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美容室オーナーが知っておくべき消費税ガイド:納税義務判定からインボイス制度への対応まで
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まずは、美容室経営における消費税の納税義務がどのように決まるのか、基本的なルールを確認しましょう。消費税法では事業規模の小さい事業者への配慮から、前々年度(個人事業主の場合)または前々事業年度(法人の場合)の課税売上高が1,000万円以下であれば、その年の消費税の納税義務は免除されます。通常、この「前々年度(期)」を基準期間と呼び、基準期間における課税売上高によって課税事業者(消費税を納める必要がある事業者)か免税事業者(消費税納税が免除される事業者)かが判定されます。
年間の課税売上高が1,000万円を超える場合、基本的にはその2年後に消費税の納税義務が発生します。たとえば、令和5年(2023年)中の課税売上高が1,000万円を超えた場合、直ちに令和5年や翌年の納税義務が生じるわけではありませんが、令和7年(2025年)から課税事業者として消費税を納める必要が出てくるという具合です。したがって、「去年売上が1,000万円を超えたから今年から消費税を払わなきゃいけない?」と心配する必要はなく、超えた年(期)の翌々年(期)が課税事業者となるタイミングになります。
ただし、これには例外的な判定期間もあります。特定期間と呼ばれる期間(通常、個人事業主の場合は前年1月1日~6月30日、法人の場合は前事業年度開始日から6ヶ月間)において、課税売上高が1,000万円を超えた場合や支払給与総額が1,000万円を超えた場合には、基準期間の売上高に関わらずその年は課税事業者となりえます。例えば個人事業主の美容室オーナーであれば、前年(基準期間の前年)の上半期に売上が大きく伸びて1,000万円超となった場合は、前々年の年間売上が1,000万円以下でも翌年は消費税を納める義務が生じます。このように原則と特例を踏まえ、自身の売上推移を把握しておくことが大切です。
新しく美容室を開業する場合、開業1年目・2年目は消費税が免除されるケースが多いです。というのも、新規開業の個人事業主や新設法人には前々年度に相当する基準期間が存在しないため、原則としてその開業初年度と2年目は課税売上高に関わらず消費税の納税義務が免除されるからです。このルールを俗に「2期免税」と呼び、新米オーナーには大きな助けとなります。
ただし、法人を設立して美容室経営を始める場合には注意が必要です。法人の場合、設立時の資本金額によっては新設1期目から消費税を納めなければならないケースがあります。具体的には、資本金が1,000万円以上で設立した法人は「特定新規設立法人」とみなされ、たとえ基準期間がなくても設立1期目・2期目の消費税免税措置は受けられません。したがって、美容室の法人化に際して資本金を設定する際は、1,000万円以上にすると即課税事業者になってしまう点に留意しましょう。また、法人設立後の2期目についても、前述の特定期間の要件(通常、設立1期目の前半6ヶ月の課税売上高や給与)が1,000万円を超えると消費税免除は受けられず、2期目から課税事業者になります。
以上をまとめると、新規開業・法人化時には原則2年間の消費税免除というメリットがありますが、「資本金1,000万円以上」や「特定期間での売上急増」といった例外条件に該当すると免税にならない場合があるということです。さらに、後述するインボイス制度に関連して、自ら適格請求書発行事業者(インボイス発行事業者)として登録する場合には、その時点でたとえ基準期間の売上が小さくても課税事業者となり消費税の納税義務が発生する点にも注意が必要です(インボイス登録については次章で詳しく解説します)。
基準期間の売上要件を満たして本来は免税事業者になれる場合でも、あえて自発的に課税事業者を選択した方が有利になるケースがあります。消費税法上、課税事業者として原則課税方式で申告を行えば、売上にかかる消費税より仕入れや経費で支払った消費税の方が多い場合にその差額が還付される(払い過ぎた消費税が戻ってくる)仕組みになっています。免税事業者のままではそもそも消費税の申告義務がないため、たとえ経費で多額の消費税を支払っていても還付を受けることはできません。そのため、開業初年度に設備投資や内装工事などで大きな経費支出が見込まれる場合には、あえて課税事業者としてスタートし消費税の還付を受けることを検討する価値があります。実際、美容業界でも店舗の新規出店時には初期費用が嵩むため、課税事業者届出を提出して開業し、設備投資に含まれる消費税の還付を受けるケースがあります。
