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不動産投資家の事業承継対策ガイド

賃貸アパートやマンションなどの不動産投資を行うオーナーにとって、相続事業承継の問題は避けて通れない重要課題です。特に物件を複数所有するサラリーマン大家や、不動産を法人(不動産法人)で保有するオーナー、高齢の地主オーナーなどは、早めに相続対策・事業承継対策を検討することが大切になります。本ガイドでは、不動産投資専門の税理士事務所として培った知見をもとに、不動産オーナーの事業承継対策のポイントをわかりやすく解説します。専門的な内容も含みますが、できるだけ平易な言葉で説明しますので、将来の安心のためにぜひ最後までお読みください。

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まず「事業承継」とは何か、その基本を押さえましょう。事業承継とは、事業の資産や経営を次世代に引き継ぐことを指し、単なる相続(財産の受け渡し)や贈与(生前贈与による資産移転)とは異なります。賃貸不動産オーナーの場合、アパート経営・マンション経営そのものが一つの「事業」です。資産承継として物件や預金を渡すだけでは不十分で、賃貸経営という事業そのものを引き継いで初めて円滑な承継と言えます。実際、「遺言書を書いて物件を誰に相続させるか決めれば安心」と考えている方もいますが、遺言書を書いただけでは事業承継は上手くいきません。事前準備なしに単に資産を渡すだけでは、せっかく築いた不動産収入を次世代が維持・発展させるのは難しいのです。

では、なぜ不動産オーナーに事業承継の視点が重要なのでしょうか?ポイントは、賃貸経営の継続性税負担にあります。賃貸物件は相続税対策として有効な資産でもありますが、それと同時に日々運営していく経営でもあります。「節税になるから」と不動産を買い増しても、その後の承継まで考えなければ本末転倒です。節税だけに目がいってしまうと、相続はうまくいきません。賃貸経営は資産を引き継いで終わりではなく、代替わり後も続いていく事業です。事業の承継をおざなりにすると、せっかくの相続税対策も台無しになる可能性があります。例えば後継者が不動産経営に関心を持たず知識もないままだと、相続後に「管理や修繕が面倒だ」「借入金の返済が大変だ」といって大事な不動産を手放してしまうケースもあります。そうならないよう、早めの準備と計画が欠かせません。

なお、不動産投資を法人で行っている場合(不動産法人)には、事業承継は会社の株式評価事業承継税制の活用など法人特有の論点があります。法人オーナー向けの事業承継計画についても早めの対策が必要です。本記事ではまずはサラリーマン大家など個人オーナーのケースに焦点を当てて解説します。

「自分は中小企業の社長じゃないし、事業承継なんて大げさでは?」と思う個人オーナーの方もいるかもしれません。しかし、賃貸不動産をお持ちなら規模の大小に関わらず事業承継対策は重要です。その理由をいくつか挙げてみましょう。

  • 相続税の負担が大きい: 都市部の土地や収益物件を持っていると、相続税評価額が高額になるケースが多く、相続人に重い税負担がのしかかります。現金や株と違い不動産はすぐ現金化しづらいため、納税資金が足りずにせっかくの不動産を泣く泣く売却せざるを得ない事態になりかねません。不動産オーナーにとって、税負担を軽減しつつ納税資金をどう確保するかは大きな課題です(対策は後述)。
  • 複数の相続人で分けにくい: 不動産は分割しづらく、相続人が複数いる場合に揉める原因になりがちです。アパート1棟を長男に相続させたら、次男・三男には何を渡すのか、といった 遺産分割 の問題です。事業承継の観点では、承継者を誰にするか早めに決め、他の相続人には生命保険金や他の金融資産で代償分割するなどの配慮が必要です。明確な遺言や合意がないと、共有名義で不動産を持ち続けてしまい管理が煩雑になるケースもあります。
  • 後継者の経営能力・意思: 賃貸経営を引き継ぐご子息がその事業に前向きかどうかも重要です。生前に全く経営にタッチしてこなかった人が突然大家になると、何から手を付けていいか戸惑い、「手間が多いしもう売ってしまいたい…」となりがちです。円滑承継のためには、早めに後継者を事業に関与させておきノウハウを共有する、人脈を引き継ぐ、といったソフト面の準備も欠かせません。
  • オーナー自身の高齢化: 認知症リスクが高まる高齢オーナーにとっては、資産凍結の対策も必要です。もし判断能力を失ってしまうと、不動産の管理・処分や各種契約が一切できなくなり、家賃収入さえ凍結される恐れがあります。成年後見制度という公的手当もありますが、裁判所の監督下で自由度が低く思うような資産活用ができません。そのため、近年は柔軟に財産を託せる家族信託が不動産オーナーの認知症対策・事業承継対策として注目されています。

このように、個人オーナーであっても事業承継を他人事と考えず、税金・分割・後継者・認知症といった観点から早めに備えることが肝心です。事前に家族でよく話し合い、専門家の助言を得て対策を講じれば、将来「相続でもめて不動産を失う」「せっかくの不動産投資が失敗に終わる」といった事態を防ぐことができます。

改めて、事業承継と相続・贈与の違いを整理しましょう。相続や生前贈与はあくまで資産の名義を移す行為ですが、事業承継は事業そのものの引継ぎです。先ほど述べたように、単に不動産という資産を渡すだけでは不十分で、賃貸経営のノウハウや意思までも含めてバトンタッチする必要があります。極端な例を言えば、“財産は残ったが空室だらけで稼げないアパート”を渡してしまえば、後継者は維持に困ってしまいます。そうならないよう、収益を生む資産として次世代に引き継ぐのが事業承継の考え方です。

そして事業承継で何より大切なのは、早期に準備を始めることです。相続税対策というと、つい「どうやって税金を減らすか(節税)?」に目が行きがちですが、繰り返しになりますが節税だけ考えてもうまくいきません。早めに動き出すことで、税負担を減らす策はもちろん、後継者育成や遺産分割の調整など時間を要する対策にもじっくり取り組めます。例えば、元気なうちに賃貸管理を子どもと一緒に行って経営感覚を養う、生前に少しずつ贈与を活用して財産移転を進めておく、不動産を法人に移して株式で承継する道を検討する、といった具合です。節税対策について詳しくは下記のページをご覧ください。

準備開始が早ければ選択肢も増え、結果的に節税効果も高まりやすくなります。

さらに早期準備のメリットとして、法改正や市場変動に対応できる点も挙げられます。相続税制や不動産市況は時とともに変化します。例えば利用できる特例制度が変わったり、不動産価格や金利が将来どうなるかで最適な対策も変わりえます。余裕をもって計画しておけば、状況の変化に合わせて戦略を見直すことも容易です。事業承継対策は一度立てたら終わりではなく、定期的に専門家とシミュレーションを行いながらアップデートしていくと安心です。当税理士事務所でも不動産法人を含む複雑なケースの相続税シミュレーションを行い、最適プランをご提案しています。

早めの準備を強調しましたが、「まだ子どもが小さいから後継者が決まらない…」「物件を増やしたばかりで先のことまで手が回らない…」という場合もあるでしょう。しかし事業承継対策はできることから少しずつ始めて構いません。たとえば今のうちに賃貸経営の現状把握専門家(税理士など)への相談をしておくだけでも、将来の大きな安心につながります。ポイントは、「相続が発生してから考えればいいや」と先延ばしにしないことです。元気なうちに動き出す——これが不動産オーナーの事業承継成功への第一歩です。

それでは、具体的な対策についてサラリーマン大家など個人オーナーの場合を中心に見ていきましょう。個人で賃貸経営をしているオーナーが事業承継に備えるには、大きく分けて「人」と「お金」の両面からの準備が必要です。つまり、誰に引き継ぐか(承継者対策)引き継ぐための資金をどう確保するか(資金・税金対策)という二本柱です。以下では、個人大家が直面しがちな課題とその対策を整理した上で、納税資金対策、円満承継のための法律ツール、相続税評価額を下げる特例について詳しく解説します。

個人オーナーが賃貸不動産を次世代に引き継ぐ際、主に以下のような課題に直面します。それぞれの課題に対する基本的な対策も合わせて見てみましょう。

  • 高額な相続税と納税資金の不足: 不動産は評価額が大きくなりやすい一方、相続税は原則として10か月以内に現金一括納付しなければなりません。預貯金や株式が少なく不動産ばかりだと、相続人は税金を払うために物件を売却せざるを得ないケースもあります。対策として、生前に生命保険に加入しておき相続人が保険金で納税できるようにする、あるいは物件の一部を売却して現金化しておく、相続発生後に延納(分割納付)や物納(不動産で納税)制度を利用する、といった方法があります。この納税資金対策については、次章で詳しく解説します。
  • 不動産の分割と遺産分割協議: 複数の相続人がいる場合、賃貸不動産を誰が引き継ぐかは円満な話し合いが必要です。アパート1棟を法定相続分どおりに均等割りすることはできませんから、「誰がどの資産を相続し、他の人にどう埋め合わせるか」を決める必要があります。対策として、オーナーの意思を明記した遺言書を作成しておくことが第一です。特定の承継者に物件を集中させる場合は、他の相続人には生命保険金や現預金を充当する(代償分割)などの配慮が不可欠です。また、遺言書だけで心配な場合は家族信託の活用も検討できます(後述)。いずれにせよ生前にしっかり計画しておくことで、相続発生後の揉め事を予防できます。
  • 承継者の負担軽減と事業継続: 後継者となる人が安心して賃貸経営を続けられるよう、引継ぎ時の負担を減らす工夫も大切です。例えば、煩雑な経理業務は税理士に依頼しておく、物件の管理は信頼できる管理会社に任せておく、といった体制づくりです。特に遠方に住むお子様に承継する場合などは、専門家のサポートがあるだけで随分負担が和らぎます。また、オーナー変更後も家賃収入が安定するよう、サブリース(一括借上げ)契約を活用する方法もあります。サブリースなら一定の賃料保証が得られるため、承継者が初心者でも経営を維持しやすくなります。ただしサブリース契約にはデメリットや注意点もあるため、内容をよく理解した上で判断しましょう。サブリーススキームについて詳しくは「サブリーススキームの特集ページ」をご覧ください。いずれにせよ承継者が「これなら自分でもやっていけそうだ」と思える環境を用意してあげることがポイントです。
  • 税務面のリスク: 相続・事業承継には各種税務上の特例や節税策が関わってきます。当然ながら税務調査が入る可能性も念頭に置いておくべきです。とりわけ不動産は評価の仕方で相続税額が大きく変わるため、適正な手続きと書類整備が欠かせません。例えば、小規模宅地の特例を適用するなら期限内に申告が必要ですし、物件を法人に売却するスキームを使うなら適正な時価で行うことが重要です。万一誤った評価や過度な節税をしてしまうと、後から指摘を受けて追徴課税…というリスクもあります。税務面でも専門の税理士と二人三脚で進め、正しい承継対策を講じましょう。税務調査について詳しくは「税務調査の特集ページ」をご覧ください。

以上のような課題に対し、一つひとつ適切な対策を講じていけば、たとえ相続発生時に大きな税金が発生しても不動産を失わずに済み、次世代も安定した賃貸収入を得続けることができます。それでは次章から、納税資金の確保策遺言・信託の活用法小規模宅地等の特例といった重要テーマについて詳しく見ていきましょう。

相続発生に備えてまず考えておきたいのが、相続税の納税資金をどう確保するかです。賃貸不動産は現金収入を生む優良資産ですが、相続税の支払いには現金が必要です。預金など十分な金融資産があればよいのですが、往々にして不動産オーナーの資産構成は「不動産が大部分で現預金が少ない」傾向があります。そのため、相続税のための現金づくりは事業承継対策の最重要ポイントと言っても過言ではありません。

納税資金を準備する代表的な方法として、生命保険の活用不動産の売却・借入の二つがあります。それぞれメリット・デメリットがありますので、以下で順に解説します。

生命保険で納税資金を準備する

不動産オーナーの方にぜひ検討いただきたいのが、生前に生命保険に加入しておくことです。被相続人(オーナー)が亡くなった際に受取人である相続人に死亡保険金が支払われれば、それをそのまま相続税の納税資金に充てることができます。特に、相続財産が不動産ばかりの場合は生命保険で現金を用意する意義が大きいです。保険金があれば、相続人は慌てて不動産を売らずに済み、せっかく引き継いだ賃貸物件を手放さなくて済みます。

また、生命保険には相続税の非課税枠がある点も見逃せません。現在の税法では、「500万円 × 法定相続人の数」の金額までは死亡保険金が相続税の計算上非課税となります。例えば法定相続人が配偶者と子2人の計3人なら、1,500万円までの保険金は相続税がかからない計算です。生命保険は満額が現金で支給されるうえ、この非課税枠のおかげで結果的に相続税の節税にもつながります。まさに一石二鳥の納税資金対策と言えます。

注意点としては、保険契約の名義設定を適切に行うこと(被保険者=オーナー、受取人=相続人にする)、保険金額は将来の相続税見込み額に見合ったものにする、といったことが挙げられます。また高齢になってからでは保険料が高額になったり加入できなかったりしますので、やはり早めの加入がポイントです。どの程度の相続税が発生しそうかは専門家にシミュレーションしてもらえますので、将来の税額を試算したうえで必要な保障額を検討しましょう。

不動産売却や借入で資金を捻出する

もう一つの納税資金確保策は、資産そのものを現金化または借入で賄う方法です。具体的には、相続前後に不動産を売却して納税資金を得る方法と、金融機関から借入(ローン)をして相続税を支払う方法があります。

まず売却については、生前対策としてオーナー本人が物件を売って現金に換えておくケースと、相続発生後に相続人が物件を売却して税金を払うケースがあります。前者の場合、所有不動産を減らすことで将来の相続税評価額を下げる効果もあります(資産の組み換えによる相続税対策の一環です。)

後者の場合、例えば相続人が複数物件を受け継いだ際に、その一部を売却して他の物件の相続税を支払う、といった形になります。売却のメリットは現金が確実に手に入ることですが、一方で譲渡所得税(売却益に対する税金)がかかる点に注意しましょう。特に亡くなった方から相続した不動産は取得費が低く計上されがちで売却益が大きく出る可能性があります。そのため、物件を売却する際は事前に譲渡税も含めた収支シミュレーションを行うことが重要です。また不動産売却には仲介手数料など諸コストもかかります。場合によっては消費税の課税もあり得ますので、大口物件の売却時には税理士と相談して進めると安心です。消費税について詳しくは下記のページをご覧ください。

次に借入による方法ですが、金融機関には相続税の納付資金を融資してくれる商品(いわゆる相続税納税ローン)があります。銀行からお金を借りていったん税金を納め、後日ゆっくり不動産を売却して借入を返済するといった活用も可能です。すぐに買い手がつかない不動産でも、一時的にローンで税金を立替えておけば二次相続まで物件を維持できるメリットがあります。ただし借入には利息負担が伴いますし、金融機関の審査もありますので誰でも借りられるわけではありません。あくまで最終手段と考え、基本は上記の保険や不要資産の売却などで備えておくのが望ましいでしょう。

なお、どうしても現金で納付できない場合の制度として延納(分割払い)や物納(不動産そのものを納付)もあります。延納は文字通り相続税を何年かかけて分割納付する制度で、一定の要件(税額や担保の条件等)を満たせば最長20年の分割払いが認められます。ただし利子税がかかる点に注意が必要です。一方物納は、不動産など換金しづらい資産で相続税を納める制度ですが、延納でも無理な場合の最後の手段となります。物納できる財産の種類や順位も細かく定められており、誰もが利用できるわけではありません。

以上のように、納税資金を用意する方法はいくつかありますが、理想を言えば「納税のために不本意な売却や借入をしなくて済む」ようにしておくことです。税金を支払うためだけに大切な資産を手放したり利息を支払ったりするのは避けたいところです。そうならないよう、納税資金対策は節税対策と同様に早めに行っておきましょう。例えば生命保険の加入や現金預金の充実など、生前から準備できることがあります。これらは相続税額の試算とセットで検討すべき事項ですので、ぜひ専門の税理士に相談して計画を立てることをお勧めします。

