。この章では、その概要と対応策について解説します。
電子帳簿保存法への対応:
電子帳簿保存法とは、簡単に言えば経理書類を電子データで保存する場合のルールです。2022年の改正で要件が緩和され、領収書や請求書をスキャナ保存することが容易になりましたが、当初2024年からは電子取引データ(メールやWEB上の請求書など)の電子保存が義務化される予定でした(※現在2025年末まで猶予延長)。クリニックでも、例えば医薬品のネット発注やオンラインサービスの利用料請求など、PDFやデータで受け取る請求書があるでしょう。これらは紙に印刷しただけではNGで、電子のまま保存しなければなりません。
対応策としては、会計ソフトや専用保存システムを利用することです。代表的な会計ソフトには電子帳簿保存法に対応した証憑保存機能があります。領収書画像やPDFをドラッグ&ドロップでアップロードし、必要な検索項目を入力して保存すれば、税務調査時にも認められる保存が実現できます。クラウドサービス(例えばマネーフォワードやfreeeなど)はこの機能が充実しています。また、電子取引データ(メールで届いた請求書など)は紙に印刷せずそのままPDFで保管し、フォルダ管理するだけでも一応はOKですが、検索要件等を満たすためにはシステム利用が無難です。
電子帳簿保存法に対応すると、紙保管の手間が省けるメリットがあります。クリニックの経理担当者や院長が大量の領収書ファイルを抱える必要がなくなり、保管場所も不要です。さらに、電子帳簿保存法にしっかり対応して電子申告まで行えば、青色申告特別控除で満額の65万円控除が受けられるという特典(要件)にも適合します。逆に言えば、今後これに対応しないと青色申告控除額が減額される恐れがあります。節税のためにも早めの電子帳簿保存対応を進めましょう。
インボイス制度(適格請求書)への対応:
2023年10月から、日本でも消費税の仕入税額控除にインボイス制度が導入されました。適格請求書(インボイス)とは、消費税の課税事業者が発行する所定の要件を満たした請求書です。医療機関の場合、保険診療収入は非課税、自由診療収入は課税と売上が混在します。患者さん相手の自費診療収入については、患者さんが消費税の事業者ではないためインボイス発行は求められません。つまり、一般患者向けにはインボイス対応不要です(領収書に消費税込と記載しておけば十分)。
一方、クリニックが支払う側、つまり仕入・経費の支払先についてはインボイス制度の影響があります。例えばクリニックが医薬品や医療材料を仕入れる際、仕入先が適格請求書発行事業者であれば、発行されたインボイスを保存することで消費税の仕入税額控除をフルに受けられます。逆に仕入先が免税事業者でインボイスを発行できない場合、その仕入に含まれる消費税は控除できなくなります。医療業界では、医薬品メーカーや卸はほぼ課税事業者でしょうから問題ないですが、例えばフリーランスのWEB業者から広告作成を依頼した場合などは相手が免税だと控除不可になります。
クリニックとしては、主要な取引先がインボイス発行事業者かどうか確認し、もし免税事業者がいるなら今後の取引継続をどうするか検討する必要があります。費用対効果で多少仕入税額控除ができなくても構わないならそのままでもいいですが、大口取引先ならインボイス発行をお願いするか、難しければ他の発行事業者に切り替える選択もあります。
また、クリニックが自由診療収入で課税売上1,000万円超となり課税事業者になる場合、自院も適格請求書発行事業者の登録をしておく必要があります。患者相手には出さなくても、例えば企業健診や美容メニューで企業からまとめて受注するケースなどでは先方からインボイスを求められることがあります。登録事業者でないと「消費税分は払えない」と言われることも考えられますので、今後その予定があるクリニックは早めに登録申請しておきましょう。
レセプトの扱い: なお、保険診療部分のレセプト請求は非課税売上なのでインボイス不要です。ただし、混合診療的に美容オプションを付けた場合など複数税率になるケースでは領収書の内訳に消費税額等を明示する必要があります。レセコンやPOSレジのシステムアップデートで対応しておきましょう。