ただし、課税事業者を選択する場合には注意点もあります。いったん「消費税課税事業者選択届出書」を税務署に提出すると最低2年間は免税事業者に戻れない(選択を取りやめられない)というルールがあるため、開業当初の還付メリットだけでなく将来的な消費税負担も踏まえて慎重に判断する必要があります。例えば初年度は大幅な還付を受けられても、2年目以降は毎年消費税を納め続けることになり、トータルでは不利になる可能性もあるからです。当税理士事務所では、このような選択に迷う場合にはシミュレーションを行い、課税事業者を選択すべきかどうかのアドバイスを提供しています。
なお、課税事業者を選択した場合でも消費税の負担を軽減する制度として簡易課税制度があります。簡易課税制度とは、あらかじめ税務署に届出をすることで利用できる特例計算方式で、業種ごとに定められたみなし仕入率を売上に乗じて仕入控除税額を計算するものです。前々期(基準期間)の課税売上高が5,000万円以下である中小事業者が対象で、届出を出した翌課税期間から適用されます。美容室の場合、主たる業種はサービス業(第5種事業)に該当し、そのみなし仕入率は50%です。つまり、売上に係る消費税額の50%相当を仕入にかかった消費税額とみなして控除できる計算となるため、実際の経費支出がそれほど多くない労働集約型のサービス業では有利に働くケースが多いです。例えば、美容室の年間課税売上に対する消費税額が100万円だった場合、簡易課税(第5種:50%)では一律50万円を仕入税額控除できるため納税額は50万円となります。一方、原則課税で実際の経費に含まれる消費税額が30万円程度しかなければ納税額は70万円となり、簡易課税の方が有利になる計算です。
簡易課税制度を利用するには事前の届出が必要であり、業種判定も伴うため計算はシンプルでも制度適用のハードルはあります。しかし、美容室オーナーにとって売上規模や経費構造によっては大きな節税メリットとなり得ます。当税理士事務所では、課税事業者となったお客様に対し、この簡易課税制度の適用可否や有利不利の分析も含めた消費税申告サポートを提供しておりますので、ご興味があればお気軽にご相談ください。
消費税について詳しくは下記のページをご覧ください。
次に、令和5年10月に開始した新しい消費税のルール、インボイス制度(適格請求書等保存方式)について解説します。インボイス制度とは、適用税率や消費税額など一定の事項が記載された「適格請求書(インボイス)」を発行・保存することを仕入税額控除の要件とする仕組みのことです。軽減税率(現在消費税率8%と10%が併存)への対応策として導入された制度であり、2023年10月1日以降の取引については、原則として買手は適格請求書(または適格簡易請求書)の保存がなければ仕入税額控除ができなくなりました。簡単に言えば、「消費税の仕入控除を受けるには、税務署に登録された発行事業者が発行する適格請求書を持っていないとダメですよ」というルールです。
適格請求書(いわゆるインボイス)とは、売り手(発行事業者)が買い手に対して発行する請求書等で、適用税率や消費税額、発行者の登録番号など一定の事項が記載されたものを指します。適格請求書発行事業者になるには、所轄税務署長に「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出して登録を受ける必要があります。登録を受けた事業者には税務署から登録番号が付与され、その情報は国税庁の公表サイトで公開されます。なお、登録できるのは原則として課税事業者のみですが、経過措置により2023年10月1日から2029年9月30日までの間に限り、免税事業者であっても申請により登録を受けることが可能です。免税事業者がこの登録を受けた場合は、その日から課税事業者に転換したものとみなされ(納税義務が発生し)ます。
インボイス制度導入前は、請求書や領収書の様式は各事業者に委ねられており、消費税額の記載がなくとも帳簿の記録があれば仕入税額控除が認められていました。しかし制度開始後は、原則課税方式を選択している課税事業者にとって、取引相手から受け取る請求書がインボイスでない場合には仕入税額控除ができなくなっています。これは美容室の経営にも関係します。美容室はお客様(一般消費者)相手のBtoC取引が中心ですが、取引先として業者から材料を仕入れることもあれば、フリーランスの美容師に業務委託料を支払うケースもあります。そうした仕入先や外注先がインボイスを発行できない免税事業者だと、消費税の仕入控除ができないため、結果として美容室側の消費税納税額(税負担)が増えてしまうのです。