事業承継対策の「人」の部分、つまり円満に事業を引き継ぐための法律的な手当てとして重要なのが、遺言書家族信託の活用です。それぞれ役割が異なりますが、共通して言えるのは「財産の承継方法を生前に明確に決めておくことで、相続発生後のトラブルを防ぐ」という点です。

遺言書は言うまでもなく、生前に財産の配分や承継方法を指定しておける有力な手段です。賃貸不動産オーナーの場合、遺言書で「○○(長男)に△△アパートを相続させる」と明記しておけば、遺産分割協議を経ずにその物件を承継させることが可能になります。遺言がないと相続人全員で遺産分割協議を行う必要があり、意見が合わなければ揉めて長期化する恐れもあります。特に収益物件の場合、「誰が継ぐか」が決まらず共有名義になってしまうと経営判断が素早くできず大変非効率です。そうした事態を避けるためにも、承継者を特定して遺言に書いておくことは円満承継の第一歩です。

もっとも、遺言で全てが解決するわけではありません。賃貸不動産は評価額が大きいぶん遺留分(法定相続人が最低限保障される取り分)にも注意が必要です。たとえば長男にアパートを丸ごと相続させる遺言を書いた場合でも、他の相続人(次男・三男など)が遺留分を主張すれば一定の現金を渡す必要が生じる可能性があります。このように遺言書だけではカバーしきれない部分もありますが、その際に有効なのが家族信託です。

家族信託(民事信託)は、家族間で財産管理の仕組みを契約によって定めるものです。例えばオーナー(親)を委託者・受益者、子を受託者とする信託契約を結んでおけば、親御さんが元気なうちは受益者として家賃収入を享受しつつ、実務上の管理や契約行為は受託者である子どもが代わりに行えるようになります。これにより、万一オーナーが認知症になってしまっても資産が凍結されるのを防ぎ、賃貸経営を継続できるメリットがあります。また家族信託には、信託契約の終了時に財産を誰に帰属させるか(最終的な承継者)を指定できる遺言的機能があります。通常の遺言では自分の次の世代(子ども)までしか指定できませんが、信託を使えば「子どもが亡くなった後は孫に承継させる」といった数世代先までの財産承継先をあらかじめ決めておくことも可能です。先祖代々の不動産を将来にわたり一族で守っていきたい、といったオーナーのニーズにも応えられる点で、家族信託は非常に有用な仕組みと言えるでしょう。

ただし家族信託にも注意点があります。信託財産として預けた不動産は途中で契約を変更しづらかったり、信託の設定・運用に専門知識とコストがかかったりします。また信託を使えば何でも節税できるというものではなく、あくまで財産管理・承継を円滑にするための手段です。そのため、まずは遺言書の作成を基本としつつ、補完的・発展的な対策として家族信託を検討すると良いでしょう。実際、賃貸不動産オーナーの事業承継では「遺言+生命保険+(必要に応じて)家族信託」という組み合わせで備えるケースが増えています。これらの手続きを進める際は、法務や税務に詳しい専門家(税理士・弁護士・司法書士等)に相談しながら進めることを強くお勧めします。当税理士事務所でも信託スキームの設計から税務面のフォローまでサポート可能ですので、関心のある方はお気軽にご相談ください。

最後に、相続税の負担を大きく減らす強力な制度である「小規模宅地等の特例」について説明します。これは、被相続人が生前に使用していた宅地(自宅や賃貸事業用の土地など)を相続した場合に、その土地の相続税評価額を最大80%も減額できる特例制度です。不動産オーナーにとって、ぜひ押さえておきたい節税策の一つと言えるでしょう。

小規模宅地等の特例にはいくつか種類がありますが、賃貸不動産オーナーに関係する主なものは以下の二つです。

  • 特定居住用宅地等: 被相続人の自宅の土地を、配偶者や同居の親族が相続する場合の特例です。330㎡まで80%減額という非常に大きな優遇を受けられます。例えば評価額1億円の土地でも、この特例適用で評価額2,000万円まで圧縮できる計算です。自宅敷地については相続税の大幅減額が期待できます。
  • 貸付事業用宅地等: 被相続人が賃貸事業に使っていた土地(賃貸アパートの敷地など)を相続する場合の特例です。200㎡まで50%減額が受けられます。つまり更地評価1億円のアパート敷地なら評価額5,000万円まで下がるイメージです。賃貸オーナーにとっては、この貸付事業用宅地の特例適用が相続税対策の要となります。

ご覧のように、小規模宅地の特例を使えば土地の相続税評価額(課税価額)を大幅に引き下げることができます。結果として課税遺産総額が減り、相続税そのものも大きく軽減されます。とりわけ土地比率の高い資産構成の大家さんにとって、この特例を利用できるかどうかで相続税額が何千万円も変わるケースがあります。

ただし、特例適用にはいくつか条件や手続きがあります。例えば貸付事業用宅地の場合、亡くなったオーナーが生前にある程度長期間(※注:直近3年以上)その土地で賃貸事業を行っていたことが条件です。亡くなる直前に取得した土地では認められません。また、相続人がその土地を相続税申告期限まで保有継続している必要もあります。さらに、特例を使うためには相続税の申告を期限内に行うことが必須です。たとえ相続税が発生しない場合でも、この特例を適用するには申告が必要なので注意しましょう(特例適用後に税額ゼロになるケースでも申告を省略できません)。

生前対策としては、特例を確実に使える態勢を整えておくことがポイントです。たとえば自宅の特例を確保するには、お子さんに同居してもらう(あるいは配偶者に確実に相続させる遺言を書く)ことが考えられます。また、貸付事業用宅地の特例をフル活用するため、賃貸物件の敷地はできるだけ200㎡以内に収まるよう購入時から意識する、といった視点も有効でしょう。逆に、生前にうかつに土地を生前贈与してしまうと特例対象から外れてしまう場合もあります。例えば相続時精算課税制度を使って土地を贈与すると、その土地には小規模宅地の特例が適用できなくなるので要注意です。このように専門的な論点もあるため、具体的な適用可否はぜひ税理士に相談してください。

小規模宅地等の特例は非常に強力な節税策ですが、適用を受けるには「事業を承継して継続していること」が前提となります。裏を返せば、賃貸経営をきちんと次世代に引き継ぎ継続させることが最大の節税対策にもなるのです。事業承継と節税はこのように表裏一体ですから、ぜひ早め早めの準備で両方の目標を達成しましょう。

以上、不動産投資家の事業承継対策について、基本知識から具体策まで詳しく見てきました。不動産投資と相続税は切っても切れない関係ですが、適切な事業承継対策を講じておけば大切な資産を守り、次の世代へスムーズにバトンタッチすることが可能です。【節税】対策・【納税資金】対策・【円満承継】対策の三本柱を軸に計画を立て、ぜひ安心できる未来を描いてください。その際は、ぜひ不動産に強い税理士にもご相談いただき、一緒に最善の承継プランを検討していきましょう。私たち税理士法人加美税理士事務所も、専門家として皆様の大切な資産承継を全力でサポートいたします。お気軽にお問い合わせください。

法人所有不動産の承継メリットと注意点
法人化して不動産投資を行っているサラリーマン大家さんの場合、資産管理会社(不動産所有会社)を通じて事業承継を行うメリットがあります。まず、不動産を法人名義で所有していることで、相続時に物件そのものを分割する必要がなく、株式という形で承継できる点が大きな利点です。例えば、複数の賃貸物件を保有する会社の株式を後継者に引き継ぐことで、不動産を直接相続するよりもスムーズに資産移転が可能となります。株式であれば細分化しやすく、一部ずつ贈与・譲渡することもできるため、後継者への段階的な承継計画が立てやすいでしょう。また、法人化により不動産所得が法人税の枠組みで課税されるため、所得の分散や経費計上の幅が広がり、不動産投資の節税スキームとして活用できる点も見逃せません。節税対策について詳しくは下記のページをご覧ください。

一方で、法人所有に伴う注意点も把握しておく必要があります。法人を維持する以上、毎年の決算・申告や法人住民税の均等割(赤字でも一定額の税金が発生)といったコストがかかります。また、法人名義の不動産は個人資産と切り離されているため、社長個人が亡くなっても物件は法人に帰属し続けますが、その法人の株式評価が相続税課税の対象となります。この株式評価額は、会社が保有する不動産や現預金など純資産に基づいて算定されるため、事前対策なく会社の資産を増やしすぎると株価が高騰し、結果的に相続税負担が重くなるリスクがあります。特に、オーナー社長が自社株の100%を長期間保有し、利益剰余金を社内に蓄積しているケースでは、株価上昇による相続税負担増に注意が必要です。さらに、不動産管理会社は事業承継税制(後述)の適用対象外とされるケースが多く、単に法人化しただけでは相続対策として不十分な場合もあります。不動産貸付業を営む資産管理会社は、総資産の70%以上が有価証券や賃貸不動産などの場合に資産保有型会社と見なされ、原則として事業承継税制の優遇措置を受けられません。このように、法人化には承継面でのメリットがある一方、株価評価や制度適用の観点で対策が必要となる点に留意しましょう。

株式譲渡による承継方法と株価引下げ対策
法人化した不動産オーナーが円滑に事業承継するには、自社株式の譲渡・贈与を活用し計画的に後継者へ株を移転する方法が有効です。株式を事前に後継者や親族へ譲渡しておけば、オーナーの逝去時に相続財産そのものを減らすことができるため、相続税の課税価額を抑える効果が見込めます。しかし、譲渡や贈与時には株式評価額に応じた贈与税・譲渡所得税が発生する点に注意が必要です。そこで事前対策として重要になるのが「株価引下げ対策」です。株価(自社株評価額)をできるだけ低く抑えた状態で株式を承継すれば、贈与税・相続税の負担を軽減できます。以下では、不動産所有会社における代表的な株価引下げ策を解説します。

  • 会社の利益圧縮による株価引下げ: 自社株評価は会社の純資産や利益水準に左右されます。そこで、事前に役員報酬の増額や修繕費などの大口経費計上などで意図的に利益を圧縮し、純資産額を引き下げる手法があります。特にオーナー社長に対し退職慰労金を支給すれば、法人の資産が大幅に減少すると同時に、退職金には税制上の優遇(退職所得控除)があるため、オーナー個人の税負担も抑えられます(詳細は後述)。また、含み益のある資産を売却して意図的に損失を発生させる(例えば、値下がりした不動産を売却処分する等)ことも純資産評価を下げる一策です。もっとも、過度な損失計上や利益圧縮は法人の財務体質を悪化させ、金融機関からの信用低下や税務調査リスクを招く恐れがあるため注意が必要でしょう。税務調査について詳しくは「税務調査の特集ページ」をご覧ください。
  • 負債活用による株価引下げ: 法人が不動産を購入する際にあえて借入金を利用し、資産と負債をバランスさせるのも有効です。借入により物件を取得すれば、貸借対照表上は不動産という資産と同額の負債が計上され、純資産額の増加を抑えることができます。例えば、将来相続させたい賃貸マンションを会社がローンで取得すれば、会社の純資産価値は大きく膨らまず、その結果自社株評価も割安に抑えられる可能性があります。不動産投資ローン活用はレバレッジを効かせた事業拡大策であると同時に、株価対策としても機能するのです。ただし借入の増加は返済負担や金利コストを伴いますから、事業収支の見通しを立てた上で無理のない範囲で活用することが大切です。

以上のような一般論に加え、具体的に誰に株式を持たせるかを工夫することでも評価額引下げが可能です。株式評価は、株主が会社に対して持つ支配権の程度によって方法が変わります。通常、オーナー一族が株式の過半数以上を占める同族会社では、原則的評価方式(類似業種比準価額方式・純資産価額方式)によって評価されます。そこで、次項から贈与税の年間非課税枠を活用する方法、さらには持株会社スキームについて、そのメリットとポイントを見ていきましょう。

親族に株式を移転する際には贈与税の年間非課税枠(暦年課税110万円控除)を活用する方法があります。たとえば評価額の高い自社株を毎年少しずつ110万円以下の評価額分だけ子や孫に贈与すれば、贈与税負担なく持株の移転が可能です。この暦年贈与を活用したコツコツ承継プランは、不動産法人のオーナーが早めに着手すれば効果的な手法です。ただし、2024年以降は生前贈与加算(相続前贈与の持ち戻し期間)が従来の3年から7年に延長される改正があり、贈与のタイミングには注意が必要です。制度変更も踏まえて、最適な株式分散策は専門の税理士と相談しながら進めましょう。

株式承継のもう一つの高度な手法が、持株会社(ホールディングカンパニー)を活用するスキームです。持株会社を新たに設立し、その会社に現経営者が保有する不動産法人の株式を集約させることで、株価引下げと承継の円滑化を同時に図れます。具体的には、オーナー社長が新設の持株会社に対して自社株式を株式移転や現物出資によって移管し、不動産所有会社を持株会社の完全子会社とします。この時、持株会社が銀行借入等で資金調達しオーナーから株式を買い取る形を取れば、持株会社は資産(取得した株式)と負債(借入)を両建てで抱えることになり、その純資産価値は圧縮されます。結果として持株会社の株価が低く抑えられ、後継者への株式移転時の税負担軽減につながります。また、持株会社株式の評価では、子会社(事業会社)の含み益部分について37%相当が控除されるなどの優遇計算があるため、直接オーナーが事業会社株を持つより評価上有利になるケースもあります。仮に持株会社が純粋持株会社に該当せず一定の事業実態を備えていれば、類似業種比準方式の適用によってさらに株価が割安に算定される可能性もあり、相続税・贈与税の節税効果が期待できます。

持株会社化による事業承継は、親族内承継のみならず親族外承継(M&Aを活用した第三者承継)にも有効なスキームです。例えば、不動産管理会社と他の事業会社を複数経営しているオーナーが、事前に持株会社を設立してグループ全体を一括管理すれば、後継者はその持株会社の株式を取得するだけで複数企業をまとめて承継できます。株式移転によりホールディングス化しておくことで、後継者が経営権を集中して握りやすくなるほか、万一親族内に適任者がいない場合でもグループごと第三者に譲渡しやすくなるというメリットもあります。現経営者にとっても、株式の譲渡対価を持株会社から取得する形にすれば現金を得ることができるため、老後の生活資金や相続税納税資金の確保につながります。一方で、持株会社設立時には株式の譲渡所得税や設立コストが発生し、体制構築後も管理コスト増(決算の複数化)などのデメリットもあります。メリット・デメリットを踏まえた上で、専門家の助言のもと適切なスキーム選定を行いましょう。

併せて、親族間売買による事業承継についても触れておきます。これは、現経営者個人やその法人が所有する不動産や株式を、親族の会社や親族個人に売却する方法です。たとえば、親が経営する不動産管理会社の株式を子供が新設した会社に買い取らせる、あるいは親が個人で持つ不動産を子供の資産管理会社に時価で売却するといったケースが該当します。この法個売買スキームを活用すれば、親世代から後継者世代へ資産を移す際に対価として資金を親側に移転でき、事業承継と同時に親の手元資金確保が図れます。また、法人間や個人間の売買によって一度資産を組み替えることで、株価評価額のリセット効果(売却益に課税された後の簿価引き下げ)が期待できる場合もあります。ただし、親族間での売買は税務上注意点があります。著しく低い価額で売買した場合、税務署から贈与とみなされるリスクや、売買価格が時価とかけ離れていると指摘される可能性があります。不動産を法人へ売却する際は、税法上時価の2分の1未満の低額譲渡は時価で譲渡があったものとみなされる規定もあります。したがって、親族間売買を行う際は適正な時価評価に基づくこと、専門家の査定や税務署への事前相談も検討することが重要です。法個売買スキームについて詳しくは下記のページをご覧ください。