まとめると:
- 電子帳簿保存: 領収書の電子化・データ保存を進め、青色申告控除65万円を確保しつつ経理効率化。
- インボイス: クリニック自身と主要仕入先の適格請求書発行事業者登録を確認し、必要に応じて対応。患者向けには過剰反応不要だが、法人取引には留意。
これら法改正対応は一見面倒に思えますが、取り組むことで経理DX(デジタルトランスフォーメーション)が進み、長期的に見れば節税と業務効率の両面でプラスになります。当事務所でもこれら新制度への対応をご支援できますので、不明点があればお気軽にご相談ください。
成長投資と節税のバランス
ここまで様々な節税対策を述べてきましたが、最後に強調しておきたいのは「成長投資と節税のバランス」です。クリニックを経営する以上、節税ばかりに注力して肝心の医療サービスがおろそかになっては本末転倒です。税理士の立場からも、節税はあくまで手段であって目的ではないことを常に念頭に置いています。
節税のための無駄な支出は、資金繰りを悪化させるだけでなく、クリニックの成長機会を逃すことにもなりかねません。例えば「利益が出そうだから高級な社用車を買って経費にしよう」という考えは一見節税に見えますが、本当にその車は診療サービス向上に寄与するでしょうか?もしそうでなければ単にお金を減らしただけですし、将来必要な医療機器購入資金が足りなくなるかもしれません。
理想的なのは、クリニックの成長につながる投資を行った結果、それが節税にもなっているという状態です。たとえば、新しい治療機器を導入すれば診療の幅が広がり患者満足度が上がるでしょうし、その購入費用は減価償却で節税効果を生みます。また、有能なスタッフを採用して教育訓練すればサービス品質が向上し収益増が見込め、支払う給与や研修費は経費になります。広告宣伝を強化すれば患者が増え、広告費は当然経費です。このように、前向きな支出は結果として節税に貢献してくれることが多いのです。
一方で、成長投資と節税がトレードオフになる場面もあります。例えば、利益が出て税金が高くなりそうだからと言って、「今年はあえて診療をセーブして利益を抑えよう」などというのは本末転倒です。稼げる時には稼ぐ、税金はその結果で払えば良いくらいの腹の据え方も大事です。税率は最大でも利益の半分程度ですから、極端な話税金を払ってでも利益(キャッシュ)が残るなら御の字とも言えます。利益=クリニックの貯金でもあるので、節税しすぎて手元資金が減りすぎるのも問題です。
また、「節税になるから〇〇保険に入ろう」と勧められるケースもあるかもしれませんが、その保険が本当に自院に必要か検討しましょう。将来の解約返戻金を狙った法人保険などは計画的に使えば良いですが、目的を履き違えると単なるコスト増になります。
資金繰りのシミュレーションも重要です。節税対策をした結果、納税額は減ったが現預金も大きく減った、となっては意味がありません。設備投資にしても、頭金やローン返済計画を立てたうえで行うことが肝要です。税理士は税金計算だけでなく、キャッシュフローの視点から経営助言をする役割もありますので、投資判断の際にはぜひご相談ください。
最後に当事務所がよくお客様にお伝えするのは、「税金は利益が出ていることの裏返しなので、適正に納税すること自体は悪いことではない」ということです。むしろクリニックが順調な証と言えます。ですので、払うべき税金はしっかり払い、その上で払いすぎを防ぐ工夫をしましょうというのが基本スタンスです。その“工夫”こそが節税対策ですが、その範囲を超えて無理をする必要はありません。適切な節税と積極的な成長投資、このバランス感覚を持つことが、長期的に見てクリニックの繁栄と院長先生の幸福につながると信じています。
税務調査を見据えた節税対策の重要性
節税対策はあくまで税法に則った合法的なものですが、それでも税務署は「過度な節税」が行われていないかチェックするために税務調査に入ることがあります。特にクリニック経営では現金収入もあり経費裁量も大きいため、税務調査の対象となる可能性は常に念頭に置いておくべきです。