では、年間売上が1,000万円以下で現在免税事業者である小規模サロンは、インボイス制度にどう対応すれば良いでしょうか。選択肢は大きく2つです。(1) インボイス発行事業者の登録をあえてしないで免税事業者のまま様子を見るか、(2) インボイス発行事業者として登録し課税事業者に転換するか——それぞれメリット・デメリットがあります。以下で順に考えてみましょう。
課税売上高1,000万円以下の美容室オーナーで、現在は消費税を納めていない(免税事業者である)場合、インボイス登録をしないという選択肢があります。この場合、引き続きお客様に対して消費税を預からずに済み、煩雑な消費税申告も不要です。当然、売上にかかる消費税相当額は自分の手元に残りますから、価格設定を変えなければ利益に直接の影響はありません。実際、インボイス開始後も免税事業者のままでいれば基本的に売上に影響はないとされています。なぜなら、美容室のお客様の多くは一般消費者(個人)であり、そもそも消費税の仕入税額控除と無縁だからです。お客様から見れば、店側がインボイス発行事業者かどうかは関係なく、従来どおり税込み価格でサービスを受けられれば問題ないわけです。
しかし、「影響がまったくない」というと言い過ぎになります。インボイス未登録を続けることによるリスクや不利益もいくつか考えられます。まず、取引先が事業者である場合の信用問題です。たとえば、美容室が企業や団体と取引をする(出張美容、商品の卸売、あるいは店舗の一部をテナントとして貸す等)際に、自社がインボイスを発行できないと相手は仕入税額控除が受けられません。そのため、「インボイスを発行できない事業者とは取引条件を見直したい」と思われてしまう可能性があります。極端な場合、取引の継続自体が難しくなることもありえます。
また、制度上の優遇措置を受けられない点にも注意が必要です。現在、国や自治体はインボイス制度への円滑な移行を促すため、小規模事業者持続化補助金をはじめとした各種支援策をインボイス発行事業者に限定して拡充しています。免税事業者のままだと、そうした補助金・助成金の対象から外れてしまい、結果的に損をする場合もあります。実際、「免税事業者のままでは受けられない補助金もあるため、売上1,000万円以下の美容室も将来を見据えて課税事業者になるか慎重に検討すべき」との指摘もなされています。
以上を踏まえると、現時点で売上規模が小さい美容室であっても、今後事業拡大を予定している場合や法人等の取引先がいる場合には、早めにインボイス登録することを視野に入れておく方が良いでしょう。一方、当面は個人客相手の商売に徹し、消費税の負担増なしに経営を安定させたいという場合は、無理に課税事業者になる必要はありません。「しばらく様子を見る」という選択も一つの戦略です。当税理士事務所では、お客様の経営方針に応じて最適なタイミングでインボイス制度へ対応できるようアドバイスを行っています。
次に、売上1,000万円以下の美容室がインボイス発行事業者として登録し、課税事業者になる選択肢を見てみましょう。免税事業者から課税事業者への転換は、つまり消費税を預かり納める義務を負うことを意味します。この場合のメリットとしてまず挙げられるのは、発行事業者となることで取引先に適格請求書を発行できるようになる点です。仮に法人顧客や他の事業者との取引がある場合でも、「インボイスが発行できない」という理由で取引を断られたり不利な条件を突きつけられたりする心配がなくなります。また、課税事業者になれば自社が支払った経費に含まれる消費税(仕入税額)を差し引いて納税額を計算できますから、シャンプー等の材料費や設備投資の消費税分を実質的に負担しなくて済むようになります。免税事業者の間は経費に含まれる消費税を取り戻す術がありませんでしたが、課税事業者になれば原則として仕入税額控除が使えるため、経費が多いほどその恩恵は大きくなります。特に、将来的に店舗拡張や高額設備の購入を予定している場合は、課税事業者になっておいた方が有利と言えるでしょう。