役員退職金・後継者給与の非課税枠活用

不動産オーナー社長の事業承継において、役員退職金制度は極めて有力な節税対策の一つです。社長が長年勤務した会社を引退する際に支給する役員退職金は、法人にとっては損金算入(経費)となり、法人の純資産を減少させることで株価引下げ効果を発揮します。一方で受け取る個人にとっては、退職所得控除という大きな非課税枠があるため、高額の退職金を受領しても所得税・住民税の負担は抑えられます。具体的には、勤続年数20年超であれば「800万円+70万円×(勤続年数-20年)」という退職所得控除額が認められ、控除後の残額も1/2課税という優遇があります。例えば勤続40年のオーナー社長の場合、退職金のうち2,000万円程度まで税金ゼロで受け取れる計算になり、非常に大きな節税メリットです。こうした制度を利用し、事業承継のタイミングでオーナーに相応の退職金を支給すれば、法人から現金を引き出して株価を下げつつ、オーナー個人も低税率で資金確保ができます。退職金の金額設定は社内規定や功績に見合った合理的な範囲で行いましょう。あまりに高額だと法人税務調査で否認されるリスクもあるため、支給額の妥当性について税理士と検討することをおすすめします。税務調査について詳しくは下記のページをご覧ください。

後継者(次世代)の側でも、給与や報酬の活用によって承継をスムーズにする工夫があります。例えば、後継者となる子息が早期に会社役員や従業員として参画し、一定の役員報酬・給与を受け取ることで、親からの生前贈与に頼らずとも事前に事業承継に必要な資金を形成できます。役員報酬として支払われた金額は法人の経費になるため、会社の利益圧縮=株価抑制につながる点も見逃せません。また、後継者への教育資金や住宅資金などを会社から貸与・支給する際には、福利厚生制度等を活用して非課税で支給できる場合もあります。具体的には、役員であっても社内規定に沿った慶弔見舞金や教育費補助は一定額まで非課税で支給可能ですし、社宅を提供して住宅費負担を軽減させることもできます。これらは金額的には小さいものの、後継者の経済的基盤を築きつつ法人税の負担を減らすことができます。ただし、役員への過度な福利厚生は経費として認められないケースもありますので注意が必要です。

以上のように、オーナーの退職金後継者の給与・報酬を上手に活用することで、法人から個人への資産移転を税負担少なく実現し、事業承継に伴う資金ニーズに備えることができます。退職金の支給タイミングや金額、後継者給与の水準設定については、専門家と相談しながら最適化を図りましょう。

非上場株式の事業承継税制(納税猶予)の活用

中小企業の事業承継対策として近年注目されているのが、事業承継税制の活用です。この制度は、一定の要件を満たす中小企業のオーナーが後継者に株式を相続または贈与する際、本来課される相続税・贈与税の納税を猶予(最終的に免除も)する特例措置です。不動産賃貸業を営むオーナー社長にとっても、自社株式にかかる相続税負担を大幅に減らせる可能性があるため、一見魅力的な制度です。

ただし、この法人版事業承継税制を利用するためには厳格な条件があります。まず対象となる会社が中小企業者であること(資本金等や従業員数の要件を満たすこと)が前提ですが、賃貸不動産の管理会社など資産管理型会社は原則として対象外とされています。具体的には、総資産の70%以上が不動産・有価証券・現預金等の資産で占められている会社や、総収入の75%以上がそれら資産からの収益である会社は「資産保有型/資産運用型会社」に該当し、承継税制の適用を受けられません。不動産貸付業の会社はその性質上この資産管理会社に当てはまるケースが多く、実情として承継税制の適用ハードルが高いのです。したがって、法人化したサラリーマン大家の方がこの税制を使うには、自社が要件から除外される特例的なケースに該当する必要があります。

例外として、資産管理型会社であっても (1) 常時使用従業員が5名以上いる(しかも親族以外の従業員)こと、(2) 自社ビルではない店舗・事務所等の事業用設備を保有または賃借していること、(3) 少なくとも3年以上事業を継続していること、といった一定の実態要件を全て満たせば適用対象となり得ます。不動産賃貸業でも、規模が大きく従業員を雇用し実態として事業経営を行っている場合には、この枠組みに入る可能性があります。ただし要件の確認や適用手続きは専門的であり、適用可否については税理士など専門家に早めに相談することが重要です。

また、事業承継税制には一般措置特例措置の2種類があり、現在は後者の特例措置が時限立法的に大幅に緩和された内容となっています。特例措置では、相続税・贈与税の100%猶予(全額免除)が可能な点や、後継者を最大3人まで認める点、雇用維持要件の実質撤廃など、従来より利用しやすい制度設計になっています。ただし、この特例措置を受けるには2027年12月31日までに実際の株式贈与または相続を完了させる必要があり、さらにその2年前まで(当初計画では2025年まで)に都道府県知事に「事業承継計画」を提出することが条件となっています。現時点(令和7年頃)では申請期限の一部延長も発表されましたが、適用期限自体は2027年末で変わらない見込みです。制度終了が見えているため、検討される方は早めの準備と手続き開始をおすすめします。

事業承継税制を活用できれば、不動産会社の自社株にかかる多額の相続税を一時的に猶予し、事業を継続する限り納税を先送り(最終的に一定要件下で免除)できます。資金繰りが厳しい場合でも事業継続に専念でき、不動産投資の相続対策として非常に強力です。とはいえ、適用を受けた後も後継者が5年間株式を継続保有し、会社の代表者であり続けることや、万一会社を清算・株式売却する際には猶予税額を納める必要があるなど、長期にわたる縛りがあります。また、承継後も事業内容の変更や資産売却に一定の制約が生じる点にも注意が必要です。制度を利用したがゆえにかえって身動きが取れなくなるケースもあるため、メリットとデメリットを十分に比較検討しましょう。

以上、法人化したサラリーマン大家向けに、事業承継時の留意点と活用できる対策を解説しました。次の章では、複数法人を経営する不動産投資家のケースについて、グループ全体の承継戦略を見ていきます。専門的な知識が求められる局面ですので、ぜひ税理士等の専門家と連携しながら円滑な事業承継対策を進めてください。

不動産投資家の中には、本業の事業会社とは別に不動産管理法人を設立し、複数の法人を運営している方も少なくありません。こうした経営者にとって重要になるのが、不動産法人と事業法人の資産分離による承継効率化です。不動産資産と本業の事業資産を明確に分けておくことで、後継者への引き継ぎを法人ごとに最適化できるからです。

まず、不動産を事業用資産と切り離しておくことで、承継の柔軟性が高まります。本業の会社(事業法人)は、その営業権や顧客、人材といった無形資産を中心に後継者へ引き継ぎ、一方で会社のオフィスビルや賃貸物件といった不動産資産は別の不動産管理会社に集約しておきます。こうすることで、将来の承継時に例えば「事業は長男、不動産は次男」という形で役割分担承継が可能となります。実際、事業会社と不動産会社を別法人にしておけば、事業会社株式は事業に精通した後継者に相続させ、不動産会社株式は別の相続人に承継させるといった柔軟な配分ができます。財産の種類ごとに法人を分けておけば、遺産分割の調整もしやすくなり、相続人間のトラブル防止につながります。

また、資産分離によって節税対策面でも効率化が期待できます。事業会社は事業承継税制の適用を受けられる可能性がありますが、不動産保有会社は前述の通り適用が難しい場合があります。そこで、不動産を切り離した事業法人だけを事業承継税制の対象として計画を立て、不動産法人に関しては別途贈与や売却スキームで対策するといったアプローチが可能です。それぞれの法人に合わせてベストな節税策を講じることで、グループ全体として相続税・贈与税の総負担を抑えることができます。節税対策について詳しくは下記のページをご覧ください。

資産分離はリスク管理の面でも有効です。仮に事業法人が業績悪化や倒産の憂き目に遭っても、不動産資産が別法人にあればそちらへの波及リスクを減らせます。逆に不動産事業の方で大きな債務が発生しても、本業の会社の信用に傷が付きにくいというメリットもあります。こうしたリスク遮断効果は、将来的に後継者へ事業を引き継ぐ際の安定性確保にも寄与します。後継者にとっても、経営する会社がシンプルな方が把握しやすく、銀行との関係等も整理された状態でスタートできる利点があります。

もし現在、事業資産と不動産資産が一つの法人に混在している場合には、早めに会社分割等で資産分離を検討すると良いでしょう。後述する法人グループ再編の手法を活用すれば、税負担を抑えつつ資産区分ごとに法人を再編成することが可能です。事業承継を見据えた組織作りは5年10年単位の長期計画になりますので、現役経営者のうちに体制を整えることが肝要です。

複数法人を抱える経営者にとって、グループ内の組織再編は円滑な事業承継の鍵となります。具体的には、会社の合併会社分割などの組織再編手法を用いて、事業承継に適した形へグループ構造を作り替えるスキームです。

例えば、オーナー社長がA社(事業会社)とB社(不動産会社)の2社を所有し、子供2人にそれぞれ継がせたい場合を考えます。このとき、事前に会社分割を使ってA社の事業を二つに分け、一方を新設会社C社に移管しておけば、将来A社株式とC社株式を別々に承継させることができます。一方の子にはA社を、もう一方にはC社を継がせることで、兄弟がそれぞれ独立した事業を承継し経営権の衝突を避けることができます。これは事業内容ごとに会社を切り分ける新設分割の活用例です。逆に、子供たちにグループ全体をまとめて引き継がせたい場合には、合併という手があります。A社とB社を合併させ一つの会社に統合してから株式を承継すれば、後継者が統合会社の経営権を一元的に引き継げます。合併によって会社数を減らしておけば、承継後の管理もシンプルになります。

組織再編を伴うスキームのメリットは、資産・負債や事業を選別して承継できる点にあります。不採算事業や不要資産を事前に分社化して切り離し、必要な部分だけを後継者に渡すことも可能です。一部では「第二会社方式」と呼ばれる再生スキームもありますが、これは会社分割で将来性ある事業を新会社に移し、元の会社は清算する方法で、事業承継のみならず事業再生にも使われます。承継時に会社をスリム化しておく発想は、後継者の負担を減らす意味でも重要です。

もっとも、合併・分割には税務上の注意が必要です。通常、会社資産を移転すると譲渡益課税などが発生しますが、一定の要件を満たす適格合併・適格分割であれば税負担なく再編できます。適格要件には事業継続性や株主継続保有要件などがあり、事業承継目的の再編であっても計画段階から税務専門家のチェックが欠かせません。また、合併の場合は統合に伴う社内調整(従業員の処遇や社名変更など)、分割の場合は取引先との契約引き継ぎ対応などの実務も生じます。これらを円滑に進めるには時間と労力がかかるため、余裕を持った準備が求められます。

総じて、法人グループ再編はオーダーメイドの承継スキームと言えます。経営者ごとの資産状況・後継者の希望に応じて、合併・分割・事業譲渡などを組み合わせ、最善の形をデザインするプロセスです。複数会社をお持ちの場合は、「どの事業を誰に継がせるか」「会社を統合すべきか分離すべきか」を軸に専門家とともにシミュレーションすると良いでしょう。

前章でも述べた持株会社スキームは、複数法人を経営するケースで特に威力を発揮します。経営者が2社3社といった複数の会社株式を保有している場合、株式移転という手続きを使ってそれらを一括して持株会社の傘下に収める方法があります。株式移転は会社法上の組織再編行為で、既存の複数株式会社が新設の持株会社に株式を移管し、持株会社が各社を完全子会社化する手法です。簡単に言えば、オーナーが直接持っていたA社・B社の株を、新しく作った親会社C社に差し出し、代わりにC社の株式を受け取るイメージです。こうしてC社(持株会社)さえ承継すれば、A社B社の支配権をまとめて後継者へ渡すことができます。

このホールディングス化による承継方法にはいくつかメリットがあります。第一に、後継者は持株会社の株式取得に集中するだけで良く、複数社それぞれの承継手続きを個別に行うより手間が少ない点です。第二に、持株会社の活用により前述した株価引下げ策を講じやすい点があります。持株会社が複数の子会社株式を抱える形にすれば、その評価計算上37%控除など有利なルールが適用されたり、子会社間で利益調整を行って持株会社の純利益を調節するといったグループ内最適化が図れます。第三に、後継者に段階的に承継させる際の柔軟性です。株式移転後、現オーナーと後継者が持株会社の株を共同保有する形にしておき、時間をかけて少しずつ後継者の持株割合を増やすことも可能です。オーナーの引退時期や後継者の熟練度に合わせて株式譲渡をコントロールできるため、無理のない世代交代が実現できます。

また、法人間での株式譲渡という手法も承継に役立ちます。例えば、オーナーがA社とB社を持っている場合に、A社にB社の株式を買い取らせて子会社化してしまう方法です。あるいは、後継者が経営する会社D社がオーナー会社A社の株式を取得するケースもあります。このようにグループ内で株式の持ち合い・移転を行うことで、持株会社を新設しなくても実質的にホールディングス構造を作ることが可能です。法人間の株式譲渡であれば資本関係を再編できますが、その際に株式評価額で譲渡所得課税が発生する点には注意が必要です(適格要件を満たす株式移転であれば課税は繰り延べられます)。いずれにせよ、複数企業をお持ちの方は自社株をどう組み替えれば承継しやすい構造になるか、一度専門家にシミュレーションしてもらうと良いでしょう。

最後に、複数法人を経営するケースでの事業承継税制の活用ポイントについて整理します。基本的に事業承継税制(納税猶予)は会社ごとに適用される制度であり、後継者ごとに1社について猶予を受けることが原則でした。しかし、特例措置の拡充により最大3人の後継者まで一社の株式について猶予が可能となったほか、一人の後継者が複数会社の承継税制を利用できるケースも想定されています。ただし後者については、承継後にそれら複数会社を合併する等の特殊な場合に限定されるとの見解もあり、一般的には一後継者・一会社で考えるのが無難です。

そこで、複数会社を持つオーナー経営者は、どの会社について事業承継税制を適用すべきか慎重に見極める必要があります。通常は本業の事業会社が該当するでしょう。例えば不動産管理会社と製造業の会社を経営している場合、後者(製造業)が中小企業要件を満たし事業承継税制の恩恵を受けやすければ、そちらに猶予枠を使うべきです。一方の不動産管理会社は資産管理型会社で適用対象外となる可能性が高いため、贈与税の年110万円控除枠を使った計画的贈与や、前述の持株会社スキームなど別の策で対応する方が現実的です。各法人の事業内容・資産内容を洗い出し、税制適用可能性を見定めたうえで、会社ごとに承継プランを作りましょう。

複数の後継者がいる場合も、それぞれの役割に応じて税制適用を工夫できます。例えば長男と次男2人を後継者に据える場合、特例承継計画で両名を後継者に位置付けて承継税制を利用することも可能です。この際、各後継者が少なくとも株式の10%以上を承継することなど条件はありますが、兄弟で共同経営する場合には有用でしょう。もっとも、共同承継は後継者同士の協調が大前提となり、将来の経営方針の相違リスクも孕みます。後継者複数制を取る場合は、経営権の明確化(例えば代表権を持つ者を一人に定めるなど)や、お互いの権限範囲を予め取り決めておくことが重要です。

注意したいのは、事業承継税制は万能ではないという点です。適用を受けても株式を担保提供し続ける義務や、猶予期間中の報告義務など煩雑な手続きが伴います。また、経営環境の変化で条件を満たせなくなった場合には猶予打ち切りとなり、一括納税が発生するリスクもあります。特例措置の期限到来(2027年末)後の制度の扱いも不透明な部分があり、最終的に猶予取り消しとなった場合の備えも必要です。複数法人を持つオーナーの場合、むしろ事業承継税制に過度に依存せず、持株会社スキームや民事信託、生命保険活用など他の相続対策と組み合わせる視点が求められます。

