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開業医・クリニック経営者のための税務調査ガイド
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税務調査とは、税務署(国税庁の管轄)が企業や個人の申告内容を確認し、適切に納税が行われているかを調べることです。事業所得のある個人開業医も対象となり得ますが、すべての納税者が調査されるわけではありません。むしろ確率としては毎年ごく一部(開業医を含む個人事業主の場合およそ0.5〜1%程度と言われます)に過ぎませんが、万一に備えて心構えと対策をしておくことが大切です。
税務調査の根本目的は、不公平やミスのない公平な納税の実現にあります。法律の範囲内での正当な節税は問題ありませんが、現実には故意の脱税や経理ミス・申告誤りも起こり得ます。こうした不正や誤りを是正し、適正な申告納税を担保するのが税務調査の役割です。調査官は申告内容と帳簿・証憑を照らし合わせ、所得や経費が正しく計上されているか、法律に反する処理がないかをチェックします。つまり、税務調査は医療機関にとって「決算書の健康診断」のようなものと言えます。
税務調査には大きく分けて「任意調査」(一般的な税務調査)と「強制調査」(いわゆるマルサによる査察)があります。強制調査は悪質な脱税が強く疑われる場合に、裁判所の令状に基づき強制的に行われるもので、一種の刑事捜査です。現金の差押えや家宅捜索も伴う厳しい調査であり、開業医レベルで強制調査を受けるケースは極めて稀です。一般のクリニックで行われる税務調査のほとんどは「任意調査」になります。
任意調査は通常、事前に税務署から連絡があり日程調整を経て実施されます(後述するように正当な理由なく拒否はできません)。調査官が訪問して帳簿書類や経営状況のヒアリングを行い、申告内容を確認するものです。任意とはいえ法律上、税務署職員には質問検査権が認められており、納税者は正当な理由なく調査への協力を拒めないとされています。したがって「任意だから放っておいて良い」というものではなく、通常は誠実に対応する義務があります。もっとも、後述するように調査には納税者の権利も配慮されるべきであり、必要以上に委縮する必要もありません。
一見すると、保険診療が中心の医療機関は税務調査と無縁に思えるかもしれません。しかし実際には開業医・クリニックは税務調査の対象になりやすい職種の一つとされています。その背景には以下のような医療業界特有の事情があります。
- 保険診療収入と自費収入の混在: 保険診療報酬はレセプト(診療報酬明細書)で管理され、公的機関から入金されるため漏れにくい一方、自費診療(自由診療)や美容・健診、ワクチン接種、サプリ等の物販収入はクリニック側で正確に計上しないと申告漏れが発生しやすい傾向があります。税務署もこうした自費収入の計上漏れを重点的にチェックする傾向があります。
- 経費計上の特殊性: 医院には医薬品や衛生材料、医療機器など特殊な経費項目があります。また、往診用の車両や自宅併用クリニックの光熱費等、事業と私用の按分が必要なケースも多いです。税務署は同業他院の平均と比べて経費割合が異常に高くないか、個人的経費を計上していないかを注視します。特に開業医は他業種と比べ所得規模が大きく経費の額も大きくなりがちなため、経費科目の内容まで細かく調べられる傾向があります。
- 数年周期で定期的に実施: 特段の不正がなくとも、一定年数ごとに機械的に調査対象となるケースがあります。医療機関では「最後の税務調査から5年程度経過すると声がかかる」とも言われ、実際に「特に心当たりはないのに調査が来た」という事例も珍しくありません。したがって「うちは大丈夫」と油断せず、常に来訪し得るものと考えておく方が良いでしょう。
- 調査実施のタイミング: 一般に税務調査は確定申告後の夏〜冬にかけて集中的に行われます。税務署では毎年7月に人事異動があり、新体制が落ち着く8月頃から本格的にその年度の調査が進むのが通例です。個人クリニックの場合、申告(決算)月が3月のことが多いため、秋口〜年末に調査が入るケースが多いようです。調査は通常、直近の申告年度を含む過去3〜5年分を一度に確認します。
以上のように、医療業界でも税務調査は決して稀ではなく、「誰にでも(内容によらず)やって来るもの」と捉えておくことが大切です。税務調査=「何か悪いことをしたから来るもの」というイメージで過度に恐れる必要はありませんが、日頃から正しい申告・経理を心がけ、公平な税負担に協力している姿勢を持つことが信頼につながります。
税務署は限られた人員で効率的に調査を行うため、「申告内容や状況から見て申告漏れのリスクが高そうな納税者」を選定する傾向があります。クリニックの場合、以下のような特徴があると税務調査の対象に選ばれやすいと言われます。ご自身の医院が該当しないかチェックし、心当たりがある場合は一層の注意と対策が必要です。
開業後まだ日の浅いクリニックは、一般に事業が軌道に乗るまで利益が出にくいものです。実際、開業後1〜2年は設備投資や広告宣伝に費用がかかり赤字〜トントンという医院も多いでしょう。税務署も開業直後の調査は基本的に様子見の場合が多いです。しかし開業から約3年が経過すると状況が変わります。
3年も経てば順調なクリニックは徐々に黒字化し、売上規模も拡大します。同時に経理処理がおろそかになったり、「これくらい大丈夫だろう」という気の緩みが出やすい時期でもあります。さらに税制面では、開業から2年間は消費税の納税義務が免除される特例がありますが、通常3年目からは消費税の申告・納税が始まります(※前々年の課税売上高が1,000万円以下なら免税事業者。新規開業時は前々年がないため2期目までは原則免税)。ちょうど3年目以降は消費税の申告も加わり、経理が複雑になるタイミングなのです。
以上の理由から、「開業後3年前後」は税務調査が入りやすい時期とされています。裏を返せば、1〜2年目のうちに経理体制を整備し、3年目に備えておくことが重要です。具体的には:
- 青色申告の届出と適切な帳簿作成: 開業時に青色申告承認申請を済ませ、損益計算や減価償却などを正しく処理しましょう。青色申告を利用すれば赤字の繰越控除等の特典がありますが、そのためには日々の記帳や決算書類の整備が必須です(いい加減な帳簿ではせっかくの控除が受けられないばかりか、税務署の心証も悪くなります)。※青色申告の詳細は「青色申告の特集ページ」をご覧ください。
- 開業計画と資金の記録: 開業資金として借入した額や自己資金の投入額、その使途(内装工事費、医療機器購入代、開業コンサル費用等)を明確に記録・証憑保管しておきます。開業準備中から領収書ファイルを作り、時系列で整理するクセをつけましょう。税務調査では過去に遡って「この支出は何ですか?」と聞かれることもありますが、資料をきちんと残しておけば慌てずに説明できます。
- 各種届出の漏れ防止: 税務上必要な届出書類(開業届、青色申告申請、給与支払事務所の開設届、源泉徴収の納期特例の申請など)を期限内に提出し、控えを保管しておきます。これらの書類は開業時の一度きりですが、しっかり対応しているか否かで税務署からの信頼度も変わります。特に青色申告申請は期限後提出だとその年は青色が認められないので注意が必要です。開業準備段階から税理士に相談し、必要手続きを網羅しておくと安心です。(届出や開業支援については「開業支援の特集ページ」も参照ください。)
以上を踏まえ、開業から3年未満の先生は「いずれ来るかもしれない3年目以降の税務調査」を念頭に、早期から経理体制を固めておきましょう。初めての税務調査がもし開業数年で来ても、「やましい点はない」と胸を張って言える帳簿づくりを今のうちに心がけてください。
クリニックの規模拡大や組織変更も税務調査のターゲットになりやすい要因です。開業から順調に成長し、「医療法人化」や「分院展開(複数院経営)」を果たした段階では、以下の点に注意が必要です。
- 売上・利益規模の急拡大: 分院を出したり法人化すると事業規模が大きくなり、売上高・利益も増えます。当然納税額も増えるため、税務署にとっては調査優先度が高い対象となります。「急成長しているビジネスは調査が入りやすい」と一般にも言われ、医療業界も例外ではありません。特に開業から3年以上経過して売上が大幅に伸びている法人・医院はマークされやすいでしょう。
- 法人化時の資産引継ぎ: 個人開業医が医療法人を設立した際には、事業用資産や在庫、債権債務を法人へ承継します。このとき適正な時価で引き継いだかが重要です。例えば個人で所有していた医療機器を法人に低価格で譲渡した場合、差額が個人から法人への贈与と見なされるリスクがあります。また、個人から法人への貸付金や立替経費がある場合も、整理せず残っていると後々指摘対象となり得ます。法人化時には税理士の指導のもと、契約書の取り交わしや資産評価を適切に行う必要があります(※医療法人化について詳しくは「法人化の特集ページ」をご覧ください。)。
- 役員給与・同族間取引: 医療法人になると院長は理事長(役員)となり、役員報酬の扱いが問題になります。役員給与は原則として毎月定額であること(定期同額給与)が損金算入の条件です。途中で増減させたり、事前確定届出のない賞与を支給すると、その部分は法人の経費と認められません。また、家族を役員や職員にして給与を支払う場合も要注意です。本当に勤務実態があり相応の報酬でないと、税務調査で「名目だけの給与」と判断され、経費否認されるケースがあります。法人化に伴い家族ぐるみで経営する場合は、職務内容や労働実態に見合った給与設定を心がけましょう(この点は後述「役員報酬の注意点」でも触れます)。
- 分院間の取引・管理: 複数の医院を経営すると、本院と分院間で物品の融通や経費配分など内部取引が発生します。例えば医薬品を本院一括購入して分院へ振り分けている場合、その費用負担の按分が合理的か、帳簿上明確にされているか確認が必要です。分院ごとの売上・経費管理が曖昧だと、税務署は「どんぶり勘定で申告漏れがあるのでは?」と疑いを持ちかねません。院ごと部門別に帳簿を分けるなど、分院展開時には経理体制の見直しを行いましょう。特に分院を別法人(MS法人や関連会社)にしている場合、その会社との取引価格が適正か(例:高額な管理料を本体から取って利益移転していないか)といった点も調査官はチェックします。グループ内取引は第三者間と同じ水準・根拠で行うことが肝心です。