一方で、デメリットもしっかり押さえておかねばなりません。最大のポイントは、消費税分の価格転嫁をどうするかです。免税事業者であった間、美容室オーナーはお客様から預かった消費税相当額をそのまま利益にできていました。しかし課税事業者となった後は、預かった消費税は原則として国に納める必要があります。たとえば施術料金5,500円(税込)を頂戴していた場合、これまで消費税分500円はオーナーのものになっていましたが、インボイス発行事業者となった後はその500円を国庫に納めなくてはなりません。価格設定を据え置くと実質的な手取りが減少するため、経営に影響が出る可能性があります。対策としては、料金を税抜5,500円(=税込6,050円)に値上げして消費税分を別途転嫁する方法が考えられますが、価格競争力や顧客の反応も見極める必要があります。
ただし、インボイス制度の施行に伴い設けられた経過措置として、免税事業者だった小規模事業者が課税事業者に転換した場合には、納める消費税額を大幅に軽減できる「2割特例」が現在利用可能です。2割特例とは、令和5年10月1日~令和8年9月30日までに開始する課税期間において、一定の要件を満たす事業者(インボイス制度開始を機に免税事業者から課税事業者となった小規模事業者)が、売上に係る消費税額の2割だけを納付すればよいとする特例措置です。平たく言えば、本来なら売上消費税の全額から仕入税額控除分を差し引いた金額を納めるところ、仕入控除の計算に関係なく一律で売上消費税の20%だけ納めれば済むという簡便な制度です。この特例を利用すれば、先ほどの例で言えば本来500円納めるはずのところを100円(500円×20%)の納税で済ませられることになり、残りの400円は引き続き手元に残る計算です。インボイス発行事業者になっても実質的な負担はごく一部で済むため、免税事業者からの転換による利益圧迫をかなり緩和できるでしょう。
2割特例の適用に当たって事前の届出は不要で、自動的にその計算方法を採用できます。ただし、適用期間が限定されている点に注意してください(繰り返しになりますが令和8年9月までに開始する課税期間までの措置です)。特例期間終了後は、再度通常の計算(原則課税または簡易課税)に戻ります。また、仕入や経費が非常に多い場合には2割特例より原則課税を選択した方が有利となることもあります。例えば開業初年度で大きな設備投資を行ったようなケースでは、2割特例では仕入税額控除が一切できない分還付が受けられないため不利になり得ます。そのため、2割特例と原則課税・簡易課税のどれを選ぶべきかは事業者の状況によって異なります。当税理士事務所では、インボイス登録を検討されるお客様に対し、これら各制度の試算を行ったうえで最適な選択肢をご提案しています。
インボイス制度の導入は、美容室オーナーだけでなくフリーランスの美容師にも影響を与えています。業務委託契約で働く美容師が免税事業者のままだと、前述のように美容室側で仕入税額控除ができず税負担が増えるため、多くの美容室では「今後もうちで働くならインボイス発行事業者になってください」と要請する動きが広がっています。美容師側から見ると、インボイス発行事業者になるには課税事業者への転換が必要で、消費税の申告・納税という新たな負担が生じます。一方、インボイスに対応しないままだと「消費税分を差し引いて報酬を支払う」といった調整が行われ、事実上の収入減につながるケースも考えられます。このように、インボイス制度は美容室とフリーランス美容師双方の関係性や報酬体系にも影響を及ぼしています。当税理士事務所では、美容室と業務委託美容師との間で適切な契約調整が行われるよう、必要に応じて税務的な観点からサポートいたします。
次に、すでに課税売上高が1,000万円を超えている美容室の場合です。こうした美容室オーナーは現在課税事業者であり、毎年消費税の確定申告と納税を行っているはずです。このようなケースでは、基本的にインボイス発行事業者の登録は「必須」と考えてよいでしょう。というのも、課税売上高1,000万円超で課税事業者であるにもかかわらずインボイス未登録でいると、自身は消費税を納めなければならない一方で取引先に適格請求書を発行できないという非常に不利な状況に陥るためです。特に法人顧客や取引業者との関係において、インボイスに対応していない課税事業者は事実上ビジネスの相手に選ばれなくなってしまう恐れがあります。「消費税を払っているのに、発行する請求書が相手方の控除に使えない」という二重の損失を避けるためにも、売上1,000万円超の美容室は速やかにインボイス発行事業者の登録を済ませることが重要です。