以上、複数法人経営者の事業承継について主要なポイントを解説しました。不動産法人と事業法人を適切に分離し、組織再編や持株会社化で承継しやすい形を作ること、そして各法人の事情に応じて事業承継税制等の制度を取捨選択することが重要です。不動産投資に強い税理士である税理士法人加美税理士事務所では、オーナー様それぞれの状況に合わせた最適な事業承継スキームをご提案いたします。不動産法人の相続対策や複数企業の株式承継でお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。専門家ならではの視点で、親しみやすく丁寧にサポートいたします。

高齢の不動産オーナーにとって、自身の引退や世代交代に備える事業承継は避けて通れない課題です。家族経営で法人名義の不動産事業では、単なる財産の相続ではなく会社の経営権も移す必要があり、これは単純な資産継承以上に綿密な計画を要します。弊所は不動産投資・相続対策を専門とする税理士法人(いわゆる「不動産投資 税理士」)として数多くのご相談を受けてきましたが、多くのオーナー様が「まだ大丈夫」と先延ばしにしがちです。しかし、不動産法人の事業承継対策(不動産法人 相続対策)は早めの準備が肝心です。特に高齢のオーナー様は、健康リスクや認知症リスクも見据えて、退職後の生活と会社の将来を両立できるプランを検討する必要があります。

実際、帝国データバンクの調査によれば不動産業社長の平均年齢はおよそ62歳と他業種より突出して高く、ここ数年でさらに上昇しています。しかし定年がない分「まだ働ける」と現役を続ける方も多く、気づけば引退のタイミングを逃しがちです。「自分の代で終わらせたくない」「会社を存続させたい」と願っていても、ふと周囲を見回すと後継者が見当たらず頭を抱える──そんなケースも少なくありません。ある調査では約7割の不動産業者が後継者不在に悩んでいるとの報告もあります。高齢となり体力や判断力が衰える前に、誰に事業を託すのか、どのように資産を引き継ぐのかを計画することが重要です。

なお、現在まだ個人名義で不動産をお持ちの場合、法人化(資産管理会社の設立)による承継スキームも有力な選択肢です。法人化について詳しくは下記のページをご覧ください。

法人にしておけば株式の形で事業を引き継げるため、分割や運用が比較的スムーズになります。ただし法人化には税務上のメリット・デメリットの検討が必要であり、専門家の助言が欠かせません。

以下では、高齢オーナーの事業承継について、老後を見据えたプランニングの考え方から、認知症対策としての成年後見制度と家族信託の使い分け、そして家族円満のための遺言書作成ポイントまで解説します。さらに事業承継計画の具体的な進め方として、現状分析や後継者育成、スケジュール策定、税理士など専門家と連携するメリットについても詳述します。早めの準備と的確な対策で、大切な不動産資産と事業を次世代に円滑に引き継ぎましょう。

事業承継は「いつか必要だろう」と思いながら先送りされがちですが、計画的な事業承継のためにはできるだけ早期に動き出すことが肝心です。中小企業庁のガイドラインでは、平均的な中小企業経営者の引退年齢が70歳前後であることから、「概ね60歳頃には事業承継の準備に着手したい」とされています。これは後継者の育成期間も含め、承継完了までに5~10年程度かかると見積もられるためです。実際、多くの経営者は60代に入っても現役に専念し、準備を後回しにしがちです。しかし現実には、60代は事業承継準備のラストチャンスといえます。

では、老後を見据えた承継プランをどう考えればよいでしょうか。第一に、自身の「引退後の生活」と「会社の将来」双方のビジョンを明確にすることが大切です。例えば「何歳まで第一線に立ち、その後は相談役に退く」「リタイア後は賃貸収入を年金代わりに確保する」「会社は長男に継がせ、他の子には資産分配で公平を期す」等、ご自身とご家族の希望を整理します。老後の生活資金として不動産収入や退職金をどの程度確保するか、事業は親族内承継か第三者承継(M&A)も検討するのか、といった承継ゴール(目標像)の設定が出発点です。

次に、現在の会社・資産の状況を客観的に把握しましょう。法人名義の不動産を複数お持ちなら、各物件の市場価値や収益性、融資残高などを洗い出します。また株式評価額も確認し、後継者が相続する際の相続税額のシミュレーションを行うことをおすすめします。相続税の試算により、現状のままでは多額の相続税負担が生じると判明すれば、事前に節税対策や資金準備を講じておく必要があります。

例えば不動産評価額を引き下げる対策や、生命保険の活用、毎年の贈与による生前分割などが考えられます。事前にシミュレーションしておくことで、「このままだと相続税が◯◯万円かかる」「納税資金が不足する可能性がある」といったリスクを把握でき、計画に反映できます。

また、家族構成や後継者候補の意向も現状分析に含めましょう。ご家族と話し合い、誰が事業を引き継ぎたい・引き継げるのか、あるいは不動産を売却して現金分配する方が良いのか等、方向性をすり合わせます。特に複数のお子様がいる場合、早めに「誰が経営を担い、誰がオーナー権を持つか」を決めておかないと、いざ相続発生時に揉める原因になります。円満な承継のため、オーナーご本人が健在なうちに家族間のコンセンサスを得ておくことが望ましいでしょう。

老後の生活設計と承継プランを一体で考えることも重要です。例えば承継後は後継者に経営を任せ、ご自身は賃貸不動産オーナーとして配当や家賃収入を得る道もあります。会社の経営権は譲っても、不動産そのものはオーナー個人が信託収益権を持ち続ける家族信託スキームや、持株会社を活用してオーナーに安定収入を確保する手法もあります。いずれにせよ、「引退後も安心して暮らせること」「次世代に事業を託すこと」の両立が事業承継プランのゴールです。そのために専門家と相談しながら、資産面・税務面・家族の気持ち面まで配慮した計画を練り上げましょう。

事業承継プランを考える上で見落とせないのが、オーナー自身の判断能力低下リスク、すなわち認知症リスクへの備えです。日本は超高齢社会であり、厚労省の推計では2025年には高齢者の約5人に1人が認知症になる見込みです。認知症は誰にでも起こり得るもので、発症すれば財産管理や経営判断が困難になります。もしオーナーが判断能力を失った場合、適切な手続きを取らなければ預金や不動産が凍結され、日常の支払いすらままならなくなる恐れがあります。こうした事態に備え、認知症発症前から対策を講じておくことが肝心です。

認知症対策として代表的なのが成年後見制度家族信託の活用です。それぞれ性質が異なるため、長所・短所を理解して使い分ける必要があります。本節では「成年後見制度では対応しきれない課題」と「家族信託導入のメリットと仕組み」について詳しく解説します。

成年後見制度では対応しきれない課題とは

オーナーが認知症になり判断能力を失った場合、何もしなければ最終的に成年後見制度の利用が避けられません。成年後見制度では、家庭裁判所が選任した後見人が本人に代わって財産管理や契約行為を行います。しかし、この制度には事業承継の観点からいくつかの課題・限界があります。

1. 家族が後見人になれるとは限らない: 日本では成年後見人に家族以外の第三者(弁護士や司法書士等の専門職)が選ばれるケースが多く、必ずしも親族が後見人になれるわけではありません。大切な不動産や会社の経営権を見知らぬ第三者に委ねざるを得なくなる可能性があり、精神的な抵抗感や不安材料となります。

2. 資産凍結と機動性の低下: 認知症発症後、後見人が選任されるまでの間は本人名義の資産が事実上凍結され、自由に動かせなくなります。たとえ後見が開始しても、後見人は裁判所の監督下で慎重に財産を管理するため、不動産の売却や新たな投資など迅速な意思決定が求められる経営判断に遅れが生じる恐れがあります。特に不動産賃貸業では空室対応や修繕、資産の組み換えなど機動的な対応が必要ですが、後見制度下ではこうした柔軟性が損なわれかねません。

3. 承継・相続対策が行えない: 後見人の使命はあくまで本人(被後見人)の財産を守り、その生活を維持することです。そのため、後継者への事業譲渡や生前贈与による節税策など、本人の死後を見据えた資産承継対策は後見人には実行できません。例えば、認知症発症後に「会社株式を後継者に贈与して相続税対策をする」といったことは後見制度では原則不可能です。結果として、オーナーが認知症になってからでは事業承継の手段が極めて制限されてしまいます。

4. 手続きや費用の負担: 成年後見制度を利用するには家庭裁判所への申立てや審理が必要で、開始まで時間と手間がかかります。さらに専門職後見人が付いた場合、その報酬(数万円~十数万円程度が月次で発生するケースもあります)は本人の財産から継続的に支払われます。小規模な不動産法人ではこのコスト負担も無視できません。また後見が開始すると、毎年裁判所への報告義務が生じるなど事務的負担も発生します。こうした煩雑さや経済的負担も、オーナーや家族にとって大きなデメリットと言えるでしょう。

以上のように、成年後見制度は本人保護の最後の砦として重要ですが、事前対策なしに迎えると事業承継や資産承継の面で不都合が大きいのが実情です。では代わりにどのような手を打てばよいのでしょうか。その答えの一つが家族信託の活用です。

家族信託導入のメリットと仕組み

家族信託(民事信託)とは、オーナーである委託者が信頼できる家族(受託者)に自分の資産管理・運用を託し、将来の資産承継先(受益者や帰属権利者)を指定しておく仕組みです。信託契約によって不動産などの財産の名義を家族に移し、管理・処分権限を託しますが、信託契約で定めたとおりオーナー本人や家族がその利益を受け取ります。簡単に言えば、「資産の名義は預けるが、運用益は今まで通り自分や家族が受け取れるようにする」制度です。認知症対策・相続対策として近年注目され、多くの不動産オーナーが導入しています。

家族信託の最大のメリットは、オーナーの判断能力が低下した後も資産を凍結させずに柔軟な管理・運用が続けられる点にあります。例えばオーナーが信頼する長男を受託者とする信託契約を結んでおけば、将来オーナーが認知症になっても長男が信託された不動産を管理・経営できます。その結果、成年後見制度を利用しなくても済む可能性が高まります。賃貸経営においても、空室対策や修繕・売却など必要な判断を家族が主体的に行えるため、事業が停滞しにくくなります。

また家族信託は相続に代わる仕組みとして機能する点もメリットです。信託契約時に、オーナー死亡後の財産の帰属先(残余財産受益者)を指定しておくことで、信託した資産については遺産分割や遺言執行を経ずに直接次の所有者に引き継ぐことが可能です。例えば「自分が亡くなったら信託不動産は長男に承継させる」と定めておけば、煩雑な遺産分割協議を経ずにその不動産を長男に引き継げます。これは相続手続きの簡略化や紛争防止に大いに役立ちます。

家族信託は非常に柔軟で、契約内容は家族の状況やオーナーの意思に応じてカスタマイズできます。例えば、「生前はオーナー自身が利益を受け取り、死亡後は配偶者に生活費として収益を渡し、最終的な元本は子供たちに渡す」といった複層的な指定も可能です。遺言では実現しにくい長期的・分割的な資産承継を実行できる点で、事業用資産を守りながら家族の生活も支えることができます。

もっとも、家族信託も万能ではありません。例えば信託した資産は形式上受託者の所有になるため、金融機関との取引(融資審査など)で慎重な対応が求められる場合があります。また信託財産は相続財産から除外されるものの、遺留分侵害の問題が全く生じないわけではなく、他の相続人との調整が必要なケースもあります。さらに信託契約の組成には法律知識が不可欠で、契約内容も専門家と十分検討する必要があります。「信託すれば全て安心」というわけではないため、信託だけでなく遺言書や保険など他の対策と組み合わせることが重要です。

実務上、家族信託と成年後見制度(任意後見契約を含む)を併用するケースもあります。例えば資産管理は家族信託でカバーしつつ、最終的な見守りや身上監護(療養看護など身の回りの世話に関する代理)は任意後見契約で備えておく、といった形です。任意後見契約とは将来の後見人をあらかじめ契約で指名しておく制度で、信頼できる親族等を後見人候補に定めておけば、万一後見が必要になった場合も見知らぬ第三者が入るのを防げます。このように信託と後見を組み合わせることで、資産管理と身上監護の両面に万全を期すことも可能です。

家族信託の導入を検討する際は、信託契約書の作成から登記手続き、税務上の取り扱いまで専門知識が要求されます。実行に当たっては家族信託に実績のある専門家(司法書士・弁護士・税理士等)に相談し、適切なスキームを設計してもらうことが重要です。当税理士事務所でも家族信託を含む資産承継対策に対応しておりますので、ご関心があればお気軽にご相談ください。

遺言書作成で家族円満・遺留分対策を行う

認知症対策と並んで、遺言書の作成も事業承継における必須項目と言えます。遺言書はオーナーの最終意思を法的に有効な形で示すもので、これがあるかないかで相続発生後の手続きは大きく変わります。遺言書がない場合、残されたご家族は遺産分割協議を行い全員の合意で分配を決めねばならず、不動産や会社の承継を巡って争いに発展する恐れがあります。一方、遺言書があれば遺産分割協議は原則不要で、遺言者の意思に従って財産分割が行われます。遺言によって誰が何を相続するか明確になっていれば、相続人同士の対立を避け円満かつ迅速な手続きを実現できます。

では、どのような遺言書を書けば良いのでしょうか。まず基本は、不動産法人の株式や不動産の承継者を明記することです。例えば「○○株式会社の発行済株式〇〇株は長男○○に相続させる」「〇〇不動産(所在地~~)は次男○○に相続させる」と具体的に指定します。加えて、事業を継がない他の相続人への配慮も忘れないようにしましょう。特に法定相続人には最低限の取り分(遺留分)が保証されています。遺言内容が遺留分を侵害する場合、侵害された相続人は遺留分相当額の取り戻しを請求できてしまいます。事業承継では後継者に株式や事業用資産を集中させたい一方、他の家族の遺留分にも配慮が必要です。そのため、遺言作成時に遺留分を考慮することが重要だといえます。

具体的な遺留分対策としては、例えば事業を継ぐ長男には会社株式を相続させ、他の子には代わりに現預金や他の不動産を相続させるよう遺言で調整する方法があります。また、生前に遺留分に配慮した贈与や保険金の活用も有効です。さらに相続人に事前に遺言の内容と趣旨を伝え、納得してもらうことで遺留分請求を思いとどまってもらう働きかけも考えられます(場合によっては相続人に家庭裁判所で遺留分放棄の許可を得てもらう手法もあります)。いずれにせよ、遺言を書く際は「誰に・何を承継させ、その結果他の相続人の遺留分は満たされるか」をシミュレーションし、不公平感を可能な限り減らす工夫が大切です。

遺言書作成にあたっては形式面にも注意が必要です。法律で定められた方式を守らなければ遺言は無効になってしまいます。自筆証書遺言の場合は全文自書・日付・署名押印といった要件を満たすこと、公正証書遺言の場合は公証人と証人2名の立会いが必要になること等、それぞれルールがあります。事業承継の要となる遺言が不備で無効…という事態は絶対に避けたいところです。専門家のサポートを受けつつ、形式と内容の両面で万全な遺言書を作成しましょう。

最後に、遺言書にはぜひ遺言執行者の指定も盛り込んでください。遺言執行者とは、遺言の内容を実現する手続きを担う人のことです。事業承継に関わる遺言では、信頼できる税理士や弁護士、あるいは後継者本人を執行者に指定しておくと安心です。遺言執行者がいれば、相続発生後の名義変更や株式の承継手続きがスムーズに進み、ご家族の負担軽減につながります。せっかく作った遺言を確実に機能させるため、執行者まで含めた準備をしておきましょう。