以上より、医療法人や多店舗展開をしているクリニックは、「規模が大きくなった分チェックが厳しくなる」と考えてください。内部統制の整備や専門家による節税スキームの点検など、リスク管理を一段と強化することが望ましいでしょう。特に課税売上(消費税の対象となる収入)が大きく動くケースでは後述のとおり注意が必要です。分院で美容施術等を始め課税売上割合が増えた場合、消費税計算方法やインボイス対応も変わる可能性があります。そうした変化点があるときこそ税務調査に狙われやすいため、事前に税理士と対応策を検討すると安心です。※分院開設・展開について詳しくは下記のページをご覧ください。
自由診療(保険外診療)に力を入れているクリニックも税務調査でチェックが厳しくなりやすい傾向があります。美容皮膚科・美容外科、自由診療の歯科、アンチエイジングクリニックなどが代表例です。これらの医院では、施術や投薬にかかる費用を患者さんが全額自己負担するため、現金売上が発生しやすく、収入計上漏れのリスクがあります。保険診療と異なり第三者機関からの入金記録がないため、全て院内管理です。売上日報やレジの現金残高と預金入金額を付き合わせてチェックするなど、税務署も慎重に確認します。
また、自由診療は消費税の課税対象である点にも注意が必要です。保険診療収入は非課税ですが、美容系や自費の診療収入、物販収入(化粧品やサプリ販売など)は消費税課税売上となります。課税・非課税売上の区分経理が正しく行われていないと、消費税申告で誤りが生じ、調査で指摘を受ける可能性があります。「保険診療ばかりだからうちは関係ない」と思っていても、美容メニューを少し扱っている場合や自費のワクチン接種収入などがある場合には要注意です。税務調査では「課税売上を漏らさず申告しているか」が見られますし、課税売上が大きくなれば消費税申告義務も発生します(詳細は後述の消費税セクション参照)。
SNSやインターネット集客に積極的なクリニックも間接的に税務調査リスクと無縁ではありません。例えば、SNSで大規模な広告キャンペーンを打ち出し患者数を伸ばしている場合、税務署は広告費と売上の関係にも注目します。一般的な相場に比べて広告費が極端に多いのに売上が伸びていないと「経費を計上して利益圧縮しているのでは?」と疑われることがありますし、逆に広告費なりに患者数が増えているならそれ相応の売上計上がなされているか確認しようとします。また広告宣伝費の中に交際費や私的な支出が紛れていないか(例えばモデルやインフルエンサーへの謝礼名目で実は個人的な送金をしていないか)といった点もチェック対象です。
さらに、SNS上でクリニックや院長の派手なライフスタイルが発信されている場合、それが思わぬ形で調査の引き金になることもあります。実際にSNS投稿がきっかけで高級外車や豪華な生活ぶりが露見し、収入申告漏れが発覚したケースも報告されています。税務署は近年SNSやウェブ上の情報収集にも力を入れており、クリニックのホームページや院長のブログ・SNS等もチェックされる可能性があります。「人気院長」としてメディア露出が多い場合などは、それ相応の収入を申告していないと辻褄が合わなくなるため注意が必要です。
要するに、自費診療で現金収入が多い医院やSNS等で積極的に発信・集客している医院は、「収入計上漏れがないか?経費計上は妥当か?」という視点で税務署から注目されやすいと言えます。該当するクリニックでは一層、売上管理と経費の透明性確保に努めましょう。具体的には日々の現金売上を厳密に記録・即日預金する、レセコンや予約システムの患者数データと売上を突合する、広告費・交際費の使途を領収書にメモしておく、といった習慣づけが有効です。また、院長個人の資産購入(高額車両や不動産など)は事業と切り離し、クリニック経費で私的資産を買うようなことは厳禁です。税務調査では必要に応じて院長室や自宅の様子まで確認されることがあります。例えば「クリニックの利益で買った美術品が自宅に飾ってあればアウト」ということを肝に銘じ、公私の区分を明確にしましょう。
令和における大きな税制改正として消費税のインボイス制度(適格請求書等保存方式)の導入がありました(2023年10月開始)。クリニック経営にも少なからず影響がある制度であり、この対応状況も税務調査で確認される可能性があります。
まず、医療機関の収入は前述のとおり保険診療収入は消費税非課税、自費診療収入は消費税課税と区分されます。免税事業者(基準期間における課税売上1,000万円以下)である場合は消費税の申告義務はありませんが、インボイス制度施行後は免税事業者が発行する請求書は仕入税額控除に使えないため、取引先からインボイス発行を求められるケースがあります。例えば法人患者向けの健診契約や、美容クリニックで企業とタイアップした施術プラン等がある場合、インボイス発行事業者になるかどうか判断が必要です。インボイス発行事業者として登録すれば、その課税期間から消費税の納税義務が生じます。税務調査では、課税事業者でないクリニックがインボイスを発行していないか(発行していれば本来課税事業者なので納税が必要)、逆に課税事業者なのに適格請求書を発行せず取引先に不利益を与えていないか、といった点も確認されるでしょう。
また、消費税の申告誤り自体が調査で頻出の指摘事項です。医療機関特有の論点としては:
- 課税売上高1,000万円超判定の漏れ: 前々年の課税売上高に加え、特定期間(通常は前年1〜6月)において課税売上高および給与支払額の両方が1,000万円を超える場合には、翌年から課税事業者となる場合があります。この特定期間判定を失念し、消費税を納めるべき年度に免税と思い込んで無申告だったケースは要注意です。調査で売上計上時期のズレ修正などがあると、思っていた年度が課税事業者に該当して消費税について追徴をくらうということも起こり得ます。
- みなし仕入率や簡易課税の選択ミス: 課税事業者になった際、医療機関(第五種事業)は簡易課税制度を選択できますが、課税売上割合が大きいと簡易では不利になる場合もあります。制度を正しく理解せず不利な方法で申告していると、調査で指摘されるというより納税額で損をする恐れがあります。また選択届出の提出漏れにも注意が必要です。
- 仕入税額控除要件の不備: インボイス制度下では、消費税の仕入控除には適格請求書の保存が必要です。調査ではクリニックの経費について「適格請求書をちゃんと保存していますか?」と確認があります。とりわけ高額な医療機器購入費や院内設備工事費などはインボイスが発行されているはずなので、それが保管されていなければ控除否認リスクがあります。2023年10月以降の経費領収書は要チェックです。
- 預り消費税と納付額の差異: 自費診療等で預かった消費税を適切に申告・納付しているかも基本ポイントです。現金商売ゆえ、例えば預かった消費税をレジから抜いてしまい申告もれなどは論外ですが、念のため預り消費税の総額と申告納税額を突合して整合しているか、調査官は確認します。クリニックによっては院内薬や物品販売の消費税処理が曖昧な場合もあり、こうした点もヒアリングを受けるでしょう。
以上のように、消費税制度・インボイス制度への対応状況は調査官の関心事項です。対応が甘いと判断されれば「この際だから詳しく調べておこう」と深掘りされるかもしれません。2023年以降は制度変更もありミスが起きやすいので、専門家と相談して早めに対策・訂正をしておくことが望ましいです。例えば免税期間中でもインボイス発行事業者になるかどうかのメリット・デメリットを検討したり、初回の消費税申告前に試算してみるなど準備をしましょう。日頃から消費税にも強い税理士のサポートを受けていれば安心です。(消費税・インボイス制度の詳しい解説は下記のページをご覧ください。)
ここからは、実際に税務調査の連絡を受けてから調査が完了するまでの一般的な流れを解説します。「ある日突然税務署の人が来て帳簿をひっくり返すのか?」と不安な先生も、具体的な進行を知れば心の準備ができるでしょう。
税務調査は通常、事前に税務署からの連絡(通知)があります。多くの場合は税務署職員から医院あて、または顧問税理士あてに電話がかかってきて、「◯月◯日に◯◯年度分の税務調査を行いたい」と打診されます。電話では以下のような情報が伝えられます。
- 調査の対象税目(所得税か法人税、消費税、源泉所得税など)と対象年度(通常は直近○年分)
- 調査に来る予定の日付とおおよその時間(初日は午前10時頃からが多いです)
- 調査に何日くらい要する見込みか(小規模なら1日、通常は2日間程度と案内される)
- 当日用意しておいてほしい資料の案内
《通知を受けたら》まず落ち着いて日程を確認しましょう。提示された日がクリニックの外来日で都合が悪い場合、日程の調整交渉は可能です。急なオペ日や学会出張等があるなら遠慮なく申し出て、できれば休診日や午後休診の日にあててもらうと良いでしょう(調査中はカルテ閲覧のため診察室やスタッフを一部使う可能性があり、診療と並行だと何かと支障が出ます)。税務署も無理強いはしませんので、「〇曜日は終日休診なのでその日でお願いします」など自院の都合を伝えて日程調整しましょう。
日程が決まったら、すぐにやるべきは事前準備です。もし顧問税理士がいる場合はただちに連絡し、事前打ち合わせの機会を作りましょう。税理士が税務署と日程打ち合わせしてくれる場合もあります。通知から調査日までは通常1〜2週間程度の猶予があります(場合によっては数日のこともあります)。その間に以下の準備を進めます。
- 必要書類の準備: 税務署から指示された資料を集めます。典型的には過去〇年分の申告書一式、決算書、総勘定元帳、補助元帳(売上帳や経費帳など)、預金通帳、領収書・請求書ファイル、給与台帳、固定資産台帳、棚卸表などです。個人医院なら所得税の確定申告書、医療法人なら法人税申告書・決算報告書類が該当します。普段から整理していれば難しくありませんが、もし領収書がバラバラになっているようなら科目ごと月別など調査官が見やすい形に整理しましょう。特に現金出納帳・預金通帳はつじつまチェックに使われるため要準備です。
- 自社データの再確認: 過去の申告書や決算内容を自分でもう一度確認しましょう。「そういえば一昨年は接待交際費が突出して多かったな」「昨年は機器を大量購入して特別償却を使ったな」等、調査官の視点になって気になる点を洗い出すことが大切です。事前に気づいた疑問点は、税理士と相談して説明シナリオを用意したり、関連資料を揃えておくと安心です。例えば交際費が多かった年はその内訳リストを用意する、機器購入について補助金利用があればその書類を用意する、といった具合です。
- 税理士との事前ミーティング: 税理士が立ち会ってくれる場合、事前打ち合わせで調査官への対応方針を共有します。想定問答を練習したり、弱点になりそうな箇所のフォロー方法を決めておくと良いでしょう。税理士不在でご自身のみ対応する場合も、可能ならスポットで税務調査に詳しい税理士に相談(セカンドオピニオン)しておくと心強いです。当事務所でも税務調査前のワンポイント相談を受け付けています(詳細は後述)。