インボイス発行事業者となるにあたっての対応ポイントを整理しておきましょう。まず、自社の請求書や領収書の様式をインボイス対応仕様に変更する必要があります。具体的には、自社の適格請求書発行事業者の登録番号、取引ごとの適用税率と税額、取引年月日、取引内容、発行者情報など、決められた項目を記載した様式へと切り替えます。幸い、美容室の多くは日常的に発行するのはレシートや簡易な領収書であり、顧客が消費者中心のため細かな明細や税率の記載が要求される場面は少ないかもしれません。しかし、美容室向けのレジシステムや会計ソフトでもインボイス対応が進んでいますので、レジから出力される領収書に自動で「適格請求書発行事業者」の要件を満たす項目が印字されるよう設定しておくと安心です。
また、社内の経理処理ルールの徹底も大切です。複数のスタッフがいる美容室では、お客様や仕入先への支払時に適格請求書のやり取りが確実になされるよう教育しましょう。特に仕入れ面では、消耗品や材料を購入する際に相手がインボイス発行事業者かどうか確認し、請求書やレシートは必ず保管するというクセをつけてください。万が一、インボイス対応していない事業者から調達せざるを得ない場合は、その分の消費税は控除不能(経費として全額負担)となるため、仕入先の選定を見直すことも検討しましょう。
インボイス発行事業者となった美容室オーナーにとって、頭を悩ませるのが取引先に免税事業者が含まれる場合の対応です。典型的なケースが、仕入先(材料や商品の購入先)や委託契約の美容師がインボイスを発行できない免税事業者である場合です。インボイス制度開始後、課税事業者である美容室は前述のように免税事業者からの仕入について仕入税額控除ができなくなるため、実質的な負担が増えてしまいます。たとえば、取引のあるヘアケア商品メーカーが小規模でインボイス未登録だと、その商品仕入れに含まれる消費税分は控除できずコスト増となります。また、業務委託契約の美容師が免税事業者だと、支払う報酬に本来含まれている消費税相当額を差し引けず、美容室側が丸々負担する形になります(その部分について仕入税額控除できないため)。
このような場合の対処法としては、まず可能であれば取引先にインボイス発行事業者の登録をしてもらうよう依頼することが考えられます。例えば長年取引のある仕入先であれば、「御社も適格請求書発行事業者の登録をご検討いただけませんか」と打診し、登録してもらえれば今後も何の問題もなく取引継続できます。委託美容師に対しても、「これからはインボイス発行をお願いしたい」と説明し、登録を働きかけることが望ましいでしょう。実際、前述のように多くの美容室でフリーランス美容師に対しインボイス発行事業者になるよう求める動きが見られます。
しかし、登録してもらえるかどうかは相手次第です。取引先にも事情や戦略がありますから、要望が必ず通るとは限りません。仮に交渉が難航した場合には、コスト補填や取引条件の見直しも検討しましょう。例えば、「インボイス発行ができないのであれば、御社からの仕入価格を消費税分だけ減額してもらえませんか」と依頼したり、取引自体を他の発行事業者に切り替えるといった対応です。また、委託美容師との契約では、「インボイス未対応の場合は報酬に消費税相当額を含めない(=10%減額する)」などの条件変更を行うことで、美容室側の負担増を回避するケースもあります。もちろん、関係性によっては報酬減額は難しく、人材流出につながる恐れもありますから慎重な判断が必要です。
まとめると、インボイス制度下では「取引先を発行事業者で固める」ことが理想ですが、現実には難しいこともあります。その際は自社で負担を被らない工夫(価格交渉や取引先変更など)を講じ、それでも避けられない負担増については経営計画に織り込んでおく必要があります。当税理士事務所では、お客様の取引先状況をヒアリングした上で、インボイス対応に関する具体的な施策立案もサポートしております。免税事業者との付き合い方に悩まれたら、ぜひ一度ご相談ください。
最後に、消費税に備えた具体的な対応準備と、税理士法人加美税理士事務所として提供できる美容室向けサポート体制についてご紹介します。美容室オーナーと一口に言っても、開業を計画中の方、副業でサロン運営をしている方、法人として複数店舗を展開中の方など様々です。ここではケース別に、今から取り組むべき準備や押さえておきたい税務上のポイントを解説し、当税理士事務所のサポート内容も併せてお伝えします。
現在、美容室の開業準備中で「これから個人事業主としてスタートする」という方向けに、消費税を含む税務面で今からできる準備を確認しましょう。新規開業時は何かと資金繰りや経費のことで頭がいっぱいになるものですが、消費税に関しても最初の段階で計画を立てておくことで後々の負担が変わってきます。