そこで重要なのが、税務調査を見据えた節税対策です。つまり、「いざ税務調査になっても問題ない形で節税策を講じておく」ということです。具体的には以下の点に注意します。
- 帳簿や領収書の整備: 節税対策として経費を計上するのは当然ですが、その裏付けとなる帳簿記録や領収書類が適切に保存されていることが前提です。税務調査では必ず帳簿と証憑(領収書・請求書等)のチェックがあります。どんな小さな経費も根拠資料をスムーズに提示できる状態にしておくことが重要です。電子帳簿保存を活用している場合は、税務署職員に画面を見せて検索・閲覧させる必要がありますので、使い方にも習熟しておきましょう。
- 説明できる節税策か: 措置法26条の概算経費特例や、家族への専従者給与など、特殊な節税策を使っている場合は「なぜこれを適用しているのか」「要件を満たしている証拠は何か」を説明できるようにしておきます。例えば専従者給与なら、実際に家族がクリニックで働いている証拠(タイムカードや業務日報など)があると説得力がありますし、概算経費特例なら対象要件(保険収入額など)を示す資料が必要です。
- 売上計上漏れがないことの確認: 節税の話ではありませんが、**申告漏れ(売上の計上漏れ)**がないことは大前提です。自由診療クリニックでは現金決済もあり得ますが、その場合の現金売上を全て記録・申告しているか、自身でもチェックしましょう。税務調査で売上漏れが指摘されると重加算税等のペナルティが科され、節税以前の問題になってしまいます。予約システムやカルテ記載数と売上台帳の突合など、日頃から二重チェックすると安心です。
- 同業他社との比較: 税務署は同業他社(同規模の他クリニック)との経費比率や利益率の比較も行っています。明らかに他より経費率が高すぎる場合、「必要経費以上に計上していないか?」と疑われることがあります。もちろん各院の事情がありますが、例えば売上に対する人件費比率や広告費比率が突出していると質問されるかもしれません。その際に合理的な説明(「当院は開業間もないため宣伝に力を入れている」「美容施術が多く原材料費率が高い」等)をできるようにしておくと良いでしょう。
- 数年単位での整合性: 税務署は前年や前々年との比較も行います。例えば今年だけ異常に経費が膨らんで利益が激減していると、「何か意図的に利益圧縮したのでは?」と見られることもあります。もちろん、新規開業とか大きな設備投資など理由がはっきりしていれば問題ありません。ただ、利益調整目的で無理な経費計上をすると翌年以降との辻褄が合わなくなるので、計画的に行うことが大事です。3年平均くらいでバランスが取れているのが理想です。
税務調査が入りやすいポイントとしては、例えば「開業して3年以上経ち利益が出始めた頃」「数期連続で赤字申告している場合」「経費率が業界平均とかけ離れている場合」「家族従事が多い場合」などが挙げられます。クリニックも例外ではなく、むしろ現金収入が多いAGAクリニックなどは狙われやすいと言われます。ただし、しっかりと帳簿を整備し、理由の説明できる経費計上を行っていれば恐れる必要は全くありません。
むしろ調査官に「このクリニックはちゃんとやっているな」と思わせることができれば、早期に調査が切り上げられることすらあります。具体的には、税理士と二人三脚で節税と遵法の両立を図っていることを示せれば理想です。税理士が関与している申告は、そうでないケースに比べて信頼度が増すのも事実です。
税務調査について詳しくは下記のページをご覧ください。
加美税理士事務所のサポート体制
ここまでお読みいただきありがとうございます。税理士法人加美税理士事務所は、自由診療クリニックの先生方の節税・経営サポートに日々取り組んでいます。当事務所のサポート体制について、最後にご紹介させてください。
当事務所は、自由診療(美容・AGA)クリニックや医科・歯科医院専門の税務支援に力を入れております。「医療業界に強い税理士」として、業界特有の会計処理や節税ノウハウを熟知したスタッフが揃っています。都市部の個人開業クリニックからオンライン診療主体の法人クリニックまで、様々なお客様をサポートするためのノウハウがあります。