- 現場の整理: 調査当日に調査官が閲覧する可能性のある書類は事前に出しやすくしておきます。会計ソフトのデータを税理士事務所に預けているなら印刷物を用意してもらいましょう。また金庫やレジの中、棚卸在庫の置き場などもこの機会に点検し、帳簿残高と実物の不一致がないか確認します(古い薬剤の廃棄漏れがあれば処分記録を残す等)。カルテ等医療情報は基本調査対象ではありませんが、患者数や診療記録の裏付けとして質問されることもあります。必要最低限のカルテのみ閲覧許可を出すのが原則なので、医療秘匿情報の保護には十分配慮しましょう。
以上の準備を経て当日を迎えます。まとめると「通知→資料準備・内部確認→税理士と作戦会議→現場整理」という流れです。準備段階で不明点があれば税務署に事前質問することもできますが、基本的には税理士を通じて行う方がスマートでしょう。特に初めての税務調査では不安も大きいと思いますが、入念な準備こそ最大の防御策です。
いよいよ税務調査当日です。通常、調査官(国税調査官)は2名一組で来訪します。開始時間は午前10時前後が多く、まずは受付で身分証(調査官証)の提示があります。調査官は公務員証のような身分証明書を携帯していますので、必ず最初に提示を受けて氏名を確認しましょう(必要なら名刺ももらっておく)。そして院長先生や税理士と挨拶を交わし、調査がスタートします。
《初日の午前:オリエンテーションと概要ヒアリング》
調査官は調査の冒頭に「本日は◯年分の所得税(または法人税等)の調査で来ました。よろしくお願いします。」と簡単に趣旨説明をします。その後、まずクリニックの概況ヒアリングが行われるのが一般的です。典型的な質問としては:
- 医院の開業時期と経緯: 何年に開業し、現在〇年目か。分院がある場合はその開設時期。
- 診療科目と患者層: 内科クリニックなら主な診療内容、患者数の推移、1日平均来院数など。美容系なら主なメニュー等。
- 収入の種類: 保険診療収入と自費診療収入の割合、保険収入の入金サイクル(社保・国保から翌々月に振込等)や、自費は現金・カードどちらが多いか等。
- 経理体制: 会計ソフトは何を使っているか(弥生会計など)、記帳は誰がしているか(院長本人かスタッフか外部委託か)、月次で税理士チェックを受けているか。
- スタッフ体制: 従業員数(看護師◯名、受付◯名等)、家族は働いているか、役員(理事)が他にいるか。
- 設備資産: 医療機器や医院建物の所有関係(自前かリースか、建物は自己所有か賃貸か等)。
- その他: 最近大きな変化(増改築や新サービス導入など)はあったか、など。
こうした「事業のプロフィール」確認は、調査官が全体像を掴むために行います。リラックスして事実を答えましょう。雑談的に聞かれることもありますが、回答は簡潔かつ正確にが鉄則です。自信がない数字(「1日の患者数は…大体50人くらいですかね?」など)はあやふやに答えず、「平均50人程度ですが日により変動します」といった表現に留めるか、後で正確な資料を示すようにします。不用意に断定したり推測で答えることは避け、わからないことは「後ほど確認します」と保留するのも一つの手です。
《帳簿類のチェック:売上》
概況ヒアリングの後、具体的な帳簿の調査に入ります。調査官はまず売上の計上漏れがないかを重点的に調べます。医療機関特有の売上チェックとして以下が行われることがあります。
- レセプト件数との突合: 保険診療の場合、その期間のレセプト総点数に基づく診療報酬請求額が把握できます。調査官は国保連合会等から情報入手できる場合もありますが、クリニック側にレセプト件数や請求総額を尋ねることもあります。売上帳に記載された保険収入とレセプト請求額が概ね一致しているかを確認します(多少のズレは入金タイミングの関係で生じますが、大きな差異は未収金計上漏れ等の可能性があります)。特に年末時点の未収金(診療報酬の未収入金)の計上をきちんとしているかはチェックポイントです。例えば12月診療分の支払が翌2月になるケースで、未収計上を失念すると所得を過少計上してしまうため、指摘対象になります。
- 自由診療の領収書チェック: 美容医療や自費診療については、領収証や予約システムの記録と売上帳の整合が見られます。調査官は任意調査では基本的に患者個人名までは見ませんが、日計表やカルテIDベースで売上を抽出し、「この日の売上高に対し預金への入金額が少ないが現金手元残高はどう処理したか」といった質問をします。現金売上が多い場合、その管理方法(毎日銀行に入れているか、レジ金はどうしているか等)を聞かれるでしょう。例えばレジ現金が常に数十万円プールされていると、「多額な現金残があるが帳簿と合っているか」と問われます。現金商売では現金残高の突合作業も調査官が行うので、日々の現金出納帳が合っているか改めて確認されます。
- 特異な収入の漏れ確認: クリニック特有のその他収入、例えば交通事故診療(自賠責保険)の収入や健診の委託料、薬品メーカーからのリベート等があれば、その申告漏れがないか注目されます。こうした雑収入もきちんと帳簿に計上していれば問題ありませんが、「通帳には入金あるのに収入科目に計上されていない」なんてことがあると指摘は免れません。
調査官は売上原始資料(レセプト総括表や日報)から帳簿・申告書まで、一連の流れを辿って抜けがないか丁寧に見てきます。ここで一点、院長先生として注意したいのは「曖昧な返答をしない」「質問の意図を把握する」ことです。例えば「〇月の売上が他の月に比べ少ないのはなぜですか?」と聞かれた場合、単に8月でお盆休みがあったから減っただけかもしれません。その場合「お盆で休診日が多かったためです」と事実を答えれば十分です。決して「売上が少ないと怪しまれるかも…何か補填したと言うべき?」などと考え不要な発言をしないことです。質問の背景には何を疑っているのかを考え、心当たりがあれば素直に、特になければそのまま事実を答えます。税理士が立ち会っている場合は、このような質疑応答でフォローしてくれるので安心です。
《帳簿類のチェック:経費》
売上の確認が進んだら、次は経費項目のチェックに移ります。調査官は気になる費目から領収書や契約書類の提示を求めます。医療機関で指摘されやすい経費ポイントは例えば以下の通りです。
- 人件費(給与・専従者給与): 家族に給与を支払っている場合、その人の勤務実態や仕事内容について質問があります。「奥様に毎月20万円の給与を支払っていますが、主な担当業務は何ですか?」といった具合です。専従者給与(個人事業主の配偶者等への給与)は事前届出や金額の妥当性も見られますし、医療法人の役員給与は適正か、非常勤役員に高額報酬を支払っていないかなどもチェック対象です。実態のない給与や過大な役員報酬は経費否認になるため、説明できる根拠を用意しておきましょう。
- 貸倒れや未収金処理: 保険診療の未収金は通常確実に入金がありますが、自由診療で分割払い等にしていると貸倒リスクがあります。貸倒損失や引当金の計上があれば、その妥当性を詳しく聞かれます。また患者未収金の管理(督促状況など)について尋ねられることもあります。
- 減価償却資産: 医療機器や内装工事など高額資産の償却について、購入時の契約書・領収書を確認されたり、設置状況を目視されることがあります。例えば「今年導入のレントゲン装置(〇百万円)の設置場所を確認させてください」と調査官が診療スペースに入るケースもあります。架空計上がないかや、私物を計上していないかの確認です。もちろん実際に使っている設備なら何ら問題ありません。
- 地代家賃・水道光熱費: 自宅兼クリニックの場合、家事按分割合を質問されます。「全体延べ床○㎡のうち待合・診療部分は○㎡なので家事按分30%です」といった客観的説明ができると安心です。按分の根拠を示す資料(平面図など)があれば提出します。按分割合が不自然に高すぎると経費過大計上を疑われますので、誰が見ても納得できる基準かどうか再点検しましょう。
- 交際費・福利厚生費: クリニックの交際費は製薬会社や他院との付き合いなど少ないかもしれませんが、医局関連の会合費やスタッフ懇親会費用などが該当します。特に高額な接待飲食費があれば、その相手先や目的を聞かれます。「同業の先生との情報交換会食」「開業時に世話になった方との会食」等、正直に答えれば問題ありませんが、プライベートな飲食を経費計上していた場合は指摘を受けかねません。また、交際費に紛れて家族旅行の費用を研修名目で落としていないかなどもチェックされます。調査官は経費科目名だけでなく内容も見ますので、領収書の裏にでも参加者や目的をメモしておくと説明がスムーズです。
- 役員貸付金: 医療法人の貸借対照表に「役員貸付金」(理事長貸付金)が計上されていると、間違いなく質問を受けます。これは法人がお金を貸し付けている=社長(院長)が会社から金を引き出して返していない状態なので、税務上は好ましく見られません。「この貸付金はどういう経緯で発生しましたか?返済計画は?」と聞かれ、実質は役員への前払い報酬や私的流用ではないか確認されます。もし説明がつかない場合、貸付金が実態は役員への賞与と見なされ課税されたりします。心当たりがある場合は事前に税理士と是正策を相談しましょう。
このように、経費面では「事業と無関係な支出が紛れ込んでいないか」を主眼に調査が進みます。院長先生としては、経費一つひとつにどういう理由で使ったか説明できるよう、領収書やカレンダー予定を見ながら思い出せる準備をしておくと安心です。調査官も人間ですから、明らかに怪しい経費(例:家族旅行代を研修費と偽装など)がない限りは、きちんと説明すれば納得してくれるケースがほとんどです。逆に「えーと、この領収書何でしたっけね…」などと言葉に詰まると不審を招きます。普段から経費のメモを取る習慣がものを言います。
《実地の確認:現物・現場》
帳簿と書類の確認に加え、必要に応じて現物の確認も行われます。医療機関では以下のような場面があります。
- 現金の実査: レジや金庫の現金残高をその場で確認されることがあります。帳簿上の残高と合っていれば問題ありませんが、万一過不足があると理由を問われます。調査官が来る当日の朝時点で、一度現金残高を点検し帳簿と合わせておくと良いでしょう。
- 在庫の確認: 調査官によっては薬剤や衛生材料など在庫品の数量確認をすることがあります。これは棚卸資産の虚偽計上(架空在庫や過大在庫計上による利益調整)がないかを見るためです。医薬品庫や備品庫に案内し、「この在庫リストであっていますか?」と質問されることがあります。