美容室を新規に開業するには、店舗物件の契約金・保証金、美容椅子やシャンプー台などの設備購入費、内装工事費、仕入在庫となるカラー剤や薬剤の購入費、広告宣伝費など、初期費用に多額の支出が伴います。これらの資金は、自己資金のほかに政策金融公庫の創業融資や銀行からの借入、自治体の創業支援助成金などを組み合わせて調達するケースが多いでしょう。資金繰り計画を練る際には、各費用項目に含まれる消費税額にも注目してください。
原則として、事業用の経費に含まれる消費税は課税事業者であれば後で仕入税額控除により取り戻す(または還付を受ける)ことが可能ですが、免税事業者だとそれができません。そこで、開業初年度に初期投資がかさむ場合には前述のとおりあえて課税事業者選択を検討する余地があります。例えば内装工事費500万円(消費税50万円)、設備購入費200万円(消費税20万円)といった具合に初期費用の消費税だけで数十万円にのぼるようなケースでは、課税事業者として開業して消費税申告を行えばその50万円+20万円=70万円の還付を受けられる可能性があります。一方、免税事業者のままだとこの70万円は戻ってこないため、自己資金や借入金で負担しなければなりません。
もちろん、課税事業者を選択すべきかどうかは今後の売上見込みとの兼ね合いです。還付を受けるために課税事業者になったものの、2年目以降の消費税納税額の方が大きくなってしまっては本末転倒です。先にも触れた通り、一度課税事業者を選択すると2年間はやめられないルールがあります。したがって、「初年度の還付メリット」対「2年間の納税負担増」を比較考量し、トータルで有利かどうかを見極める必要があります。当税理士事務所では、開業シミュレーション時に消費税の扱いも含めて最適な開業プランを一緒に考え、お客様にとってベストな選択をサポートいたします。
美容室オーナーが税理士と顧問契約を結ぶメリットは、消費税対応だけに留まりません。開業時から税理士と二人三脚で進めることで、以下のような多くの利点があります。
- 帳簿の整備と記帳指導: 開業当初から正確な会計帳簿をつけることは、事業の健康管理に不可欠です。税理士は適切な科目設定や記帳方法を指導し、経理体制の構築をサポートします。領収書の整理や経費計上のルールなども明確になるため、後から領収書が足りない・数字が合わないといった事態を防げます。特に消費税に関しては、経費の中で課税対応のものと非課税のものの区分を最初から意識しておく必要があり、税理士の助言が有用です。
- 青色申告・各種届出の支援: 個人事業主の場合、開業届や青色申告承認申請書、場合によっては消費税の事業者選択届出など、最初に提出すべき書類が多岐にわたります。税理士に依頼すれば、漏れなく適切に届出を行い、青色申告特別控除や各種特例の適用を受けられるよう手配します。これにより、節税メリットを最大限享受できます。
- 確定申告・消費税申告のサポート: 開業初年度は何かとイレギュラーな取引も発生しがちで、税務申告が難しく感じられるでしょう。税理士であれば美容室特有の経費(たとえば美容師のユニフォームや研修費用など)の扱いにも精通しており、適法かつ有利な申告書を作成できます。消費税の申告が必要になった場合も、原則課税・簡易課税の選択や2割特例の適用判断まで含めてプロの目線で対処します。
- 融資・資金調達の信用力向上: 顧問税理士がついていることは、金融機関に対して一つの信頼の証ともなります。また、税理士は事業計画書や資金繰り表の作成支援、金融機関との折衝助言などを通じて、資金調達面でもバックアップします。美容室のように初期投資が大きい業種では、税理士のサポートにより有利な条件で融資を引き出せる可能性もあります。
このように、税理士は開業時から経営と税務の心強いパートナーとなります。当税理士事務所(税理士法人加美税理士事務所)でも、美容室オーナー様の創業支援ノウハウがあり、帳簿づけから各種届出代行、融資サポートまで包括的にお手伝いしております。「経理や税金は初めてで不安…」という方は、ぜひ当税理士事務所の美容業開業サポートをご活用ください。開業支援について詳しくは下記のページをご覧ください。
近年では、美容室経営のほかにYouTubeやSNSでの発信、広告収入、物販など複数の収入源を持つ美容師・美容室オーナーの方も増えています。こうしたインフルエンサー型・複業型のオーナーが特に注意すべきが、複数事業の売上合算による消費税の判定と適切な税務処理です。
個人事業主の場合、営んでいる事業が複数あっても消費税の課税事業者判定は事業者単位で行われます。つまり、美容室の売上が年間800万円でも、別事業(例えばヘアケア商品のオンライン販売やYouTubeの広告収入など)で年間300万円の課税売上があれば、合計1,100万円となり基準期間の売上が1,000万円を超えるため、翌々年には消費税の納税義務が生じます。同じ個人名義で行っているビジネスは基本的に全て合算されますので、「事業ごとに見ると1,000万円以下だから大丈夫」というわけにはいきません。