遺言書は家族円満な相続を実現する強力なツールです。不動産オーナーの事業承継では、認知症対策の信託と並んで遺言書作成による意思表示と遺留分対策が両輪となります。元気なうちに専門家と相談しながらベストな内容の遺言を書き残しておくことが、ご自身の想いとご家族の幸せを守ることにつながります。

以上のような観点を踏まえつつ、具体的に事業承継計画をどう策定し進めていくかを解説します。事業承継は単発のイベントではなく、段階的なプロセスです。現状分析から計画策定、後継者育成、権限移譲の実行、そして承継完了後のフォローまで、一連の流れを計画的に進める必要があります。以下では、

  • 現状分析と承継ゴールの設定方法
  • 後継者候補の選定と育成のポイント
  • 承継スケジュールの立て方
  • 税理士・専門家とチームで進めるメリット

の順にポイントを見ていきます。

現状分析と承継ゴールの設定方法

現状分析(現状把握)は事業承継計画の出発点です。まずは現在の会社と資産、家族の状況を正確に洗い出しましょう。具体的には次のような項目をチェックします。

  • 会社・事業の現状: 法人の事業内容や収支状況、従業員数、借入金の有無、取引先との関係などを整理します。特に不動産賃貸業の場合、保有物件の入居率や収益力、将来の修繕コスト見込みなども把握しておきます。
  • 資産・負債の一覧: 法人名義および個人名義で所有する不動産物件のリストと評価額、預貯金や有価証券の額、ローン残高など、資産負債の目録を作成します。法人所有不動産については現在の時価と簿価、将来の相続税評価額(路線価ベース評価)なども確認しておくとよいでしょう。
  • 株式・持分の状況: 自社株の発行部数と持株比率、評価額を確認します。オーナー一族以外に株主がいればその持株割合も把握が必要です。株式評価は相続税額を左右するため専門家に依頼して算定してもらうことをお勧めします。株価が高額な場合、後継者が株式を相続する際に多額の相続税納税が必要となるため、対策検討の重要なポイントとなります。
  • 後継者候補の有無: ご家族や社内に後継者と考えられる人材がいるか、その人数や適性、意向を確認します。誰も適任者がいない場合、早急に育成するか、社外から迎える(あるいは将来事業売却を検討する)必要があります。
  • 相続人の状況: 配偶者やお子様など法定相続人となる方々の年齢・職業・居住地などを整理します。加えて各相続人が将来的に相続で取得したい希望があるか(例えば「自宅は長女が住み続けたい」等)をリサーチしておくことも有益です。

こうした現状分析の結果を踏まえ、承継ゴール(目標)の設定に進みます。承継ゴールとは、「誰に・いつ・何を・どう引き継ぐか」を明確化した将来像です。例えば「5年後までに長男に社長職を譲り、自分は会長に退く。長男に株式の過半数を相続させる。他の子には金融資産を分配し、遺留分に配慮する」など、具体的なプランを描きます。承継ゴール設定のポイントは次の通りです。

  • 後継者像の明確化: 誰を後継者(経営承継者)とするか決定します。親族内承継なら長男・長女など具体的な人物を特定し、もし適任者がいなければ社内のキーパーソンや第三者承継の可能性も検討します。「最終的にこの人に任せる」という軸が定まれば計画にブレがなくなります。
  • 承継方法の決定: 事業と資産をどう引き継ぐか方針を定めます。株式の相続か贈与か、事業用不動産は法人に残すのか個人に移すのか、不採算物件は売却するのか等、大枠の方針を決めます。例えば「株式は全て長男に相続させる」「賃貸中の○○ビルは会社から長男個人に売却して法個間で資産移転する」といった具体策もこの段階で検討します。
  • タイミングの設定: 「いつまでに何を完了させるか」の目標時期を定めます。オーナーの年齢や体調、後継者の成長度合いを考慮し、「◯年後に社長交代」「◯歳までに株式○%を移転」「◯年以内に信託契約締結」などマイルストーンを置きます。これにより計画にメリハリがつき、関係者も動きやすくなります。
  • 家族の合意形成: 承継ゴールはオーナーの希望だけでなく、家族全員が納得できる形であることが重要です。設定したプランについて家族会議を開き、疑問や不安を解消しておきましょう。特に相続人が複数いる場合、それぞれの役割と受け取る財産のイメージを共有し、了承を得ておくことが円満承継につながります。

現状分析とゴール設定ができれば、それを文書にまとめた「事業承継計画書」を作成します。計画書には現状の課題、承継の方針、具体的な実施策、スケジュール、関与する専門家などを記載しておきます。この計画書は社内(家族内)で共有し、必要に応じてアップデートしながらプロジェクトを進めていきます。計画を「見える化」することで、何をいつまでにやるべきかが明確になり、承継準備が格段に進めやすくなるでしょう。

後継者候補の選定と育成のポイント

後継者の選定と育成は事業承継の成否を握る最重要ポイントです。特に家族経営の不動産事業では「誰に継がせるか」「どうやって育てるか」が悩みの種になりやすい部分です。ここでは後継者候補の選び方と、選んだ後継者をどのように育成していくか、そのポイントを解説します。

1. 後継者候補の選定: まず承継候補を絞り込みます。親族内であれば、お子様の中から意欲・適性のある方を選ぶケースが一般的です。長子だから必ずしも適任というわけではなく、不動産や経営に興味関心が強い、人脈がある、責任感がある、といった資質を持つ人が望ましいでしょう。複数候補がいる場合、最終的にはオーナーの判断となりますが、できれば早い段階で本人同士・家族内で話し合い、「◯◯さんに継いでもらう」方向で一致できるのが理想です。親族に適任者がいない場合、信頼できる社員に承継する道も検討します。ただし不動産業は零細企業が多く、外部から優秀な人材を呼ぶのは容易でないのが現実です。将来的に第三者承継(M&Aなど)も選択肢に入れつつ、誰に任せるのが事業を存続できるか現実的に見極める必要があります。

2. 後継者候補への打診と意思確認: 候補が決まったら、早めに本人へ承継の意思を打診しましょう。承継される側にも人生があります。「継いで当たり前」と決めつけず、なぜあなたに継いでほしいのか、会社の将来をどうしたいのか、オーナーの思いを正直に伝え、本人の意思を尊重することが大切です。仮に本人が難色を示す場合、無理強いせず一旦保留し、他の候補や別の承継方法も検討します。逆に本人が承継を快諾した場合は、その日から計画の主要メンバーとして迎え入れ、一緒に準備を進める体制にします。

3. 後継者の育成計画: 承継までの期間で後継者を育成する計画を立てます。不動産オーナー業は営業・管理・経理・税務など幅広い知識が要るため、計画的な育成が必要です。育成のポイントとしては:

  • 実務経験を積ませる: 後継者候補には可能な限り会社業務のあらゆる分野を経験させます。物件管理や入居者対応、資金繰り、税務申告、銀行折衝などを実践させ、オーナーが持つノウハウを少しずつ伝えていきます。最初は簡単な業務から始め、徐々に重要な仕事を任せましょう。
  • 経営を疑似体験させる: 育成後期には、例えば一部の物件の運営を任せてみる、または代表者代理として会議や取引先対応に出席させるなど、経営者に近い立場を経験させます。疑似的に社長業を体験することで、自覚と覚悟が芽生えます。
  • 専門知識の習得: 不動産や相続、税金に関する基礎知識を習得させます。必要に応じて外部セミナーや研修への参加、宅地建物取引士や管理業務主任者など資格取得も奨励すると良いでしょう。税理士や弁護士など専門家から直接アドバイスを受ける機会を設けるのも有効です。
  • 人脈・信頼の引継ぎ: 得意先や金融機関、テナント、取引業者などステークホルダーとの関係構築も重要な育成項目です。オーナーが築いた信用を後継者にも引き継げるよう、挨拶回りや面談の場を設けて紹介し、人となりを知ってもらいます。徐々に先方から後継者に直接連絡が来るくらい信頼関係を構築できれば成功です。
  • 失敗経験も糧に: 育成期間中、後継者候補が何らかの失敗をすることもあるでしょう。しかしそれも貴重な学習機会です。大事に至らない範囲で失敗を経験させ、共に改善策を考えることで、危機管理能力や問題解決力が養われます。オーナーはフォローに回りつつ、あえて任せてみる度量も必要です。

4. 心構えとリーダーシップ醸成: 技術や知識以上に、経営者としての心構えを教えることも欠かせません。高い倫理観や責任感、決断力、そして何より「会社と従業員、家族を守る」という使命感を徐々に育んでいきます。オーナーの経営哲学や信条、大切にしてきた信用第一の姿勢などを繰り返し伝え、後継者の中に経営者マインドを醸成しましょう。場合によってはオーナー自身の失敗談や苦労話を共有し、経営の厳しさとやりがいを理解させることも有意義です。

以上のような育成プロセスには最低でも数年、長ければ5~10年を要することもあります。焦らず計画的に育成を進め、「この人なら大丈夫」と自他ともに認められる状態を目指します。周囲の従業員や取引先からも後継者として信頼されるようになれば準備万端です。なお、育成の進捗は事業承継計画のスケジュールにも反映させ、定期的に見直して必要な手を打つようにしましょう。

承継スケジュールの立て方

事業承継計画には具体的なスケジュールを設定することが重要です。漠然と「いずれ承継する」では物事は進まないため、各ステップに期限を設けて進捗を管理します。一般的な事業承継スケジュールの例を示します。

  1. 準備開始(今すぐ): 現状分析と課題整理を行い、事業承継方針を決定します(後継者候補の内定、承継方法の大枠など)。専門家(税理士・弁護士)に相談を開始し、節税策や法務手続きの検討を始めます。
  2. 計画策定(1年目): 承継計画書を策定し、家族・関係者と共有します。併せて遺言書の作成や信託契約案の検討など法的準備を進めます。この時点で承継計画の全体像と役割分担が明確になっている状態にします。
  3. 育成期間(1~5年目): 後継者育成計画に沿い、徐々に業務移譲を進めます。3年目までに主要物件管理を後継者に任せ、4~5年目には経営判断の大半を後継者が担うようシフトします。また必要な株式贈与や資産移転は、毎年の贈与非課税枠を活用しながら段階的に実行します。
  4. 権限移譲(5年目~): 後継者が十分育ち関係者の信頼も得られたら、正式に社長職を交代します(株主総会や取締役会での選任手続)。代表印や銀行口座の権限も後継者に移し、オーナーは相談役や会長に退く形にします。社長交代後も一定期間は旧オーナーがバックアップし、必要に応じ助言できる体制を残します。
  5. 承継完了(5~10年目): オーナーが引退し、後継者体制が軌道に乗ったら事業承継は完了です。ただし承継後も経営環境は変化しますので、後継者は新体制で会社を発展させるべく努力を続けます。旧オーナーは経営には口を出しすぎず、次世代に任せる潔さも大切です。

上記は一例であり、各社の状況によって期間や手順は異なります。重要なのはいつまでに何をするかを明文化し、関係者と共有することです。節目ごとに進捗を確認し、遅れがあれば原因を分析して対処します。例えば「3年後に株式の半分を贈与する予定が、株価上昇で贈与税負担が重くなったため計画変更」など状況に応じた修正も必要でしょう。計画はあくまでロードマップですから、柔軟に見直しつつ最終目的地(円滑な事業承継)に到達できるよう舵取りしてください。

また、承継スケジュールを立てる際には税制の期限にも留意しましょう。中小企業の事業承継税制(非上場株式の相続税・贈与税猶予制度)を活用する場合、計画の提出期限や適用期限があります。例えば特例事業承継税制では2025年度までに「特例承継計画」を都道府県に提出し、その上で2027年末までに実際の承継(贈与・相続)を行う必要があります。こうした制度活用も見据えつつ逆算してスケジュールを組むことで、税負担を大きく軽減しながら承継を進めることが可能です。

最後に、計画通り進んでも油断は禁物です。オーナーの急病や経営環境の激変など、不測の事態はいつ起こるか分かりません。そこでリスクシナリオも用意しておきましょう。例えばオーナーに万一のことがあった場合の暫定的な指揮命令系統、緊急時に開封する手紙の作成、生命保険による資金手当てなどです。こうした備えがあれば、想定外の事態にも会社と家族を守ることができます。

税理士・専門家とチームで進めるメリット

事業承継は、オーナーとご家族だけで完結するものではありません。法律・税務・財務など専門知識を要する分野が多岐にわたるため、税理士や弁護士など専門家のチームと一緒に進めるメリットは計り知れません。

1. 税務面の最適化: 不動産オーナーの事業承継では、相続税・贈与税や法人税の問題が必ず絡みます。税理士に相談すれば、最新の税制に基づいた節税策や納税計画を提案してもらえます。例えば事業承継税制の特例措置を利用すれば、後継者が取得する株式にかかる相続税・贈与税の100%が猶予・免除され、事実上納税負担をゼロにできるケースもあります。こうした制度活用には事前準備が要るため、税理士のサポートが不可欠です。また、専門家でないと見落としがちな細かな控除(不動産評価減や小規模宅地等の特例など)も駆使して、税負担を最小限に抑えるプランを立ててくれるでしょう。

2. 法務面の安心感: 遺言書や信託契約の作成、任意後見契約の締結、株式譲渡契約や定款変更など、事業承継では様々な法的手続きが発生します。弁護士や司法書士といった専門家と組むことで、これら法務手続きを適切に進められます。法律のプロが関与することで書面の不備や手続きミスが防げ、将来の紛争リスクも低減します。特に家族信託契約はオーダーメイドとなるため、実績ある専門家のサポートが成功のカギです。

3. 計画立案と客観的助言: 専門の税理士は多くの事業承継支援に携わっており、豊富な事例知識を持っています。「同じ不動産業でもこのような承継例がある」「この手法は過去にうまくいった」など具体的なアドバイスを受けられ、自社の計画に活かせます。また、オーナーや家族だけでは感情的になりがちな場面でも、第三者の専門家が入ることで冷静かつ客観的な視点で意思決定できます。例えば後継者選びで親としての情に迷いが出た場合でも、専門家は会社存続の観点から合理的な助言をしてくれるでしょう。

4. 手続きの効率化: 相続税の申告や名義変更登記、後継者への株式移転など、承継には煩雑な事務がつきものです。こうした実務手続きも専門家に任せることでオーナー家族の負担は大幅に軽減されます。税理士は税務申告書類の作成や税務署との折衝を代行し、司法書士は不動産や会社役員の名義変更登記をスムーズに進めてくれます。特に相続発生直後は何かと慌ただしいものですが、専門家チームがいれば各種届出・申告を漏れなく処理し、安心して承継手続きを完了できます。

5. 継続的サポートとアフターフォロー: 承継完了がゴールではなく、その後も新体制で会社を軌道に乗せる必要があります。税理士・弁護士は承継後も後継者の良き参謀としてサポートできます。承継後の税務戦略の見直し、新事業展開時の法務チェック、そして万一の税務調査対応まで、専門家がチームにいれば長期的な安心感があります。税務調査について詳しくは下記のページをご覧ください。

オーナーからバトンを受け取った後継者にとって、信頼できる専門家チームの存在は大きな支えとなるでしょう。

以上のように、事業承継は決して一人では完遂できません。税理士法人加美税理士事務所でも、弁護士や司法書士と連携しながら不動産オーナー様の事業承継を総合的に支援しております。専門家チームと二人三脚で準備を進めることで、「こんなはずではなかった」という落とし穴を事前に潰し、ベストな形で大切な資産と事業を次世代に託すことができます。

高齢の不動産オーナーにとって、事業承継は人生最後の大仕事とも言えます。不安や悩みも多い分野ですが、早めに着手し適切な対策を講じれば、決して乗り越えられない壁ではありません。老後の安心会社の将来を両立させるため、本記事で述べたプランニングの考え方や認知症対策(成年後見・家族信託)、遺言書作成のポイントを参考にしていただければ幸いです。そして何より重要なのは、信頼できる専門家のサポートを得ることです。税務・法律のプロと力を合わせ、ぜひ円満で確実な事業承継を実現してください。ご自身が築いた不動産資産と事業が、次の世代へと受け継がれさらに発展していくことを、私たちも心より願っております。