- 設備・施設の確認: 前述の通り、高額資産が実在するか確認するため院内を一巡することもあります。また、自宅兼医院の場合でプライベート空間と診療所部分が明確に分かれているかを見ることもあります。調査官が勝手に住居スペースに踏み込むことはなく、あくまで任意の協力ベースですが、不必要な立ち入りはきっぱり断ることも可能です。基本は診療所エリアの確認に留まります。
以上、税務調査当日の流れとしては「質疑応答(ヒアリング)⇒帳簿類検証⇒(必要に応じて現場確認)」というイメージです。初日は概ねこれらで終日が過ぎます。調査官は必要に応じて領収書類のコピーを取ったり、メモを作成したりします。調査官同士でヒソヒソ相談していることもありますが、気にせずリラックスしてください。
《調査2日目以降》
小規模クリニックの場合、調査は1日で終わることもあります。法人で取引量が多かったり疑問点が多い場合は2日目が設定されます。2日目は初日に持ち帰った帳簿コピー等の精査結果をもとに追加質問があったり、初日で見きれなかった経費項目の確認などが行われます。例えば「交際費についてもう少し詳細を教えてください」「この貸付金の関連資料を見せてください」等のリクエストが出ます。用意できるものはすみやかに提示し、もしその場で回答が難しければ後日の提出でも構いません(提出期限はだいたい調査終了後1〜2週間以内を指定されます)。
調査日程が2日間でも、連日ではなく1週間空けて次回来訪ということもあります。その間に追加書類を準備しておくよう求められる場合もありますので、指示に従いましょう。
《調査官の態度や対応について》
任意調査の場合、基本的に調査官は礼儀正しく接してきます。しかし中には高圧的な物言いをする人や、医療の知識が乏しく的外れな質問をする人もいるかもしれません。そのような場合でも感情的にならず冷静に事実を説明してください。こちらが誠実に答えていれば、多くの調査官は理解を示してくれます。どうしても理不尽に感じる対応があれば、その場では波風立てず、後日税務署に設置されている「納税者支援調整官」などに相談する手もあります。ただ、ほとんどの場合は税理士が間に入って調整・軟着陸してくれますので、心配しすぎなくても大丈夫です。
すべての調査日程が終了すると、調査官は持ち帰った資料をまとめ、申告漏れや誤りがないか最終判断を行います。後日、税務署から「調査結果の連絡」があり、指摘事項があれば具体的に伝えられます。流れとしては:
- 問題なしの場合: 何も誤りが見つからなければ「申告内容に特に問題ありませんでした」と口頭または書面で伝えられます。令和元年の税制改正以降、法人税等の調査では申告是認(問題なし)だった場合に「更正等しない旨の通知書」を交付する取り扱いになっています。個人でも同様の運用があります。つまり「あなたの今回の申告は適正でしたよ」というお墨付きがもらえるわけで、これは納税者にとって安心材料です。もっとも、そこまで正式でなく口頭説明のみの場合もあります。
- 誤りがあった場合: 申告漏れ所得や過大経費など誤りが指摘された場合、その内容と修正すべき税額が示されます。例えば「交際費のうち〇〇円は個人的支出なので経費から除外します」「売上の計上漏れが△△円ありました」といった具合です。指摘に納得した場合、修正申告という形で訂正手続きを取ります。これは自主的に間違いを訂正して追加納税する手続きです。調査官から指摘を受けてから提出する修正申告でも、形式上は納税者の自主訂正という扱いになります。修正申告書の作成は税理士がいれば代行してくれますし、いなければ税務署が書き方を指導してくれます。
- 追加の税額とペナルティ: 修正申告をすると、不足税額に加えて過少申告加算税というペナルティ税が課されます(期限後申告や無申告だった場合は無申告加算税)。過少申告加算税は原則10%ですが、修正で納める税額が当初申告の不足分としてかなり大きい場合(50万円超でその不足割合が当初申告税額の10%超の場合)は15%に引き上げられます。また、調査官に指摘される前に自主的に修正申告した場合は加算税が5%軽減されます。逆に悪質な隠蔽・仮装があった場合は重加算税35〜40%と非常に重いものになります。よほどの故意的脱税でない限り重加算税は適用されませんが、もし交際費を架空名義で落としていた、売上を意図的に抜いて二重帳簿を作っていた等がバレれば重加算となります。加算税のほか、不足税額に対しては本来納付期限からの延滞税(年利概ね14.6%※日割)もかかります。したがって指摘事項に該当する税額が大きいほど、追徴税額(本税+加算税+延滞税)は高額になります。3年分まとめて修正すると何十万円〜何百万円になるケースもあります。
- 納得できない場合: 指摘にどうしても納得がいかない場合、調査担当者と再度協議することも可能です。税理士を通じて主張や追加資料を提出し、見解の相違を埋められないか試みます。それでも平行線なら、税務署側は「更正決定」(税務署が一方的に訂正する処分)を行い、納税者には更正通知書が届きます。その場合、納税者は不服があれば異議申立てや審査請求といった行政救済手段を取ることになります。もっとも、一般的な範囲の指摘事項でここまで争うケースは稀です。コストや時間もかかるため、現実には税理士と相談し「多少不本意でも修正申告して終わらせる」判断をすることが多いです。異議申立てなどは税理士や税務訴訟に強い弁護士の助力が必要になるため、その道の専門家に任せましょう。
《税務調査の終了》
修正申告書を提出し追加税額を納付すれば、ひとまず今回の税務調査は完了です。税務署からは「是正事項についてご協力ありがとうございました。今後お気をつけください。」などと講評がある程度で、正式な「完了通知書」が来るわけではありません(是認だった場合は前述の通知があるくらいです)。したがって、修正申告をもって一連の手続き終了と考えてよいでしょう。
《調査後にやるべきこと》
税務調査が終わったらホッとするのは当然ですが、指摘を受けた点は今後繰り返さないよう改善が必要です。例えば家事按分について指摘を受けたなら、今後は合理的な按分根拠を記録しておく、交際費の判定に迷ったら税理士に相談する、など再発防止策を講じましょう。税務署は次回調査の際、前回指摘事項がどう改善されたか必ず見てきます。同じミスを繰り返すと心証が悪くなるので、税務リテラシーを高めるチャンスと捉えてください。また、この機会に改めて月次での帳簿チェックや税理士とのコミュニケーションの重要性も実感できたと思います。調査後のフォローについては後述する税理士サポートの項で詳しく述べますが、今回の経験を今後の経営に是非活かしてください。
税務調査は数年に一度あるかないかですが、日頃の備えがいざという時の明暗を分けます。ここでは開業医の先生が日常的に実践できる税務調査への備えを紹介します。いずれも特別なことではなく、経営者として当然の心掛けですが、これらをコツコツ続けていれば調査が来ても怖くありません。
「帳簿はウソをつかない」──税務調査で一番の味方になってくれるのは、きちんと整備された日々の帳簿と証憑類です。日常業務がお忙しい中でも、以下の基本を押さえておきましょう。
- 会計ソフトでこまめに記帳: 手書き帳簿の時代と違い、今は弥生会計やfreee(フリー)など便利な会計ソフトがあります。銀行明細やクレジットカード明細を自動取込できる機能も活用し、日々または少なくとも月次で記帳を行います。【「レセプト収入の入力漏れ」「経費の科目付けミス」】などは月内に見直せばすぐ修正できますが、年末にまとめて記帳するスタイルだと記憶も曖昧でミスが放置されがちです。「忙しくて入力が…」という場合は記帳代行サービスやスタッフへの権限委譲も検討しましょう。税務調査では3〜5年前の帳簿も見られます。月次できちんと締められた帳簿なら過去を遡っても不備がなく、調査官からの信頼度が高まります。
- 領収書・請求書類の保存と整理: 医院運営では多くの領収書(レシート)や請求書が発生しますが、必ず保管しましょう。税法では原則7年間の保存義務があります。クリアファイルに月別・科目別に綴ったり、スキャンして電子データ保存するのも良いでしょう(電子帳簿保存法の要件に注意)。特に飲食を伴う交際費は領収書裏に参加者氏名・目的をメモ、医療機器購入や工事代金の請求書は契約書とセットでクリアファイルに、という具合に第三者が見ても分かる整理を心掛けます。調査では数年前の領収書について質問されることもありますが、整理されていればその場で提示して説明できます。逆に「領収書を捨ててしまった」は通用しませんし、最悪経費否認の憂き目に遭います。
- 現金管理の徹底: 現金商売部分がある医院では、現金の動きを明朗にしておくことが重要です。日々の現金売上はできるだけ早く銀行に預け入れ、長期間クリニック内に多額の現金を置かないようにします。日計表や出納帳で毎日の収入現金・支出現金・残高を把握し、定期的に実残高と帳簿を照合しましょう。現金過不足が出た場合はその理由をメモに残します。税務調査では「何月何日の終業時現金はいくら?」というレベルまで細かくは見ないものの、年末残高や概ねの現金推移には目を通します。ここが整合していれば、売上漏れや着服がないことの裏付けになるのです。
- 銀行口座の事業専用化: 法人口座と院長個人の口座は明確に分け、事業用支出は極力事業用口座・事業用クレジットカードを使うようにします。個人事業の先生も、プライベートと事業のお金は分けましょう。調査では通帳コピーも分析され、プライベート入出金が頻繁に混じるとややこしくなります。事業と無関係なお金が入ってくる場合(相続や個人の不動産収入など)は説明できるよう印を付けておくと親切です。
- 青色申告特典のフル活用: 青色申告者は正規の簿記(複式簿記)により帳簿作成・申告することが求められますが、その分税務上のメリットがあります。赤字の繰越控除や、30万円未満の少額減価償却資産の即時経費処理、事業専従者給与の必要経費算入などです。これら特典を受けている場合、税務調査でも帳簿の整備状況を重点チェックされます。いいかえれば、「青色申告の恩恵を受けている以上、ちゃんと経理していますよね?」という目で見られるということです。日頃から帳簿・書類の整備に努め、胸を張って青色申告の信頼に応えましょう。
以上のように、毎日の経理を丁寧に行うことが最大の調査対策です。経理ソフトの入力から証憑整理まで「月次できっちり締める」ことを習慣化すれば、数年後に税務署が来ても何一つ怖がる必要はありません。もし自力で難しければ、医療業界に強い税理士や会計事務所に顧問を委託するのも賢明です。最近ではオンラインでクラウド会計データを共有し、遠隔で記帳チェックや決算対応してくれる事務所も増えています。当事務所ではfreee会計や弥生会計などの会計ソフトにも対応できるよう、体制を整備してあります。