さらに、複数事業を営んでいる場合の消費税申告では、原則課税・簡易課税の有利不利の検討や、簡易課税を選ぶ場合の事業区分の判定なども複雑になります。美容室と物販を両方行っている場合、前者は第5種事業(みなし仕入率50%)、後者は第2種事業(小売業:みなし仕入率80%)というように、事業ごとに区分しなければなりません。売上の内訳比率によって適用するみなし仕入率が変わる特例もありますので、自己判断が難しいところです。
複数の事業を営むオーナーにとって悩ましいのが、「消費税の課税事業者になるタイミングをどうするか」です。たとえば現在はいずれの事業も小規模で免税事業者だが、合算すると近く1,000万円を超えそう…という場合、早めに課税事業者選択をしておくべきか、ギリギリまで免税を維持するかは戦略が分かれるところです。
節税のポイントとしては、次のような視点があります:
- 事業の分離・法人化の検討: 複数事業の売上合計が1,000万円を超えそうな場合、一部事業を別法人として運営することで各事業体の売上を圧縮し、それぞれ免税事業者として継続する手法があります。例えば、美容室経営は個人事業のままにし、副業の物販事業を法人化して別会社にすれば、それぞれ単体の売上規模で消費税判定できます。ただし、法人化には設立コストや運営コストがかかる点、事業を人為的に分割することによるデメリットもあるため、実施の際は専門家と十分検討してください。
- インボイス制度への対応優先度: 複業の内容によっては、一部の収入源でインボイス発行事業者になる必要に迫られる場合があります。例えば企業タイアップのインフルエンサー収入がある場合、企業側からインボイス発行を求められることが想定されます。その収入だけ課税事業者になる、ということはできませんので、一度インボイス登録をすれば他の事業も含めて課税事業者となります。このように、一部分の事業ニーズから課税転換を検討しなければならないこともあります。
- 大型投資のタイミング: 複業オーナーの場合、設備投資などのタイミングを計ることで消費税負担を調整できることがあります。例えば近く課税事業者になる見込みであれば、高額な経費計上(店舗の改装、機材購入など)は課税事業者になった後に行えば、その分の消費税は控除・還付の対象となります。逆に免税期間中に大きな設備投資をしてしまうと、その分の消費税が戻らず不利になりかねません。
- 簡易課税制度や2割特例の活用: 課税事業者となった場合、複数事業を営むオーナーこそ簡易課税制度の活用を検討すべきです。事業区分ごとのみなし仕入率による計算は先述の通りやや煩雑ですが、上手に適用すれば消費税の納税額を抑えられる場合があります。また、インボイス導入時期に課税転換したなら2割特例の対象にもなり得ます。これら制度を駆使して、可能な限り消費税負担を軽減する戦略を立てましょう。
以上のような戦略は、一朝一夕に決められるものではありません。複業で活躍されている美容室オーナーの方こそ、ぜひ税理士に相談しながら長期的な消費税対応策を検討することをお勧めします。当税理士事務所では、お客様個々の収入構造や事業計画を伺った上で、法人化のタイミングや制度活用のシミュレーションなど踏み込んだアドバイスを提供しております。税務面の不安要素を取り除き、本業に集中できる環境づくりをサポートいたします。
最後に、すでに法人を設立して美容室を経営しているオーナー向けに、消費税対応のチェックポイントをまとめます。特に複数店舗を展開するようなケースでは、売上規模が大きく消費税額も高額になりがちですから、より戦略的な税務対応が求められます。
個人事業主から法人成り(法人化)を検討する際、消費税の観点は重要な判断材料です。前述の通り、法人成りすれば最大2期間の消費税免除が受けられる可能性があり、課税売上高が1,000万円を超えて消費税を払っていた個人事業主にとっては大きな節税メリットとなります。例えば、個人で年間1,500万円の売上があり消費税を納めていた方が法人設立すると、適切な資本金設定(1,000万円未満)と売上規模によっては設立1期目・2期目は消費税ゼロになるわけです。