賃貸不動産オーナーにとって、資産を次世代へスムーズに引き継ぐ事業承継は避けて通れない課題です。とりわけ不動産投資は物件評価額が大きく、相続税負担も高額になりがちなため、早めの相続対策が欠かせません。事前に適切な税務・法務対策を講じておけば、大切な不動産を手放すことなく事業を継続し、家族の生活や資産を守ることができます。一方で対策を怠れば、相続発生時に多額の納税資金が用意できず不動産を売却せざるを得なくなったり、親族間で争いが起きたりするリスクもあります。そこで本章では、不動産投資に強い税理士の視点から、賃貸不動産オーナーが押さえておくべき事業承継の税務・法務ポイントを詳しく解説します。日頃から行う不動産の節税対策ももちろん重要ですが、事業承継においては親族承継M&Aなど承継スキームごとの留意点、生前贈与や売買の活用タイミング、さらには事業承継税制(特例措置)といった専門的な制度の活用も検討が必要です。また、不動産の評価額引き下げ策や納税資金の準備、そして承継に伴う税務調査リスクへの備えなど、幅広い観点で対策を進めることが求められます。税務と法務の両面からバランスよく対策を講じることで、将来の承継を安心して迎えられる体制を整えておきましょう。

日頃から行う不動産の節税対策について詳しくは下記のページをご覧ください。

事業承継の方法として大きく親族内承継(親族承継)と第三者承継の2つがあります。親族内承継とは、オーナーの子どもや親族が事業を引き継ぐケースです。一方、第三者承継には、後継者となる従業員や役員に引き継ぐ方法、あるいは外部の第三者へ事業や資産を譲渡するM&Aによる承継があります。それぞれメリット・デメリットが異なるため、自身の状況に適したスキームを選択することが重要です。

まず親族承継の場合、事業や不動産を自分の子どもなど身内に託せる安心感があります。経営方針の連続性も保ちやすく、長年かけて築いた賃貸経営ノウハウをスムーズに伝承できる点は大きな利点でしょう。ただし、相続税贈与税などの税負担が後継者に生じるため、計画的な資金準備と税務対策が不可欠です。また、後継者となる親族に経営能力や意欲があるか見極める必要もあります。親族が複数いる場合は、特定の後継者に事業用不動産を承継させることで他の相続人との不公平感が生じる可能性があり、遺産分割を巡ってトラブルにならないよう配慮が必要です。こうした事態を防ぐためにも、生前に遺言書の作成や株式の分散対策を講じておくことが望ましいでしょう(遺言書による指定や遺留分への配慮など法務面の対策が重要です)。

次に、親族以外への承継として第三者への売却(M&A)があります。後継者となる親族がいない場合や、子どもに事業承継の意思がない場合には、有力な選択肢となります。M&Aにより不動産賃貸業自体または不動産保有法人の株式を第三者に売却すれば、オーナーは事業から退いてまとまった資金を得ることができます。売却代金から譲渡所得税等を支払った後の資金は老後資金や他の投資に充当でき、相続人にとっても煩雑な事業承継手続きを避けられるメリットがあります。さらに、第三者に事業を譲れば相続税そのものの発生を抑えられる可能性もあります(資産を売却し現金化しておけば、相続時には現金が遺産となりますが、不動産特有の高額な相続税評価よりも納税計画を立てやすくなる面があります)。ただしM&Aによる承継では、買い手探しや交渉に時間がかかりやすく、希望通りの価格や条件で売却できる保証はありません。従業員や取引先がいる場合は、経営権の移転による反発リスクや信用不安にも留意が必要です。また、長年所有した不動産を手放すことへの心理的ハードルもあるでしょう。譲渡時には不動産の含み益に対して譲渡所得税(個人の場合は長期譲渡20%程度、法人の場合は法人税として課税)が発生し、さらに不動産取得税や登記費用などのコストも考慮する必要があります。こうしたデメリットも踏まえ、第三者承継を検討する際は専門家のサポートのもと十分なシミュレーションを行うことが大切です。

近年は事業承継問題を背景に、中小企業でもM&Aによる第三者承継が増加傾向にあります。不動産賃貸業界でも、高齢のオーナーが子息ではなく投資会社や他のオーナーに物件や法人を売却するケースが見られます。これは後継者不在による廃業や空き家化を防ぎ、資産を有効活用する手段として注目されています。ただし、親族内承継と異なり事業や資産が一族の手から離れるため、オーナー自身の引退後の生活設計も考慮しつつ判断する必要があります。不動産法人の相続対策として、自社株の価値を高めてから売却する戦略や、逆に早めに売却してリスクや税負担を抑える戦略など様々ありますが、個々の状況によって最適解は異なります。親族承継か第三者承継か迷ったら、早い段階で専門家に相談し、自身のご家族や資産規模に合った承継計画を立てることをお勧めします。

事業承継を円滑に進めるには、「いつ」「どの方法で」資産を引き渡すかというタイミングの戦略が重要です。大きく分けて、①相続(死亡後の承継)、②生前贈与、③生前の売買の三つの手段があります。それぞれ税負担や手続きが異なるため、メリットを最大化できるタイミングを見極めましょう。

まず相続による承継は、オーナーが亡くなった時点で資産を次世代に引き継ぐ方法です。日本の相続税制度では基礎控除額(「3,000万円+600万円×法定相続人の数」)が設けられており、一定額までは非課税で承継できます。また配偶者には税額軽減措置があり、配偶者が相続する財産については大半が非課税になるケースもあります。そのため、財産規模によっては相続まで待った方がトータルの税負担が低くなることがあります。しかし不動産評価額が大きい場合や法定相続人が少ない場合には、多額の相続税が発生しうる点に注意が必要です。例えば賃貸アパートやビルなど高額不動産をお持ちの場合、相続人に相続税シミュレーションを行っておき、現状の資産に基づく税額試算を事前把握しておくことをおすすめします。相続発生後は原則10か月以内に申告・納税が求められるため、遺産分割協議の行方や納税資金の準備まで見据えておかなければなりません。特に不動産は現金化しにくいため、相続まで対策せず放置すると「相続税は土地建物で支払うしかない(結果的に不動産を手放す)」という事態にもなりかねません。そこで、手遅れになる前に次に述べる生前贈与や売買も組み合わせ、負担を平準化することが重要です。

生前贈与の活用は、オーナーが存命中に子や孫へ財産を贈与する方法です。毎年少しずつ贈与すれば、贈与税の基礎控除110万円(暦年課税)を活用して非課税で資産移転が可能です。例えば毎年110万円ずつ現金を子に贈与すれば、10年間で合計1,100万円を無税で渡せる計算です。まとまった額を移転する場合には、相続時精算課税制度の利用も検討できます。この制度を使えば60歳以上の親から18歳以上の子へ生前贈与する際に、累計2,500万円まで贈与税が非課税(超過分は一律20%課税)となり、贈与財産は将来の相続財産に加算して清算されます。自社株式や不動産を早めに子どもへ移転しておき、将来評価額が大きく上がっても相続時の課税を凍結できる点がメリットです。ただし相続時精算課税を適用すると原則として相続まで他の贈与税控除(年110万円枠)が使えなくなるため慎重な検討が必要です。一般の暦年贈与であっても、贈与税の税率は累進課税で最大55%と高率であり、安易に大口贈与をすると相続税より税負担が増える場合もあります。特に不動産を贈与する場合、評価額が高額になりやすく多額の贈与税が発生する恐れがあります。また不動産贈与時には不動産取得税・登録免許税や不動産登記の司法書士費用など諸費用もかかります。一方で、早いうちに贈与してオーナーから財産を切り離しておけば、その後の賃料収入や資産価値の上昇分について相続税を回避できるメリットがあります。特に将来的に不動産価値が大幅に上がりそうな場合や、オーナー自身の余命が長く見込まれる場合には、生前贈与で早めに移転しておく意義は大きいでしょう。ポイントは、「オーナーご自身の生活費や老後資金に支障が出ない範囲で」「税率区分が低いうちに」計画的に贈与することです。なお、2024年の税制改正により生前贈与加算(相続開始前の贈与を相続税課税対象に含める期間)が従来の「死亡前3年以内」から「7年以内」に延長されました。直前になって多額の贈与を行っても結局相続税で課税される可能性が高まりましたので、より長期的な視点で少額からコツコツ贈与することが重要になっています。

生前の売買による承継も有力な選択肢です。親子間で不動産を売買することで所有権を移転すれば、形式上は対価を伴う取引のため贈与税は発生しません。親は譲渡所得税を納める必要がありますが、例えば不動産の取得費用が高かった場合や市場価値が頭打ちの場合、思ったほど譲渡益が出ず税負担が軽く済むケースもあります。親から子への売買では、適正な時価で取引することが肝要です。不当に低い価格で売却すると、税務署から差額を贈与とみなされるリスクがあります。また購入資金を子が親から借り入れるケースでは、借用証書の作成や利息設定など形式を整えないと贈与と判断されかねません。きちんと市場価格で売買すれば、子はその対価を親に支払う代わりに不動産を取得できます。将来価値が上がりそうな不動産であれば、低いうちに子へ売っておくことで結果的に相続税の課税ベースを下げることにもつながります(親の手元には現金が残りますが、それを使い切るか計画的に贈与すれば相続財産を圧縮できます)。一方、親にまとまった譲渡所得が発生すると、高額な所得税・住民税負担となり元も子もないため、売却益の試算は入念に行う必要があります。特に個人で長期保有した不動産を売る場合でも税率20%程度(所得税15%+住民税5%)はかかりますし、物件によっては譲渡時に消費税の課税も検討事項になります(居住用や住宅の賃貸用不動産には基本的に消費税は非課税ですが、テナントビル等は課税資産です)。さらに不動産取得税(固定資産評価額の3〜4%)や登記費用といったコストもかかるため、親子間売買ではそれらを含めた総合的な損得勘定が求められます。

なお、生前の対策としては、個人から法人化して不動産管理会社を設立し、その法人に資産を移転しておく方法もあります。例えば親が自ら代表となる不動産管理会社を設立し、個人で所有していた物件をその法人へ売却(法人と個人間の売買)するスキームです。こうすることで将来の承継対象を不動産そのものから法人の株式に切り替えることができます。株式であれば分割承継が容易になり、また後述する事業承継税制(株式の納税猶予制度)の活用も視野に入ります。さらに法人に移した後は賃料収入が法人に帰属するため、法人税率(中小法人なら15〜23%、法人住民税等を含めた実効税率でも最高約33%程度)で課税され、個人で高い所得税率が適用されるより節税効果が見込める場合もあります。このように法人化と売買を組み合わせた節税スキームは有効なケースも多いですが、一度法人化すると不動産を個人に戻すのは難しく、維持コストや経理事務も発生します。加えて、親個人に物件売却益が出れば譲渡税負担が発生する点も踏まえ、実行のタイミングとメリットを専門家と慎重に検討しましょう。

法人化について詳しくは下記のページをご覧ください。

法個売買スキームについて詳しくは下記のページをご覧ください。

まとめると、生前贈与・売買のタイミングは「オーナーが若く健康で将来に余裕があるうち」に開始するのが基本です。高齢になって判断能力が低下すると贈与や売買の手続き自体が困難になったり、認知症発症により契約行為が無効になったりするリスクもあります。最近は家族信託などを活用して財産管理をスムーズに行う手法も注目されていますが、まずはオーナー自身が主体的に動ける段階で対策に着手することが肝心です。ご家族とも十分話し合い、専門家のアドバイスを受けながら「何を・いつ・どう承継するか」の計画を立てていきましょう。

自社株式等の承継に関わる事業承継税制とは、一定の中小企業において後継者が事業を引き継ぐ際、発生する相続税・贈与税の納税を猶予・免除できる特例制度です。賃貸不動産オーナーの場合、自身で設立した不動産管理会社など不動産法人を後継者に継がせるケースで、この制度の活用が検討できます。事業承継税制には大きく分けて「一般措置」「特例措置」(平成30年度税制改正で創設)がありますが、現在主に利用されているのは要件を大幅に緩和した特例措置の方です。

特例事業承継税制(法人版)を適用すれば、オーナーが保有する自社株式について、贈与または相続で後継者に引き継ぐ際に生じる税金の100%(全額)の納税が猶予されます。従来の一般措置では課税価格の80%相当が猶予限度でしたが、特例措置では残り20%分も含めた全株式が対象となる点で非常に強力です。さらに後継者が一定期間会社の経営を続け諸条件を満たせば、その猶予されていた税金が実質的に免除(納税ゼロ)される仕組みになっています。これにより、後継者は莫大な税負担を気にせず事業を承継でき、会社の資金繰りを圧迫せずに済みます。まさに「事業継続のための特例」と言えるでしょう。ただし、誰もが無条件で使えるわけではなく、適用を受けるためには細かな要件手続きをクリアする必要があります。

まず対象となる会社は、中小企業基本法上の中小企業で非上場会社であることが前提です。賃貸不動産業の場合、資本金1億円以下・常時使用従業員100人以下であれば中小企業とみなされますので、多くの不動産管理会社は該当するでしょう。ただし、投資業や資産管理が主たる会社(不動産賃貸業は該当します)でも制度の対象にはなりますが、適用にあたって会社の事業継続性など一定の要件があります。また後継者個人にも、承継時において筆頭株主であること総議決権の過半数を保有することといった要件があります。通常は後継者一人のみが対象ですが、特例措置では最大3人までの後継者に分散して承継するプランも認められています(親族内で事業を分社化する場合などはこの柔軟措置が有用です)。

特例適用の大まかな流れとしては、まず承継前に「特例承継計画」を策定し、都道府県知事に提出・確認を受けます。この計画書には後継者や事業承継の時期、経営計画などを記載し、認定支援機関(税理士等)の所見を付ける必要があります。提出期限は2026年3月31日までと定められており、計画提出がこの期限に間に合わないと特例措置の適用は受けられません。その後、実際の承継(株式の贈与または相続)を2027年12月31日までに完了させる必要があります。計画提出から承継実行まで若干余裕がありますが、後述のように継続要件の履行期間も含めトータルで長期にわたる手続き管理が必要です。

承継が実行されたら、贈与税・相続税の申告時に事業承継税制の適用を受ける旨を税務署に申告し、対象株式と税額の猶予を受けます。ここから少なくとも5年間は、後継者が会社の経営を継続していくことが求められます。具体的には、承継後5年間は毎年1回、都道府県に事業継続の確認届出を行い、後継者が代表者であり続けていること、会社が継続して事業を営んでいることなどを報告します。従来は「雇用確保要件」として従業員数を80%以上維持する目安がありましたが、特例措置では厳格な要件ではなくなり緩和されています(雇用について努力義務はあるものの、達成できなくても即猶予取消とならない仕組みです)。重要なのは、後継者が猶予を受けた株式を途中で譲渡したり、会社を畳んでしまったりしないことです。もし承継から5年以内に会社を清算したり、後継者が株式を売却・贈与したりすると、猶予された税金を全額納付しなければならなくなります。5年経過後も、猶予を受けた税金は基本的には後継者が株式を保有し続ける限り据え置かれますが、将来的に事業を譲渡・売却する際などには猶予税額の一部納付が必要となる場合もあります。特例措置では一定期間経過後に猶予税額の80%が免除され、残り20%も後継者の死亡等で最終的に免除される仕組みになっています(制度改正でより免除要件が緩和されています)。要するに、後継者が事業を続けている間は実質ずっと税を払わなくてよい、非常に強力な優遇措置なのです。