税務調査で医療業界の院長先生によく指摘されがちな論点として、「家事関連費の按分」「役員給与の扱い」「同族会社間のお金のやり取り」があります。日頃から以下の点に注意しましょう。
- 家事按分の適正化: 「家事按分」とは事業と私生活で共用する費用を按分して経費計上することです。クリニックでは自宅兼医院の場合の水道光熱費・固定資産税、通信費、車両費などが該当します。税務署は按分比率が不自然に高くないか注目します。例えば、自宅兼用なら床面積按分や時間按分で合理的に計算し、按分根拠をメモや図面で保存しましょう。「なんとなく半分を経費に…」では説得力がありません。車のガソリン代も、訪問診療で月◯km走行などの記録を残し按分すると安全です。電話やインターネットも事業用回線を分けるか、家族使用分を差し引く工夫が必要です。按分割合は客観的に説明できる基準で設定し、もし家事関連経費が全くなければ経費化しない勇気も時には大切です。按分の問題は、税務調査で「この計算根拠は?」と必ず問われますので、自信を持って示せるよう準備しておきましょう。
- 役員報酬の適正と届出: 医療法人の理事長や役員に対する給与(役員報酬)は、定期同額の原則に従って支給しましょう。毎月同じ金額で支給し、事前に定めた額以外の賞与等は出さないことが基本です。期中で増減させると、その増減部分は法人税法上損金不算入(経費にならない)となり、調査で指摘されます。また「役員報酬は多いほど法人税圧縮になるから」と高額に設定しすぎると、法人では経費OKでも役員個人で高率の所得税を払う羽目になり本末転倒です。税務上は報酬額の多寡自体は否認されませんが、同業他社と比べ極端に高額だと注意を引くでしょう。さらに注意したいのは家族役員への報酬です。例えば配偶者を役員にして実質働いていないのに高額役員報酬を支給するケースは、調査で「職務実態のない役員給与」と見做され、経費否認されるリスクがあります。家族が役員になる場合は役割を持たせ、議事録や勤怠記録で働きを示せるようにしてください。また、個人開業で青色専従者給与を支給している場合も、税務署に届出した金額どおり定期払いし、実態以上の水増し給与はNGです。役員給与・専従者給与は税制に則った運用をしていれば調査で問題になることはありませんが、恣意的にいじるとすぐ分かります。毎期の期首に税理士と報酬額を検討し、届出等もれなく対応しましょう。
- 理事長貸付金等の資金取引整理: 医療法人やMS法人を運営している場合、代表者と法人の間のお金の貸し借りには細心の注意を払いましょう。法人の決算書に「理事長貸付金」あるいは「理事長借入金」といった科目がある場合、それが何なのか調査で必ず突っ込まれます。多くは法人から理事長への貸付、つまり法人資金の個人流用です。この状態を放置すると、税務上は貸付金=隠れた利益配分と捉えられ、貸付金相当額が役員賞与(利益の私的流用)と見做される恐れがあります。もし一時的に法人のお金を個人で立て替えたなら速やかに返済し帳簿から消す、逆に理事長が立替えた経費は経費精算して返す、など貸付・借入金科目をできるだけゼロに近づける運用をしてください。どうしても理事長への貸付が解消できない場合、役員報酬の前払い扱いに切り替える方法や、配当ではないものの利益処分としての貸付金相殺など、専門的な対処が必要です。これは税理士に相談してしかるべき手を打ちましょう。ポイントは、法人と個人の資金の線引きを曖昧にしないことです。プライベートな資金需要(例:自宅購入)に法人のお金を使わない、仮に使ったらすぐ返す、これを徹底すれば調査でも安心です。
以上3点はどれも医療系税務で典型的なチェック項目です。逆に言えば、ここをしっかりしておけば調査官から一目置かれます。「この院長先生は税務リテラシーが高く、きちんと処理しているな」と思わせれば、調査もスムーズに終わるでしょう。不安があれば早めに専門家に確認し、虎の子のお金を守ってください。
開業医の先生方の中には、少しでも手元に残るお金を増やそうと様々な節税策を講じている方も多いでしょう。適切な節税は経営努力の一環ですが、中には税務調査で否認されてしまう節税スキームも存在します。税務署が「行き過ぎた租税回避」と判断するケースをいくつか挙げます。
- MS法人スキームの濫用: 医療法人がMS法人(メディカルサービス法人)を設立し、受付業務や物品販売をその法人に切り離すケースがあります。本来は経営効率化目的ですが、極端な例では医療法人からMS法人へ過大な管理料を支払い、医療法人の利益を意図的に圧縮する手法が問題視されます。取引価格に合理性がない場合、税務調査で否認されるリスクがあります。実際、「MS法人には人員も設備もなく実態がない」「医療法人とMS法人の取引が名ばかりで利益移転の手段に過ぎない」と判断され、経費否認された事例もあります。もしMS法人を活用するなら、業務実態と対価のバランスを常に検証し、不自然な資金移動になっていないかチェックが必要です。
- 家族への過大な給与・外部委託費: 前述したように、家族従業員や関連者への支払いが不相応に高額だと調査で指摘されます。例えば、何もしていない親族を「顧問」と称して高額報酬を払う、実在しない従業員に給与を払う(架空人件費)などは明確な不正です。また、例えば院長の個人所有不動産を医院が借りている場合、市価とかけ離れた高額家賃を支払っていると「家族内で所得分散を図っただけ」とみなされ、超過部分は経費否認となり得ます。同族間取引は第三者基準を常に意識し、行き過ぎた利益移転スキームは採用しないことです。
- 生命保険・退職金スキーム: 法人であれば、役員退職金の損金算入や法人契約の高額生命保険による節税策もあります。これ自体は合法ですが、過去には高額な節税保険(支払保険料の大半が損金算入でき後に解約返戻金を受け取るタイプ)が問題となり、税制改正で封じられました。調査でも、保険料を利用した利益操作がないか確認されます。同様に、院長の退任間際に異常に高額な役員退職金を計上した場合も、「功績倍率」等の基準から大きく逸脱すると一部否認されるケースがあります。税制趣旨を逸脱した過度の節税策は結局認められないと心得ましょう。
- 経費水増し・架空計上: 節税のために実際より経費を多く見せる行為は当然違法です。典型例はプライベート旅行を研修扱いにする、家族の食事を接待費にする、個人の車や自宅の費用を事業経費に紛れ込ませるなどです。調査では領収書からそれらは見抜かれますし、交際費や旅費の日程を聞かれて答えに窮すれば不正が露呈します。「バレなきゃいい」式の経費水増しは重加算税のリスクもあります。正当な範囲の経費計上に留め、私的費用は潔く自己負担しましょう。
- 申告漏れギリギリを狙う行為: よく聞く話に「課税売上高が1,000万円を超えると消費税がかかるから、少し抑えて999万円にしておこう」というものがあります。しかし、課税売上高が毎年1,000万円ギリギリだと税務署も疑念を抱きます。「恣意的に売上を調整していないか?」と見られ、場合によっては期ずれ計上などの不正が疑われて調査対象となり得ます。実際に毎年偶然ギリギリだっただけでも、目をつけられる可能性があるので、あまり意味のない小手先の調整はやめましょう。医業収入は季節変動や患者動向で上下するものですから、売上を意図的に抑えるより、むしろ伸ばして正々堂々納税した方が健全です。
以上、調査で否認される節税とは「度が過ぎたもの」です。逆に言えば、真っ当な節税策(青色申告特典の活用、法人化による税率引下げ、生命保険の範囲内活用、設備投資による特別償却など)は何ら問題ありません。税務署も違法でない行為まで否定しませんし、納税者には法律の範囲で節税策を講じる権利があります。大切なのは、節税と脱税・租税回避の線引きを理解することです。「これはグレーかな?」と感じるスキームは自分だけで判断せず、必ず税理士に相談しましょう。巷の噂話に飛びついて独自策を実行するのが一番危険です。税務調査ではプロの目でチェックされますので、胸を張って説明できないようなスキームには手を出さないことが肝要です。※より詳しい節税対策については下記のページをご覧ください。
最後に、日常的な税務リスク低減策として「顧問税理士との密な連携」を強調しておきます。定期的な月次レビューや面談を行うことで、税務調査への備えが格段に高まります。
- 専門家のセカンドチェック: 経営に集中している院長先生にとって、税務は専門外のことも多いでしょう。顧問税理士がいれば、毎月または四半期ごとに帳簿データをレビューしてもらいましょう。税理士はプロの視点で「これはちょっとリスクがある処理では?」という点を指摘してくれます。例えば交際費に計上しようとしている費用が実は福利厚生費にすべきだったとか、消費税区分の誤りなど、早期に修正できます。調査が入る頃には手遅れのことも、リアルタイムでチェックしていればそもそも問題が起きません。
- 課題の事前発見: 売上や経費の科目ごとの推移を税理士と確認する中で、「今期は交際費が多めですが合理的範囲ですね」等、自院の数値の特徴を把握できます。他院の一般水準も税理士は知っているので、「広告費が収入に比して高いので効果検証しましょう」「在庫が増えすぎていませんか」などビジネス的な助言も得られます。結果的に申告内容も税務署目線で見て違和感のないものになり、調査リスクが減るでしょう。最近は税理士が決算前に税務リスク検討会を開き、改善提案を行うケースもあります。当事務所でも決算前に1年を振り返り、問題点を潰すお手伝いをしています。
- 書面添付制度の活用: 税理士との月次面談を重ね、内容に自信のある申告には、書面添付制度(税理士法33条の2)を活用する手もあります。これは税理士がその申告書をどこまでチェックしたかを詳細に記載して添付提出するものです。書面添付があると、万一調査になってもまず税理士に意見聴取する段階が設けられ、それで疑問が解消されれば本格調査が省略される可能性もあります。実際に調査の日数短縮や中止になった事例も報告されています。この制度を活用するには日頃から税理士との緊密な情報共有が不可欠です。手間はかかりますが、調査回避・短縮のメリットを考えると検討価値は大きいです。
- 定期面談で経営も安定: 税務調査対策だけでなく、税理士との定期面談は経営管理にもプラスです。財務数値を共有することで医院経営の現状把握が進み、節税のみならず利益確保や将来投資の計画も立てやすくなります。税理士はいわば財務のホームドクターです。何でも相談し、「お金のかかりつけ医」として活用しましょう。税務署への対応も任せられるので精神的負担が減り、本業の医療に専念できます。