しかし、法人化にはデメリットや留意点もあります。資本金1,000万円以上で設立すると免税措置がなくなる点は既に述べましたが、それ以外にも、例えば同一の事業を複数の会社に分割して免税メリットだけを享受しようとする行為は、場合によっては税務上問題視されるリスクがあります。美容室をチェーン展開する際に店舗ごとに別会社を設立すれば各社ごとに免税枠を得られますが、実態が一体経営であると判断されれば否認される可能性もゼロではありません。税務上適法かつ合理的な法人化スキームを検討するためにも、事前に税理士へ相談する価値は大いにあります。
当税理士事務所では、法人成りによる節税メリット・デメリットを消費税だけでなく所得税・法人税も含めて総合的に試算し、お客様にとって最適な判断を支援しています。「法人化すれば消費税が得」と聞いたものの決めかねている方は、ぜひ専門家の意見を聞いてみてください。
法人経営に移行した後も、消費税対応で気を付けるべき点はいくつかあります。まず、簡易課税制度を適用している場合における事業拡大に伴う課税区分の確認です。美容室の法人が物販事業(ヘアケア商品の販売等)や飲食事業(カフェ併設等)を手掛ける場合、それぞれ売上高を事業ごとに集計し簡易課税の事業区分を判定する必要があります。仮に売上の大半がサービス業(第5種)であっても、物販が一定割合以上ある場合は別途第2種事業としてみなし仕入率80%を適用する、といった処理が求められます。複数店舗を運営していると店舗別・事業別の集計が煩雑になりがちですが、日々の会計データを正確に分類・集計する仕組みを整えておかないと誤った消費税申告につながる恐れがあります。
次に、仕入税額控除の適正管理です。こちらは原則課税を適用している場合です。法人で店舗数が増えてくると、本部一括で商品を仕入れて各店に配分するようなケースもあるでしょう。その際、請求書(インボイス)の管理を徹底し、経理部門が漏れなく仕入税額を計上できるようにしておく必要があります。インボイス制度開始後は、言うまでもなく適格請求書の保存がない経費は控除不可です。「現場が領収書を紛失してしまった」「取引先からインボイスをもらい忘れた」ということがないよう、経理ルールを周知徹底しましょう。
また、消費税申告における中間納税にも留意が必要です。法人規模が大きくなり消費税額が一定額を超えると、年1回ではなく年3回・年12回といった頻度で中間納付をする制度があります。資金繰りに影響しますので、事前に把握して資金をプールしておくことが重要です。
店舗展開が進み会社規模が大きくなると、節税対策も高度なものが求められます。消費税について言えば、簡易課税制度の適用継続の是非や輸出免税の活用(仮に訪日観光客向け商品販売がある場合)など、多岐にわたる検討事項があります。また、消費税以外にも法人税・所得税・社会保険などトータルで経営に関わるコストは増大します。そうした中で、税務顧問(税理士)の存在価値はますます高まります。
税務顧問は、単なる申告書作成者ではありません。日々の経営データをチェックし、「もうすぐ消費税の納税義務が発生しそうです」「来期から中間納税が始まります」といったアラートを出したり、「このまま利益が出ると法人税が多額になるので設備投資を前倒ししませんか」といった節税策の提案を行ったりします。美容室経営に集中されているオーナー様に代わり、税務面から経営をサポートする参謀役といえるでしょう。
当税理士事務所では、美容室チェーンを経営する法人様向けにご希望があれば月次巡回監査や決算前検討会を実施し、適正な納税と節税の両立を図っています。消費税についても、課税期間ごとのシミュレーションやインボイス対応状況の確認、グループ内取引がある場合の適切な処理など、きめ細かく支援いたします。複数店舗展開で経理業務が煩雑になってきたと感じたら、ぜひ税務のプロの力を活用してみてください。それが本業発展のための近道となるはずです。
節税対策について詳しくは下記のページをご覧ください。
まとめ: 消費税は美容室経営において避けて通れない重要テーマです。基準期間の売上高1,000万円という一つのライン、インボイス制度への対応、小規模事業者ならではの特例活用など、押さえるべきポイントは多岐にわたります。本記事で述べた内容を踏まえつつ、自社の状況に即した最適解を導き出すことが肝要です。私たち税理士法人加美税理士事務所は、美容業界のお客様への豊富な支援ノウハウを有し、消費税を含む会計税務面でトータルサポートしております。専門家の視点を取り入れて、ぜひ貴サロンの経営改善・発展にお役立てください。疑問や不安がございましたら、お気軽に当税理士事務所までお問い合わせください。美容室オーナーの皆さまを全力でバックアップいたします!

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