当事務所の特徴:
- 業界特化の専門知識: 自由診療クリニックならではの消費税の取扱いや、医療法人設立の手続き、保険診療との混在収入の処理など、一般の税理士事務所では戸惑うような案件もスムーズに対応可能です。例えば「自費診療には消費税がかかるので注意しましょう」といった基本から、医療費控除に該当しない自由診療収入の扱いまで、専門用語をかみ砕いてご説明します。先生方からも「こちらが何を心配しているか話さなくても理解してくれる」とご好評いただけるかと思います。
- 先生の不安に寄り添う丁寧な対応: 節税の不安、帳簿付けの悩み、法人化するかどうかの迷い……先生方が抱える様々な不安に、親身になって寄り添います。専門用語ばかり並べるのではなく、先生のペースに合わせてゆっくりと説明し、納得いただけるまでお話します。「こんな基本的なこと聞いてもいいのかな?」という質問も大歓迎です。当事務所では先生と二人三脚で歩む気持ちを大切にしています。
- ワンストップサービス: 税務顧問だけでなく、経理代行・記帳代行、給与計算、社会保険手続き、医療法人設立支援などトータルサポートが可能です。クリニック開業前の事業計画作成や融資支援から、開業後の毎月の試算表提供、節税対策の提案、決算対策、税務調査対応まで一貫してお任せいただけます。税理士・社労士・行政書士など専門家チームが連携し、先生のニーズにワンストップで対応しますので、困り事があれば当事務所に相談すれば解決策が見つかる体制です。
フルリモート対応による全国サポート
当事務所はITツールを活用したフルリモート対応を実践しており、全国どこからでもサービスをご利用いただけます。毎月の打ち合わせはメール・お電話・オンライン会議(Zoom等)で行え、資料もクラウド上でやり取り可能です。領収書や通帳コピーもスマホ撮影やスキャンデータで送信いただければOKですので、遠方の先生でも物理的な距離を感じさせません。「地方在住だが自由診療に強い税理士に頼みたい」というご要望にも、リモート対応でお応えしています。お忙しい先生方にはチャットツールでの隙間時間の質疑応答も可能です。もちろん必要に応じて出張訪問も行っておりますので、「直接会って相談したい」という場合も安心です。
初回無料相談のご案内
長文の記事となりましたが、最後までお読みいただきありがとうございます。「クリニックの節税をプロに任せたい」「信頼できる税理士に相談したい」とお感じになった先生は、ぜひ一度初回無料相談をご利用ください。初回のご相談はオンラインまたはお電話にて約60分間、無料で承っております。現在の税務状況のお悩みや、顧問税理士に求めることなど、ざっくばらんにお話しください。無料相談だけでも、今後の節税のヒントや経営改善のアドバイスを持ち帰っていただけるはずです。
「顧問税理士を変更しようか迷っている」「法人化すべきか判断に迷う」「遠方だけど対応できる?」など、どんなテーマでも構いません。私たち加美税理士事務所が、先生の不安を解消しクリニック経営を力強くサポートいたします。お気軽にお問い合わせフォームまたはお電話にてお申し込みください。先生のクリニックが税務面でも盤石な体制となり、安心して治療に専念できる環境づくりのお手伝いができれば幸いです。一緒に、自由診療クリニックの成功と発展を実現しましょう!

よくあるご質問
FAQ
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自由診療クリニックでも青色申告を活用できますか?
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はい、自由診療クリニックでも青色申告の活用が可能です。最大65万円の特別控除に加え、赤字の繰越や専従者給与の全額経費化など多くの節税メリットがあります。青色申告について詳しくは下記のページをご覧ください。
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開業初年度の消費税は節税の対象になりますか?