このように、優秀な顧問税理士は最高の税務調査対策になります。もちろん税理士に丸投げではなく、院長先生自身も数字に関心を持って月次報告を受けることが大切です。お互いの信頼関係が深まれば、万一調査になっても税理士がしっかり守ってくれるでしょう。調査後のフォローも含め、税務の伴走者として税理士を上手に活用してください。
税務調査において、税理士の立会いがあるかないかは心強さに大きな差が出ます。ここでは税理士が提供する税務調査サポートの内容と、そのメリット、さらに当事務所の特徴的なサポート事例をご紹介します。
前述のとおり、税理士がいる場合は税務調査の通知が来た段階で即座に連絡し、事前対策がスタートします。税理士が行うサポートは大きく分けて以下のフェーズにわたります。
- 事前対策(プレ調査準備): 税理士は過去の決算書・申告内容を精査し、調査でポイントになりそうな箇所を洗い出します。例えば売上と預金入金の突合、経費科目の高額項目、在庫・固定資産明細の整合性チェックなどを行います。必要に応じて修正申告や訂正を事前に提案する場合もあります(明らかなミスが判明した場合など)。また、院長先生へのヒアリングを通じて想定される質問事項と回答案を準備します。「この経費はどう説明しましょう」「家族給与の役割を整理しましょう」等、当日の受け答えをリハーサルするイメージです。さらに調査当日に提出すべき書類の準備も税理士がチェックリストを作ってサポートします。不備があれば事前に補完し、万全の態勢で当日を迎えられるよう導きます。
- 調査立ち会い(当日サポート): 調査当日は税理士がクリニックに同行し、調査官と納税者の間に立って交渉・対応します。具体的には、調査官からの質問に対し院長に代わって税務的観点から回答したり、専門用語の説明を補ったりします。調査官が帳簿をチェックしている間、税理士はその様子を観察し、調査官の関心事項を読み取ります。もし調査官が誤解しているような点があれば、その場で訂正・解説することもあります(例:「これはこういう特殊な医療控除なので問題ありません」と説明するなど)。また、調査官が要求する資料について提出範囲をコントロールする役割も果たします。納税者に不利益になりかねない不要な資料提供は、税理士がやんわりと制限します。質問への回答に困った際も税理士がフォローし、「後ほど正式に回答いたしますので少々お待ちください」と場を収めることができます。調査官とのやりとりは緊張しますが、税理士が緩衝材となることで院長先生は平常心を保ちやすくなります。
- 税務署対応(交渉・主張): 税務調査では意見の相違が出ることもあります。そうした際、税理士は納税者の立場で論理武装して税務署と交渉します。例えば「この経費は業務関連性が薄いので否認」と言われた場合、税理士は法令や判例を踏まえて「業務関連性が認められた事例もあります」「必要経費の範囲として妥当です」と主張し、調査官に再考を促します。税理士は税法の専門家ですから、調査官もむやみに突っぱねず議論に応じます。結果、当初の指摘が撤回・軽減されるケースもあります。また、税額計算や加算税の適用可否など技術的な点も税理士がしっかりチェックします。税理士がいれば、納税者一人では難しい専門的な主張も可能となり、不利な追徴課税を防げる可能性が高まります。
- 調査後フォロー: 調査終了後、税理士は修正申告書の作成や追徴税額の試算、分割納付の手続き相談など、事後の手続きもサポートします。指摘事項を受けて今後の経理処理の改善策も提案してくれます。調査官への追加資料提出や問い合わせ対応も、税理士が窓口になってくれるので安心です。いわば最後まで伴走し、調査によるダメージを最小限にとどめる役割を果たします。
このように、税理士の税務調査サポートは「事前準備」→「当日対応」→「事後処理」までフルカバーしています。初めて調査を迎える院長先生にとって、経験豊富な税理士の存在は百人力です。「何を聞かれても税理士がフォローしてくれる」という安心感は精神的余裕を生み、結果として冷静で的確な対応につながります。税理士なしで臨むと、調査官の質問意図を誤解して不用意な発言をしてしまったり、指摘に過剰反応して揉めてしまったりするリスクがあります。税務のプロがそばにいることで、調査官とのコミュニケーションも円滑になり、スムーズに調査が終えられるのです。
では、いざという時頼りになる「税務調査に強い税理士」とはどんな税理士でしょうか。顧問税理士を選任・変更する際は以下のポイントに留意すると良いでしょう。
- 医療業界の専門知識: クリニックの税務に明るい税理士を選ぶことは大前提です。医療業界特有の論点(保険収入の未収計上、医療法人の非営利性に基づく留意点、消費税の扱いなど)を理解していない税理士では、適切なアドバイスができませんし調査対応も心許ないです。医療専門の税理士事務所や、医療クライアントの実績が豊富な税理士を選びましょう。「医科・歯科に強い」「○件以上の医療顧問実績」などを打ち出している事務所は安心材料です。ただし実績誇張には注意し、面談で具体的な経験談を聞くと良いでしょう。
- 税務調査対応の経験: 税務調査は実践経験がものを言います。経験豊富な税理士ほど調査官の心理や対応のコツを知っており、冷静に交渉できます。「過去にどれくらい税務調査立会いを経験していますか?」と尋ねてみても良いでしょう。中には元国税調査官の肩書きを持つ税理士もいます。必ずしも元調査官である必要はありませんが、そのような経歴の税理士は税務署側の論理も熟知しており、調査で有利に働くケースがあります。要は、税務調査を数多くこなしてきた“場慣れ”した税理士が望ましいということです。
- 交渉力・説明力: 調査官と堂々と渡り合える税理士かどうかも大切です。税務署からの指摘に何でも唯々諾々と従うだけではなく、おかしいと思ったら根拠を示して反論できる気概があるかどうか。逆に、税務署の言い分が正しい場合にはそれを柔らかく納税者に伝える調整力も必要です。また、院長先生への説明も分かりやすく丁寧であることが望ましいです。専門用語ばかり並べるのではなく、「それは法律上こういう理由で難しいです」「これは主張すれば通る可能性があります」といった具合に平易な言葉でコミュニケーションしてくれる税理士が信頼できます。
- 迅速なレスポンス: 税務調査の連絡は突然来ます。その際にすぐ捕まらない税理士では不安です。連絡したら早急に対応してくれる機動力も重要なポイントです。日頃からレスポンスが遅い税理士だと、調査対応も後手に回りがちです。メールや電話の対応速度、事前打ち合わせの日程調整の柔軟さなどをチェックしましょう。特に医療機関は診療時間が読みにくいので、夜間や土日の問い合わせにも対応できる体制だと安心です。
- 全国対応・IT活用: 現在ではオンライン会議やクラウド会計で遠隔地の税理士とも十分連携できます。もし地域に希望の専門税理士がいない場合、全国対応可能な税理士事務所を視野に入れるのも手です。当事務所も含め、フルリモートで税務顧問・調査立会いを行う事例も増えています(次項で事例紹介)。ITツールに明るい税理士はDX時代の医療経営にもマッチするでしょう。
- 相性と信頼感: 最終的には人と人との相性も無視できません。税務調査はある意味センシティブな場ですから、税理士と院長先生の信頼関係が何より重要です。話しにくい雰囲気の税理士には相談事項も相談しづらく、結果コミュニケーション不足になりがちです。何でも気軽に聞ける人柄かどうか、これは実際に会ってみて肌で感じるしかありません。最初の面談やお試し相談を活用し、「この先生になら任せられる」という直感を大切にしてください。
以上を踏まえ、税務調査に強い税理士=医療に詳しく経験豊富で、交渉上手かつ機動力があり、信頼できる人物ということになります。欲張りな条件に思えますが、クリニック経営において良きパートナーとなる税理士選びは極めて重要です。ぜひ時間をかけてでも適任者を見つけ、長く付き合っていくことをお勧めします。当事務所でも、初回無料相談等を通じて相性を確かめていただければ幸いです。
当事務所(税理士法人加美税理士事務所)は、医療業界専門の税務サービスを全国のクリニック向けに提供しております。中でも特徴的なのが、フルリモートによる税務調査サポートです。遠隔地のクライアント様でも、オンライン技術を駆使して万全の対応を実現した事例があります。
〈事例(※):地方開業医の税務調査をオンライン立会いでサポート〉※架空の事例です。
九州地方で開業しているA先生(内科クリニック院長)から、ある日突然「税務署から調査の連絡が来たが、顧問税理士がいない。遠方だがサポート可能か?」とお問い合わせをいただきました。A先生は日頃からご自身で記帳されており、税務に不安を抱えていたところでした。当事務所では即座にオンライン面談を実施し、過去の申告内容と帳簿データをクラウド経由で送っていただきました。経験豊富な税理士チームがデータを精査し、調査までにZoom会議で2回の事前ミーティングを行いました。
調査当日、現地にはA先生と税務署調査官が対面しましたが、当事務所税理士もZoom越しにリアルタイム同席しました(事前に税務署にもオンライン立会いの了承を得ています)。調査官の質問はスピーカーフォンで共有され、税理士が即座にチャットでA先生にアドバイスしたり、その場でマイクを通じて調査官に補足説明する場面もありました。例えば、調査官が指摘しかけた消耗品費の件では、税理士がオンライン上で該当資料を提示しながら説明し、納得いただくことができました。地理的距離を感じさせないスムーズなコミュニケーションに調査官も驚いていた様子です。
結果、A先生のケースでは大きな指摘事項もなく、追徴税額ゼロで調査完了となりました。A先生からは「遠隔でもここまで手厚くサポートしてもらえるとは思わなかった。精神的負担が全然違った」と感謝のお言葉をいただきました。現在も引き続き当事務所が顧問税理士としてA先生をサポートしており、クラウド会計を共有しながら月次決算や節税対策に取り組んでいます。
このように、当事務所では場所を問わず全国の開業医の先生方に税務調査サポートを提供しています。フルリモート対応には以下のメリットがあります。
- 距離のハンデ解消: 都市部以外の先生でも専門特化した税理士サービスが受けられます。地域に詳しい税理士がいなくても心配ありません。通信環境さえあれば日本中どこでもサポートいたします。
- 迅速対応: オンラインなら移動時間ゼロで即打ち合わせ可能です。調査通知から日がない場合でも、すぐに複数回の打合せを設定できます。書類のやり取りもクラウド経由でスピーディーです。
- 院長の負担軽減: リモート立会いにより、調査当日も税理士がすぐそばに控えている安心感があります。必要に応じて画面共有で帳簿データを調査官に示すなど、ITツールを駆使した対応が可能です。先生は対面応対に集中でき、難しい説明は税理士がフォローします。