個人で賃貸不動産業を営むオーナー向けには、株式ではなく事業用資産(土地建物等)の相続税を猶予できる個人版事業承継税制もあります。ただしこちらは不動産賃貸業が対象業種に含まれず(主に製造業や商業など一定の事業のみ対象)実務で使えるケースは限定的です。したがって不動産オーナーが事業承継税制を活用するなら、やはり不動産管理会社を活用して法人版の適用を目指す形が現実的です。当税理士事務所でも、要件に該当しそうなクライアント様には早めに法人化をご提案し、事業承継税制のシミュレーションや計画書策定をお手伝いしています。適用には専門知識が必要なうえ、税制自体に期限(2027年末までの承継)がありますので、関心のある方はぜひお早めにご相談ください。

賃貸不動産の事業承継では、相続税評価における不動産の評価額をできるだけ引き下げる工夫と、いざという時の納税資金を確保する対策が重要なテーマとなります。不動産は預貯金などに比べ評価引下げの余地が大きく、適切な対策により相続税額を大幅に軽減できる可能性があります。また、評価を下げてもなお発生する相続税については、その納税資金をどう捻出するか考えておかねばなりません。以下では、不動産評価減の主な方法と納税資金対策について解説します。

不動産の評価額引下げ策: 相続税評価において、賃貸不動産は自用(自己使用)の不動産に比べて低く評価されるルールがあります。例えば、賃貸用の建物が建っている土地(貸家建付地)は、更地評価に一定の控除が掛けられます。具体的には、その土地の評価額に対し「借地権割合×借家権割合×賃貸割合」に相当する分だけ差し引く計算です。借家権割合は全国一律で30%と定められており、借地権割合は地域や用途により異なりますが住宅地なら概ね30〜70%程度です。仮に借地権割合を60%とすると、貸家建付地評価減は18%(0.6×0.3)になり、土地評価額は更地より18%安くなります。また建物自体も、他人に貸している場合(貸家)は評価額が3割減(借家権割合30%控除)となります。さらに建物の評価額算定基礎は固定資産税評価額ですが、新築ほど評価額は低く、古くなるほど減価償却が進んで評価額も下がります。つまり、賃貸中の築古物件であれば、時価に比べ相続税評価額が大幅に圧縮されているケースも珍しくありません。これらの原理を踏まえ、相続直前期にはなるべく不動産を賃貸活用しておくことが有効です。空き地や遊休不動産を持っている場合は、生前に思い切ってアパート建築や駐車場経営など収益不動産に用途変更することで、大きな節税効果を得られる可能性があります(俗に「駆け込みでアパート建築」という手法です)。もちろん建築費用や採算性との兼ね合いがありますから、何でも建てれば良いわけではありませんが、現金で持っているよりも不動産に替えておいた方が評価圧縮できる場合が多いのは確かです。現金や有価証券など時価評価される資産は額面通り評価されますが、不動産であれば上述のような各種控除や評価方法の違いにより実勢価格より低い評価額になりえます。特に賃貸マンションなどは、相続税評価額が時価の7割以下になる例もあります。不動産投資は相続対策として有効といわれる所以です。なお、相続税評価額を下げる手段として借入金の活用も挙げられます。例えば手元資金で現金1億円を持っている場合と、1億円を自己資金にさらに銀行借入を3億円行い計4億円で不動産を購入した場合とを比較しましょう。前者では現金1億円がそのまま評価対象になります。一方後者では、取得した不動産の評価額がおそらく購入額4億円より低い路線価評価(例えば2億5,000万円程度)となり、そこから借入金3億円を差し引くため、結果として課税価値はゼロ、場合によってはマイナスになります。極端な例ですが、ローンを組んで不動産投資をすることで相続財産を圧縮できるのはこのためです。もちろん借入金には利息負担が伴いますし、無理な投資は本末転倒です。しかし、ある程度計画的な範囲でレバレッジを効かせた不動産取得は、有力な相続税対策となり得ます。

納税資金対策: どれだけ評価額を引き下げても、一定の相続税が発生する場合にはその納税資金の確保策が必要です。相続税の納税期限は相続開始から10ヶ月以内と定められており、この短期間で現金一括納付が原則です。不動産は現金化しにくく、相続人が自前で多額の現金を用意できなければ不動産を売却して納税に充てざるを得ません。そうならないために、生前から納税資金を準備する方法を考えておきましょう。

代表的なのは生命保険の活用です。被相続人(オーナー)が生命保険に加入し、受取人を相続人(配偶者や子)としておけば、死亡保険金が相続発生と同時に受け取れます。生命保険金には「500万円×法定相続人の数」の非課税枠があるため、例えば相続人が配偶者と子2人の計3人なら1,500万円まで相続税がかかりません。保険金受取額をこの枠内に収めるよう設計すれば、実質無税の納税原資を用意できるわけです。仮に非課税枠を超える保険金でも、一時所得課税や相続税課税となりますが、資産をすぐ現金化できる点で不動産にはないメリットがあります。オーナーが健在なうちから毎年コツコツと保険料を払っていけば、無理なく将来のまとまった資金を準備できます。特に不動産しか資産がない「土地長者」の方などは、生前に生命保険へ資産の一部をシフトしておくことをぜひ検討してみてください。

他にも納税用預金として金融機関に専用口座を設け積み立てるケースや、相続発生直後に不動産の一部を売却して資金化する計画を立てておくケースもあります。どの物件を売るか、あるいは賃貸経営を継続しつつ借入で納税して後から賃料収入で返済するか(延納制度の活用)など、想定シナリオを事前に検討しておくと安心です。日本の相続税には、不動産が多く現金納付が難しい場合に一定の条件下で許可される延納制度物納制度もあります。延納とは、納税額に応じた担保提供と年利(現在おおむね年1〜2%台)の利子税負担を条件に、最長20年まで分割払いを認めるものです。物納とは、どうしても現金が用意できない場合に不動産そのものを国庫に納め納税に充てる制度です。しかし延納や物納は誰でも使えるわけではなく、厳しい要件と手続きを要します。できれば制度に頼らず、自助努力で乗り切るのが賢明です。そのためにも、日頃から賃貸経営で十分なキャッシュフローを確保しておくことや、収益物件を増やしすぎて納税不能な事態に陥らないようポートフォリオを組むことも経営者として重要な視点でしょう。例えば、お子様の代で売却して現金化しても良い物件と、長期保有したい物件に分けておくなど、資産ごとに役割を決めておくことも有効です。

最後に、オーナーご本人が対策しないまま急に相続が発生してしまった場合でも、慌てず専門家に相談してください。納税のため二次相続以降に組み替えが必要な資産があれば、適切に売却や活用方法転換の支援をいたします。当税理士事務所では相続税申告のサポートはもちろん、相続後を見据えた不動産活用のアドバイスも行っています。「いざという時に家族が困らない準備」を今から一緒に進めていきましょう。

事業承継対策を進める中では、税務調査リスクにも配慮した適正な税務管理が重要です。せっかく節税策を講じても、後から税務署の調査で否認されたり追徴課税を受けたりしては元も子もありません。不動産オーナーにとって特に注意すべき税務上のポイントを押さえておきましょう。

まず、適正な評価と申告を心掛けることです。不動産の相続税評価は路線価等に基づき算出しますが、評価減の適用や土地形状補正など専門的な判断が伴います。素人判断で過度に評価額を下げて申告すると、調査で指摘を受け評価額が引き上げられてしまう可能性があります。また、親子間売買や資産移転の際には、公示価格や精通者意見価格(不動産鑑定評価)なども参考に公正な時価で取引を行ってください。不当に安い売買や形式的な借入金スキームは、税務署に疑念を抱かせる原因となります。過去には同族間での低額譲渡が実質贈与と認定された事例や、架空の借入金を装った贈与が発覚した例も報告されています。プロの税理士に相談し、税法の範囲内で有効と認められるスキームであるかチェックを受けることが肝要です。

次に、書面や証拠を整備しておくことです。贈与を行ったら公正証書による贈与契約書や預金通帳の写しを保管する、遺言書を作成したら検認手続きを経て正式な形で保管する、不動産の賃貸借契約書や収支明細をきちんと保存するなど、将来の承継や調査に備えたドキュメント管理が信頼性を高めます。税務調査では申告書の数字の根拠資料が求められます。不動産賃貸業では経費計上の領収書や賃料入金記録、減価償却計算の明細なども対象になります。とりわけ相続税申告では、不動産の評価証明書や権利関係を示す書類(登記事項証明書、賃貸借契約書など)、事業承継税制適用の場合は認定書類など、大量の添付資料が求められます。これらを日頃から整理して保管しておけば、万一税務調査があっても迅速に対応でき、疑義を持たれにくくなります。

また、日常の経理・申告を適正に行うこと自体がリスク低減につながります。毎年の青色申告決算書や確定申告書の内容に誤りや不明点があると、税務署の関心を引きやすくなります。賃貸不動産の経費計上ミス(プライベートな支出の混入など)や申告漏れは厳禁です。特に不動産管理会社をお持ちの場合、法人税・消費税の申告も関わってきますので、専門家のチェックを受けながら正確な申告を続けてください。税務署は申告内容を毎年モニタリングしていますから、不自然な損益のブレ大きすぎる経費計上があると調査選定の対象になり得ます。逆に言えば、適正な申告を続けている納税者は調査の優先度が下がる傾向にあります。

それでも万一税務調査が入った場合に備え、専門家と事前に打ち合わせておくことも有効です。当税理士事務所では顧問先の調査立会いも行っており、事前に想定問答や必要資料の準備を進めています。相続税の調査は被相続人の預金出入や過去の贈与状況まで詳しく調べられますが、過去に贈与税申告を適切に行っていたり資料が揃っていたりすれば恐れることはありません。逆に「生前、こっそり現金を引き出して渡していた」ようなケースは後で指摘を受けやすいので注意しましょう(令和5年税制改正で預金等の過大な引出しは原則相続財産に含めると明文化されました)。心当たりがある場合は事前に専門家に相談し、フォローの方策を検討してください。

加えて、日々変わる税制にキャッチアップすることも大切です。税制改正により承継対策の有効性が変わる場合があります。例えば上述の相続税と贈与税の一体化方針のように、以前は有利だった手法が制度変更で使いにくくなることもあります。常に最新情報を押さえ、計画の微調整を図ることが必要です。当税理士事務所では定期的に税制改正情報をお客様に提供し、必要に応じて承継プランの見直し提案も行っています。

最後になりますが、税務調査は決して特別なものではなく、適切に対応すれば怖がる必要はありません。むしろ大事なのは、普段から税務リスクに強い体制を作っておくことです。ここまで述べてきたように、正確な申告・十分な資料準備・専門家の関与という3点セットがあれば、万一調査官が来ても落ち着いて対応できます。事業承継は長期戦ですので、その過程で税務当局とのやり取りが生じる場面もあるでしょう。そんなとき頼りになる税理士がいれば、心強いパートナーとして皆様の資産と権利を守ってくれるはずです。税務調査も見据えた万全の体制で、安心して事業承継に臨みましょう。税務調査について詳しくは下記のページをご覧ください。

事業承継は専門知識を要する難しい分野ですが、税理士法人加美税理士事務所では不動産オーナーの皆様が安心して承継に臨めるよう、全国対応で万全のサポート体制を整えています。当税理士事務所は不動産税務に特化したプロ集団として、税務面はもちろん、承継に伴う様々な課題に寄り添いながら解決策をご提案いたします。ここからは、当税理士事務所が提供する主なサポート内容とその強みについてご紹介いたします。

当税理士事務所は所在地の東京・銀座を拠点にしつつ、全国対応で事業承継のご相談に応じています。遠方のオーナー様でも気軽にご利用いただけるよう、電話やメール、Zoomなどオンライン面談を活用し、距離を感じさせないサポートを実現しています。日本全国どの地域からでも、不動産承継に関する専門的なアドバイスを受けられる体制です。また「全国対応」とはいえ画一的なサービスではなく、きめ細かい個別対応をモットーとしています。お客様一人ひとりで保有資産や家族構成、ご要望は異なります。当税理士事務所では初回相談から丁寧にヒアリングを行い、その方専用の承継プランをオーダーメイドで作成します。親族内承継を目指す方、第三者承継を検討中の方、あるいはまだ承継者が決まっていない方など、それぞれの状況に応じた最適解を一緒に考えてまいります。

また、不動産が全国に分散しているケースでもご安心ください。当税理士事務所は他県の不動産に関する評価や税務についても豊富な知見があります。必要に応じて各地域の提携専門家(司法書士・弁護士・不動産鑑定士など)とも連携し、現地の事情を踏まえた対応が可能です。例えば地方に山林や農地をお持ちの場合の承継手続きや、遠方の自治体独自の制度利用などにも対応いたします。「東京の事務所だから地方のことは分からないのでは?」という心配は無用です。実際、当税理士事務所のクライアント様の中には首都圏のみならず北海道から九州まで全国各地の不動産オーナー様がいらっしゃいます。培った経験を活かし、所在地に関係なく質の高いサービスを提供することをお約束します。

当税理士事務所最大の強みは、不動産と事業承継に強い税理士チームが在籍していることです。不動産投資専門の税理士事務所として多数の実績があり、スタッフも含めて不動産税務を知り尽くしたプロ集団となっています。実際、当税理士事務所では50件を超える賃貸不動産オーナーの個人または法人のお客様の税務顧問を務めており、サラリーマン大家さんが経営する不動産法人の顧問先も非常に多い状況です。このように不動産賃貸業に特有の税務相談・承継相談を数多く手掛けてきた経験が蓄積されているため、どんなケースでも的確なアドバイスをお届けできます。

事業承継はケースバイケースであり、「絶対にこうすべき」という画一的な答えは存在しません。当税理士事務所の税理士チームは、お客様のニーズに耳を傾けながら、豊富な事例知識に基づく選択肢をご提示します。「親族内で株式をどう分ければ円満か?」「今すぐ贈与すべきか、まだ待つべきか?」「会社を売却すると税金はいくらになるか?」など、疑問点を一つひとつ一緒に検討し、最適な道筋を導き出します。税務だけでなく、必要に応じて提携の弁護士や司法書士と連携し、遺言書作成や民事信託の活用など法務面も含めた総合支援が可能です。

特に当税理士事務所では、将来の税額を見据えたシミュレーションに力を入れています。例えば「不動産法人をこのまま保有し続けた場合の将来の相続税額シミュレーション」や、「今贈与や法人化した場合と何もしなかった場合の税負担比較」など、複数シナリオで税額試算を行います。数字で比較することで節税効果が一目瞭然となり、意思決定がしやすくなります。これは不動産法人 相続税 シミュレーションをご希望のオーナー様にも大変好評をいただいているサービスです。「このままだと相続税が◯◯万円かかる見込みなので、これを△△万円まで圧縮するプランをご提案します」といった具合に、具体的な数値目標を持ったコンサルティングを展開します。

さらに、最新の税制や制度にも精通しているのが当税理士事務所の税理士チームです。毎年のように改正がある税法をフォローし、「今この制度を使うべき」「今年中に贈与しておいた方が良い」などタイムリーなアドバイスを行います。例えば事業承継税制の特例承継計画提出期限が迫っていれば計画策定を急ぎ、2024年以降の贈与税・相続税一体化ルールに備えてプランを見直す、といった具体的な提案が可能です。節税スキームも闇雲に勧めるのではなく、リスクと効果を天秤にかけた上で安全性の高い方法を厳選します。将来税務調査で問題とならない健全な節税策を追求するのが当税理士事務所のポリシーです。

何より、当税理士事務所の税理士は皆親しみやすく相談しやすい人柄です。専門用語をかみ砕いてご説明し、ご不明点は何度でも丁寧に回答いたします。「税理士は堅苦しい」というイメージをお持ちの方も、ご安心ください。私たちはお客様の良きパートナーとして、フランクかつ誠実に寄り添うことをお約束します。