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開業初年度は、通常は消費税の免税事業者となります。しかし、設備投資が多い場合は課税事業者選択届出書を提出し、消費税還付を受けた方が有利なケースもあります。消費税について詳しくは下記のページをご覧ください。
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節税対策と税務調査対策はどう両立すればいいですか?
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税務調査に強い節税とは、「説明できる経費計上」が基本です。帳簿や証憑を正しく保存し、適正な処理を行っていれば調査でも安心です。当事務所では税務調査に備えたチェック体制も構築支援しています。税務調査について詳しくは下記のページをご覧ください。
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脱毛クリニックを開業予定ですが、開業前でも節税について相談できますか?
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もちろんです。開業前の準備段階から節税設計を行うことで、開業費の処理や減価償却、青色申告の選択など、節税に直結する要素を最適化できます。開業支援について詳しくは下記のページをご覧ください。
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青色申告の届出を出し忘れた場合は、どうすればいいですか?
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本来は開業から2ヶ月以内またはその年の3月15日までに届出を出す必要があります。期日を過ぎた場合は、まず税務署へ相談の上、翌年からの適用を目指す形となります。青色申告について詳しくは下記のページをご覧ください。
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AGAクリニックの開業費はすべてその年の経費にできますか?
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開業準備にかかった費用は「開業費」として繰延資産に計上し、任意の年数で償却可能です。初年度に全額償却することもでき、利益状況に応じた柔軟な節税が可能です。領収書や支出記録の保管を忘れずに行いましょう。
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脱毛クリニックの医療機器リースは経費になりますか?
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はい、医療機器のリース料は業務に必要な支出として、月々の経費として計上可能です。リース契約書の内容により処理方法が変わる場合もあるため、契約形態や耐用年数を税理士にご確認いただくと安心です。
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開業支援を受けた後も税理士と顧問契約し続けるべきでしょうか?
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経営が安定するまでの数年間は、税務顧問として継続的なサポートを受けることをおすすめします。資金繰り、節税、インボイス対応、法人化のタイミングなど、多岐にわたる判断が必要です。
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法人化後も節税効果を継続するには何が重要ですか?
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法人化した後も、役員報酬の見直し、退職金制度の活用、法人保険の最適化、決算賞与の活用など継続的な節税設計が必要です。私たちは決算前の利益予測と節税プランのご提案も行っております。法人化について詳しくは下記のページをご覧ください。
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記帳代行を依頼するメリットはありますか?
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忙しいクリニック経営者にとって、記帳代行を活用することで本業に集中でき、税務リスクを軽減できます。当事務所では会計ソフト不要でも対応可能で、丸投げプランや低コストな代行サービスもご用意しています。
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青色申告控除を最大限に活かすためのポイントは何ですか?
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最大65万円の控除を得るには、複式簿記での記帳、貸借対照表の作成、電子申告(e-Tax)などの要件を満たす必要があります。クラウド会計ソフトの導入や税理士によるチェックで確実に適用可能です。青色申告について詳しくは下記のページをご覧ください。
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インボイス制度の対応を怠るとどうなりますか?
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インボイス制度未対応の仕入先と取引を継続すると、仕入税額控除が受けられなくなり、実質的なコスト増になります。特に自由診療クリニックでは広告や物販など課税取引が多いため、登録状況の確認と請求書保存体制の整備が重要です。
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資金繰りが厳しいときでも節税対策はした方が良いですか?
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はい。適切な節税により納税額を減らすことでキャッシュフローの改善につながります。月次試算表をもとに利益予測を行い、資金繰り表と合わせて検討することをおすすめします。
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自由診療クリニックでは患者数の増加に応じて節税方法も変わりますか?
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はい。売上規模が拡大することで課税所得が増え、適用可能な制度や対策が変わってきます。法人化や分院展開の検討、役員報酬の再設計など、ステージに応じた節税戦略が必要です。
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節税の相談だけでも対応してもらえますか?
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もちろん可能です。節税に関するスポット相談も承っており、初回は無料相談をご利用いただけます。Webミーティング対応で全国どこからでもご相談可能です。お気軽にお問合せください。

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