- コストメリット: 遠方への出張料等が発生しないため、費用面でもご負担を抑えられます。当事務所ではオンラインサポートプランも整備し、明瞭会計でサービス提供しております。
今後は税務調査自体もオンライン化が進む可能性があります(近年、一部で電子データ提出やリモート調査の試行も始まっています)。当事務所はその流れにもいち早く対応し、最新のITを活用した税務支援を追求しています。「うちの近くに医療に強い税理士がいない」「顧問を変えたいが遠方で難しい」とお悩みの先生も、ぜひ一度ご相談ください。全国どこからでもフルリモートで対応し、税務調査の不安を取り除くお手伝いをいたします。
開業医の先生と一口に言っても、キャリアや経営ステージによって直面する税務課題は異なります。ここではライフステージ別に、税務調査で特に注意すべきポイントを整理します。ご自身の状況に照らしてチェックしてみてください。
まだクリニック開業前で準備中の先生にとって、税務調査は少し気の早い話に思えるかもしれません。しかし開業前から税務対策は始まっています。将来の調査で困らないために、以下の点に留意しましょう。
- 開業資金の記録と計画: 開業資金として親から援助を受ける場合は贈与税に注意です。年間110万円を超える資金提供は贈与とみなされ課税される可能性があります。家族からの支援は契約書を交わして借入(金銭消費貸借契約)にする等の対策を検討してください。また、自己資金や融資で調達した開業資金は、用途ごとに使途明細を作成しましょう。内装工事〇円、医療機器△円、当面の運転資金×円…といった具合です。これにより開業後の減価償却計画も立てやすくなりますし、調査で「開業費用はどれくらいかかったか?」と聞かれても即答できます。金融機関からの融資を受けた場合は返済計画表も保存し、借入金の使途を帳簿で管理します。
- 各種届出を忘れずに: 税務署や自治体への開業関連届出は期限内に確実に提出しましょう。具体的には税務署へ「個人事業の開業届出書」(開業後1ヶ月以内)、「青色申告承認申請書」(開業後2ヶ月以内)、家族に給与を払うなら「青色事業専従者給与に関する届出書」(開業後届出、遅くともその年の3/15まで)等です。さらに従業員を雇う場合は「給与支払事務所等の開設届出書」も提出します。これらの届出は将来の税務調査云々以前に、青色申告の権利や給与経費化の権利を得るために必要な手続きです。一度逃すと取り返しがつかない場合もあるので注意してください。また、開業時には社会保険や厚生年金の手続き、各種医療機関の指定申請(保険医療機関の届出など)もあり煩雑です。漏れがないよう、一覧リストを作って管理しましょう(当事務所でも開業期の各種手続きをトータルサポートしています)。
- 開業準備費用の整理: 開業前には物件探しや研修参加など様々な支出が発生します。これら開業前の費用も、開業後にまとめて「開業費」として計上すれば任意償却できるため初年度に全額経費にできます。領収書や契約書は開業前のものもすべて保管し、どこまでを開業費としたか分かるようにしておきましょう。税務調査で「この費用は開業前ですね?」と確認されることがありますが、正しく開業費で処理していれば何ら問題ありません。開業準備中から経費ファイルを作る習慣がつけば、開業後もスムーズです。
- 専門家の活用: 開業直前は資金繰りや物件契約、スタッフ採用などやることが山積しがちです。税務面でも開業支援に強い税理士に早めに相談すると負担軽減になります。開業前から顧問契約する必要はありませんが、スポットで計画相談に乗ってくれる事務所もあります。当事務所でも事前相談を承っており、「資金計画の税務チェック」「法人で開業すべきか否かのシミュレーション」等を行っています。こうした専門家の知恵を借りることで、後々の税務調査でも有利になる選択(例えば最初から医療法人として開業していた方が良かったケースなどを見極められる)もあります。若手の先生は是非アンテナを広く張り、開業準備段階から税務の視点を持ってください。
開業して間もない個人事業(法人化前)のクリニックの場合、経営が軌道に乗り始める時期に差し掛かります。税務調査に備え、この段階で見直しておきたい事項は以下です。
- 消費税課税事業者への移行確認: 前述の通り、新規開業から2期は消費税が免除されるケースが多いですが、3期目以降は課税事業者になる可能性があります。具体的には「開業1年目(前々年、基準期間)または2年目の上半期(特定期間)で課税売上高が1,000万円超」なら3年目から課税事業者です。開業3年以内の先生は、自院の売上推移を確認し、いつから消費税申告が始まるかを早めに把握してください。初年度から想定以上に自費収入が伸びた場合など、「免税だと思っていたら実は3年目から課税だった」という例もあります。消費税課税が始まるなら、インボイス発行事業者の登録も必要になりますし、納税資金の準備も要ります。税務調査では、開業3年目以降で消費税をちゃんと申告しているか、特定期間判定を失念していないか確認されることがあります。自院が課税事業者該当かどうか迷ったら税理士に相談し、必要な届出(場合によっては簡易課税選択など)を怠らないよう注意しましょう。
- 帳簿付け・科目の見直し: 開業から数年、自力で帳簿を付けてきた先生は、一度プロの目で帳簿を診断してもらうことをおすすめします。医療特有の勘定科目の使い方(例えば薬剤費を消耗品費に入れているが適切か等)や減価償却の計算、家事按分の処理など、見よう見まねでやってきた部分にミスが潜んでいないかチェックが必要です。税務調査ではこうした初歩的な間違いも見逃しません。例えば「開業時に購入した◯◯は資産計上すべきなのに全額経費にしている」などが発覚すると修正対象です。早めに修正申告すればペナルティは軽微で済むこともあります。逆に青色申告特典を使い忘れて損していた所が見つかるかもしれません。3年目は経理の棚卸しの好機と捉えましょう。
- 法人化の検討: 個人クリニックで順調に利益が出始めると、医療法人化(法人なり)のメリット・デメリットを考える頃合いです。税務調査とは直接関係ありませんが、所得が大きくなるにつれ税率の低い法人化は有利になります。法人化すると税務調査の頻度が上がる傾向はありますが、その分節税幅も広がります。3年以内で所得が急増している場合は、税理士と法人化シミュレーションを行い、ベストなタイミングを探ると良いでしょう。適切な時期に法人化していれば、それ以降の役員給与や消費税処理も組み直せ、税務リスクを管理しやすくなります(ただし法人化自体は別の専門テーマなので詳細は割愛します。法人化については詳しく「法人化の特集ページ」をご参照ください)。
- 保険請求漏れ・レセプトチェック: これは税務というより業務上の話ですが、開業後の慣れないうちはレセプト請求漏れや入力ミスも起こりがちです。診療報酬の請求漏れ=申告漏れにつながりますので、レセプト点検は毎月しっかり行いましょう。数年経ち慣れてくると油断が出る頃です。税務調査でレセプト総額と売上が不一致だと指摘されますから、日頃から二重チェック体制を築いてください。
開業3年以内の時期は、経営の基礎固めと税務体制整備が鍵です。ここでしっかり見直しておけば、この先調査が入っても大崩れする心配はありません。初心忘るべからずで、ぜひ税務の自己チェックを行ってみてください。
すでに医療法人を設立している、あるいは複数の分院を運営しているようなクリニックでは、規模が大きい分だけ税務も高度になります。中堅〜大規模医療法人フェーズで気を付けたいのは以下の点です。
- 組織再編時の税務: 医療法人の分割・合併や、MS法人との統合など、組織再編を行う場合には専門家の関与が必須です。組織再編税制に則って適格要件を満たせば税負担なく再編できますが、一歩間違えば多額の譲渡益課税や贈与税が発生する恐れがあります。税務調査でも、大きな組織変更が行われたケースでは念入りにチェックされます。「この再編で不自然な資産移動や評価減がないか?」等を見られます。例えば個人から法人への財産移管で時価と簿価に差が大きいと、贈与認定されるリスクがあり、調査でも問われるでしょう。再編時には事前に税理士とスキームを構築し、税務署にも事前相談するくらい慎重に進めるべきです。ベテラン院長の方は次の事業承継も視野に入る頃かと思いますので、再編絡みの動きをしたら調査対象になるくらいの意識で準備しましょう。
- 課税売上高の増大と消費税対応: 分院を展開し自費診療メニューも拡充している場合、課税売上高が大幅に増えている可能性があります。年間5000万円以上の課税売上高になると、消費税の計算で簡易課税制度が使えなくなり原則課税になります。また預り消費税も巨額になるため、納税資金の管理が重要です。税務調査では、売上規模が大きい法人ほど消費税のチェックも厳しくなります。適格請求書発行事業者の登録状況、仕入控除の適否、輸出入など特殊取引があればその税務処理など、多岐にわたります。大規模法人ほど消費税専門の調査官チームが対応するくらいですので、消費税対策は怠りなく行いましょう。具体的には、税理士と相談して輸入医療機器の輸入消費税控除、診療報酬に係る仕入控除補填制度(医科診療報酬の消費税補填)なども含め、最適な消費税申告を心掛けることです。インボイス制度下では売上先からインボイスを求められるケース(産業医活動や企業健診など)もあり得ますので、そうした対応状況も確認しておきましょう。
- 多店舗ゆえの内部管理: 複数クリニックを持つと、現場任せになりがちな部分が出てきます。例えば各院で日計表の付け方が統一されていない、経費精算ルールが院長直属でないため緩くなっている、等です。こうした内部統制の緩みは税務調査でも思わぬボロを出しかねません。規程類を整備し、スタッフ教育も定期的に実施して、全院で同水準の会計処理を行うようにしましょう。また、内部監査部門の設置も検討に値します。規模が大きくなれば、税務調査に先立ち自社で内部監査を行い、問題点を是正する体制が理想です。実際、大病院などでは内部監査部門があり税務含めチェックしています。中規模クリニックでも、顧問税理士に年1回全院監査を委嘱するなどの方法で対処可能です。内部チェックを強化すれば、いざ税務署が来ても慌てる箇所はなくなります。
- 経営内容の開示: 大きな医療法人になると、公表資料(事業報告書等)も充実してきます。税務署もそうした公開情報を事前に入手して調査に臨みます。「この法人は昨年新規開院したな」「理事長が交代したようだ」など事前情報を持っています。調査のヒアリングも深掘りされることが予想されますので、理事長や経営陣は自法人の経営内容をきちんと把握して説明できるようにしておくべきです。特に資金繰りや借入状況、大口取引先との契約などは質問されてもいいように準備しましょう。小規模の時はなかった反面調査(取引先への照会)も、大きい法人になると実施される場合があります。後ろ暗い取引がなければ恐れることはありませんが、何事も自法人だけでなく関係先含めクリーンにしておく必要があります。