承継対策を講じる際に心配になる税務調査リスクについても、当税理士事務所にお任せいただければ万全のリスク管理でお応えします。事業承継は通常の税務以上に高度な判断が絡むため、税務当局からチェックを受けるポイントも多岐にわたります。当税理士事務所では日頃からお客様の申告内容を詳細に把握し、「ここは調査官に質問されるかもしれない」という点を先回りしてケアしています。

例えば、親族間売買で不動産を移転したケースでは契約書や鑑定評価書を準備し、適正価額であることを説明できる資料を揃えておきます。大口の生前贈与を実行した場合には、贈与税申告書や財産評価明細を保管し、後で相続税の調査が入っても整合性が取れるよう管理します。事業承継税制を適用しているお客様については、年次報告の内容や継続要件をこちらでチェックし、不備がないようフォローします。このように事前準備と書面管理の徹底が当税理士事務所の信条です。

万一税務調査(税務署の訪問)が行われるとなった際も、当税理士事務所が前面に立ってサポートいたします。税理士が間に入ることで、調査官への回答や追加資料の提出も的確かつスムーズに行えます。必要以上にプライベートな事項まで踏み込まれないよう交渉するのも税理士の大事な役割です。「もし調査が入ったらどうしよう…」と不安に思われるかもしれませんが、私たちがついておりますのでご安心ください。普段から正しい税務管理を行っていれば恐れる必要はなく、いたずらに心配しすぎないでください。当税理士事務所のお客様には、日頃から税務リスクについて適宜アドバイスを差し上げています。もちろん、調査が入らないよう最善を尽くすことが第一ですが、国税当局の方針や業界動向も踏まえつつ、適切なリスクヘッジ策を講じています。

さらに、当税理士事務所は税務調査に精通した税理士も揃っております。過去に税務署勤務経験のあるスタッフや、多数の調査立会い実績がある税理士が在籍しており、調査官の視点を熟知しています。「ここは突っ込まれやすい」というポイントや、「この資料があれば説得できる」というノウハウを駆使し、お客様に事前共有しています。結果として、調査になっても指摘事項ゼロで終わったケースも多く、「税理士法人加美税理士事務所に任せておいて良かった」というお声をいただいています。

このように、事業承継の計画段階から実行・そして調査対応まで、一貫してリスク管理をサポートできるのが当税理士事務所の強みです。税務調査も含めて万全な体制で臨みたいという方は、ぜひ当税理士事務所をご活用ください。対策税務調査について詳しくは下記のページをご覧ください。

不動産オーナー様の中には、物件数が増え事業規模が大きくなるにつれて日々の経理業務にお困りの方も多いでしょう。特に法人化された場合は、毎月の帳簿付けや領収書整理、決算書作成など煩雑さが増します。当税理士事務所では、そうした経理面の負担を軽減するために弥生会計への対応をはじめとする各種サポートを提供しています。

弥生会計は中小企業向けの会計ソフトとして広く利用されており、当税理士事務所でも積極的に活用しています。実は当税理士事務所は弥生会計の導入支援実績が豊富で、弥生会計を使ったクラウド経理にも精通しています。お客様のニーズに合わせて、弥生会計へのデータ入力方法や運用フローを一緒に構築いたします。「会計ソフトは初めてで不安」「経理担当者がいないので自分で入力しなければならない」というオーナー様もご安心ください。使い方のレクチャーから仕訳のチェックまで丁寧にサポートします。また、遠隔地の方でもオンラインで画面共有しながらサポート可能ですので、リアルタイムで一緒に作業し問題を解決できます。

弥生会計を活用することで、経理業務の効率化が期待できます。銀行明細やクレジットカード明細の自動取り込み機能を使えば手入力の手間が減り、ヒューマンエラーも防げます。固定資産台帳を登録しておけば減価償却費も自動計上され、不動産の償却管理が容易になります。当税理士事務所では不動産賃貸業向けに勘定科目体系のカスタマイズも行っており、管理費・修繕費・租税公課(固定資産税)など科目を分かりやすく設定します。月次試算表を見れば「今期いくら利益が出ていて、税引後キャッシュフローがどれくらいか」ひと目で把握できるようになります。不動産投資はキャッシュフロー管理が肝心ですが、弥生会計で経営数値を“見える化”することで、税理士とオーナー様双方が適切な意思決定を下せるようになります。

さらに、当税理士事務所では記帳代行サービスも承っています。「とても忙しくて入力している時間がない」「専門家に任せて正確性を期したい」という方には、領収書や通帳コピーをご提供いただければこちらで仕訳入力から月次試算表作成まで対応いたします。弥生会計データをお預かりしてチェック・修正し、決算前には正確な数字に仕上げるレビューサービスも人気です。もちろん最終的な決算申告までワンストップで行えますので、日々の経理から税務申告・事業承継対策まで一貫サポートいたします。

経理業務を効率化することは、オーナー様ご自身が本業(不動産経営)に専念できる時間を生み出すことにもつながります。当税理士事務所のサポートにより煩雑な経理・会計処理から解放され、浮いた時間を物件管理や新規投資の検討に充てていただければ幸いです。「経理は専門家に任せて、オーナー業に集中したい」という方もぜひご相談ください。

事業承継は将来の不安がつきものですが、まずは一度専門家に相談してみることを強くおすすめします。当税理士事務所では初回の無料相談を実施しており、気軽にスタートしていただけます。相談方法もご都合に合わせて選択可能です。直接お会いしての面談はもちろん、オンライン会議やお電話でのヒアリングも承っています。在宅のままリラックスした雰囲気でご相談いただけますので、「忙しくて時間が取れない」「遠方なので東京の事務所には行けない」という方でもハードルは低いかと思います。

無料相談では、現在の資産状況や承継のお悩みについてざっくばらんにお聞かせください。「まだ漠然としか考えていない」という段階でも大丈夫です。経験豊富な税理士が対話を通じて問題点を整理し、今後取るべき方向性をアドバイスいたします。「うちは子どもがいないけどどうしたら?」「会社を作った方が節税になる?」「何から手を付ければ良いのか分からない」といった素朴な疑問から、具体的な税額試算のご依頼まで、どんなことでも構いません。もちろん相談内容について秘密は厳守(当然、税理士には守秘義務があります。)いたします。相談したからといって契約を強要することも一切ありませんので、ご安心ください。

実際に無料相談を受けられたお客様からは、「モヤモヤしていた方向性が見えた」「専門家に聞いてホッとした」「早く動かなきゃと背中を押された」といったお声を多数いただいています。一人で悩んでいても解決策は見つかりにくいものです。第三者のプロに話すことで、課題が客観視でき解決の糸口が見えてくることもあります。当税理士事務所の税理士は話しやすさを大事にしており、専門用語もできるだけ使わず平易な言葉でご説明しますので、ご家族様と一緒のご相談も歓迎です。

無料相談の後、「ぜひ正式にサポートを依頼したい」と感じていただけましたら、具体的なお見積りや今後の進め方をご提案いたします。料金体系は明瞭で、事前にしっかりご説明しますのでご不安な点は何なりとお尋ねください。記載の通り、当税理士事務所では無料相談であっても手を抜くことなく真摯に対応し、信頼関係の構築を重視しています。初回面談で「ここなら任せられそうだ」と感じていただけるよう、スタッフ一同誠意を尽くします。

事業承継は人生で何度も経験するものではありません。不安や疑問を抱えたまま先送りにするのではなく、まずは私たち専門家にご相談ください。無料相談・面談という入り口から、安心の承継プランづくりがスタートします。皆様のお問い合わせを心よりお待ちしております。

よくあるご質問

FAQ

サラリーマン大家でも不動産法人の事業承継対策は必要ですか?

はい、必要です。法人化していない場合でも、賃貸経営は「事業」として相続・承継対策が求められます。特に収益物件を複数お持ちの方は、不動産評価額の引き下げや遺言書作成、納税資金の確保などを早期に検討すべきです。税理士法人加美税理士事務所ではサラリーマン大家の事業承継対策に対応しています。

不動産法人の株式はどのように評価され、相続税に影響するのですか?

非上場の不動産法人の株式は、会社の純資産や利益水準に基づいて評価され、オーナーが100%株式を保有していると高額な評価額になることがあります。適切な株価引下げ対策や、持株会社の活用で節税が可能です。事前の相続税シミュレーションが重要です。

不動産管理法人を活用した節税対策とはどのような方法ですか?

不動産管理法人では、法人税率の低さを活かして所得分散が可能です。例えば、法人に賃貸管理業務を委託したり、法人へ不動産を移して家賃収入を法人で計上することで、個人の課税所得を抑えることができます。給与所得との節税バランスも検討が必要です。

不動産管理法人の会計処理は難しいですか?

会計処理は法人化すると複雑になりますが、弥生会計などの会計ソフトを使えば効率的に記帳可能です。当税理士事務所では丸投げにも対応しており、会計ソフト未導入の方にも最適な方法をご提案しています。経費精算や減価償却の判断もサポートいたします。

企業経営者が不動産法人と本業法人を分けるメリットは何ですか?

資産分離によりリスク管理と承継の効率化が図れます。不動産は不動産法人、本業は事業法人に分けることで、相続時の資産分割や株式承継が柔軟になります。また、不動産法人単体での節税スキーム構築や資金調達もしやすくなります。

不動産法人で役員報酬を設定する際の注意点は?

適正額を超える役員報酬は損金算入できないため、法人の利益や他の役員とのバランスを見ながら設定が必要です。報酬額は事業計画やキャッシュフロー、役員貸付金の有無にも影響します。税務署に説明可能な根拠をもって設定しましょう。

高齢の不動産オーナーが事業承継を進めるうえで特に重要なことは何ですか?

早めの準備と家族との合意形成が何より重要です。特に株式評価や相続税額の試算、家族信託や遺言書作成などは、元気なうちでないと実行が難しくなります。当税理士事務所では高齢オーナー様のご相談にもオンラインで対応可能です。

家族信託を使った不動産承継とはどのようなものですか?

家族信託は、親が認知症などで判断能力を失っても、受託者(多くは子)が不動産の管理・運用・売却を代行できる仕組みです。資産凍結を防ぎ、円滑な承継が可能になります。遺言的な効果もあるため、柔軟な資産継承手段として注目されています。

不動産法人の株式を後継者に贈与する場合、贈与税はどのくらいかかりますか?

評価額に応じて累進税率(10〜55%)が適用されます。自社株評価の方式や贈与額、受贈者の状況によって大きく異なるため、事前にシミュレーションを行うことが不可欠です。計画的な分割贈与や特例措置の活用で負担を抑えられます。

不動産を法人へ売却した場合の注意点は?

自分が経営する法人に個人で保有する不動産を売却する場合は「法個売買スキーム」と呼ばれます。適正な時価での売買や譲渡所得の発生、消費税課税の可否など多くの注意点があります。法個売買スキームについて詳しくは下記のページをご覧ください。

法人化した後の確定申告は個人のときとどう違いますか?

法人の場合は法人税・地方税の申告が必要です。個人と比べて帳簿作成や決算処理が煩雑です。会計ソフトの活用や税理士による申告サポートがあると安心です。当事務所では弥生会計や丸投げ対応も行っております。

サブリーススキームの導入で本当に節税になるのでしょうか?

適切に設計されたサブリーススキームは、個人所得を法人に分散することで節税効果があります。ただし家賃設定や契約内容の整合性が問われ、過度な節税は税務調査リスクにもつながるため注意が必要です。サブリーススキームについて詳しくは下記のページをご覧ください。

不動産法人の節税スキームにはどのような種類がありますか?

代表的なものに、法人への資産移転、所得分散、退職金支給、社宅制度の活用、資産管理会社設立による個人法人間取引の最適化などがあります。節税とリスク管理を両立するためには、各種制度の理解と綿密な計画が必要です。

事業承継税制の特例措置とは何ですか?

一定の要件を満たした中小企業の非上場株式について、贈与税・相続税の納税が猶予・免除される制度です。2027年12月までに承継を行う必要があるため、早期の準備が鍵となります。

不動産法人での役員退職金は節税になりますか?

はい、適正額の退職金であれば法人にとって損金算入でき、個人側は退職所得控除と1/2課税の優遇措置があるため、法人・個人双方に節税効果があります。承継前後の株価引下げ策としても有効です。

税務調査リスクを下げるにはどうすればいいですか?

書面の整備と適正な申告、専門家のチェックが重要です。当事務所では税務調査立会や事前対策も行っており、遠方でもオンライン対応可能です。
税務調査について詳しくは下記のページをご覧ください。

不動産法人の会計ソフトは弥生会計が良いと聞きましたが、本当ですか?

弥生会計は不動産業向けの勘定科目設定がしやすく、クラウド対応も進んでいるため非常におすすめです。当事務所では弥生会計に精通しており、導入から運用までフルサポートいたします。

青色申告から法人化した場合、どのような影響がありますか?

個人の青色申告特別控除や損失繰越は法人には引き継げません。ただし法人化により給与所得控除や法人税率の低さ、決算自由度など新たな節税効果が期待できます。

生前贈与を毎年110万円ずつ行うのは本当に有効ですか?

有効です。110万円以下の暦年贈与を継続的に行うことで、贈与税を非課税で資産移転できます。ただし、名義預金とみなされないように贈与契約書の作成や通帳の管理に注意が必要です。

不動産の消費税課税はどのような場合に発生しますか?

居住用賃貸は原則として非課税ですが、事業用物件の貸付や不動産売却時(課税資産の譲渡)の場合には消費税の課税取引になります。判断が難しい場合は専門家へご相談ください。消費税について詳しくは下記のページをご覧ください。

賃貸不動産の承継を兄弟で分ける場合、どのような工夫が必要ですか?

不動産は分割しにくいため、特定の相続人に集中させ、他の相続人には現金や保険金で代償分割するのが一般的です。遺留分にも配慮し、遺言書作成や生前対策が重要です。

後継者に株式を集中させるメリットは何ですか?

経営権を明確にし、意思決定の迅速化やトラブル防止につながります。後継者以外には不動産や預貯金で公平を図ることで、分割のバランスも取りやすくなります。事前の合意形成と信頼関係が鍵です。

持株会社スキームの活用にはどんなメリットがありますか?

不動産法人の株式を持株会社に集約することで、株式評価の圧縮や事業承継税制の適用、グループ経営の合理化が可能になりえます。承継時の一括移転や資産管理にも有効です。

自社株対策として株価を下げるにはどうすればいいですか?

純資産評価額を圧縮する方法として、役員退職金の支給や含み損資産の処分、利益圧縮などが検討されます。ただし税務リスクも伴うため、専門家の助言のもと慎重に実施しましょう。

不動産管理法人の設立タイミングはいつがベストですか?

収益物件が複数になり、所得税率が高くなった時点が一つの目安です。また事業承継対策や相続対策を見据えるなら、早めの法人化が有効です。
法人化について詳しくは下記のページをご覧ください。

顧問税理士を変更したいのですが、スムーズに切り替えできますか?

はい、可能です。過去の申告書や会計データがあれば、引き継ぎはスムーズに進みます。当事務所では顧問税理士変更にも多数対応しており、トラブルなく丁寧に移行をサポートいたします。

相続発生後でも税務対策は可能ですか?

相続税申告期限(通常10ヶ月以内)までであれば、小規模宅地等の特例の適用や延納・物納の検討、遺産分割による評価調整など、適切な対策が可能です。まずは早めに税理士へご相談ください。

初回相談ではどのようなことを話せばいいですか?

ご状況やお悩み、承継対象の不動産や法人の概要をお聞かせください。相続税評価額や事業承継税制、法人間取引などの方向性を一緒に整理します。資料がなくても問題ありませんのでお気軽にご相談ください。

遠方に住んでいても相談やサポートは受けられますか?

はい、完全オンライン対応により全国どこでも対応可能です。Zoomや電話、メールでやり取りを行い、税務書類の提出や申告もフルリモートで完結できます。地方のお客様にも多数ご利用いただいています。

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