要するに、組織が成長すると税務管理も高度化せざるを得ないということです。院長一人で管理できる範囲を超えたら、専門スタッフや外部専門家を活用して体制を整えましょう。これまで以上に税理士・社労士との連携が重要になります。当事務所でも、複数分院を持つクライアント向けにチームを組み、総合的な税務監査サービスを提供しています。規模が大きくなっても油断せず、「ウチくらいになるといつ調査が来てもおかしくない」と常に緊張感を持って経営に当たることが肝要です。
長年クリニックを経営してきたベテラン院長先生の場合、現役中の税務もさることながら、引退や次世代への承継も視野に入ってくるでしょう。ベテランならではの留意点を挙げます。
- 事業承継時の税務監査: クリニックをお子様(後継医)に承継する、あるいは第三者に譲渡する際、事前に税務デューデリジェンス(税務監査)を実施することを強くお勧めします。長年の経営で蓄積した帳簿を改めて点検し、承継時に潜在的な税務リスクがないか洗い出すのです。例えば過去の交際費処理で問題がないか、棚卸資産評価に不備がないか、役員貸付金が残っていないか等を確認します。これを怠って承継すると、承継後に税務調査が入り過去の問題を指摘され、後継者にツケが回る恐れがあります。実際、院長交代直後は税務署もチェックに来やすいと言われます(相続税も絡むケースでは相続税調査と同時に所得税調査が入ることも)。せっかく円満承継しても税務トラブルで後継者に迷惑をかけては本末転倒です。事前に自主的に税務問題をクリアにしてから事業承継することが、先代院長の責任と言えます。
- 相続税と所得税の複合問題: ベテラン院長が引退=ご高齢であれば相続税の対策も現実味を帯びます。診療所用不動産、自宅、金融資産など資産が多岐にわたる場合、相続税申告も煩雑です。税務調査も、被相続人(先代院長)の生前所得税調査と相続税調査を一体で行うケースがあります。生前に医療法人から多額の役員退職金を受け取った場合、その適正額かどうかや退職金支給の手続きが正しく踏まれていたかなど、所得税側と相続税側両面から見られます。役員退職金は高額になりがちなので税務署の目も光りやすいです。退職金規程に基づいた算定か、臨時改定などしていないか確認しましょう。また、事業用資産の相続税評価(例えば持分評価や不動産評価)もスムーズにいくよう事前に対策を立てるべきです。税理士や税務に強い弁護士とチームを組み、事業承継税制の特例適用なども視野に入れて検討します。ベテラン院長ほど守るべき資産も多く、それが税務調査で狙われる可能性も高いと心得てください。
- 個人資産管理会社の活用: 長年の蓄財で個人資産(不動産賃貸や株式投資)が増えている先生も多いでしょう。それらを資産管理会社に移管して節税するスキームもあります。ただ、医療法人の理事長が自らの資産管理会社と取引する場合、税務上の問題がないよう注意が必要です。例えばクリニック建物を理事長個人(またはその資産管理会社)が所有し法人に貸している場合、賃料の設定は適正か、修繕費負担の区分はどうか等です。資産管理会社が形骸化していると、経費を集中計上して税逃れしているのではと疑われかねません。税務調査では医療法人と関係会社とのやりとりも調べられますから、資産管理会社を使ったスキームも行き過ぎないようにしましょう。毎年契約書を更新する、資金のやり取りは銀行振込で明確にする、といった基本を守り、不自然さを払拭することが大事です。
- 記憶に頼らない記録整備: ベテラン院長ともなると「昔のことはあまり覚えていない」という場面も増えます。しかし税務調査では5〜7年前、それ以上前の相続税まで含めると10年以上前の事項について質問されることもあります。その際、当時の議事録やメモ、契約書類がしっかり残っていれば説明可能ですが、記憶だけでは限界があります。特に後継者に引き継ぐタイミングでは、重要な税務関連記録を整理・引き継ぎましょう。例えば「◯年◯月◯日に本院建物を長男に贈与した(贈与税申告済)」といった事項は事実メモを残すなどです。後継の先生が調査で聞かれても資料を示せれば対応できます。長年の歴史を紙に起こし、情報共有する作業は面倒ですが、将来の紛争予防になります。
まとめると、ベテラン院長ほど「引き際の税務」を意識してください。これまで築いたクリニックを次世代にスムーズに譲るためにも、税務面の整理整頓が必要です。自分一代では問題化しなかったことも、代が変わると表面化することがあります。税務調査はある意味それを洗い出す場でもありますから、自発的に生前に対応策を講じておくことが最良の対策です。当事務所でも事業承継や相続対策のノウハウが豊富にあり、安心してご相談いただけます(※詳細はは下記のページをご覧ください)。ベテランの先生が最後まで晴れ晴れとした気持ちでご勇退できるよう、万全のサポートをいたします。
最後に、税理士法人加美税理士事務所が提供する税務調査対応サービスについてご案内いたします。当事務所は医療業界専門の知見を活かし、開業前〜開業直後〜医療法人化〜承継に至るまで、あらゆるステージの先生方をサポートしております。税務調査対応も「事前相談・リスク診断」から「当日立会い」、そして「事後フォロー」までトータルにお手伝いします。
①事前相談・リスク診断: 「もしかして調査が来るかも」「調査の連絡があったが不安」という段階で、まずはお気軽にご相談ください。経験豊富な税理士がヒアリングし、クリニック特有のリスクポイントを診断いたします。帳簿や申告書を拝見できれば、短時間で問題の有無を洗い出します。もちろん秘密厳守です。その上で、必要に応じて調査前の自主点検(簡易監査)をご提案します。調査前に修正申告した方が有利な場合や、追加資料を準備すべき場合には率直にアドバイスいたします。開業以来一度も税務署が来ていない先生には、リスク診断サービスで「今のうちに是正すべき点」を明確にできます。
②税務調査立ち会いサービス: いざ税務調査が決定したら、当事務所の税理士が現地またはオンラインで調査に立ち会います。上記で詳述したように、調査官とのやり取りはすべて我々がサポートし、院長先生の負担を最小限に抑えます。税務署との日程調整から当日の資料提示対応、質疑応答代行までフルカバーしますので、先生は診療に専念いただけます。遠方の場合もオンラインで対応可能です。北海道や沖縄の先生の先生の調査まで全国どこでも対応いたします。「税務署との窓口はすべて税理士に任せられる」という安心感を提供します。
③修正申告・事後フォロー: 調査終了後、万一修正申告が必要な際は迅速に書類を作成し、適法かつ有利な形で手続きを代行します。加算税や延滞税の計算も正確に行い、ご納得いただける説明をします。また、分割納付などの税務署との交渉も必要に応じて代行します。さらに、調査で指摘された点を踏まえた今後の改善策も提案いたします。例えば「レジ現金管理ルールを見直しましょう」「家事按分比率の根拠資料を用意しましょう」といった具体策を示し、再発防止までケアします。調査が終わってからが本当のお付き合いの始まりと考え、先生の税務コンプライアンス向上に寄与します。
一連のサービスをワンストップで提供できるのが当事務所の強みです。他の専門家(社労士や弁護士)とのネットワークもありますので、社会保険や法務に関わる問題が生じた場合も適切に対応可能です。税務調査というピンポイントの場面だけでなく、クリニック経営全体を支える伴走者として力を尽くします。
税理士法人加美税理士事務所は、医療業界に特化した税務・会計サービスを提供しており、医療機関の事情に精通した税理士がいます。医科・歯科合わせて多数のノウハウを持ち、日々研鑽を積んでおります。税務調査対応においても、医療機関特有の論点を熟知した税理士チームがサポートいたしますので、ご安心ください。
当事務所のサポート体制は次のとおりです。
- 専門チーム制: 医療クライアント様には、医療専門チームが対応します。税務調査対応の際も、必要に応じ税理士複数名でバックアップし、あらゆる質問に即答できるよう体制を敷きます。調査官との折衝も一人の税理士だけでなく、チームで戦略を練って進めます。
- 全国対応・フルリモートOK: 前述のとおり、当事務所は遠隔地の先生にもサービス提供しております。オンライン会議やクラウド会計導入支援にも長けており、物理的距離を感じさせないサポートが可能です。地方の先生から「東京の専門事務所だから心配」といった声もありますが、問題なく成果を出すことができます。全国どこでも同じ品質の税務調査支援をお約束します。
- 最新の税制情報: 医療分野の税制改正(消費税の診療報酬割合改定や、医療機器の減税措置など)にも常にアンテナを張っています。インボイス制度への医療業界の対応状況についても研究を重ね、適切なアドバイスを行っています。税務調査でも、新しい制度を知らない調査官にこちらから正しい解釈を説明し納得させることもあります。最新情報に基づく交渉力が強みです。
- 丁寧で親身な対応: 当事務所は「先生方に安心していただくこと」をモットーにしています。難解な専門用語はできるだけ使わず、噛み砕いた説明を心がけています。税務調査は不安なものですが、我々がそばにいることで先生の心労が和らぐよう努めます。実績や知識をひけらかすことなく、常に寄り添う姿勢でサポートいたします。
- ワンストップで経営支援: 税務調査対応だけでなく、日々の記帳代行や月次監査、決算・申告、さらに将来の法人化や事業承継まで一貫してサポート可能です。調査で終わりではなく、その後の経営発展まで見据えたご提案ができます。必要に応じ、提携の社労士や弁護士とも連携し、労務トラブル対応や契約書チェックなど総合的にご支援します。税務を入口に、クリニック経営全般の安心を提供できる体制が整っています。
税務調査は確かに心配事ではありますが、適切な準備と専門家のサポートがあれば乗り越えられます。私たち税理士法人加美税理士事務所は、医療に携わる先生方が本業の診療に専念できるよう、税務面から全力でバックアップいたします。税務調査のお悩みや不安がございましたら、いつでもお気軽にお問い合わせください。経験豊富な医療専門税理士が親身に対応させていただきます。一緒に税務調査を乗り切り、さらに安心して発展的なクリニック経営を実現していきましょう!

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